皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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皆城総士になってしまった…08

 

 リンドブルムを飛ばす事にはひとまず成功した。だが戦闘に耐えられるかは未知数だ。巡航速度で飛んでいる分には問題ないが戦闘機動でエンジンに負荷を掛ければ最悪エンジンが止まる。

 

 またそれだけではない。

 

「いいな一騎。単騎で無茶な要求だが無駄な時間を割いている暇がない」

 

 やはり新国連の探査機が迫っている。故意に接触する気はない。見たいなら勝手に見ていけというつもりだが、それでも不自然さがないように戦うというのも気を使う話だ。しかも発見を防ぐ為に島の援護も出来ない。歯痒いものだ。

 

『どうして同じ人間から隠れないとならないんだ』

 

 そして最もな疑問を一騎が問い掛けてきた。同じ人間からも隠れる理由。それを話せば一騎は納得するだろうか。実感のない僕たち子供では納得出来ないだろう。僕でさえ人類軍の強行的なやり方を知らなければ疑問を抱いただろう。核で国を焼かれた大人たちは骨身に染みている話だ。

 

 島の存在を知られれば新国連は間違いなく島のファフナーを要求するだろう。乙姫を人質に僕たちを従わせることもするだろう。海神島の惨状。人に襲われた島。人類軍も新国連も平気でそういう事をしてくる連中である事を一騎はまだ知らないだけだ。

 

 良心を持つ人間も居る事も忘れていないが、基本的に新国連と人類軍は敵と見て相違ないだろう。

 

「今はまだ、知らなくてもいい」

 

 だがそのすべてを説明することも出来ない。今の一騎には敵を倒すことに集中して貰わなければならない。

 

『総士――』

 

「敵と接触する。集中しろ、一騎」

 

『…あぁ』

 

 返事が1拍間があったが、無理もないか。しかし今は目の前の敵が先だ。

 

 スフィンクスA型種。今はこいつ1体を倒すことすら気を抜けない。一騎でなければ今現状のパイロットたちで単独出撃などさせられない。

 

 雲もあまりない澄み渡る空。フェストゥムの輝く身体はよく目立つ。

 

「リンドブルム、ターゲットエンゲージ」

 

 先ずは牽制でミサイルを放つ。だが対フェストゥム機構である被同化状態ではない現状。こちらの攻撃はフェストゥムの持つ高次元障壁によって防がれてしまう。あれを貫くには貫通力の高いドラゴントゥースやレールガンの様な、物体が捻じ曲げられる前に障壁を突破する必要がある。それ以外はやはりファフナーでの接近戦しかない。

 

 フェストゥムの背中が光る。ワームスフィア現象。その攻撃を避けることは困難だが出来ないわけじゃない。フェストゥムは偏差を計算に入れない。ワームスフィアを放った時点での対象物の場所を攻撃する。

 

 それにこちらで空間歪相を把握していればさらに回避は容易い。

 

 問題は僕がリンドブルムを操縦している今は敵の攻撃が来る位置がわかること。しかしそれをファフナーのパイロットに理解させて回避させるにはより深いクロッシングが必要だ。それこそ深層意識レベルで。それは僕の秘密すべてを明かすことになる。そういう意味では僕は皆城総士よりも秘密を抱えていて、クロッシングをしても皆城総士と一騎の様に心を通わせることは出来ない。この秘密だけは僕が抱えて命を終えるべきだ。

 

 どうあっても僕は他人と真の意味で理解しあえない。それが僕の罪か。

 

『効いてないのか…?』

 

 一騎も僕と同じことを考えていた。やはり一騎の目から見ても効果があるようには思えないか。

 

『どうするんだ、総士?』

 

「遠距離攻撃では分が悪い。直接ヤツのコアを叩く必要がある」

 

 しかしそれにはマークエルフを敵の懐に飛び込ませなければならない。リンドブルムに積んであるファフナーの武装はレールガンとルガーランス、オールレンジで対応は可能だ。

 

『総士!』

 

「……見つかったか」

 

 システムのウィンドウに通信要請が入る。見たことのないコードだが、人類軍の通信コードだろう。

 

 レーダーに反応。新国連の高速探査機に捕捉された。元々島を探す為に駆り出されているのだ。電子装備はかなりのものだろうし、爆発物を使う空中戦をしていれば見つかるだろうことは予測済みだ。

 

「一度離脱するぞ」

 

『え、なんで』

 

「姿は見られたが、接触する理由はない」

 

 リンドブルムを旋回させ、急降下させる。フェストゥムはまだ距離の近い此方を狙って追ってきた。後方に向かって200mmレーザー砲を放つが、やはりフェストゥムの高次元障壁を抜けない。

 

「一騎、マークエルフを海中に投下する」

 

『海の中?』

 

「僕がリンドブルムでフェストゥムを誘き寄せる。トドメは一騎、お前がやれ」

 

『…ああ。わかった』

 

 僕がやれと命じれば今の一騎はそこに自分の意思を挟むことなくやる。皆城総士の為にただ皆城総士の願いを叶えるだけで良いと思っている今の一騎は。

 

 ルガーランスを装備させ、海面スレスレを飛行しながら水飛沫の中へ隠すようにマークエルフを投下する。

 

 機首を上げ、上昇する。ファフナーを積載する分の負荷が減った事でエンジンのステータスにも余裕が出来た。飛んで直ぐにイエローステータスになるとは思わなかった。この状況で戦闘機動を取れば直ぐにエンジンがダメになっていただろう。

 

『あなたは、そこにいますか――?』

 

「くっ」

 

 フェストゥムの問い。リンドブルムのシステムを通しているはずなのに左目が疼く。

 

『あなたは、そこにいますか――?』

 

「黙れっ」

 

 それはフェストゥムに向けたものではなく、フェストゥムの問いに疼く左目に向けたものだ。

 

「ここにいるのは僕だ。皆城総士はこの僕だ!」

 

 お前になにができる。僕だから出来ることがある。だから僕は存在している。

 

 上昇するリンドブルムを反転させて急降下。スフィンクス型がワームスフィアを放ってくるが、どこに攻撃が来るかわかっているから回避は容易い。

 

 クローを展開。壊れることもお構い無しにスフィンクス型に取りつく。

 

『あなたは、そこにいますか――?』

 

「一騎ぃぃっ!!」

 

 上からスフィンクス型を押し込みながら一騎に叫ぶ。対フェストゥム機構などない通常兵器のリンドブルムは高次元障壁も同化現象にも対抗できない。

 

 クローアームはひしゃげ、機体からは結晶が生えてくる。

 

『でやああああ!!』

 

 海の中から飛び出してくるマークエルフ。スフィンクス型の背中に向けて突き刺さるルガーランス。

 

 痛みにもがく様に暴れるスフィンクス型。ワームスフィアをデタラメに放つ。

 

「ちっ」

 

 リンドブルムに直撃。左エンジンから火が上がる。

 

「一騎!」

 

 ルガーランスの刃が展開する。銃身となる刀身が荷電する。援護する為に200mmレーザー砲を撃ち込む。マークエルフのお陰で此方の攻撃も通る様になったが、爆発の衝撃で歪みながらもスフィンクス型を押さえていたクローが砕け、リンドブルムが弾け飛ぶ。

 

 墜落する機体を立て直しながらマークエルフを見る。背中から突き刺した刃が捻れ、使い物にならなくなる。

 

『総士!』

 

「跳べ、一騎!」

 

 機体が落ちる前に一騎に命令する。リンドブルムをスフィンクス型へ向け、スフィンクス型の頭上を飛び越えてきたマークエルフのその上を擦れ違う。

 

「レールガンを使え!」

 

 投下されたレールガンをマークエルフが掴むのを確認し、ルガーランスの刃が突き刺さったスフィンクス型の背中に向けて200mmレーザー砲を撃ち込む。衝撃で姿勢を崩したスフィンクス型へ向けてマークエルフがマインブレードを突き刺した。

 

 マークエルフを振り払う様に暴れるスフィンクス型。だがマークエルフは突き刺さったマインブレードから手を離すことはなくしがみつく。レージングカッターを射出し、スフィンクス型の身体をワイヤーが雁字搦めにする。

 

「ぐっ。一騎、なにを」

 

『こうすれば、離れられないだろ!』

 

 自分ごと敵をワイヤーで固定する姿に僕は薄ら寒いものを背筋に感じた。

 

 ワイヤーを断ち切る為に暴れるスフィンクス型。その背中が怪しく光る。ワームスフィアが至る所に出現する。

 

「っ、島が偽装鏡面を解いた?」

 

 いつの間にか島の進路上で戦っていたらしい。これで新国連に島の所在が知れた。あとはスフィンクス型を倒して帰るだけだ。

 

「一騎!?」

 

『ぐ、あああああああ!!!!』

 

 マークエルフのステータスに同化警報。スフィンクス型が取り付いたマークエルフを同化しようとしている。

 

『あなたは、そこにいますか――?』

 

『ぐぅぅぅっ』

 

「一騎! フェストゥムを拒絶しろ、耳を傾けるな!!」

 

 助けようにもコックピットブロックが射出出来ない。同化に抗うことは今の一騎には出来ない。

 

「くっ」

 

 なにが知られたくないだ。知られたくないと、秘密を抱えて隠して。その所為で一騎を守れないというのなら。

 

『総士……っ』

 

 クロッシング深度を引き上げる。一騎の心に入り込もうとするフェストゥムを感じる。左目が疼く。

 

「去れ! お前に一騎の心は渡すものか!!」

 

 一騎の代わりにスフィンクス型の同化を振り払う。いや、逃がしはしない。僕は半分フェストゥムといっても過言ではない。左目が痛みを放つ。だから自分の存在がわからなくなって一騎と同化してひとつになりたかった。

 

「寄越せ、お前の生命(そんざい)を!!」

 

 マークエルフに生えていた結晶が砕け、今度はスフィンクス型の身体から結晶が生える。

 

「一騎、今だ!」

 

『っ、これで…、最後だあああっ』

 

 レールガンの銃身をスフィンクス型に突き付け、弾丸が発射された。ゼロ距離で放たれた弾丸はスフィンクス型を貫き、ワームスフィアに呑まれていった。

 

「一騎!?」

 

 ワイヤーで共に拘束されていたマークエルフもワームスフィアに呑まれた。身体中が痛む。こんな痛みを一騎は感じていて平気なのか。平気なはずがない。生理的に溢れそうになる涙を堪えてマークエルフのステータスを確認する。幸い目立った損傷はない。装甲は交換すれば直ぐにでも直せる。だが身体の痛みは残る。

 

「一騎! 返事は出来るか? 一騎!」

 

『…あ……あぁ…』

 

 一騎の声を聞けて、肩から力が抜ける。同化現象の影響も見受けられないが、身体の痛みが酷すぎる。奥歯を噛み締めてなければ僕も呻き声のひとつかふたつは漏らしていただろう。

 

「意識を喪失(ブランク)させろ。もう休め、一騎」

 

 一騎の意識が眠ったことで身体から痛みが引いていく。戦えない自分がせめて痛みだけでも背負えたらと思う。

 

 海に落ちる前にマークエルフを自動操縦でリンドブルムとドッキングさせる。エンジンが悲鳴を上げているが、島に帰るくらい迄なら保つだろう。せめて一騎は僕の手で島に帰してやりたい。

 

 墜落はしなかったが、島にリンドブルムを帰投させて気が緩んだ僕もシステムの中で眠ってしまった。

 

 未来を変えたいと思いながら、変えたくない未来を掴みたくて、結局は未来を変えられずに僕たちはその代償を払うことをこの時はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

to be continued…

 

 

 

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