新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

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その4

VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第四章 サンタモニカの風

 

【 4 】

 

『よう、デリ=カリ、俺に用があったんじゃなかったのか?』

ルパンは、歯がみをするデリ=カリを嘲るように言った。

黒人のギャングが、ウージーをクラリスに向けた。他のギャング二人が、ブレナンと遥を狙う。メキシコ系と、残り二人のMP5がルパン達に向けられた。

『まあ、ここまでやって来た事は誉めてやるぜ。だが、残念ながらこれまでだ』

デリ=カリは何とか虚勢を張るぐらいまで持ち直した。グロックを持ち上げ、ルパンに向ける。

『動くなよ。人質の命を助けたければな』

ようやく有利な立場に立った事を確信して、デリ=カリは顎をしゃくった。

「人質を放せ」

桐生は日本語で言った。

『何を言ってるか判らんが、とりあえず黙れ』

デリ=カリは取り合わない。

「お前が何を考えてるか、俺には判らん」桐生は構わず続けた。「だが、俺は銭形のように優しくはないぞ。逮捕などと生ぬるい事はしない。遥や姫達に何かあれば、容赦しないぜ」

『お前が不穏な事を言ってるって事だけは判るぜ』

デリ=カリは歯を剥き出して笑うと、グロックを桐生に向けた。デリ=カリの内に殺気が膨れ上がり、その場の緊張が一気に高まった。全員の注意がデリ=カリと桐生の上に集まった。

クラリスと遥は、互いの目を見て意志を確認し合うと、同時に行動を起こした。自分に銃を向けている男の意識がデリ=カリに向いている隙を突いて、銃を外へ払いながら躊躇なく股間を蹴り上げた。不意を突かれた二人は口から泡を吹いて悶絶した。

一瞬遅れて、ブレナンは自分の前の男が構えているMP5をつかんで一気に外側に捻った。バキッという音と共に、男の人差し指が折れた。男が絶叫を上げた所を、ブレナンのチョップが喉仏を強打して、男はゴロゴロと音を立てながら倒れた。

『貴様らっ!』

咄嗟にMP5をブレナンに向けたメキシコ系の肩に、サラのテーザー銃の電極が突き刺さり、彼は棒のように硬直して倒れた。残りの二人は、それぞれ銭形が投げた縄付き手錠と、桐生の投げたべレッタが眉間に命中して、白眼をむいて倒れていた。

『デリ=カリ!』

ルパンは鋭く叫ぶと、引き金を絞った。

デリ=カリは横っ飛びでルパンのワルサーを避けつつ、逃げようとしたクラリスを捕まえた。左腕を首に掛け、グロックをクラリスの頭に突き付けた。

『動くなルパン!』

デリ=カリはしてやったりな表情で喚いた。ゴリッと音がするほどグロックを押しつける。

『ごめんなさい、おじさま』

クラリスが口惜しそうに言った。

『おいおいデリ=カリ、お前にはプライドも恥もないのかよ』

ルパンが肩をすくめた。

『うるせえ、俺はお前に復讐が出来ればそれで良いんだよ』

『デリ=カリ、もう諦めろ。お前に勝ち目はねえ』ルパンは諭すように言った。『そもそも俺とお前のいざこざは、ルパン帝国の話しだ。しかもその帝国も、今や存在しない。これは俺達だけの問題で、特にクラリスには何の関係もない。話しがあるなら、俺達だけでしようじゃねえか』

『この女は、大いに関係があるぜ』

『何がだ?』

『お前が大事に想ってるって事さ。お前の大事な物を奪うのも、俺の復讐のひとつだ』

デリ=カリはそう言って、嫌味な笑い顔を見せた。

『今なら、命までは取らない。ロス市警に身柄を引き渡し、法の裁きを受けさせてやる。だが、もしクラリスを傷つけたら、この場で殺す』

ルパンは重たい声で言い放った。右手のワルサーを握り締める。

『おい、殺しはいかんぞ、ルパン』

銭形が牽制する。

『ほざけ。この女が死ぬ所を見て、せいぜい嘆き悲しめ』

デリ=カリはグロックでルパンを指してそう言うと、再びクラリスに銃を押しつけようとした。

クラリスはその機を逃がさず、デリ=カリの右手を内側から自分の右手で押さえて、同時に左肘でデリ=カリの左脇を強打した。その衝撃で力の緩んだデリ=カリの左肘を下から持ち上げて、潜るように頭を抜いた。膝を屈して身を低くする。

クラリスが動いた次の瞬間には、桐生はデリ=カリに向かってダッシュしていた。

デリ=カリは、逃げようとするクラリスと突進して来る桐生と、両方の対処に一瞬迷い、反応が少し遅れた。

ワルサーが火を噴き、デリ=カリの手からグロックが弾け飛んだ。クラリスはデリ=カリの懐を飛び出し、入れ換わりで桐生が飛び込んだ。

「おおおっ!」

桐生は雄叫びを上げ、飛び込んだ勢いのまま、結城晶直伝の『猛虎硬爬山』を叩き込んだ。デリ=カリの体は吹っ飛び、巨大な一枚板のガラスを突き破った。そのままテラスの手すりにぶつかって跳ね返る。そこへ駆け込んだサラが、『ライシング・ニー』でデリ=カリをのけ反らせると、『サマーソルト・キック』で更に手すりに叩き付けた。

手すりに寄り懸かって辛うじて立っているデリ=カリの前に、ゆらりとルパンが立った。

『Hasta la vista (地獄で会おうぜ), baby』

ルパンは呟くと、デリ=カリの両肩に二発ずつ撃ち込んだ。着弾の衝撃で、デリ=カリの体がのけ反った。ルパンは、更に一発発射した。ワルサーのスライドストップが掛かった。

デリ=カリの体は、ゆっくりと後ろに倒れ込み、手すりの向こうに落下した。

「あっ!」

遥が思わず声を上げたが、その直後、縄が張って音を立てた。少し重さに引かれながらも、銭形と薫がその縄を支えていた。デリ=カリの体が落ちる直前に、銭形が縄付き手錠を投げ、足首に掛けたのだ。

引っ張り上げてみると、デリ=カリは気絶しており、ゴマ塩の角刈りの髪の毛が、丁度真ん中で一筋のハゲになっていた。

『ねえ、みんな無事?部屋の中にカメラがないから、判らないの』

イヤホンから、花が心配そうな声で尋ねて来た。

『ああ、ハナちゃーん、俺達はだーいじょうぶだぜぇ。ご心配なく』

ルパンが明るく答えた。

『あ、その声、ホントにルパン三世なのね!わー、凄ーい!』

花がイヤホンの向こうではしゃいでいる。

「花ちゃん、もうどうでも良さそうだけど、一応私達は大丈夫だから。念の為」

薫が、マイクに向かって苦笑しながら言った。

「おじさん!」

遥は桐生に飛びついた。

「遥、待たせて悪かったな」

「んーん、きっと来てくれるって判ってたもん」遥は屈託なく答えた。「それに、クラリスも博士も、とっても優しくしてくれたの」

「そうか」

桐生は優しく遥の背中を叩いた。

『あの、ハルカって娘(コ)、凄いわね』サラとハグをして、ブレナンが笑いながら言った。『言葉も判らないのに、私達にタイミングを合わせてサバイバル出来るなんて、尋常じゃないわ』

『濃密な人生経験の賜物なんでしょ』

サラも笑った。

クラリスは、銭形に目で合図をして、すぐにルパンの前にやって来た。

『おじさま、来て下さったのですね』

『そりゃあそうさ。約束したじゃねえか。泥棒はウソはつかねえのさ』

クラリスの微笑みに、ルパンも微笑みで返した。

『ありがとう、おじさま』

クラリスはそう言うと、ルパンの首に腕を回し、唇を重ねた。軽くハグをしようとしていたルパンは、虚を衝かれて硬直してしまう。

『三十年前の仕返しです』

クラリスははにかんで笑った。

『ガハハハ、今度はルパンが"心"を盗まれたか?』

銭形が目をむいて笑った。

『バカ言うない。この俺様が女に遅れを取るなんて…』

言いかけてルパンは口ごもる。

「ふふ。ルパンさんもまんざらじゃないのね」

遥が薫に向かって、小さく笑った。

『おーい、団体さんの到着だぜ』

次元がのんびりとした調子で言った。桐生達の耳にも、ポリスのサイレンが聞こえて来ていた。既に上空には、LAPDのヘリも接近していた。

 

ややあって、"オーシャン・アイアール"のペントハウスに、ハラ部長とダニエルが、SWATを率いてやって来た。SWATは状況を確認すると、救護班を呼び出し、実況検分を始めた。

『お前ら、また派手にやってくれたな』

ハラ部長が苦笑しながら言った。

『でもお陰で、デリ=カリ一家を一網打尽に出来たわ』

薫が胸を張って言った。

『カオル、ゼニガタ、ここは俺に任せてもらう。だからあんた達には、上層部を納得させられるような"出来の良い"報告書を頼むぜ』

ハラ部長は笑いながら、"出来の良い"で両手の人差指と中指をチョンチョンと曲げた。

そこへ、白人と黒人のバディらしき刑事が二人やって来た。

『おいおいなんだこりゃ?ランボーでも暴れたのか?』

黒人が大きな声で言った。

『どちらかと言うと、ウルヴァリンにやられた感じだな』

白人がホットドッグを頬張りながら、壁際の瓦礫を眺めた。

二人は桐生に目を付けると、ずかずかと近付いた。

『おい、そこのヤクザのお兄さん。これをやったのは、あんたか?』

白人がぶしつけに尋ねて来た。

『ああ、済まない』黒人がバッジを提示しながら言った。『ロス市警だ。俺はマータフ。こいつはリッグスだ』

『あんたすげえなあ。日本でもこんなに暴れてんのかい?』

リッグスが挑むような口調で言った。桐生にも、花の同時通訳で意味は判っている。

「これって、挑発されてんのか?」

桐生が呟いた。

そこへ、ハラが割って入った。

『まあ待て、リッグス』

『何だ、どうしたんです警視長こんな所で』

目を丸くするマータフと、桐生を睨んだままのリッグスに、ハラがかいつまんで事情を説明した。ただ、ハラの中ではルパン騒動はニセモノ逮捕で既に終わっていたが。

リッグスはまだ何か言いたそうだったが、クラリス(国家元首)、薫(FBI)、銭形(ICPO)、サラ(財閥)に目をやって、仕方なさそうに肩をすくめた。

『リッグス、相手が悪い。メンド臭そうだ』

『そうだな、マータフ。触らぬ神に祟りなし、だな』

二人は、不承不承ながら尋問を諦めた。特にリッグスは、デリ=カリと真っ正面からやり合って潰滅に追いやった日本人に興味津々だったが、ルパンとクラリスが関わっている事で、外務省、へタをすればホワイトハウスやCIAも動きかねない状況なので、さすがの二人も手を引くより方法はなかった。

『警視長どの、後で話し、聞かせて下さいよ!』

リッグスには、そう言うのが勢一杯の抵抗だった。

ブツブツ言いながら立ち去る二人を見送って、桐生は遥と共にペントハウスの上に広がる青い空を見上げた。空は、カリフォルニアらしく青く晴れ渡っていた。海からの風が、疲れた体に心地良い。

「サンタモニカの風、か」

桐生は思わず言葉に出して言ってみた。

と、ルパン、銭形、薫、そして花と次元から同時に突っ込まれた。

「古い!」

 

 

つづく

 

20180630

 

註 :

 

『猛虎硬爬山』 結城晶(『バーチャファィター』)の技。↓→P。順足の掌打。神槍・李書文の得意技。

 

『ライシング・ニー』『サマーソルト・キック』 サラ(『バーチャファィター』)の技。→K ↑(斜め後ろ)K。

 

Hasta la vista (地獄で会おうぜ), baby 『ターミネーター2』 1991年アメリカ。トライスター・ピクチャーズ配給より。ターミネーターT-800 モデル101型(アーノルド=シュワルツェネッガー)の名セリフ。

 

両手の人差指と中指で ダブルクォーテーションマーク(二重

引用符 = " ")を表す。air quotes と言うらしい。

 

ランボー 『ランボー』1982年アメリカ。オライオン・ピクチャーズ配給より。主人公ジョン=J=ランボー(シルベスタ=スタローン)の事。

 

ウルヴァリン 『X-MEN 』 2000年アメリカ。20世紀フォックス配給より。マーブルヒーローズの一員。

 

『濃密な人生経験の…』 テレビ朝日『警視庁・捜査一課長』シーズン3 谷中萌奈佳(やなかもなか)の決まり文句。

 

リーサル・ウェポン ドラマ版 2016 ワーナー

リッグス : クレイン=クロフォード

マータフ : デイモン=ウェイアンズ

 

サンタモニカの風 ナショナルエアコン「楽園」CMソング (1979) 歌 : 桜田淳子

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