新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

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その3

VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第四章 サンタモニカの風

 

【 3 】

 

銭形は一人"オーシャン・アイアール"の外側を回り、建物の東側へやって来た。こちらは、外壁の防水作業の為、最上階まで足場が組んである。上部へ人や物を運ぶ為のゴンドラが、鎖で固定してあった。銭形は鎖の南京錠をピッキングで素早く開けてゴンドラを解放すると、「上昇」のスイッチを入れた。ゴンドラは一度ガクン、と揺れて、ゆっくりと昇り出した。

「よしよし、これで一気にペントハウスまで行けるぞ」

一人頷いた銭形だったが、本来窓拭き作業用のものなので、動きが遅い。

「こりゃあ、思ったより時間が掛かりそうだな」

そう呟きながら屋上を見上げた銭形の目に、M4カービンを持った男が二人、上から覗き込む姿が映った。

「いけねぇ、バレちまった」

銭形は言いつつガバメントを引き抜いた。

「何やってんだよ、とっつぁん」ヒゲ男がイヤホン越しに呆れ声で言った。「そんなの、すぐバレると思わなかったのか?」

「うるさい。何とか援護してくれ」

銭形の周りを銃弾がかすめた。バルコニーの張り出しがある為、真下にいる銭形は狙いにくい。だが、カービンの高速弾は、ゴンドラのそこら中を穴だらけにしていく。

 

「やれやれ、世話の焼けるとっつぁんだな」

ヒゲ男は笑いながら着ていたツナギを脱いだ。下は紺色のスーツ姿であった。今まで被っていたキャップを取って、どこからか取り出した中折れ帽を目深に被り直した。スチールの箱から黒くて長い塊を取り出して、猛スピードで組み上げて行く。

「あーっ!」その姿を見た花が、大きな声を上げた。「ち、ちょ、あなたは…あなたは…」

「何だいお嬢ちゃん、あんまり見ないでくれよ。俺はパンダじゃないんだぜ」

ヒゲ男はそう言いつつ、あっと言う間に組み上がった長大なライフルを持ってベランダに出ると、手すりに銃身を置いて構えた。

「シモノフPTRS1941。やっぱりコイツだな」

ヒゲ男は引き金を絞った。轟音と共に、隣の"オーシャン・アイアール"の屋上で銭形を攻撃していた男のM4カービンが粉々に吹っ飛んだ。男はもんどり打って倒れる。もう一人が"エル・トヴァール"に向けてカービンを乱射したが、素人同然の腕なので、近くへの弾着さえない。ヒゲ男は涼しい顔で再び引き金を絞った。カービンの男は左肩を中心に体を回転させながら吹っ飛んだ。

「じ、次元大介!…さん…?」

花は、自分の言葉を疑うような口調で尋ねた。

「まあね」次元はニヤリと笑った。「お見知り置きを、お嬢ちゃん」

 

桐生と薫は、十二階の階段を登る所まで来ていた。屋上のペントハウスへの登り口がデスクやソファーで塞がれている事は、先程の花からの報告で判っていたので、一旦十二階で留まって、装備を確認した。桐生はM82と拾ったベレッタ、白鞘の二尺の刀。薫はFN P90と自前のシグ・ザウエルP220。そして残り二つのスタン・グレネードである。

「んー、どうやろね?」

薫が笑いながら言った。

「何とかなるさ」

桐生も笑った。

階段の上からは、気配はしても攻撃を仕掛て来る様子はない。二人は目でタイミングを合わせると、薫がスタン・グレネードを二つともピンを抜いてバリケードの隙間に投げ込んだ。

轟音と共に桐生が入れ替わり、バリケードにM82を全弾撃ち込んだ。木の破片が飛び散ったが、強大な威力を誇る対戦車ライフルと言えど、積み上げた机や椅子を全て破壊するには至らない。

「ちっ」

舌打ちして、体当たりをしようと身構えた桐生の脇を、男が一人すり抜けた。着物に袴姿のその男は、黒い長髪をなびかせながら、手にした白鞘の仕込みを抜いた。一瞬で数回の風切り音がして、次の瞬間にはバリケードが小間切れにされて崩れ落ちた。バリケードのすぐ後ろにいた二人が目を丸くしている間に、男は仕込みの鞘で鳩尾を突いて倒した。

「さあ。道は拓いたでござるよ」

「お前、ヒゲ男と一緒にいた…」

「石川…五ェ門ね?」

桐生が言いかけたのを、薫が横から言葉を奪った。

「いかにも。クラリス殿奪還の為、助太刀に参った」

五ェ門は、振り返らずに答えた。

桐生がM82を捨てて五ェ門の前へ出ると、ペントハウスの廊下には、五人のMP5を持った男達と、デザート・イーグルを構えたケリガンが立っていた。桐生は咄嗟に刀を抜いた。

ケリガンの撃った.44マグナム弾を、桐生の刀が真っ二つに斬った。両側の壁に弾着の穴が空く。ケリガンの射撃の腕が良かった事が幸いした。

「お主、なかなか筋が良い」五ェ門は簿く笑った。「後ろを付いて参れ」

五ェ門はそう言うと、躍起になって乱射して来る弾丸を斬り落としながら前進を始めた。

「すげえな、マンガみたいだ」

思わず桐生が呟いた。

「お気楽な事、言わんといて」

薫はそう言うと、五ェ門の背後からFN P90を壁や天井に向けて掃射した。5.7×28mm弾が豪奢な化粧板を砕き、大量の破片が男達に降りそそいだ。破片に気を取られて、火線が鈍る。

その隙を逃がさず、五ェ門は素早く踏み込むと、左の三人のMP5を真っ二つに斬った。薫のFN P90は、右の二人の足を撃ち抜いた。桐生は真っ直ぐにケリガンに突っ込むと、一瞬軸をずらして発砲をかわし、刀をデザート・イーグルに叩きつけた。刃は銃身の真ん中を割って、遊低の中程まで食い込んだ。

ケリガンは鬼のような形相で銃をひねった。二尺刀はかん高い音を立てて折れた。刀が刺さったままの銃を投げ捨て向き直ったケリガンの目に、右拳を堅く握って振りかぶった桐生の姿が映った。

雄叫びと共に、桐生は鉄拳をケリガンの顔面に叩きつけた。ケリガンは全く反応出来ず、まともに突きを食らって、床に叩きつけられた。かなり高い鼻が平らにひしゃげていた。

「銃がなけりゃこっちのモンだ」

気絶したケリガンを見下して、桐生は呟いた。

その直後、廊下の奥で爆発が起こった。五ェ門は素早く身を隠したが、桐生と薫は吹き倒された。その爆風で、ウージーを持った三人が吹き投ばされて来た。

 

『おっかしーなぁ、火薬の量、まーちがっちゃったかなー?』

埃と破片にまみれて、クドーが首をひねった。その体の下から、やはり埃まみれのサラが這い出して来た。

『ちょっとやめてよクドー。死ぬかと思ったじゃない』

そう言いつつクドーを見たサラは、小さく首をかしげた。

『クドー、あなた、ちょっといつもと…』

口を開きかけたサラのすぐ後ろで、人影が動いた。血まみれになりながらも、ウージーを構えようとする。

その気配に気付いたサラが振り向いたのと同時に、彼女のすぐ横で乾いた銃声がして、ウージーの男の額に穴が空いた。

耳鳴りのしているサラがもう一度振り返ると、まだ銃囗から煙の上がっているワルサーP38を構えた男がいた。それは、先程まで一緒だったクドーではなかった。

『あなた…誰?』

サラは呆然とした表情で尋ねた。

『俺かい?悪りぃな、ちゃ~んと自己紹介してなかったな。俺はルパン三世だ』

次の瞬間、至近距離からのサラのヌンチャクを、ルパンは首をすくめてかわした。

『クドーはどこよ!?』

『びっくりした。おどかすない』ルパンは軽い口調で言った。『安心しなよ。あいつはまだ意識は戻ってないが、命に別状はない。病院のベッドでゆっくり休んでるよ』

それを聞いて、とりあえず落ち着いたサラだったが、すぐに別の事に思い至って、顔が赤く染まった。

『という事は…?』

ビバリーヒルズ署に来た時には、既に入れ替わっていた事になる。クドーだと信じて疑っていなかったので、サラはかなり無防備な態度を見せていた自覚がある。

『あんたのハグは優しかったなぁ。ちょっとクドーに嫉妬しちゃったぜ』

ルパンはそう言ってウィンクして見せた。

 

突然の爆発に、部屋全体が揺れた。クラリス、ブレナン、遥は耳を押さえて身を低くした。むしろ銃を持ったギャング達の方が右往左往している。

『畜生、ケリガンの奴、何をやってやがる!』

デリ=カリは毒づいて、手下を集めた。この部屋には六名残っており、手元にはM4カービン二挺とMP5四挺。デリ=カリのグロックと合わせても、火力はかなり心許ない。

『おい、そいつらに手錠を掛けとけ』

デリ=カリがアゴをしゃくった。二人に銃を突きつけられ、クラリスと遥はゆっくりと立ち上がった。ブレナンは動かない。

『おい、立て!』

メキシコ系の男にMP5を向けられたブレナンは、悲しそうな(そんな感じに見える)表情で言った。

『恐くて立てないの。手を貸して』

今まで聞いた事もないような、か細い声である。

『ふざけるな、早く立て!』

メキシコ系が苛立ちも顕わに喚いた。しかし、ブレナンは首を弱々しく振った。

『無理…』

『クソッ』デリ=カリは舌打ちをした。『おい、お前、そいつを立たせろ』

デリ=カリは、遥に向けてアゴをしゃくった。遥は、何となく言わんとしている内容は判ったのだが、あえて判らない体で、きょとんとした表情でデリ=カリを見た。

『このコは英語が判らないの』クラリスが真面目な顔で言った。『あなたが何を言っているか、彼女には理解出来ないわ』

『ああ、面倒くせえ。ならお前が博士を立たせろ』

デリ=カリは今度は銃で、クラリスに指示をした。クラリスは何気なく遥を促して、二人でブレナンを助け起こした。そのまま扉から離れた所へ移動する。メキシコ系が腰だめにMP5を構える。

『変な気を起こすんじゃねえぞ』

デリ=カリがそう言った時、扉がノックされた。いつしか、外の騒音は止んでいる。

またノック。デリ=カリはその両開きの大きな扉を睨んだまま応えない。

ノックの音は段々大きくなり、終には足で蹴るような音になった。それでもデリ=カリが黙っていると、やがて扉を叩く音が止んだ。

少し間があって、扉の一回り外側の壁にドーム型の切れ目が生じ、次の瞬間には型の内側が扉ごと賽の目状に崩れ落ちた。

壁にポッカリと空いた穴の向こうに、六人の男女が立っていた。崩れた瓦礫の前に立っていた、顔の前で刀を構えた五ェ門が、納刀して後ろに下がった。

『き…貴様ら…』

デリ=カリが食い縛った歯の間から声を絞り出した。

「遥、迎えに来たぜ」

桐生が、不敵な笑みを浮かべて言った。

「おじさん!」

遥は元気な声で返した。

『良かった。テンペも無事みたいね』

サラは少し安心した表情を見せた。

『皆無事だったのね。良かったわ』

薫の顔にも笑みが浮かんだ。

『デリ=カリ、逮捕だ』

銭形が手錠を取り出して、デリ=カリを睨みつけた。

『よう、アゴ野郎』ルパンが挑むように一歩前へ出た。『お前に呼ばれて来た訳じゃねえぜ。俺は、クラリスとの約束を守りに来ただけだ』

『おじさま…』

クラリスは両手を胸の前で強く握りしめた。

『言っただろ、クラリス。何かあったら、おじさんは地球の裏側からだってすぐ飛んで来るってな』

ルパンはそう言って、クラリスに微笑みかけると、すぐに表情を変え、険しい眼でデリ=カリをねめつけた。

『さあて、デリ=カリ、何をして遊ぶのかな?』

 

 

つづく

 

20180623

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