新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

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その3

VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第一章 California gurls

 

【 3 】

 

ナイト2000はハーバーフリーウェイを降りると、シックス・ストリートを南東へ進んだ。丁度ダウンタウンの高層ビル群の足元を走る。ヒル・ストリートで左折すると、結構車の通りの多い中を走り抜け、シビック・センターを左に見つつ、ファースト・ストリートを右折した。左側にシティ・ホールの塔を見て、薫が正面を指差した。

「もう、そこがリトル・トーキョーや。そこに宿を取ってあるから。日本語も通じるわ」

車はリトル・トーキョーにあるミヤコホテルのエントランスに入った。薫は、走り寄って来たヴァレット(駐車係)のホセにナイト2000を預けると、三人をフロントに案内した。

遥と花は二人で部屋に入ると、サムソナイトを解く暇も惜しんで、大急ぎで手荷物だけを握りしめて再びフロントまで出て来たので、三人をロビーで見送ってからタバコに火を着けた薫は、まだ一本喫い終わっていなかった。

「何や、そのままでええの?着替えるか思たのに」

「んーん、大丈夫。何か、着替える時間ももったいない気がして」

遥が頬を上気させている。初めての海外旅行で、胸が一杯なのだ。

「ちょっとご免な。あたしが着替えるから、待っててな」

薫はフロントに声を掛けて、クロークの奥に入ると、ほどなくスーツ姿で出て来た。

「あら、セクシーショットはおしまいですか?」

花の言葉に、薫は笑って返した。

「実はね、日が暮れるとちょっと寒いねん」

桐生は、薫が着替えている間に降りて来ていたので、薫を先頭に四人はホテルを出た。

ホテル前を通るファースト・ストリートを西へ行き、ロサンゼルス・ストリートとの交差点へ出た。ファースト・ストリートを渡って、ロサンゼルス・ストリートを北へ向う。

「あの左手のタワーが、ロスの市庁舎や。で、ここがな、」

薫はそう言いながら、市庁舎手前の右手側、少し奥まったビルを示した。

「ここな、パーカーセンターいうんやけどな」

薫が皆まで言わずとも、花には判ったようだ。

「あっ、ここがLAPD!」

「さすが花ちゃんやな」

「花ちゃん知ってるの?ここ」

遥はきょとんとしている。

「えっ?だって、LAPDだよ。『SWAT』に『コロンボ』に『リーサルウェポン』、色んなドラマとか映画の舞台になってるんだよ」

「『コロンボ』見た事ある」

「コロンボ刑事のいる"ロス市警"がここよ」

「へえー、そうなんだ」

ロサンゼルス・ストリートの下を走るハリウッド・フリーウェイを越えると、中心に大きな木が立つ広場があり、一気に雰囲気が変わる。明らかなラテン系の人々の間を抜け、三メートルほどの十字架の前までやって来た。その向こうは、細い露地の両側に小さな店が立ち並んでいる。

「ここは、オルべラ街ゆうて、ロサンゼルス発祥の地なんやて」

「へえーっ!」

遥と花は感嘆の声を上げた。

「でも、メキシコ系なんですね」

「もともとロサンゼルスって、メキシコからの入植者の集落から始まったみたいやで」

「それで、ここもメキシコ風なんですね」

花は、そう言いつつ通りを覗き込む。

「ティワナへ行くよりずっといいかもね」

女三人の会話を聞きつつも、桐生の目は、とある土産物屋を捕らえていた。店先で、若者が五人ほど、店主らしい老夫婦に食って掛かっているように見える。

「どこでも、やる事は変わんねえんだな」

桐生は呟くと、薫の横をすり抜けて、オルベラ街に足を踏み入れた。

周りの店の対応、老夫婦の反応、五人の若者の口調等、言葉は解らなくても大体の事情は理解出来た。

「おい、お前ら、その辺にしとけ。そういうのは、裏でやる事だ」

桐生は日本語で言った。通じる訳はなかったが、語気は伝わったのだろう。若者達は一斉に桐生を見た。全員メキシコ人だ。

何でチンピラってのは、ひと目で判っちまうんだろうな。

桐生の唇が笑いの形を取った。

「結局、ロサンゼルスと言っても、神室町と同じなんだな。何だか安心したぜ」

桐生は指を鳴らしながら言った。

メキシコ人達が何か桐生に向かって喚いているが、スペイン語なので、桐生には解らない。尤も、英語でも解らないのだが。

「グダグダ言ってねぇで、掛かって来い!」

桐生は構えながら、鋭く言った。

言葉は解らなくても、意志は通じたらしい。一番若い男が、拳を振り上げながら突進して来た。

丁度そこへ、薫が駆け寄って来た。

「ちょっと一馬、待ちなさい!」

そう言った薫の足元に、若い男がきりもみしながら吹っ飛んで来た。桐生のフックにやられたのだ。一撃で気絶していた。

二人目は、ボクンングの構えで、ゆっくりとステップを始めた。桐生は一気に間を詰めて、驚きの表情の上にストレートをぶち込んだ。男は真後ろに吹っ飛んで行った。

三人目は完全にフリーズしていたので、その場で横蹴りを腹にめり込ませた。路上で胎児のように丸くなる。

残った二人は、同時にナイフを取り出した。桐生は近い方の手元を足で払い、ナイフを飛ばし、そのナイフを追って頭を振った所に、手刀で延髄を打った。男は棒のように倒れた。

最後の一人は目茶苦茶にナイフを振り回したが、桐生はそれをあっさりとかい潜って、顎先を突き抜いた。男は糸の切れた人形のようにストンと倒れた。

「Gracias, Gracias señor.」

老夫婦は桐生に礼を言ったが、すぐにビクリとして身を縮めた。桐生が二人の視線を追うと、小さな老人が立っていた。ジーンズに長袖のポロシャツの上からポンチョを被っている。優しげな見た目からは想像出来ない眼光を放っている。

「あんたがこの辺のボスか」桐生は通じない事を承知で言った。「三下の教育がなってないぜ。あれじゃあ、街にお前の威光は届かない」

『悪かったな、他所の人よ』老人は英語で言った。『ちょっと甘やかせてたら、この体たらくだ。良い勉強になっただろう』

『あー、カルロス、ご免。こんなつもりじゃなかったんだけど』

薫は済まなそうに老人に言うと、桐生に向き直った。

「もう。勝手に進んじゃうんだから。でも、良く判ったわね、ボスの事。こちら、ロスのメキシカンの総元締めの、カルロス。オルベラ街にあるロス最初のメキシコ料理店、『La Golondrina』のオーナーよ」

「やはりボスか」桐生は改めて頭を下げた。「人のシマで勝手な事をした。悪かったな」

『あんたも名のあるマフィアの長(おさ)と見受けたが?』

「昔の話しだ。今は堅気だ」

『まあ、そう言う事にしておこう』カルロスは破顔した。『晩飯、まだだろう。俺の店で食って行けよ。迷惑掛けた詫びだ』

「カルロスはそう言ってるけど、どうする?」

薫は皆を振り返った。

「メキシコ料理、食べてみたい」

遥は二つ返事だ。

「遥ちゃん、凄いね。平気なんだ」花はまだ事態を呑み込めていない。「大丈夫なの?そこでご飯なんか食べて…」

路上には、まだチンピラ達が転がっている。

「気にするな。恐らく、今はオルベラ街で最も安全なレストランだ」

桐生はそう言って笑った。

 

意外と日本人の口に合うメキシコ料理を堪能した四人はミヤコホテルに帰ると、ホテル内のラウンジ「王者(Ohjah)」で改めて乾杯した。さすがにオルベラ街では落ち着いて呑めないからだ。三人はバドワイザー、遥は一人、見事なまでに黄色いオレンジジュースである。

「あのー、ひとつよろしいでしょうか?」既に二杯目のカシスオレンジに口をつけて、花が手を上げた。「今日、ロスに着いたばっかですよね?内容濃くないですか?」

「そう?まだまだこれからよ」薫のグラスはテキーラサンライズに変わっていた。「だって一週間しかないんやから。ロスを見て廻るには、短かすぎるわ」

「私は大丈夫よ」遥は涼しい顔だ。「おじさんと一緒に行動する事を考えたら、いつもよりずっと楽だもん」

「そうなんだ」

花は肩を落とした。

「それにね、私、こんなに楽しい事ばっかりさせて貰って、すっごい嬉しいの!」

遥は、本当に嬉しそうに笑顔を満開にした。

「そうよね。今中三やもんね。一杯遊びたいやんな」薫も笑った。「一馬、そう言うところ、ちっとも判ってくれはらへんやろ?」

「俺には年頃の娘の事は良く判らん」

桐生はむすっと答えた。

「女を口説く時には、絶妙なトコロ攻めてくんのにな?」

薫に流し目で見られて、桐生は肩をすくめた。

「私、何だかどっと疲れちゃった」花が大きく背を伸ばした。「特にオルベラが。明日もあるし、先に休みます」

「あ、私も」遥も立ち上がった。「はしゃぎ過ぎて、体力を使い切らない内に」

遥と花は、王者を出ると、部屋まで戻った。ツインの部屋に入って初めて、まだ荷物すら解いていない事を思い出した。

とりあえず身の回り品と着替えを掘り出すと、交替でシャワーを浴びて、さっぱりとしてベッドに座り込んだ。ベッドひとつがセミダブルほどの広さがあるので、遥と花二人で十分の余裕がある。

ほっと一息つくと、花は冷蔵庫からクアーズとペプシを取り出した。

「はい、遥。改めて、今日はお疲れ様」

花はクアーズのプルタブを開けた。

「花ちゃんこそ、色々お疲れ様」

遥もペプシのプルタブを開けた。

『カンパーイ!』

二人で一気に液体を流し込む。

『プハーッ!』

二人で同時に大きく息をついた。思わず二人して笑ってしまう。

「いやでもホント、怒濤の一日だったよ」

花は、改めて溜め息をついた。

「ホントごめんね。急に呼び出して、すぐアメリカで、おじさんすぐケンカだもんね」

「別に遥がどうって事じゃないんだけどね」花は肩をすくめた。「ほら、一千億とか、ゾンビとか、色々あったじゃない。私ね、もう、ちょっとした事ではびっくりしないと思ってたのよ。でも、今回の事は、驚く事ばっかり」

「うん。今回の事は私も驚いたもん」遥は枕を取って胸に抱きかかえた。「だって、アサガオにいて、こんな旅行に出られるなんて、考えもしなかったし」

「私、ホントにうれしいよ、声掛けてくれて」

花はそう言うと、ポンと飛んでベッドサイドの電話を取り、何事かを伝えた。

「ふふ、ルームサービス。普段しない事、色々しよう」

やがて小さなピザとミックスサンドが来た。二人はそれをかじりながら、話しに花を咲かせた。

「ところで遥」かなり良い色になった花がふと口にした。「薫さんって、どう言う知り合いなの?FBIって」

「元々大阪府警の四課の刑事さん。この間のゾンビ事件の時の、郷田龍司さんの妹なの。FBIは研修で来てるんだって」

「へえー。で、桐生さんとの関係は?」

「うーん、そうねぇ」遥は少し考えた。「友達以上夫婦未満?」

「随分と幅があるね」

「お互い複雑なの」遥は大人びた笑顔を見せた。「セックスするくらいは親密だよ」

それを聞いて、花は思わず口の中のビールを吹き出しそうになった。

「ちょっと遥…」

「大丈夫よ。そのへん、おじさん明け透けだから。アサガオの皆の前ではそんな話はしないよ、勿論」

「いやそうじゃなくて」

「おじさん、私のお母さんの事が大好きで、今でも忘れられないみたい。でもおじさんモテるし、そんなお誘いは多いみたいで。おじさん優しいから、大概は受けちゃうみたい」

「遥は平気なの?」

「昔から、色んなせっけんのにおいさせて帰って来てたし、すっかり慣れちゃった」

「そんなもんなの?」

「だって…」花の問いに、遥は目を伏せた。「おじさん、私のお母さんの事が好きだってだけで、私の面倒を見てくれて。でもお母さんはもう死んじゃって…。せめて、新しく好きになった女の人がいたら、仲良くしてくれたら良いなって…」

小さく鼻をすすった遥を肩を、花は優しく抱き締めた。

「良い子だね、遥って」

遥は小さく首を振った。

「またとないチャンスだね、この一週間は。せっかくだから、桐生さんに甘えて甘えて、甘え倒そう!」

「うん」

遥は今度は大きく頷いた。

 

 

つづく

 

20180110

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