皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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今回の展開は色々と悩みました。あとなんか果林ちゃんのヒロイン度が勝手に爆上げして大丈夫かと思いつつとりあえず収まったから良いかなって。ちなみに総士()のヒロイン候補は複数いたりしますが、まぁまともな恋愛模様にはなりませんね。だって総士でなくとも総士だもん。


皆城総士になってしまった…11

 

 スフィンクスC型種と対峙する黒と白のファフナー。その姿に存在と無の存在を幻視したのは僕の気のせいだろうか。

 

 いや、気のせいではないのだろう。今この瞬間、確かにこの二人が島を守る英雄であり救世主といえるだろう。

 

「蔵前。僕は羽佐間のフォローに回る。フォワードは君だ」

 

『私の事は気にしないで。翔子ちゃんをしっかりエスコートしてあげて』

 

 ファフナーに乗って2度目の実戦だからだろうか。蔵前の心はとても落ち着いていた。変性意識で蔵前も攻撃的になるはずなのだが、何か心境に変化があったのか?

 

「羽佐間。君は実機の搭乗も実戦も初めてだ。今回は蔵前のフォローに回ればいい」

 

『うん。でも、一騎くんも同じだったんでしょ? なら私もやってみる』

 

 羽佐間の適性なら一騎の様に動けるが、その役目は羽佐間の役目じゃない。

 

「マークツヴァイ、フォワードレディ!」

 

『っ、はあああああ!!』

 

 マークツヴァイの武装はロングソード。伸縮式の刀身にプラズマ刃が出力する非実体剣だ。だがさすがはスフィンクスC型種という所か。被同化状態でも個体防壁が強力だ。マークツヴァイの刃が通らない。

 

「僕のイメージをトレースするんだ」

 

『やってみる!』

 

 しっかりした戦闘訓練までは終えていない羽佐間だが、確かに何も知らずに初陣だった一騎よりはマシだとはいえどう戦えば良いかは此方で指示する必要がある。本人の闘争本能に任せたら未来の二の舞だ。

 

 マークゼクスにはレールガンを装備させた。アマテラスの様なトリッキーな動きをさせるよりも堅実さを求めての判断だ。そしてレールガンを装備させた空戦型ファフナーなら彼女の身近に居る親友がその戦い方のモデルをしてくれている。

 

『これは……真矢?』

 

 スフィンクスC型種へ向けて電磁加速された弾丸を放つマークゼクス。高次元障壁を突破し、弾丸は直撃したがコアへのダメージには至っていない。

 

「不味い、離れろマークツヴァイ!」

 

 スフィンクスC型種の背中が光る。空間歪相を把握している僕だから見抜けるフェストゥムの攻撃地点。しかしいくらクロッシングをしていてもわずかばかりのタイムラグは生まれてしまう。そして僕の言葉に反応して機体を動かす反射神経でも一瞬の時間はどうしても掛かる。

 

『ぐぅぅっ』

 

「っ、ペインブロック作動、左腕切断」

 

 スフィンクスC型種のワームスフィアを左腕を犠牲にやり過ごすマークツヴァイ。一旦離れたものの、再びロングソードをスフィンクスC型種に向けて突き刺す。

 

「マークゼクス、フォロー!」

 

『了解っ』

 

 マインブレードを抜き、スフィンクスC型種に吶喊するマークゼクス。レールガンではなく敢えてマインブレードでの攻撃をさせたのは高次元障壁を破る為だ。マークゼクスも被同化状態になれば2機で1体の個体防壁を突破することができる。

 

「互いに波長を合わせろ、一点突破だ!」

 

『はあああああ!!』

 

『っ、あああああ!!』

 

 先にスフィンクスC型種の高次元障壁を突破したのはマークゼクスだった。マークゼクスの握るマインブレードがスフィンクスC型種の背中に突き刺さる。

 

「今だ。撃て、羽佐間!!」

 

『当たれえええっ』

 

 マインブレードを突き刺した瞬間、機体を離脱させてレールガンを構える。マインブレードは刃が爆弾になっている武器だ。カッターナイフの様に横に力を入れると簡単に折れ、中の予備の刃に切り替わるノートゥング・モデルの標準装備のひとつだ。

 

 そんな爆弾の塊をレールガンで撃ち抜けば爆発するのは当然の事。コアを破壊するには充分な爆発を起こす刃が予備を含めてそこにある。スフィンクスC型種の巨体をよろめかす程度の爆発は生まれたが、背中側からではまだコアへのダメージにはならない。

 

 そしてロングソードを突き刺せたマークツヴァイもマインブレードをスフィンクスC型種の人型の胸に突き刺せた。

 

 刃が折れ、爆発を起こす。

 

「敵のコアを確認した! 蔵前っ」

 

 今一番敵のコアに近いのはマークツヴァイだ。そのままトドメを任せようとした時だった。

 

 振り上げた黒い腕と交差する金色の腕。

 

 蒼い刀身の切っ先が届く前、金色の剣が胸を刺し貫いた。

 

「かはっっ」

 

 心臓を刺し貫かれる様な痛みに呻きが漏れる。マークツヴァイ、コア・ブロックに被害、パイロットバイタルに異常、戦闘不能。

 

「っぐ、羽佐間ァっ!!」

 

『蔵前さんを放して!!』

 

 痛みで意識がブラックアウトしそうなのを気合いで耐え、羽佐間とより深くクロッシングで敵への対処を送る。

 

 レージングカッターで剣に変化していない腕の部分を縛り上げ、ワイヤーの締め付けで切断する。

 

 スフィンクスC型種がワームスフィアで攻撃して来るが、僕が攻撃の来る位置を瞬時に特定し、深層意識レベルでクロッシングしている羽佐間にほぼノータイムで伝達。完璧な調整を施したマークゼクスはその機動力を遺憾無く発揮し、ワームスフィアを難なく回避しながらレールガンで反撃さえしてみせている。

 

 しかしいくら羽佐間でも初めての実戦だ。そして確かに動きは僕のイメージする遠見のマークジーベンの様にキレがあるが、射撃に関してはそう簡単にはいかない。高機動戦闘での射撃は高い技量を要求される。攻撃を当てている時点で羽佐間の才能の高さを伺えるが、やはり遠見の様に精密射撃は難しい。敵のコアは見えているのに当たらない。高次元障壁の所為もあって着弾点もズレているらしい。ファフナー2機でようやく破れたスフィンクスC型種の防壁。もう一度破るには一騎が戻って来なければ無理だ。だが一騎も慣れない防衛戦で梃子摺っている。新国連の輸送艦隊に被害がいかないように戦っているため自由な戦闘行動が取れないでいる苛立ちが伝わってくる。

 

『はぁ…はぁ…はぁ……』

 

 それに羽佐間にも疲れが出始めている。訓練の時とは比べ物にならない身体的な負担が、虚弱な羽佐間の身体を痛めつけている。

 

「乙姫」

 

『総士?』

 

「頼みたいことがある」

 

 僕はクロッシングで繋がり続けている乙姫に声を掛ける。乙姫にしか頼めない。妹に頼りきりで兄としての面目丸潰れだが。面目を潰して仲間が守れるのなら僕は仲間を守る事に迷いはしない。ジークフリード・システム内の全パイロットの生命を守る事が僕の戦いなのだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「うっ、……私」

 

 戦闘は……終わったのかな。周りは真っ暗でなにもわからない。機体のダメージが大きすぎてシステムが落ちてるのかな。

 

 やっぱり私はいてもいなくてもなにも変わらない。フェストゥムにトドメを刺す事さえ出来なかった。

 

「悔しい。もっと力があれば島を守れるのに」

 

 先輩たちの分も島を守るって決めたのに。なのに私の力は全然役に立たない。ファフナーに乗っているのに皆城くんの役にも立てない。

 

 将陵先輩のメッセージを聞いた時。俯いて顔は見せなかったけど膝の上に大粒の涙を溢していた皆城くん。それが初めて見た皆城くんの涙だった。私のように悲しくて泣いているのとはまた違う。自分を責めて赦しを請う様な、そんな声で先輩たちに謝りながら泣いていた。

 

 島を守るためになにもかもひとりで背負っていても決して見た事のない弱い皆城くんは触れたら呆気なく砕け散ってしまいそうな程に弱く見えた。

 

 私の方が少しお姉さんだから少しでも皆城くんの代わりに戦おうと思った。先輩たちの分も戦おうと思った。

 

 でももう私には無理なんだ。私がファフナーに乗って戦っても無意味なんだ。こんな敵に負け続けるパイロットなんて、皆城くんだって要らないよね。

 

『総士はそう思ってないと思うぞ、蔵前』

 

「将陵先輩……」

 

 いなくなったはずの将陵先輩が居る。まだ私は夢の中なのかな。

 

『あいつ不器用だからさ。でも不器用なりに蔵前の事を大切に思ってるよ。だから別に蔵前が要らない存在なんて事はない』

 

「そうなんですかね。なにも役に立てない私なのに」

 

『総士が言ってたろ? そこにいることが大事だって。だから蔵前、もう少しだけ頑張ってみないか?』

 

「もう少しだけ、ですか?」

 

 将陵先輩にそう言われたら、少しだけ、もう少しだけは頑張ってみようと思った。

 

「わかりました。もう少しだけ、頑張ってみます」

 

『おう、頑張れ。そうしたら俺たちが助けにいくから』

 

 真っ暗な闇を照らすように光が溢れてくる。もっと将陵先輩と話したいのに将陵先輩は遠くなるだけで私の手は届かない。

 

『頑張れよ、蔵前』

 

「先輩!!……っは!?」

 

 先輩に伸ばした手は届かなかった。ニーベルングから抜けた手が宙を掴む。

 

「っ、戦いは!?」

 

 ニーベルング・システムに接続。ファフナーを再起動させる。

 

「ぐっっ、あがああああっ」

 

 胸を切り裂く様な激しい痛みに生理的な悲鳴が上がる。思い出した。私はフェストゥムに胸を貫かれたんだ。

 

「ぐぅぅっ」

 

 そして胸から生えてくる結晶。これが同化現象。胸の中から石の杭が生えてくる様な痛みを感じるのに、少しずつ痛みが引いていく。

 

「っ、マークツヴァイは渡さないっ。これは私の力だから!」

 

 胸に刺さるフェストゥムの一部が機体を侵食している。機体を乗っ取られる前に対処しなければならない。

 

「うっ、あうっ、ぐあっっ」

 

 胸に刺さる剣を右手で掴む。胸が痛い。痛みだけで死んでしまいそうになる。それでも――!

 

「皆城くんに比べたらっ」

 

 パイロット全員の痛みを背負う皆城くんに比べたら私は自分の痛みを我慢すれば良いだけだ。

 

「うっ、おおおあああああっっっ」

 

 水銀の蒼い血を噴きながら胸から黄金の剣を抜き、投げ捨てれば、美しい剣はただの土になった。

 

「はぁ…はぁ…っ、はぁ…、ま、マークゼクスは?」

 

 一緒に戦っていた仲間。好きな人の為に島を守ろうと戦う健気な女の子の姿を探した。

 

 よろよろと飛ぶマークゼクスに向かって、フェストゥムが腕を槍の様に尖らせて突き刺そうとしていた。

 

「させない!」

 

 レージングカッターでフェストゥムの腕を巻き取り、攻撃の矛先を逸らす。マークゼクスが膝を着いて着地する。四つん這いで肩で息をする様に動くマークゼクス。思考操縦・体感操縦式のファフナーだから表れる挙動。それほど翔子ちゃんは辛くても戦っていたんだ。

 

 フェストゥムの背中が光る。ファフナーを動かそうにもダメージの所為が上手く動いてくれない。

 

「……ごめん、皆城くん」

 

 レージングカッターのワイヤーを巻き上げ、引き摺られる機体をなんとか立たせてフェストゥムにしがみ付く。

 

 フェストゥムの背中が一際輝く。黒い光がマークツヴァイを包み込む。

 

「きゃあああああ!!」

 

 全身が焼かれて捩じ切れる様な痛みが襲う。それでもフェストゥムを離さない。これが私の意地だから。

 

「せん、ぱい…、わた、し…がんばれ、た…かな……?」

 

『コード認証。フェンリル起動』

 

 これならわたしでもてきをたおせる。

 

『蔵前!!』

 

 地を割って現れる巨体がフェストゥムを突き飛ばした。

 

 地面を踏み締めて着地するワインレッドの機体。

 

「将陵……先輩…」

 

 その機体は失われたはずだった。島を守るために散った巨人。ファフナー ティターン・モデル。

 

『済まない。遅くなった…』

 

「ファフナーに乗ったの…? 皆城くん」

 

 クロッシングで皆城くんの存在を感じた。ただそれだけで頭の中から死の恐怖が消えていく。

 

 フェンリルのシステムがロックされる。

 

 ファフナーに乗れないはずの皆城くんがファフナーに乗って助けに来てくれた。ティターン・モデルに乗って。

 

 どれだけ無茶をしているんだろう。システムとファフナーの二重負荷で確実に身体は同化現象に襲われるのに。あとでお説教しなきゃ…。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ノートゥング・モデルよりも高い視点。ティターン・モデルの感覚を僕は問題なく受け入れていた。

 

 システムとファフナーの二重負荷で戦闘制限時間は10分に設定してある。ティターン・モデルは機体間のジークフリード・システムによるクロッシングでフェストゥムの読心能力を防いでいた。

 

『大丈夫? 総士』

 

「…あぁ。僕は大丈夫だ」

 

 僕よりも我が儘に付き合わせてしまった乙姫の方が心配だ。

 

 そして蔵前にも無理をさせ過ぎた。フェンリルでの自爆攻撃など僕の目の黒い内は決してさせない。

 

 崩れ落ちるマークツヴァイ。機体はボロボロだ。修理にも時間が掛かるだろう。

 

「まだ動けるか? 羽佐間」

 

『はぁ…、はぁ…、う、うん。まだ、やれるからっ』

 

 肩で息をしながら立ち上がるマークゼクス。羽佐間も無理をさせられないが、たった一撃を入れる隙を作ってくれるだけでいい。

 

 空に飛び上がるマークゼクスはレールガンを構えた。同時に僕も駆け出す。

 

『真矢みたいに……当てる!』

 

 電磁加速された弾丸は塞がり始めていたスフィンクスC型種の胸の傷口を覆う外殻を破壊した。

 

 その傷口向かって、僕は手を突き入れた。

 

「感じるか…痛いか……お前たちにこの痛みが理解出来るか!」

 

 左目の激しい痛み。右手のニーベルングを包む結晶。傷口に突き入れたティターン・モデルの右手も結晶に包まれていく。

 

 コアを掴む右手に力を込めれば藻掻く様にスフィンクスC型種は暴れるが、残った左手で抑え込む。ティターン・モデルの巨体だからこそ出来る事だ。

 

「貰うぞ、お前の心臓(そんざい)を!!」

 

 スフィンクスC型種の胸の中から腕を引き抜く。引き抜かれたティターン・モデルの右手にはフェストゥムの存在であるコアが握られていた。

 

 藻掻き苦しむ様に足掻くスフィンクスC型種だったが、存在であるコアが身体から離れた事で黄金の身体は黒ずみ土に還った。

 

 右手にあるフェストゥムのコア。無機質な手触りだが温かさを感じる。結晶が腕を覆う。存在を得る為にティターン・モデルを同化する気だ。

 

 変わらない。命を得たいから他者を取り込む。人間と同じだ。

 

 右手を包む結晶が大きくなる。結晶に包まれたコアが砕け散り、右手を覆っていた結晶も砕けた。

 

『総士! …総士!!』

 

「ん……、あぁ…、大丈夫だ」

 

 乙姫の声で我に返る。少し呆けていたらしい。

 

「僕はここにいる」

 

 たとえ奪われようとしても奪うまでだ。奪い続けなければ僕はここにいられない。

 

 見上げた空は何処までも続く水平線に消えていく。漂う雲と相まって美しい空だった。

 

「綺麗な空だな…」

 

 誰に向けてでもなく僕は呟いた。この思いを理解出来る存在へ届けと。

 

 それが最初の分岐だった。未来を変えられた事に安堵した。だからこそ忘れてはならなかった。本来、未来とは不明確であることを。その事を忘れた時、世界は容赦なく代償を支払わせるものであることを。

 

 

 

 

to be continued…

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