新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS 作:宝蔵院 胤舜
VACANCES IN LOS ANGELS
第一章 California gurls
【 2 】
「一馬、遥、花、Wellcome to Los Angels!」
狭山薫は爽やかに言い放った。が、その場の空気に小首をかしげた。
「どしたん?せっかくロスに来たいうのに、ノリ悪いなあ」
「薫、お前、そんなキャラだったか?」
桐生はそう言いながら、薫を上から下まで眺める。
「あんまりマジマジと見んといてよ恥ずかしい」
「薫さん、凄いセクシーですね」
遥の言葉に、薫は満面の笑顔で答えた。
「ホンマ?良かった。ちょっと"西海岸らしさ"を演出してみたんや」
「ケイティ=ペリーみたい」
「花ちゃん当たり。『California gurls』のイメージ」
そこで、薫は苦笑いの表情で立っている風間に向き直った。
「三名の搬送、ありがとう。身柄は現在よりFBIが引き受けます」
薫の敬礼に、風間も敬礼を返した。
「では。ミュラー・ザ・サードにもよろしく」
風間はそう言うと、踵を返して、またエアフォース・ワンに乗り込んだ。その後ろ姿を見送りながら、桐生が呟いた。
「風間はどこへ行くんだ?」
「彼?用が済んだから、ラングレー(CIA本部)に帰るんやない?」
薫は興味なさそうに答えた。
「飛行機でか?」
「バージニアやから、二時間くらいのフライトやね」
「アメリカって、そんなに広いのね」
遥が感嘆の呟きを漏らした。
「そおやで。広いんやから、ボヤボヤしてる暇ないで。ほら、乗った乗った」
トランクにサムソナイトを放り込むと、花と遥が後部座席に乗り込み、桐生はサイドシートに座った。右側という事に頭が困乱する。
「大丈夫。すぐ慣れるわ」
そんな桐生を見て、薫は小さく笑って言った。
「今からどこに行くんですか?」
花の問いに、薫は明快に答えた。
「Sightseeing. とりあえず近場に案内するわ。先ずは海から見て貰うから」
ナイト2000はLAXを出ると、マンチェスター・アベニューを西へ走り、右折してリンカーン・ブールバードを北西に取り、アドミラルティ・ウェイに入り、左手にマリナ・デル・レイを見ながら更に西へ向かう。
「ねえ、薫さん」
花が、マリナ・デル・レイのヨットの帆を眺めながら問いかけた。
「なあに?」
「さっき、風間さんが言ってた、ミュラー・ザ・サードってもしかして?」
「そう。ロバート=S=ミュラー三世。FBI長官よ。今回のみんなの訪米に協力してくれたの」
「今回の訪米って、そんな政治的な背景があったんですか?」
「BOSS的には"ヤクザ"の存在に興味があるみたいよ」
薫は桐生を横目で見ながら言った。それに対して、桐生は肩をすくめただけだった。
車はワシントン・ブールバードからパシフィック・アベニューへ右折した。もう、隣の道の向こうは太平洋である。
薫は、車をパシフィック・アベニューとマリーン・ストリートとの交差点に近いパーキングに停めると、三人をビーチへ案内した。
「ここがベニスビーチ。正面は日本まで続く太平洋。こっから北へ行けば、サンタモニカビーチや。見てみて」
そこは、オーシャン・フロント・ウォークという通りで、ビーチに面した道路沿いに、種々な店が立ち並んでおり、大道芸などもやっている。サーフィンのメッカであると同時に、スケートボードやローラースケート、サイクリングも盛んで、ビキニ姿の女性達がスケートで走り抜けて行く。
「カリフォルニアだな」
桐生は思わず呟いた。
四人は通り沿いにある、ハンバーガーの屋台に寄った。
「こじゃれたレストランより、ずっと西海岸らしさを味わえると思ってね」
薫はそう言うと、ハンバーガーを四つ注文した。メニューはない。すぐに、グリルの上に大きなパティが乗せられ、良い焼き音が響く。
「凄い。パティと言うより、普通のハンバーグよね」
グリルを覗き込んだ花が目を丸くした。
「マクドに慣れてると、ちょっと驚くよね」
薫も笑いながら言った。
すぐに四人分が出来上がった。それぞれにコークや7upのラージサイズが付いて$5,85。
「うわー、でっかい!」
遥が目を白黒させた。チェーン店のハンバーガーの倍はある。
「豪快にガブッといっちゃって」
言うが早いか、薫は大きく口を開けて、ひと口かぶりついた。口の周りにケチャップやアボカドソースが付くのもお構いなしである。
花も負けじとかぶりつく。
「うわ、おいひい!れんれんひがう!」
口の中を一杯にしながら、花が歓声を上げた。
遥がその大きさに食べあぐねていると、横から桐生が半分に切ったものを差し出した。店先にあったプラスチックのナイフを使ったのだ。
「ありがとう、おじさん」
遥はようやくハンバーガーにありつけた。
「わあ、凄い。パンも柔かくておいしい!」遥ははしゃいで桐生を見た。「こんなの食べた事ないね!」
そう言われた桐生は、既に自分の分と、遥の半分を平らげて、牛乳パックほどもあるラージコークを飲んでいた。
「確かに美味いな。野菜も多いし、十分一品料理だな」
皆でわいわいと言いながら食事をしていると、その前を通り過ぎたビキニトップにハーフタイツでジョギング中の女性が、回れ右をして戻って来た。
『ねえ、ちょっと、カオルじゃない。どうしたのよこんな所で』
彼女は戻って来るなり薫に声を掛けた。
『まあ、サラ、久し振り。元気だった?』
『ありがと、元気よ。それよりカオル、最近あまりスタジオに姿を見せないわね?』
『ご免、サラ。この所仕事で手が空かなくて』
二人は英語でまくし立てた。桐生と遥はさっぱり判らない。
『ちょっとご免なさい。カオルサン、こちらの美人さんはどなた?』
その会話に、花が割り込んだ。
『あら、ハナチャン喋れるんだ』
『ちょっとカオル、こちら誰なの?』
『こちらハナチャン、日本から来たの』
『初めまして、ハナと言います』
薫と花、そして白人女性の三人で英語で話している間、桐生と遥は置いてけぼりであった。
ひとしきり談笑が終わると、薫が桐生達の方に振り向いた。
「ご免ね二人とも。こちら、私の通ってるヨガスタジオの友人で、サラ=ブライアント。ブライアント財閥の娘だけど、今はサンタモニカでひとり暮らしなの」薫は彼女を紹介した。「サラ、こちらはカズマ・キリュウとハルカ・サワムラ」
『カズマ、こんにちは。私、サラ』
サラは手を伸ばして来た。桐生はその手を握った。その直前、サラの瞳が輝いたのを、桐生は見逃さなかった。
サラは、握手をした瞬間、手首を起こして合気を掛けて来た。桐生はそれを察知して、肘を落として合気を外した。
それを感じて、サラの瞳がかすかに細められた。
『うふ、よろしくね、カズマ』
サラは笑って手を放した。今のやり取りは、当人同士にしか判らなかった。
(中々油断ならねえ娘だな)
桐生は小さく唇を歪めた。我知らず笑っていた。
サラは何事もなかったように、遥と握手をしてキャッキャッと笑い合っている。
(そうか。誰かに雰囲気が似てると思ったが、結城晶だ)
桐生は、古い友を思い出して、一人合点した。
『カオル、これからどこへ行くの?』
サラが笑いながら尋ねた。
『ホテルのチェックインもあるから、フリーウェイでダウンタウンへ行くつもり』
薫が答えた。遥へは、花が同時通訳している。
『そう。じゃあ、気を付けてね。またスタジオで会いましょう』
そう言って手を振ったサラだったが、ふと薫の耳元に顔を寄せた。
『あれがあなたのイイ人?ちょっと妬けるわ』
『何言ってんのよ』
薫は少しはにかんだ。
サラはそのまま手を振りながら走り去って行った。
「ねえ花ちゃん、今のサラってひと、凄いキレイだったね」
遥が瞳を輝かせながら言った。
「何だか凄い美女すぎて、私気後れしちゃったわ」
花が肩をすくめながら返した。
「花ちゃん凄いやん。英語完璧だよ」
薫が笑顔で言った。
「前の銀行では海外部だったから。社長(秋山)の通訳代わりだったんだ」
「花ちゃんてやっぱりスゴイな」
遥が憧れの眼差しを向けた。
「さて、と」薫がポンと手を打った。「今からダウンタウンへ行って、ホテルにチェックインするから。しばらくロスの風景を楽しんで」
ナイト2000は、サンタモニカ・フリーウェイに乗り、東へ走り出した。しばらくすると、左の山肌に小さく『HOLLYWOOD』の文字が見えた。
「わー、ホントにハリウッドだ!」
遥は窓に張りついて、何か見えるたびに歓声を上げている。
「ところで、薫」
桐生は、先程の疑問を口にした。
「さっきのサラって女、何者だ?握手の時に、手首を極めに来たぜ」
「あら、あの子そんな事したん?」
薫はカラカラと笑った。
「笑い事じゃねえだろ」
「あの子ね、ジークンドーの道場にも行ってるの。お兄ちゃんの影響らしいけど。お兄ちゃんな、インディ・カーのパイロットらしいで。それで、お兄ちゃんと二人して、世界格闘なんとかに出てるらしいわ」
「その話し、どっかで聞いた事あるな」
桐生は首を捻った。
「おじさん、それ、アキラさんじゃない?」
遥に言われて、桐生はようやく思い出した。
「ああ。やっぱり結城晶か。あいつが世界格闘トーナメントに出た時、友達になったジークンドー使いが確か、ジャッキー=ブライアントとか言ってたな」
「それ、サラのお兄ちゃんや」
「なるほどな」
そんな話しをしているうちに、車はハーバーフリーウェイにスイッチして、ダウンタウンへと近付いて来た。
「あの高層ビル群を見ると、『ジョン&パンチ』を思い出すわ」
花が溜め息まじりに言った。
「何、それ?」
遥には全く解らない。
「えっ、遥、『白バイ野郎ジョン&パンチ』ってドラマ、知らないの?」
花は逆に驚いた。
「そりゃあ知らないだろう。ジェネレーションギャップって奴だ」
桐生が意地悪く突っ込んだ。
「わー、イヤだー、私、オバサンなんだわー」
花はわざとらしく頭を抱えて見せた。
ナイト2000は、ハーバーフリーウェイを降り、ダウンタウンへと入って行った。
つづく
20171227
※「カリフォルニアだな」 『ダイ・ハード』の、ジョン=マクレーン(ブルース=ウィリス)のセリフ。
※ 結城晶と桐生一馬との関係は、『龍が如く クロスオーバーシリーズ』の第一話等をご参照下さい。