皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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日常と戦闘をわけようとしたら短くなった。


皆城総士になってしまった…07

 

 パイロット候補生の訓練が始まってから3週間。遠見の適正データを少し触り、新型武装の開発とテスト、一騎と羽佐間の訓練、そしてマークゼクスの調整と、フェストゥムが竜宮島に襲来してから一月。次の襲来はなく島は落ち着きを取り戻しつつあった。

 

 乙姫の身体の事だが、診察の結果は異常なし。極めて健康であるということらしい。つまり3ヶ月しか生きられないという事はないのだろう。

 

「おはよう、総士」

 

「ああ。おはよう、乙姫」

 

 布団で兄妹で寝ることにも大分慣れたものだ。最初は蔵前に男女七歳にして同衾せずと言われたが、そもそも乙姫はある意味で産まれたばかりでまだ一歳でもなくしかも甘えたがりだからと説き伏せる事に成功した。

 

 ……そう。何故か乙姫は甘えたがりなのだ。

 

「総士の身体、温かいね」

 

「乙姫の身体が冷たいだけだ」

 

 人とフェストゥムの融合独立個体であるコア型であるからなのか、乙姫の身体は少し冷たい気もする。それでも健康には異常はないらしい。

 

「今日は僕が朝食当番だ。何が食べたい?」

 

「オムライスが食べたいな」

 

 なんとも朝からヘビーな要求だ。さすがに朝からオムライスは承服出来ない。

 

「却下だ。朝からそんな重たいものは食べるべきじゃない」

 

「ぶー。食べたいものを訊いてきたのは総士なのに」

 

「限度というものがある。オムレツで手を打とう」

 

 表情が増えたというか、これが乙姫の自然体なのだろうか。いや、別に問うまい。これが乙姫の望む事なら僕が言う事はなにもない。のだが。

 

「それは流石に甘やかし過ぎると思うよ皆城くん」

 

「そうか」

 

 この3週間。乙姫は僕を親鳥のあとを追う雛鳥の様に着いてくるのが日常だった。流石に訓練の時間や打ち合わせの時間などには着いてこないが、それ以外の時間は大抵乙姫は僕と共に過ごしていた。

 

「ご飯は良いとして。寝るのも……まぁ、仕方ないとしても、お風呂は流石にダメだよ」

 

「最初は僕もそう言ったんだがな」

 

 さすがの僕でも如何に兄妹でも、外見は年頃に差し掛かる男女が一緒に風呂に入るのもどうかとは思ったのだが、乙姫のお願いを僕に断れる訳がない。

 

「兄妹だから甘くなっちゃうのもわからなくはないし、乙姫ちゃんも色々と事情が事情だから仕方がないとしてもちゃんと言わないと」

 

「わかっているつもり……なんだがな」

 

 拗ねる程度なら良いのだが、乙姫の顔に陰りが指すとどうも胸が痛くなる。皆城総士が怒っているのだろうか。そんな乙姫の顔は見たくないと、どうも僕は乙姫を甘やかしてしまう。

 

「総士!」

 

「乙姫……っと」

 

 蔵前との話は結局僕の意思しだいという事で落ち着いた。コントロールルームを出ると乙姫が胸に飛び込んで来た。それを受け止めて横抱きにするのも手慣れてきた。落ちないように首に腕を回してくる乙姫の顔はいつも嬉しそうに笑っている。……済まない蔵前。やはり僕には無理だ。背中で蔵前の吐いた溜め息が耳に痛い。

 

「総士はわたしと居るのはイヤ?」

 

「いや、そんな事はない」

 

 家族みんなで暮らすことは叶わぬとも、兄妹としての暮らしは出来ているのかもしれない。それは皆城総士か或いは乙姫が望んでいた暮らし。それを僕が過ごしていて果たして良いのだろうかと思わなくはない。だがそれで乙姫が喜ぶのなら僕はどんな事でも甘んじて受けよう。

 

「近い内に島を動かす事になるだろう」

 

「知ってる」

 

「……新国連と接触せず、島だけで隠れ過ごすことを何度も考えた」

 

「知ってる」

 

 新国連と接触することなく島だけで隠れ続けた未来はどうなるのだろうと幾度も考えた。しかし蓬莱島の様に敵に奪われる未来しか僕には想像出来なかった。マークニヒトが、あるいはモルドヴァでマークザインが敵に奪われたら竜宮島の戦力で対抗するのは難しい。

 

「ザルヴァートル・モデルなくしてアザゼル型に対抗する事は出来ないと僕は思っている」

 

 どうにかしてエインヘリアル・モデルを造り上げられたとしても、ウォーカーを相手にするので精一杯だろう。マークザインとマークニヒトの2機掛かりで撃退するのもやっとだったロードランナー、そのロードランナーを吸収したアビエイター、マークニヒトでも苦戦するクロウラー、そしてベイクラント。対話が出来なければボレアリオスさえ敵になるかもしれない。

 

 あらゆる可能性を考えても、ザルヴァートル・モデルは出来れば手に入れたい力だ。

 

「アザゼル型が生まれない可能性だってあるんだよ?」

 

「人類軍だけで北極のミールを相手にすることは出来ないと僕は思っている。ザルヴァートル・モデルが敵に奪われたら世界は終わるだろう」

 

「総士はどうしたいの?」

 

「島を危険に晒すとわかっていも、新国連と接触する許可が欲しい」

 

 一騎の選択が島を救ったのだろう。だが島を危険に晒す以上、僕は乙姫にその許可を貰わなければならない。この島は乙姫そのものでもあるのだから。

 

「総士がそうしたいのなら、わたしは止めない。あなたの信じる未来を生きなさい。総士」

 

 まるで織姫の様に固い口調で僕に告げる乙姫。その表情もコアとしての彼女のものだった。

 

「あなたはここにいる。それを忘れないで、総士」

 

「ああ。わかっているさ」

 

 ここにいることを選び続ける。悲しくても辛くても、存在することが僕が出来る事だ。

 

 ほどなくして新国連の探査機の目から逃れるために島を移動する事が決定した。

 

 乙姫が目覚めているため、既にブリュンヒルデ・システムも立ち上がっている状態だ。いつでも島は動かせるが、島民の準備もあるため出発は明日の昼になった。

 

 ブルクではマークゼクスに次いでリンドブルムの調整が行われていた。

 

 不思議と羽佐間が体調を崩す事はなくファフナーの訓練は順調だった。しかしいつ体調が急変するとも限らないため、リンドブルムの調整を僕が真壁司令に提言して受理された。

 

 不思議と言えば、ファフナーの訓練を行うほど羽佐間のバイタルが安定する傾向にあるらしいと遠見先生から報告が上がって来ていた。つい先日は彼女が乗る予定のマークゼクスとの接続テストも行い経過を見たが、今までのコード形成訓練よりも劇的に変化が見受けられたと今朝伝えられた。

 

 ファフナーに乗ることで体調が良くなる。彼女にとっては良いことなのだが手放しに喜べないのがファフナーという存在だ。ゴルディアス結晶もない今の島のファフナーがパイロットに影響を及ぼすのか。仮説は立てられるが証拠がない。今の島の対同化現象対策レベルで新同化現象に晒されたら救う術は無いに等しい。

 

 変化が羽佐間だけであれば良いのだが、一騎の方はなんら変わりはないため今はなんとも言えないが。なにも起こらないことを祈るしか僕には出来ない。

 

「これも僕がここにいる事を選んだ結果だとでも言うのか? 織姫」

 

 手のひらに収まる小さな結晶体。ワルキューレの岩戸の人工子宮コアギュラの中に残されていたものだ。

 

 この結晶の事を知っているのは僕と乙姫だけだ。乙姫から直接手渡されたものだ。これがなんなのか乙姫は僕に教えてくれなかった。ただ肌身離さず持ち歩くように言われただけだ。

 

 解析の結果は人の思考に良く似た波形が現れるという事だ。

 

 ゴルディアス結晶……。その名が頭から離れない。だがキールブロックのウルドの泉ではなんの変化もなかった。ゴルディアス結晶もなく、コアが生まれているということもなかった。

 

 謎が謎を呼び謎だらけだが、不思議とこの結晶が害を及ぼす存在ではないと僕は思っている。

 

「ジークフリード・システム、起動」

 

 島の移動に合わせるかの様にソロモンに反応が現れた。

 

 フェストゥムが現れた。進行は真っ直ぐ竜宮島へ向かっている。

 

 新国連の探査機からの発見を防ぐ為、フェストゥムが島に到来する前に海上での迎撃ということになった。

 

『ごめんなさい皆城くん。まだファフナーとリンドブルムの連動制御プログラム調整が終わってないの。今回はシステムから操縦サポートしてあげて』

 

「わかりました」

 

 羽佐間先生の説明に返事を返しつつ、リンドブルムの操縦系にシステムをリンクさせる。

 

『総士君。出来るだけのことはしたが、何分時間がなくてハズレのエンジンが載ったままになっている。急に噴かすとエンジンブローを起こすかもしれんから操縦に気を使ってくれ』

 

「なるべくやってはみます」

 

 保さんからも申し訳ないと書かれた顔で通信が入った。何分僕の提言も急だった為、それでも使えるところまで仕上げてくれた保さんたち整備員には感謝している。

 

 マークエルフとリンドブルムがドッキングし、各種チェックはオールグリーン。マークエルフの一騎に意識を向ける。

 

「恐いか? 一騎」

 

『いや。でも最初に言っとく。俺は飛んだことないからな』

 

 それは一騎の訓練を受け持っている僕が一番よく知っている。だが今回はリンドブルムの操縦は僕が受け持つ。一騎はただリンドブルムに吊るされているだけで良い。

 

「飛べるさ、僕たちふたりなら。そう思うだろう?」

 

 少しでも一騎が安心出来るように僕は一騎へそう言葉をかけた。かつてと変わらず、そしてこの先も変わらない僕たちの絆を表す様な言葉。ひとりではダメでも一騎とふたりでならどんな事でも乗り越えて行ける。僕はそう思って疑わない。

 

『総士――』

 

 一騎の心に安堵が感じられるのを感じて、僕は、僕たちの翼に火を入れた。

 

「リンドブルム、エンジンスタート。カタパルト展開、60…、80…、90…、エンジン出力安定。リンドブルム、発進!」

 

 カタパルトによって射出されるリンドブルム。大海の水平線が広がる蒼穹へ、僕たちはその翼を広げた。

 

『あがれええええええ!!!!』

 

 風を掴まえ、リンドブルムは大空に飛び立つ。

 

 輝く空は僕らの今を語る様に澄み渡っていた。安穏ですべてを包み込んでくれるかの様に。たとえ先の見えない道であっても、どこまでも見渡せる様に明るい空だった。 

 

 

 

 

to be continued…

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