新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

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その3

VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第二章 カリフォルニアの青い空

 

【 3 】

 

陽が傾いて来たユニバーサル・スタジオ・ハリウッドを離れたクラリス一行は、ダウンタウンに戻って来ると、ファクトリー・プレイス内にあるインドア・シューティングレンジ「ロサンゼルス・ガン・クラブ」へとやって来た。

「あっ、私、この建物見た事ある」花が車を降りながら言った。「確か『トリビアの泉』でやってた『日本刀とピストルが対決したら』って奴で、検証場所で使ってた所だ」

「あら、そうなんだ。日本では有名なの?」

「多分、一部マニアの間だけ」

薫の問い掛けに、花はドライに答えた。

「まあ、こんな所も、日本にはないから、見といて損はないかな、って思って」

『私、とても興味深いわ。カオル、ありがとう』

クラリスが建物を見上げて言った。

『すみません、お姫様をこんな所へお連れしてしまって』

『いいえ、むしろお礼を言わなきゃ。民を守るって、綺麗事じゃ済まないもの。国内の犯罪や、他国の干渉からも守らなければ。その為には、"力"も必要だもの』

『大丈夫。的に撃つだけなら、オモチャと一緒よ』

サラが、そんな気楽な事を言う。

室内に入ると、それほど広くないロビーに、ガラスのショーケースがあり、その中に拳銃がズラリと並べられていた。そこが受付カウンターとなっていて、その後ろの壁には、ライフルやショットガンが掛けられている。それら全てをレンタル出来るのである。

『ハイ、リンダ』

薫が声を掛けると、少しとうの立ったメキシコ人女性が顔を上げた。大づくりな顔は、若い頃の美しさを十分に留めていた。

『あら、カオル、久し振りね』リンダは老眼鏡を指で押し上げた。『射撃時間、足りてないんじゃない?』

『そうなのよ。中々時間が取れなくてね』

『ところで今日は、大勢なのね。ティーンエイジャーもいるんだ』

『ええ。今日は、女性のセルフ・ディフェンスの講習でね。ガンの特性を知れば、身を守る何らかの役に立つかも、という事で、こちらを利用させてもらうわ』

『そう。じゃあ、インストラクターもやってくれるのね?』

『まかせて』

『じゃあ』リンダは多少かすんだコピー用紙を取り出した。『一応決まりだから、カオル以外は記入してね。で、外国人はパスポート、アメリカ人はIDカードを用意して』

用紙は、注意書きの下に、習熟度を三段階(初めて、初心者、そこそこ)でチェックするようになっている。最後に、自筆のサインを入れる事で、契約成立となる仕組みだ。

遥と花は当然「初めて」にチェックを入れた。サラは「そこそこ」にチェックする。

『本当は、マスタークラスだけどね』サラは事もなげに言った。『ブライアント財閥が全米ライフル協会の顧問をしてるからね、まあこれくらいは、女子の嗜みよ』

そう言ったサラが覗き見た桐生の用紙は、「そこそこ」にチェックが入っていた。

『あなた、ジャパニーズでしょ?何でそこそこガンが扱えるの?』

「本当はマスタークラスだがな」

桐生はボソッと言った。

「何張り合っとんのよ一馬」

そんな薫がふと見ると、クラリスも「そこそこ」を選んでいた。

『クラリスも銃の訓練をした事があるの?』

『ええ』クラリスは少し寂しげな表情をした。『私も、国を守る為にはそういう事を知る必要があると思って、銃の扱いや、軍事的な訓練にも参加した事があります』

『クラリスって、本当に努力を惜しまないのね』

『私が国民に返せる事は、これくらいだから』そう言ってから、クラリスはまた明るい表情に戻った。『だから、たまにはこんな形の息抜きもいいよね?』

「ねえ、ところで薫さん」遥が心配顔で言った。「おじさんと私、パスポート持ってないよ」

「大丈夫や。こんな時の為に、二人のFBIのIDカードを作っといたから。問題なしやで」

「逆に問題があるような気がするが?」

桐生の呟きはスルーされた。

 

全員が銃と弾丸ケースの入ったトレイを持って、シューティングブースに入った。イヤープロテクターを着けていても、他人の射撃の轟音が耳を弄する。遥と花は、サラが付いてルガーの.22口径とワルサーPPK-Sを、キャアキャア言いながら撃っている。サラ自身は、スタームルガー・レッドホーク.44マグナムとデザート・イーグル.44マグナムをレンタルしている。どちらも世界的に有名な大口径拳銃である。

桐生はS&WM-29.44マグナムと、AUTOMAG.44マグナムを黙々と撃っている。二丁とも抜群のマン・ストッピング・パワーを誇るハンドキャノンだ。

クラリスは、ワルサーP38と、S&WM27コンバットマグナムを選んでいた。

『意外と武骨で古い銃をチョイスしたのね』

薫が横からクラリスに声を掛けた。

『ええ。私が初めて手にした銃なの。私を救けてくれて、私に勇気と力をくれた人達が使っていた銃。お守りみたいなものね』

クラリスはそう言うと、両手で銃を構え、撃った。P38特有の乾いた射撃音が響く。七発撃ち尽くし、遊底が開いて止まると、ターゲットを引き寄せた。弾痕は八ヤード(約七メートル)先の的のほぼ中央に全て集まっていた。

『うわ、ちょっとなに?』薫は頭を抱えて見せた。『私より上手いじゃない』

『まだまだ全然ダメよ。あの人の足元にも及ばないわ』

『あの人って、もしかして…?』

薫は言いかけたが、スマホの着信に気付いた。FBIの専用回線である。

『ちょっと失礼』

薫はクラリスに詫びると、ブースを出て電話を取った。

『もしもし。ブース?クラリスとは合流したわ。心配しないで』

「すまんな、人違いだ」電話の向こうの男が、ダミ声で言った。「あんた、FBIの狭山薫だな?」

「何?日本語?」

「そうとも。わしはインターポールの銭形警部だ。お前さんがクラリス姫の護衛に付いている、と聞いたので、連絡を取ったんだ」

「あの銭形警部?噂は聞いてるわ。でも、LAで何のご用なの?」

「まあ、電話でも何だから、直接お話しをさせて貰おうかな」

電話の声よりも先に直に声が聞こえたので、薫は顔を上げた。ロビーの入口の横にある自販機の所に、トレンチコートを着た厳つい顔の男が立っていた。耳から電話をはずすと、小さく手を振った。

薫が近付くと、銭形は受付に向けて顎をしゃくって見せると、そちらへ歩き出した。

『よう、リンダ、元気か?』

『あら、どうしたのゼニガタ、久し振りじゃない。今回は仕事で?』

『ああ。わしには休みなどないのさ。世界中の悪党共がわしに捕まるのを待ってるからな』

『まあ、大変ね。がんばってね』

リンダはそう言うと、.45APC弾を一箱、銭形に渡した。

「狭山、中で話そう」銭形は薫を促して、ブースの扉を開けた。「内緒話には、好都合な場所だ。姫への挨拶は、その後でいい」

二人はブースへ入ると、何食わぬ顔で射撃を始めた。薫は自前のシグ・ザウエルP220、銭形はコルト・ガバメント1911Aである。

「で、インターポールの敏腕警部が、何の御用なの?」

「LAPDにクラリス姫誘拐の予告状が来た」

銭形は短刀直入に言った。

「何やて?」

「それも、『ルパン三世』を名乗って、だ」

「ああ。それで、あなたの出動って訳やね。それにしても、LAに来るのが早ない?」

「たまたま、サンディエゴの海軍基地で、海兵達、確か海軍特殊コマンドとか言ったかな、奴らに徒手格闘を指導していたんでな」

海軍特殊コマンドと言えば、米軍内でも精鋭部隊である。その教官を勤めるには、それ相応の技量がなければなるまい。

(何よ。噂で聞くより腕利きやないの)

薫は考えたが、口には出さなかった。

「まあ、明らかなニセ物だがな」銭形はロをへの字にした。「それよりも、わざわざ予告を出した、というのが気に食わん」

「どう言う事?」

「本気で姫をかどわかしたいのなら、予告などせずに、すぐにでも実行すれば良い。だいたい、ルパンを名乗るなど、リスクしかなかろう」

「つまり、何か裏があると?」

「ほう。中々鋭いな、あんた。大阪府警で、『ヤクザ狩りの女』と呼ばれたのも伊達じゃないな」

「昔の話しや。それより、よう知ってはるなそんな事」

「姫を護衛する人間だ。信頼出来る者かどうか、知らねばな」

「で、警部としては、どう考えてはるの?」

「今回の誘拐予告は陽動で、この犯人グループの背後に、別の目的を持った犯人グループがいる、と考えている」

「今、グループ言いました?」

「ああ。ルパン三世を名乗る時点で、四人組である事は明白だ。四人組を操るのが一人とは考えにくい。まあそんなトコだ。わしは、予告犯と同時に黒幕も調べてみる」

「私達はどないしたらいい?」

「明日は予定通りに動いたらいい。UCLAなら、犯人も迂闊には動けまい。わしは明日は勝手に行動するから、気にするな」

銭形が振り向くと、桐生達が集まっていた。クラリスが一歩前に出る。

『ゼニガタさん、お久し振りです。また逢えて嬉しいわ』

『わしもですよ。こんな事情でなければもっと楽しかったでしょうな』

『こんな事情?』

『ああ。ちょっと場所を変えようか。結構ヘビーな話しなんでな』

銭形は、少し表情を引き締めた。

 

ここ「ロサンゼルス・ガン・クラブ」は、工場の建物を利用したインドアレンジなので、実際に利用しているのは全敷地の半分程度である。受付カウンター裏は、薬莢に火薬を詰めて弾頭をはめ込む「リローダー」と、作業用のデスクや棚、そしてスタッフの休憩用のテーブルと椅子以外には何もない、ガランとした空間である。そのテーブルに、クラリスを上座として桐生、遥、花、薫、サラ、そして銭形が揃って席に着いた。テーブルには、銭形がリンダに頼んでおいた「ピザ・カリフォルニア」と、紙コップのアメリカン・コーヒーが並んでいる。

『凄い!デリバリーのアメリカン・ピザを食べるの、初めて!』

クラリスが瞳を輝かせて言った。

『私もあんまり食ベないわね』

サラも物珍しそうにピザを見ながら言う。

「さすが、セレブは違うわ」花が遥に囁いた。「私達なんか、おサイフと相談しながら食べるかどうか考えるのにね」

「私なんか、アサガオの皆の栄養バランスを考えてたら、宅配ピザなんか頼めないよ」

遥が主婦のような発言をする。

『あー、諸君。良く聞いてくれ』銭形は英語で切り出した。『今朝、LAPDにブラックメールが届いた。内容は、クラリス姫の誘拐。差出人は、ルパン三世』

『まあ』

クラリスは目を丸くした。

『姫はもうお分かりと思うが、これはニセ物だ。ルパンがクラリス姫を誘拐の対象にする訳がない。だが、今の段階では犯人の特定は出来ない。なので、姫には申し訳ないが、明日は予定通りに行動する事によって、犯人を炙り出す事を協力して欲しい』

 

 

つづく

 

20180214

 

 

註:

 

『トリビアの泉』 タモリが司会の番組。その中の『トリビアの種』というコーナーで、「日本刀VSピストル」というのをやっていた。

 

ワルサーPPK-S ジェームズ・ボンドの愛銃として有名。

 

スタームルガー・レッドホーク.44マグナム 世界一頑丈な.44マグナムとして有名。

 

デザート・イーグル.44マグナム イスラエルの、ハイパワーマグナムオートとして有名。『ニキータ』や『ロボコップ』で知名度が上がった。

 

S&WM-29.44マグナム 『ダーティハリー』で爆発的人気を博した。

 

AUTOMAG.44マグナム やはり火付け役は、クリント=イーストウッド。

 

ワルサーP38 ルパン三世の愛銃として名高い。

 

S&WM27コンバットマグナム 次元大介の愛銃として名高い。

 

シグ・ザウエルP220 世界各国で用いられる名銃。

 

コルト・ガバメント1911A 世界一とも称される名銃。銭形の愛銃。

 

 

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