新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

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その2

VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第二章 カリフォルニアの青い空

 

【 2 】

 

シボレー・タホはハリウッド・フリーウェイに乗り、一気にユニバーサルシティに乗り込んだ。

駐車場にタホを停めると、六人はメインエントランス前に立った。

花が、地球儀(ユニバーサル・グローブ)を見上げて言った。

「これって、USJのとは違うんですね」

「そうなん?」

薫が首をひねった。他の四人も判らない。誰もUSJには行った事がないのだ。

『ハナ、何が違うの?』

サラが尋ねた。

『ハリウッド・オリジナルは、フレームだけなんですね。日本のは、フレームの間にボードが入ってて、海は青く、陸は茶色で、普通の地球儀みたいですよ』

『まあ、そうなのね』

クラリスも、地球儀を見上げた。その瞳は少女のように輝いている。

『私、実はこういう所、初めてなの』

クラリスの言葉に、遥は目を丸くした。

「えっ、そうなの?」

『ええ。だって、大公家に生まれて、十一歳で修道院に入って、十六歳で出て来てすぐに大公代理として国政に携わる事になってしまったから、フツーの女の子のような遊びとか楽しみは、ほとんどなかったの』

「そうだったんだ。何だか、お姫様とか、王女様とか、自由に何でも出来るような気がしてた」

『むしろ、不自由な身の上なのよ』クラリスは肩をすくめて見せた。『だからこそ、今日はとってもワクワクしてるの!』

『でも、お国の方でも、お城をテーマパーク風に公開してるって聞きましたけど?』

花が尋ねた。かの1979年の事件以降、城は「ゴート札記念博物館」として一般公開されている事は、彼女も聞き及んでいたのだ。

『確かにそうだけど、あれはあくまで資料館で、アミューズメント施設ではないから』

『ああ。それもそうですね』

『さあさあ、行くわよ!遅れないでね!』

サラが皆を促した。

『サラ、やけにテンション高くない?』

薫の言葉に、サラは満面の笑みで答えた。

『そりゃそうよ。ここは〈私が来たかった〉んだから!』

『何よサラ、自分の趣味の為にお姫様をダシに使ったって訳?』

『半分(ハーフ)はちゃんとした視察よ』

『半分ね…』

『ハーフでもクォーターでも何でもいいわ』クラリスが快活に言った。『早く行きましょ!最初は何を見せてくれるの?』

 

 

 

この日、LAPDに一通の手紙が届いた。署に直接宛てた手紙で、ご丁寧に真っ黒な封筒である。

『ハッ!ブラック・メールって訳か。ふざけた奴だな』

ロス市警殺人課の刑事部長、テリー=ハラがその手紙を手に取った。ペーパーナイフで封を開けると、中にはワープロで打った手紙が入っていた。後に調べた所、打ったパソコンも印刷したプリンタもフェデックスのレンタルらしく、名儀も偽名であった。

手紙には、こうしたためられていた。

 

「今日、アメリカに入国したクラリス=ド=カリオストロの身柄を頂きに参上する。邪魔立て無用。 ルパン三世」

 

普段なら、ただの愉快犯と決めつけシュレッダー行きだったが、ハラの手は止まったままだった。

今日、クラリス公女が入国する事は、国務省を系由したカリオストロ公国からの懇願と、ブライアント財閥からの事実上の恫喝で、上位幹部以外にはトップ・シークレットであったのだ。それを知っているとなると、単なる悪戯と看過する訳にも行かない。しかも、よりによって「ルパン三世」と名乗っている。

ハラは、署長に内線を入れた。しばらく話してから受話機を置くと、辺りを見回した。

『ダン、ちょっと来てくれ』

ハラは、丁度居合わせたダニエル=エスピノーザに声を掛けた。

『どうしたんです?おお、絵に描いたようなブラック・メールですな』

『お前が担当してくれ』

『何です?』

『ルパン三世からの脅迫状(ブラック・メール)だ』

『ルパン?誰ですか?』

『知らんのか?世界を又に掛ける泥棒だ。自らアルセーヌ=ルパンの孫を名乗っている。そいつが、プリンセス・クラリス誘拐の予告状を送りつけて来たって訳だ』

『えーっ』ダニエルはあからさまに不満の声を上げた。『カンベンして下さいよ。俺は殺人課ですよ。だいたい、そんな事、一介の刑事が担当する事案じゃないですよ。下手をしたら、国際問題じゃないですか』

『まあ、その辺は署長が対処してくれるらしいぞ。何でも、ICPOにルパン三世の専門家がいるらしいから、そちらに打信してくれるとさ』

『でも、本当に誘拐が行われるかどうかも判らないんですよね?そもそも、プリンセス・クラリスがどこの国のお姫様かも、私は知りませんよ』

『まあその辺は、"専門家"に任せれば良いんじゃないか?』

ハラが投げやりに言った所へ、内線が鳴った。ハラはしばらく聞いていたが、やがて礼を言いながら受話機を置いた。

『ICPOから連絡があったそうだ。何でも、そのルパン専従捜査官は、別件でサンディエゴにいるらしい。じきにこっちに来てくれるそうだ』

 

それから二時間ほどで、LAPDに男が一人やって来た。六フィートほどの身長にヨレヨレのトレンチコートを羽織り、四角い顔に帽子を被った姿は、頑固そうなイメージを見る者に与える。

男は刑事部で待つハラとダニエルの前まで来ると、帽子を取って敬礼をした。

『インターポールのルパン三世専従捜査官、銭形幸一警部であります』

姿勢の良い敬礼に、二人も思わず敬礼を返した。

『初めまして、ゼニガタ警部。私は刑事部長のハラです。こちらは殺人課のエスピノーザ』

『テリー=ハラ。日系人初の警部の噂は聞いておりましたぞ』

『ありがとう』

上手に持ち上げられ、ハラも悪い気はしない。

『ところで』銭形は柔らげた表情をまた引き締めた。『ルパンから予告状が届いたと聞いたのですが』

『ああ、これです』

手紙を手に持っていたダニエルが、銭形に手渡した。

銭形は、その手紙を広げると、思わず笑ってしまった。

『どうしたんです?』

そう尋ねたダニエルに、銭形は笑ったまま手紙を返した。

『全くのニセ物だが、むしろなぜルパンの名を騙ったのか、その方が気になりますな』

『ニセ物とすぐ解りましたな』

『勿論ですよダニエルさん。わしはルパンとは付き合いが長い。奴が、何をどうするかは良く判っている。これは、全く違うと断言出来る』

『ニセ物でも捜査はして下さるか?』

ハラの問いに、銭形は大きく頷いた。

『ルパンの名を騙るような奴らが、単独でそんな事をするとは考えにくい。背後関係を調べてみる必要がある。それに、クラリス姫がロスにいて、そして誰かに狙われているのなら、わしは姫を護らなければならん』

『彼女は今、FBIのオフィサーと行動を共にしている』

ハラはそう言って、一枚のメモを差し出した。

『プリンセスのたっての希望で選ばれたらしい。カオル=サヤマだ』

メモにはモバイルフォンの番号が書かれていた。

『了解した。後はわしに任せてくれ。ハラ殿、わしの捜査権を認めてくれるよう、上の人に言っといてくれ』

『判った』

『ダニエルさん、わしの車をどこでも停められるよう、許可証のようなものを作ってくれんか』

『何とかしましょう』

『よし、では、ニセルパンをとっ捕まえるとしようか』

銭形は、帽子を深く被り直して、力強く言った。

 

 

 

クラリスは、ユニバーサル・スタジオを堪能していた。

彼女は、生まれついての公女であり、人にかしづかれる事に異和感を持った事もなかった。修道院でも、大公の娘として大切に扱われたので、厳密にはそれほどの苦労はしていないし、対人関係においても、自分が上座である事に何の疑問も持たなかった。

彼女が国際社会に元首としてデビューしてからは、新参者として、他国の元首に侮られる日々が続いた。

カリオストロ伯爵は政治家としては辣腕であり、そのイメージを払拭するのにかなりの努力が必要だった。中には伯爵時代の意趣返しで不穏当な言動をする者もあったが、持ち前の真摯で誠実な人柄で、クラリスは外交上の信用を取り戻して行った。

クラリスは、バチカンで大司教を前に、生涯不婚の誓いを立て、公国復興に一生を捧げる事を内外に宣言した。そして、後継者としてメディチ家の遠戚から男の子を養子縁組する話しも既に纏まっている。

そんな、良くも悪くも公女として多忙な毎日を送っていたクラリスに、大きな出来事が起こった。

彼女が1982年に来日した折、リゾート開発について打信があった企業との提携がバブル崩壊で一度頓挫したのだが、2001年にアメリカのブライアント財閥との共同開発という形で再度提携話が持ち来まれた。日本側からは大規模なチームが送り込まれ、本格的な観光開発事業がスタートした。

その時、ブライアント財閥からスーパーバイザーとしてやって来たのが、ボビーとサラの二人だったのである。

「ねえ、クラリス、どうしたの?何か考え事?」

遥に声を掛けられ、クラリスは我に返った。途端に口の中に甘さが蘇った。ハーゲンダッツを食べている間に、追憶に入り込んでいたらしい。

『うん。サラと初めて逢った時の事を思い出してたの』

『十年前の話し?今考えるとちょっと恥ずかしいね』

サラが笑って言った。

『何があったの?』

花の質問に、サラははにかみながら答えた。

『私も色々あって、一人暮らしを始めた頃だったんだけど、従兄のボビーに声を掛けられたのよ。仕事を手伝ってみないかって。それが、カリオストロ公国の観光開発事業だったの』

『そこでクラリスと出逢ったのね』

『そうよ。あの頃は、私も何も知らないおバカさんだったから』サラは肩をすくめた。『本物のお姫さまなら、お近付きになりたい、くらいの気持ちだったわ』

「でも、その気持ちって解るな」

遥がそう言うと、サラは笑顔を見せた。

『私はそんな半端な気持ちでいたのに、クラリスは真剣で、本当に国の事、国民の事を考えて、少しでも国を豊かにしようとしていた。私、何だか感動しちゃって、是非にでもお友達になって貰いたいって思ったの』

『今では素晴らしい友人になれたね』

クラリスも笑った。

「私と花ちゃんも、そんな友達になれるかな?」

遥は心からの思いでそう言った。その言葉に、クラリスは見惚れてしまうような美しい笑顔で答えた。

『ええ。もちろんよ、ハルカ、ハナ。これからよろしくね』

「はいっ!」

クラリスの言葉に、二人は大きな返事を返した。

「完全なる女子会だな」桐生はタバコを食わえた。「俺の出る幕なしだ」

「ちょっと一馬、タバコは厳禁やで」

薫がたしなめたが、桐生は小さく首を振った。

「こいつは『禁煙パイポ』だ」

 

 

つづく

 

20180208

 

 

註 :

 

※カリオストロ城テーマパーク構想は、『ルパン三世カリオストロの城大事典』1982年アニメック別冊の付録ソノシート「クラリスからの手紙」や、『ルパン三世カリオストロの城-再会-』 (1997年 アスミック・エース プレイステーション用ゲーム) の設定にもある。

 

1979年 『ルパン三世カリオストロの城』は、1968年の事件という設定もあるようだが、ここでは『あれから4年 クラリス回想』(1983年徳間書店アニメージュ文庫) にある「クラリス 今年で20歳」というコピーより、1979年の事件の設定を採用している。

 

ダニエル=エスピノーザ 『LUCIFER/ルシファー』 アメリカのファンタジー・警察・コメディー・テレビドラマシリーズの登場人物。2016年 FOX。現在シーズン3。

 

1982年の来日 『ルパン・トーク・ルパン』(1982年日本コロンビア)の「クラリスとの再会」の設定による。

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