新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS 作:宝蔵院 胤舜
VACANCES IN LOS ANGELS
第一章 California gurls
【 4 】
王者の隣にある、レストラン多聞の朝食を目の前にして、遥と花は手を合わせた。
「いただきます」
遥はトーストとスクランブルエッグ、ベーコンと温野菜、アメリカンコーヒー。花はフレンチレーストとスクランブルエッグ、チョリソーと温野菜、ストロングコーヒー。二人とも、スープはソイスープ(味噌汁)である。
「お箸があって良かった」
遥は笑いながら言った。昨日のメキシコ料理で、ナイフとフォークとスプーンに少々手こずったからだ。
二人が食事を始めたところへ、桐生と薫がやって来た。二人とも、何だかさっぱりとした表情をしている。二人ともストロングコーヒーのみである。
「お早よう」
遥が元気にあいさつすると、薫は元気に返した。桐生はいつも通りのトーンである。
「昨日、あれからどこかに行ったんですか?」
花が何気なく尋ねた。
「道向かいに、遼東(ファーイースト)ってレストランがあるんやけど、そこの奥にな、夜だけやってるバーがあってな。通路の奥」薫は笑いながら答えた。「しばらくそこで呑んで、通りをちょっとブラブラして、部屋に帰ったわ」
遥が桐生の顔をちらりと見ると、桐生は唇に人差指を当てて、ほんの少し首を振った。
(ほら、やっぱり!)
(ホントだ、遥の言った通りのポーズだ!)
遥と花は、小声でキャッキャと笑い合った。ちなみに今の桐生のポーズは、「それ以上は聞くな」の意味合いであり、つまりは"アダルトモード"であった事を意味している。
薫はそんな二人を曖昧な笑顔で見つめた。
「何や、修学旅行みたいやね」
そんな薫の言葉に、二人はまたくすくすと笑った。
「まあええわ」薫はあっさり切り替えた。「今日も忙しいで。遊園地のハシゴや」
「ハシゴ?」
「そうや」きょとんとする遥に、薫はいたずらっぽく笑った。「アメリカ最初のテーマパークと、夢の国はお隣りさんなんやで」
良く判らないながらも、一同はナイト2000に乗り込み、ホテルを出発した。
薫は車をサンタ・アナ・フリーウェイに乗せると、南西へ三十分ほど走らせた。
標識に「アナハイム」と見えたあたりでフリーウェイを降りると、オレンジ・カウンティという閑静な住宅街へ入り込んだ。
そんな住宅街の屋根の上に、突然観覧車やジェットコースターのタワーが見えて来た。
「ここが、ナッツベリーファーム。アメリカ最初のテーマパークや」
「えっ?ここ?」
思わず遥が言ってしまうほど、駐車場も大型ショッピングモールぐらいの規模で、まわりは普通の住宅地である。
パーキングに車を停めると、マーケットプレイス前を通り、エントランスゲートを通り抜けた。9.11以降、持ち物検査が厳重になり、ゲートは長蛇の列だったが、薫が手張を見せると、別のゲートから簡単なチェックで入れてくれた。
「今のって、"FBIパワー"って奴ですか?」
そう尋ねた花に、薫は笑って答えた。
「そうやって言いたい所やけど、さすがにそうは行かへんねん。純粋に、団体予約で通っただけやねんけど。ちょっと気持ち良かったやろ?」
ゲートを通り抜けると、スヌーピーとチャーリー・ブラウンが出迎えてくれた。"ピーナッツ"がナッツのキャラクターである。
ナッツは、西部開拓時代がメインテーマであり、カウボーイ、馬車、機関車など、西部劇さながらの雰囲気である。
駅馬車に乗って園内を一周しただけだったが、純粋に「テーマパーク」を堪能して、遥はご気嫌であった。
マーケットプレイスにある、ホットドッグのチェーン店「PINK'S」で買った、ケイジャンドッグを食べながら、薫は言った。
「次が本命やからね」
「ここで既に本命な感じなんですけど」
花はフライドポテトをケイジャンスパイスで食べながら返した。
ナイト2000がナッツの駐車場を出て、フリーウェイにも乗らず三十分も走ると、ボール・ロードを南北に交差する道路に出た。薫は、そこで右ウィンカーを出した。その通りの名前を見て、花が遥の肩をつついた。
「ねえ遥、この道、ディズニーランド・ドライブって言うんだって」
花に言われて遥が標識を良く見ると、確かにそう書いてある。
「もしかして、ディズニーランド?」
遥は目を輝かせたが、見えるのは、パームツリーと灌木と巨大な立体駐車場だけであった。
駐車場の目の前にトラムの駅があり、既に大勢の人々が列を作っていた。そこに並んでトラムに乗り込み、カーブを少し曲がると、一気に視界が開けた。そこは、見える物全てが遊園地であり、ディズニーであった。
「ようこそ、ディズニーランド・リゾートへ」
薫は皆を促して、エトランスへ向かった。やはり厳重なセキュリティチェックの後、ゲートを潜ると、そこは夢の国であった。メインストリートUSAへ来ると、丁度パレードの真っ最中で、遥の目の前を白雪姫やシンデレラ、そしてミッキーマウスなどが通り過ぎて行った。遥は瞳を輝かせて、声もなくそのパレードを見つめていた。
「ほらな。遥ちゃんも女の子なんやから、こんなん好きやねんて」
「確かに、子供達の世話ばかりで、こんな事は考えた事もなかったな」薫に肩を小突かれて、桐生は腕を組んだ。「俺が、遥に甘え過ぎている、という事なんだろうな」
それに対して、薫は肩をすくめただけで何も言わなかった。
二人は、子供に返ってはしゃぎ回る遥と花を眩しそうに眺めていた。
すると、その二人に白人の男二人組が近付いて行った。花と何事か話していたが、花が男から手渡されたiPhoneで何枚か写真を撮って、男達は離れて行った。
桐生は一瞬力を込めた握り拳を弛めた。
「ナンパかと思ったじゃねえか」
「ランド内で暴力沙汰起こしたら、一発退去やで」
桐生と薫がそう囁き合った所へ、遥と花が小走りで近付いて来た。二人とももの凄い笑顔である。
「どしたん?二人とも」
「今ね、男の人二人に『写真撮って』って言われたんだけど」
遥がちょっと勿体つけて切り出した。
「どうしたんだ?」
「ポーズがちょっとヘンなの。腕を交差させてターキーをあーんってしてみたり、肩を組んだり腰に腕を回したり」
「ちょっとBLっぽかったよね」
花も遥に同調する。
「まあ、ロスはゲイカップル多いし、ホンマにそうかも知れへんで」薫は笑いながら、遥をけしかけた。「ほらほら、見たいトコとか、乗りたいモンがあったら、早よ行きや。人気ある奴は待ち時間長いで」
すっかり暗くなるまでディズニーランドを堪能した遥と、便乗して遥以上に楽しんだ花が、ディズニーキャラの小さなぬいぐるみを各々のバッグにぶら下げて、意気揚々と桐生達の所へ帰って来た。特に遥は、たまたま歩いていたミッキーマウスとツーショット写真を撮らせてもらい、上気嫌であった。
「楽しんで来たか?」
桐生に尋ねられて、遥は満面の笑顔で答えた。
「うん、すっごく!今年一年分は楽しんじゃった感じだよ」
「良かった。連れて来たかいがあったわ」
薫も笑って言った。
「何か、色々つまんで食べちゃったから、お腹一杯になっちゃったね」花が、最後のチュリトスを口に放り込んだ。「これで、後はホテルに帰るだけですか?」
「んーん、最後の締めくくりがあるで」
「締めくくり?」
遥は小首をかしげた。
「そうや。その為に、夜まで遊んでもろたんやから」
薫はそう言うと、ニンマリと笑った。
「わーっ、すごーい!」
遥は思わず大きな声を出してしまった。それほど感動してしまったのだ。
薫はナイト2000をハリウッド・フリーウェイに乗せると、ダウンタウンを通り過ぎ、ハリウッドまで戻って来た。
今、彼らはグリフィス天文台にいる。ここのテラスからは、ロサンゼルスの夜景が一望出来る。
少し離れた所にダウンタウンの高層ビル群があり、一際明るいが、何よりも凄いのが、街路の明かりである。何本もの光の線が、地平線の彼方でひとつに纏まる。究極の遠近法である。
「『E.T.』でも使われた風景やって」
そう説明する薫の声も耳に入らないほど、遥は眼下の光に心を奪われている。今まで、新宿の夜景は何度も見て来た。ミレニアムタワーからの東京の明かりは、辛い思い出とセットだが、それでも美しいと思う。
しかし、この風景は違う。あらゆる感傷を廃して、純粋に目の前の絶景を見て、単純に凄いと思う。久し振りの、掛け値なしのストレートな感動だった。
薫は、そんな遥を微笑みながら見ていたが、やがて、スマホが鳴っているのに気付いた。画面を見て、大きな溜め息をついた。
「どうした?薫」
そんな薫の様子に気付いた桐生が、声を掛けた。
「ちょっとごめんな。クワンティコからや」
「クワンティコ?」
「FBI本部の事」
判らない桐生に、花が小声で説明した。
『もしもし』薫は不気嫌そうな声を出した。『何か用?私が休暇中って判ってて掛けて来たの?』
『おいおい、何て声出してんだよ』電話の向こうで、男は快活に笑った。『休暇なのは承知の上で連絡してるんだ。それだけ重要案件って事だ、カオル』
『二、三度寝たくらいで、あんまり馴れ馴れしく呼ばないでくれる、シーリー=ブース特別捜査官』
少し離れた場所で聞くともなく聞いていた花が、思わず薫を二度見してしまう。
『このチャンネルでそう言う話しをするなよ。録音されてんだぞ』
『あら、あたしは別に構わないわ。あなたのセックス、愛があって、とっても良かったもん』
『それは、誉め言葉として有り難く聞いておくよ』そこでブースは口調を改めた。『休暇中に申し訳ないんだが、是非とも頼みたい事があるんだ。君にしか頼めないんだ』
『何よ。随分勿体ぶるじゃない』
『実は、テンペ ― テンぺランス=ブレナン博士に聞いた話しなんだが、とある国の要人が、ステイツに入国するらしいんだ』
『それって、SPのお仕事じゃないの?』
『そこなんだよ』ブースは困ったような声音になった。『ボーンズ(ブレナン博士)の話しでは、何でもお忍びで来るらしくて、仰々しく護衛などを付けて欲しくないらしいんだ』
『ブレナン博士の知り合いなの?って事は女性って訳ね』
『ご明察。しかも、その女性、明日ロスに到着するらしいんだ。君にしか出来ない任務だろ?』
『んもう、判ったわよ。で、詳細は?』
ブースが話し出した内容を聞いて、さすがに薫も認識が改まった。
『何よそれ。結構本気の話しじゃないの』
薫は思わず天を見上げた。
『勿論だ。じゃあ、頼んだぜ』
ブースはそう言って電話を切った。
「Oh my God!」
薫の口から思わず出たひと言に、桐生が目を向けた。
「どうした?結構長い電話だったが」
「んー、実はな、明日、ちょっと仕事に付き合って欲しいねん」
「仕事って、FBIの?」遥が目を丸くした。「そんな大変な仕事に、私達が付き合ってもいいの?」
「むしろ、皆に一緒にいてもろた方がいいかも知れへんねん」
薫の言葉に、皆は首を捻った。
つづく
20180117
※ テンペランス=ブレナン博士、シーリー=ブース 米TVドラマ『BONES』の主役の二人。
※「California gurls」 ケイティ=ペリー『ティーンエイジ・ドリーム』2010年 より