新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS 作:宝蔵院 胤舜
最終章 夢のカリフォルニア
VACANCES IN LOS ANGELS
最終章 夢のカリフォルニア
ハラ部長の計らいで、ほとんど何の取り調べも受けなかった桐生一行は、取り合えず"エル・トヴァール"のペントハウスに帰ると、皆雑魚寝で夕方近くまで眠った。銭形だけは、
「わしは今から調書だ。LAPDへ行って来る」
と言い残して、出て行ってしまった。
目を覚ますと、隣の"オーシャン・アイアール"は警官や報道陣が群がっていたので、皆でこっそりとビーチへ出て行った。
桐生、遥、花、薫、サラ、クラリス、ブレナン、そしてルパンは、太平洋に暮れ行く夕陽を見やった。ビーチは、付近での大騒動のお陰で、人っ子ひとりいない。
「ご免な、遥」薫は頭を下げた。「せっかくの休暇って事で来てもろたのに、むしろ変な事件に巻き込んでもおて…」
「んーん、大丈夫よ薫さん。心配しないで」遥はあっけらかんとしている。「だって、色んな所に連れてってもらったし、サラとか、クラリスとか、博士とか、ルパンさんとか、色んな人に逢えたし。とっても楽しかったよ」
「楽しかったかぁ」ルパンが溜め息まじりに言った。「あんた、すげえ娘だなぁ。この事件の後で、楽しかったとは中々言えねえぜ」
『でも、私も楽しかったわ』クラリスもそう言って笑った。『私のせいで、皆に迷惑を掛けたから、不謹慎だとは思いますけど』
『まあ、皆無事だったから、それでいいじゃない』
ブレナンが大きく伸びをしながら言った。
全員なんとなく納得しかかったが、サラがそれを止めた。
『全員じゃないわ。クドーの様子を見に行かなきゃ』
移動しかけた彼らの背に、立ち止まったままのルパンが声を掛けた。
『じゃあ、俺、そろそろ行くわ』
その声に、クラリスが振り返った。タ陽を背負ったルパンの表情は、陰に隠れてはっきりとは判らなかった。
『悪かったな、おかしな事に巻き込んじまって』
『いいえ。それよりも、約束を守って下さった事が、嬉しかったですわ』
『元気でな』
『おじさまも』
クラリスは言いながら、小走りでルパンに駆け寄ると、その体を強く抱き締めた。ルパンも一度だけ、力を込めて抱き締めた。桐生達は、あえて振り向かなかった。
ややあって、クラリスが皆の所へ追い付いた時には、既にルパンの姿はどこにもなかった。
ダウンタウンにある病院の集中治療室に、クドーは寝ていた。胸を撃たれて重症ではあったが、命に別状はないという。
サラは、込み上げる涙を押さえる事が出来なかった。
『良かった無事で…』
サラは震える声で呟いた。
クドーの命の無事を確認して、彼らはミヤコホテルへ戻った。ただ、デリ=カリの流した動画が拡散しており、又派出な銃撃戦のお陰でメディアに取り上げられていたので、既にホテルのエントランス付近にはパパラッチが陣取っていた。
桐生達はケニー=伊藤の手引きで、ロス別院の駐車場に車を入れ、通用囗からミヤコホテルに入った。エントランスのパパラッチの裏をかいた形になった。
クラリスのスイートに集まりルームサービスで夕食を摂ると、テレビをつけた。どのチャンネルでも、今朝のサンタモニカのニュースで持ち切りだった。カリオストロの公女、ブライアント家の令嬢、ジェファソニアンの博士、そしてルパン三世。ネタはてんこ盛りである。特にネット動画は何度も流されたので、クラリス公女とブレナン博士、そして謎の日本人少女の事がひっきりなしに爼上に載せられる事となった。
「何か、自分がテレビに映ってるって、くすぐったい感じだね」
遥が首をひねりながら、しかし満更でもなさそうな表情で言った。
『もっと楽しい事とか、華やかな事なら良かったのにね』
サラが言った。彼女はようやく笑顔を取り戻して来た。
『いいじゃない、美女三人の緊縛映像。マニアには受けるかもね』
ブレナンはそんな不適切な事を言う。
『アブノーマルなのはあなただけよ』
薫が苦笑しながら言った。
いくら女子トークとはいえ、どストレート過ぎでしょ。
花はそう思ったが、口には出さなかった。言ってしまったら、遥にも負けそうな気がしたからだ。
一晩寝て、朝起きると、ミヤコホテル前は更に多くのパパラッチやテレビの報道陣が詰め掛けていた。
「何よこれ。今日はハリウッドで買い物でもしてもらおうと思ってたのに。予定が大無しじゃない」
窓から外の通りを見下ろして、薫が文句を言った。
『ご免なさい、ハルカ、ハナ。せっかくのバカンスだったのに、こんな事になってしまって』
クラリスが済まなそうに言う。
「何でクラリスが謝るの?大丈夫。私、ホントに楽しかったんだから。クラリスや、 サラや、ブレナン博士に逢えた事、一生の宝物だよ」
『ありがとう』
クラリスは、遥を抱き締めた。ブレナンも、遥とハグをすると、クラリスに目配せをした。
『では、そろそろ用意をしましょう』
クラリスはそう言うと、クローゼットを開けて、旅行カバンを取り出した。
『私達が出ていけば、マスコミ連中も満足するわきっと』
ブレナンも言いつつ、上着を脱いだ。桐生はそれを見て、無言で部屋を出た。
着替えを終えたクラリスとブレナンは、荷物をまとめてホテルのエントランスまで降りた。
クラリスは、見送りに降りて来た遥をもう一度ハグした。
『ハルカ、元気でね。カズマと仲良くね』
「うん。クラリスもお仕事頑張ってね」
ブレナンは、薫と握手をした。
『またクワンティコで逢いましょう』
『ブースによろしく』
薫がそう言うと、ブレナンは手に力を込めた。
ミヤコホテルの支配人のエスコートで二人が外に出ると、マスコミやパパラッチが一勢に取り囲んだ。フラッシュが光り、爆発が起こったように光が点滅した。
だが、クラリスとブレナンが適当にあしらって五分程経った所で、カリオストロ公国駐米大使館員、米国務省職員、そしてFBIオフィサーが大挙して現れ、マスコミ共を蹴散らすと、二人をそれぞれ保護して去って行った。パパラッチらは呆然としながらも、一定の撮れ高に納得して、全員が散って行った。ホテル前は、ようやく元の静かさを取り戻した。
ブレナン保護のどさくさに紛れ、タホはまたナイト2000に入れ替わっていたので、バイパーと連れ立って、予定通りハリウッドへ買い物に出掛けた。
ハリウッドのロデオ・ドライブは有名人の多い場所なので、逆にマスコミ連中を気にする事なく、遥と花は存分にショッピングと観光気分を味わった。
サラはこの界隈では結構な顔らしく、行く先々で声を掛けられていたが、とあるブティックで、店内にいた女性客が、突然サラにすがり付いて来た。
『ああ、サラ!良かった無事で!ニュースで見て、心配してたのよ』
『まあ、ありがとう、ステファン。"ジューダス"聴いたよ。良かったわ』
『ホント?ありがとう、うれしい!』
猫のようにサラになつく女の子を見て、花が硬直する。
『えっ?ちょっとサラ、そのコ…』
『カワイイでしょ?私の妹みたいなものよ』
『レディ=ガガじゃないの!』
「有名な人?」
その辺の情報には疎い遥は、小さく首をかしげた。
その翌日、レストラン多聞で最後の朝食を摂ると、桐生達はミヤコホテルを後にした。LAXへ来ると、また直接滑走路へ乗り込み、ハンガーの前へ乗り付けた。そこには風間譲二が待っており、巨大な飛行機が横たわっていた。
「何これ。"ダイ・ハード2"?」
花が呟いた。
『ロッキード C-5ギャラクシーだ。USエア・フォースの輪送機だが、快適に日本へ帰れるようにはしておいた』
「風間、日本語で頼むぜ」
桐生に言われて、風間はようやく自分が英語で話している事に気付いたようだ。
「ああ、済まない。ユー達がステーツに来る時に乗って来たエア・フォース・ワンは、現在クラリス公女を乗せている為、こちらになった。ガマンしてくれ」
「私達もここまでやね。一馬、遥、花、みんなお疲れさま。気を付けて帰ってな」
「薫さん、色々ありがとう。とっても楽しかったよ」
「そう言ってもろたら何よりや」
遥と薫は、固く握手を交わした。
花は、サラと何やら言葉を交わし、ハグをしていた。
「サラ、ありがとう。Thank you very much!」
遥はサラにこの上ない笑顔を向けた。
「Your welcome! Take care,Haruka.」
サラも笑顔で握手をした。
「一馬ぁ、これでお別れやな。また逢うてな」
「ああ」
短く返事をした桐生を引き寄せ、薫は濃厚なくちづけをした。
薫が唇を離したところへ、サラが近付いて来た。
『ありがとう。ご一緒出来て楽しかったわ』
サラは言うなり、桐生を抱きすくめ、唇を奪った。舌をからめて激しく唇を吸って、ゆっくりと離した。
『私の事、忘れないでね』
『ちょっとサラ!』
薫は頬を膨らませた。
「これって"修羅場"って言っていいのかな?」
花は遥に囁いた。遥は小さく笑っただけだった。
三人を乗せたC-5は、約十一時間のフライトを終え、無事普天間基地に着陸した。風間に見送られて、花は別便で東京へ、桐生と遥はセンチュリーでアサガオへ帰って来た。これほどの長期外出は稀なので、子供達は我先に土産話をねだって来た。
名嘉原への土産も渡し、大悟や真島、冴島にも土産品を送り届けると、ようやく元の生活が戻って来た。
遥は自宅静養はまだ続いていたので、朝食が終わり、アサガオの皆を学校へ送り出すと、桐生と二人で砂浜に出て腰を下ろした。四月終わりの朝の日差しと、風にそよぐ椰子の葉は、遥にカリフォルニアの海岸を思い出させた。
「どうした?」
桐生に問われて、遥は自分が笑顔になっている事に気付いた。
「んーん、何でもない」
そう言う遥の表情は、少し大人びて見えた。
桐生は眩しげに目を細めた。
おわり
20180706
註 :
レディ・ガガ 本名 ステファニー・ジョアン・アンジェリーナ・ジャーマノッタ
『夢のカリフォルニア』 ママス&パパス 1966年
これにて一巻の終わりです。長い間お付き合い下さり、ありがとうございました。
ロサンゼルス観光については、かなりの部分が実体験に基づいています。
ディズニーランドでのゲイカップルも、実体験です(笑)。
皆さんが、ちょっとでもロサンゼルスに行きたいな、と思って貰えたら何よりです。