皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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ファフナーのSSで序盤の山場ともあって筆が乗っとります


皆城総士になってしまった…10

 

 翌日には羽佐間もまた元気になったが、様子を見てもう1日休ませる事にした。羽佐間は申し訳なさそうにしていたが、羽佐間と一騎の訓練を見ないで済む分僕も他の事に時間が使える為お互さまだ。

 

「ジークフリード・システム、起動。トルーパー並列起動問題なし。スレイプニール・システム接続。トルーパー各ステータス、オールグリーン」

 

 トルーパー・モデルのテスト起動に問題はない。イージス装備も理論値ではワームスフィアの直撃も防げる。手持ち武器がガンドレイクとピラムを装備させるくらいか。あとはトルーパーが使うには機体に負荷が掛かる。

 

 問題はどこまでトルーパーが通用するかは実戦で試してみないことにはわからない。それでも今まで以上に自由な手足を手に入れられたのは確かだ。

 

 トルーパーのテストを終えた僕は乙姫の部屋に向かった。寝泊まりも食事も大抵は僕と一緒だが、それでも一応乙姫個人の部屋は設けてある。僕が仕事をしている間は乙姫は部屋で待っているから仕事終わりに迎えに行く必要がある。

 

「乙姫。居るのか?」

 

「空いてるよ、総士」

 

 兄妹でも了承があるまでは入らない。乙姫はお構いなしに入ってくるがな。

 

「入るぞ」

 

 自動ドアが開き、乙姫の部屋は僕の部屋の間取りと同じだ。

 

 いつもならベッドで横になって暇を持て余している乙姫だが、今日は少し違っていた。

 

「お疲れ様、総士」

 

「あ、あぁ…」

 

「お、おじゃましています……」

 

 自分がこんなところにいて良いのかと表情を隠せない一人の少女が居た。

 

 立上 芹。乙姫にとっての初めての友達だ。いつの間に親交があったんだ?

 

「最近総士が朝から仕事ばっかりだから、ちょっとした反抗」

 

 てへっと舌を出して詫びれもなくそんな事を言う乙姫と身を縮こませる立上。いや別に僕は怒っているわけじゃないが、いくら乙姫でも軽率だ。

 

「あ、あの。乙姫ちゃんって、総士先輩の」

 

「妹だ。事情があってずっと地下暮らしだった」

 

 当たり障りのない事実を伝えつつ、どう乙姫と出逢ったのか訊いてみた。

 

 乙姫は朝の少ない時間で外出する様になったらしい。それは朝起きてから朝食の間の時間。僕が今まで朝乙姫のもとに赴いていた時間だ。いつでも会えるようになったし、トルーパー・モデルの仕上げの追い込みがあったから朝も仕事の時間に当てた僕への乙姫なりの反抗であるらしい。

 

 そして早朝、虫取に来ていて足を挫いた立上を乙姫が助けたのが交流の始まりらしい。

 

 僕はそれを聞いて安堵した。僕が乙姫を早く目覚めさせてしまった所為で立上と乙姫の友好関係に余計な事をしてしまったのではないかと危惧していたが、それは杞憂だったようだ。皆城総士にとっての一騎がそうである様に、乙姫にとって立上はとても大切な親友である事は変わりないらしい。

 

「こんな事を僕が頼むのもおかしいが。これからも乙姫と仲良くして欲しい」

 

「は、はい! それはもう!」

 

「まるで娘をお嫁さんに出すお父さんみたいだよ総士」

 

「つ、つばきちゃん!?」

 

「変なものの例えを言うな。立上が混乱しているだろう」

 

「テクニカルな例を上げたまでだよ総士」

 

 テクニカルの使い所が違うのだが、心境的には似たようなものなのか? 立上なら問題ないだろうが、僕の所為で目覚めが早まった影響か乙姫は誰にでも分け隔てなく接して、さらにからかうこともする。まるで普通の女の子の様に。それを微笑ましく思う僕も僕で過保護が過ぎるのだろうか。それを話せばまた蔵前に溜め息を吐かれそうだ。

 

 そんなこともありつつ少しの平和は終わり一気にアルヴィスでは緊張感が高まっていた。

 

 もし未来が変わらないのなら新国連の艦隊と島にフェストゥムの同時侵攻が起こる。マークエルフは新国連の艦隊救援に向かわせなければならない。その間、ノルンとトルーパーで島を守りきらなければならない。

 

「大丈夫だよ、総士」

 

「乙姫?」

 

「戦っているのはあなただけじゃないよ」

 

 CDCで新国連艦隊の動向を見守る僕の手を握り、言葉を掛けてくれる乙姫。乙姫もまた島を守る為に戦うひとりだ。それに僕たちだけが戦うわけじゃない。島の大人たちも戦っている。だが僕は今回ばかりはきっとどんな言葉を掛けられても安心できない。ある意味この時が未来への最初の分岐点だ。しかしなにがあっても羽佐間は犠牲にさせない。その為のトルーパー・モデルだ。

 

「新国連艦隊、アルヴィス後方300Kmでフェストゥムと交戦中!」

 

 とうとう来た。この時が。

 

「……行ってくる」

 

「無理しないでね? 総士」

 

「ああ」

 

 乙姫に見送られて僕はジークフリード・システムに入る。マークエルフはリンドブルム装備で新国連艦隊の救援に出撃する事になった。

 

「良いな一騎。今回の目的は新国連の艦隊を救助に向かう。相手はスフィンクス型1体だ。お前なら出来る」

 

『人が襲われているのか!?』

 

「ああ。彼らにフェストゥムに抗う力はない。だから僕たちが救助に向かうんだ」

 

『わかった!』

 

 クロッシングを通して一騎のやる気が伝わってくるが、新国連の恐さを知らない一騎に僕はそれ以上の言葉を持たなかった。新国連について話す暇を設けなかった僕が悪いのだが、言葉で伝えるのは限界がある。今はまだ。

 

「リンドブルム発進後、操縦は自分で出来るな?」

 

『大丈夫だ。総士みたいには出来ないけど、訓練は一通りしたし』

 

「なら操縦系はお前に預ける」

 

 この日の為にそう訓練はさせてきた。リンドブルムとマークゼクスでの連携も戦術を広げられる。それはマークドライとマークジーベンが実証済みだ。

 

「スレイプニール・システム接続。トルーパー・モデル起動!」

 

 トルーパー・モデルが慶樹島の地表に現れる。たった2機だが戦車とは比べ物にならない程に頼もしい僕の新たな駒だ。

 

『マークエルフ、新国連輸送艦隊救援に到着。迎撃行動開始します!』

 

 弓子先生の声が通信越しに聞こえる。そろそろ次のフェストゥムが島にやって来る頃合いだ。

 

 マークエルフの留守を狙っても此方にはまだ手札は残っているぞ、フェストゥム!

 

『更にソロモンの応答!?』

 

『出現位置は何処だ!』

 

『竜宮島直上1万メートル、急降下して来ます!』

 

『第二ヴェルシールドまで直ちに展開!!』

 

 近藤先生と真壁司令の焦った声が聞こえる。

 

 スフィンクスC型種。宇宙での行動のため、硬い外殻と巨体を持つスフィンクス型の異種だ。その戦闘能力は高い。今の島のファフナーでは苦戦は免れない相手だ。

 

『敵、第二ヴェルシールド到達! 突破まであと2秒…、敵、シールド突破! 質量計算間に合いません!』

 

『総員衝撃に備えろ!!』

 

 スフィンクスC型種の竜宮島直接侵攻。そして本島への墜落。物凄い衝撃を覚悟し、身構えた僕だったが、衝突の衝撃とは全く異なるものが僕を襲った。

 

「ぐぅっっ、かはっ!!」

 

 揺れと同時に走った、胸の辺りを鉄球かなにかがぶつかったような衝撃と痛み。

 

 慌ててマークエルフのステータスを確認したが異常はない。なら今の痛みはなんだ?

 

『目標、本島中央ブロックに降下!』

 

『被害状況確認! フェストゥムは!?』

 

 ジークフリード・システム内のウィンドウのひとつにスフィンクスC型種の姿が映る。

 

「トルーパーで迎撃、展開します! 一騎!」

 

『竜宮島に敵!?』

 

 口で伝えるよりも先に一騎に思考が伝わる。こういうときクロッシングは楽でいい。

 

「島は僕が何とかする。お前は目の前の敵に集中しろ!」

 

『わかった。……大丈夫なのか? 総士』

 

「お前が帰るまでは意地でも保たせるが、あまり悠長にはいかないぞ」

 

『なら、早く片付けて直ぐに帰る!』

 

 一騎から意識を戻して2機のトルーパーに集中する。既にノルンが防衛展開中だが、ノルンのレーザーはスフィンクスC型種には届いていない。フェストゥムの高次元障壁の前に弾かれてしまっている。

 

『総士!』

 

「乙姫!?」

 

 頭の中に乙姫の声が聞こえる。ミールを通してシステムとクロッシングしたのか?

 

『ダメ。ノルンじゃ抑えきれない』

 

「トルーパーを向かわせる。少しでもヤツを足止めする! っ、ぐぅぅっ」

 

 トルーパーを慶樹島から竜宮島に向かわせるが、その間も胸の辺りを抉るような痛みが絶えない。システムの中で痛みを感じる要因はファフナーが攻撃される以外にないはずなのに何故こうも痛みが襲ってくる。

 

「っ、ぐっ、まさか…っ、ぅっ」

 

 痛みを感じる度に僕はスフィンクスC型種が島を攻撃しているのを目にした。島の痛みが僕にも伝わっているのか? 島を攻撃させられる度に乙姫もこんな痛みを感じていたというのか。

 

「っっ、させるかああああ!!!!」

 

 そんな現実を認めた時、左目がかつてない痛みを放つが無視だ。

 

 トルーパーのイージス装備を起動させ、スフィンクスC型種に体当たりをさせる。たった2機では質量差で推し負けて弾かれてしまう。

 

「これ以上島をやらせてたまるか!!」

 

 スフィンクスC型種と島の間にトルーパーを滑り込ませイージス装備を全開でワームスフィアを防ぐ。

 

 ワームスフィアを防ぎきり、ガンドレイクを構えてスフィンクスC型種に突き刺すが、刃を展開する前に小柄なトルーパーは振り払われてしまう。

 

「クソッ」

 

 突き刺さったガンドレイクを同化し、スフィンクスC型種は腕を剣に変えて次のワームスフィアに備えて待機させていたトルーパーを凪ぎ払った。ダメージ甚大、戦闘不能か。

 

 ノルンがフォーメーションを組み、スフィンクスC型種を閉じ込めるが時間稼ぎが関の山だ。コアを破壊するにはやはりファフナーでなければ無理だ。

 

「一騎、早く戻ってきてくれ」

 

 現有戦力での最大限での遅延戦闘を模索するが今の島の装備ではそれほど長い時間足止めは出来ない。せめて一機でも出せるファフナーがあれば――。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 竜宮島に直接フェストゥムに上陸されたのを知って私は直ぐにブルクに向かった。

 

 先輩たちが命をかけて守った島をこれ以上好きにはさせたくなかった。自分でもわかっている。大した戦力にもならないし、もうファフナーをまともに動かせなくなって来ていることだって自分が一番知っている。でもね、だからって大人しく戦いを辞めることなんて出来ない。だって先輩たちは戦いたくなくたって戦わなければならなかったんだから。ファフナーに乗れなくなるまでは乗る。あの時先輩たちを助けられなかった私にはもうそうするしかないから。

 

「翔子ちゃん?」

 

「蔵前さん……」

 

 更衣室に入ると服を脱いでいる翔子ちゃんと出会した。何故翔子ちゃんがここに居るの?

 

「翔子ちゃん、なにをする気なの?」

 

 問い掛けても答えはわかっている。この更衣室に居る意味はそういう事だ。

 

「私も、あいつと戦うわ」

 

「まだ訓練だって途中でしょ」

 

「でも、一騎くんと約束したんだもの。島を守るって」

 

 私は翔子ちゃんの意思の固い目を見て説得を早々に諦めた。時折皆城くんも見せる目と同じだった。こういう目をした人は何を言っても自分の意思を曲げないんだもの。

 

「わかったわ。でも無茶はダメよ。皆城くんを悲しませる事をしたら私は翔子ちゃんを赦さないから」

 

「皆城くんが? どうして…」

 

「仲間がいなくなることが大嫌いなのよ。皆城くんって」

 

 将陵先輩が遺したメッセージを聞きながら、声を漏らすことはなくても大粒の涙を流していた皆城くんの表情は今でも忘れられない。自分をとても責めているかの様な表情で先輩たちに謝りながら涙を流していた皆城くんはきっと私たちの誰かがいなくなったら同じように自分を責めるんだろう。そんな涙を皆城くんには流させたくない。だから私たちの誰一人いなくなることはしちゃいけない。

 

「だから約束して。絶対生きて帰るの」

 

「……うん」

 

 翔子ちゃんが力強く頷くのを見て私たちは急いでシナジェティック・スーツに着替えてブルクに上がった。翔子ちゃんが羽佐間先生と何か話していたけど、仕方ないよね、身体の弱い翔子ちゃんを戦わせたくないのは私だって思う。でも翔子ちゃんはそれでも戦う意思を変えない。だって好きな人の為に戦う気持ちが私にもわかるから。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「コックピット・ブロック搬入? マークツヴァイとマークゼクスだと?」

 

 残ったトルーパーを操りながらノルンと連携してスフィンクスC型種を封じ込めるが、ノルンは次々に撃墜され。新品だったトルーパーも機体の至るところがガタガタになっていた。そんな中でシステムにコックピットブロックがファフナーに送還されているとウィンドウが表示する。

 

『お願い皆城くん! 翔子を止めて!!』

 

 やはりマークゼクスには羽佐間が乗っているのか。無理もない。島を守りたい気持ちは彼女だって持っているのだ。

 

「島を守るのが僕たちの任務です。本人に戦う意思があるのなら、僕に止める権利はありません」

 

『でも翔子は――』

 

 羽佐間先生からの通信を切り、マークゼクスの羽佐間とクロッシングし、意識を向ける。

 

「出撃だ羽佐間。準備は良いな?」

 

『うん。ありがとう、皆城くん』

 

 羽佐間から伝わってくるのは固い決意。島を守り、生き残る事を強く思っている。

 

「蔵前」

 

『なに? 皆城くん。言っとくけど私は降りないから』

 

「いや、むしろ頼る事になる。無理に倒す必要はない。一騎が戻るまで持ち堪えてくれ」

 

『真壁くん、真壁くん。皆城くんはいつもそう』

 

 蔵前から感じるのは羽佐間と同じく決意だ。島を守り、生き残る事を強く思っている。それに足して怒りと嫉妬も感じる。

 

『私だって、ファフナーのパイロットなのよ? 別に真壁くんが帰って来る前に倒しちゃっても良いんでしょ?』

 

『…良いんだよね? 皆城くん』

 

 何故竜宮島のファフナー女子はこうも女子力をかなぐり捨てて漢らしく勇ましさを身に付けるのだろうか。

 

 ただそんな二人の言葉が頼もしいのも事実だ。

 

「良いだろう。だが作戦行動は僕に従ってもらう。勝手な行動を取った時はコックピットから叩き出すからな!」

 

『『了解!』』

 

 マークツヴァイとマークゼクスが門を抜けて戦場に躍り出る。漆黒の体躯で地を踏み締めるマークツヴァイ、白亜の翼を広げ飛び立つマークゼクス。

 

 ふたりの仲間に島を託す。運命を乗り越えることは自分だけでは出来ないと言われた様な気がした。仲間がいなくなることが嫌で、でも仲間を頼らないと島を守れない。この時ほど僕は己の無力さを呪わずにはいられなかった。そして僕も覚悟を決めた。

 

 

 

 

to be continued…

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