皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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最序盤の山場を抜けた所為か書き上げるのに若干苦労した。ちなみに果林ちゃんがいなくなるかならないかはえんぴつをコロコロして決めたなんて言えないくらい悩んだ。


皆城総士になってしまった…12

 

 スフィンクスC型種の消滅が確認されたあと、僕は速やかにティターンモデルを帰投させた。必要以上に新国連に島の情報を与えることもないだろう。

 

 一騎も無事に帰ってきた。ひとりで戦わせてしまって申し訳なく思いつつも、一騎なら戦えると思っていたから任せた。いや、これは僕の甘えだな。一騎なら出来ると押し付けてしまっている。気をつけよう。

 

 ティターン・モデルから降りると予想していた通り、有無を言わせぬ蔵前に手を引かれてメディカルルームに放り込まれた。

 

 一番最初に検査を受けるべきは蔵前や羽佐間であるはずなのだが、一番最初に検査を受けるべきなのは僕だと言われてしまい検査を受けることになった。

 

「前回の検査と比べて明らかに染色体への変化が見られるわ。……皆城くん。出来ることならもうティターン・モデルには」

 

「ティターン・モデルの負荷については承知しています。ただあの状況ではああする事が一番効果的だと判断しました」

 

 遠見先生の心配も尤もだが、蔵前と羽佐間の二人掛かりでも苦戦したスフィンクスC型種。

 

 虎の子のトルーパーですらどうにもできないなら、切り札たるファフナーを出すだけだ。その為に僕はティターン・モデルを再建した。ノートゥング・モデルでは変性意識の影響で戦えないのなら、変性意識を使わないティターン・モデルが唯一僕の乗れるファフナーだ。

 

 ティターン・モデルはシナジェティック・コードを形成する為に攻撃的にはなるが、変性意識がない為、戦闘時で性格が変わる事はない。その状態で敵の読心能力を防ぐには他のジークフリード・システムとのクロッシングで思考を共有しフェストゥムに読まれない様にしていた。第一次蒼穹作戦、第二次蒼穹作戦、またシステムの恩恵を受けられない遠征組みのファフナーもそうして各パイロット間のクロッシングを行う事でフェストゥムの読心能力を防いでいた。今回はその役割を乙姫に代行してもらった。

 

「総士!」

 

「皆城くん…」

 

「一騎、羽佐間…?」

 

 検査を終えて検査室から出ると一騎と羽佐間、そして羽佐間先生が待ち合い用の椅子に座っていた。いや僕が一番最初に検査を受けたのだから検査の結果待ちか。

 

 検査室に入る羽佐間親子。羽佐間先生に頭を下げて見送ると、一騎が声を掛けてきた。

 

「ファフナーに乗って、戦ったって聞いた」

 

「ああ。今回は非常時だったからな」

 

 マークニヒトに乗っているよりはマシではあっても、今の竜宮島の同化現象に対する治療技術ではティターン・モデルに乗り続けると数ヵ月が限度なのは変わりない。だがそれでも保険にはなる。

 

 一騎の目は不安に揺れていた。一騎は僕がファフナーに乗れないのは左目の傷の所為だと思っている。

 

「大丈夫なのか?」

 

「ああ。問題はない」

 

 僕が無理してファフナーに乗ったと思っているのだろう。だから大丈夫だと一騎には言っておく。でなければ心配して気が気でないだろう。

 

「……俺が、もっと早く敵を倒せれば」

 

「島と違って周りの被害も考えながらの戦闘だ。慣れないシチュエーションで良く戦ってくれた」

 

「別に、俺は……」

 

 今の一騎の悪い所は僕が言った事は自分が出来て当然と思っている事だ。日常的に自己否定している一騎は承認要求がない。ないわけではないが、それでも自分の存在をいなくなって当然だと思っている。それをどうにかしたいが、今の僕にはどうすることも出来ない。平和な竜宮島の事しか知らない今の一騎には。

 

「大勢の人命を守った。それで良いじゃないか。それともお前は僕が命令すれば彼等を見捨てて島に戻って来れたか?」

 

「そっ、それは……」

 

 僕の問いに一騎は顔を背けた。つまりそれは僕の命令よりも人命を優先したいという思いがあるということだ。それを見て僕は安心した。その思いはとても大切なことだ。

 

「一騎くん。次、一騎くんの番だって」

 

「あ、あぁ。じゃあ総士。またあとで」

 

「ああ」

 

 羽佐間と入れ違いで検査室に入る一騎を見送った。

 

「それじゃあ母さんまだ仕事があるから、医務室でちゃんと休ませて貰いなさい」

 

「うん。でも大丈夫。もう元気一杯だから」

 

 心配する羽佐間先生を他所に、羽佐間の顔色は良く元気なのをアピールする様に小さくガッツポーズまでしていた。とはいえ初の実戦で疲れは溜まっているはずだ。

 

「元気なのも良いが、大事をとって直ぐに休むべきだ」

 

「皆城くん…」

 

「皆城くんのいう通りよ翔子。…皆城くん、翔子を頼めるかしら?」

 

 羽佐間先生も出来れば一騎に頼みたいところだろうが、少しでも休ませるには一騎よりも僕に頼むほうが早い。娘を止めてという言葉を無視した僕にあとを頼む。母親とは強かだな。

 

「わかりました」

 

「いってらっしゃい。お母さん」

 

「ええ。行ってくるわ、翔子」

 

 羽佐間先生を見送り、僕は羽佐間に視線を向けた。母親が安心して仕事に向かうのを見送ると辛そうな表情を浮かべ始めた。

 

「少し休んでから行こう。一騎が出てくるまで待っても良い」

 

「……うん。ありがとう、皆城くん」

 

 羽佐間に肩を貸し、待ち合い用の椅子に座らせる。我慢強いのも良いが、ああいう時は素直に母親に甘えても良いと思うのだが。心配かけたくないという思いが強いのだろう。

 

「ねぇ、皆城くん」

 

「なんだ?」

 

「私、頑張るから」

 

 強い決意を感じる眼差し。普段の気弱な彼女とは違う強気さに気圧されてしまう。

 

「真矢みたいに戦うのはまだ難しいけど、頑張って一騎くんと一緒に島を守るから」

 

「羽佐間…」

 

 遠見の戦い方を確かに僕は羽佐間に見せた。だが見せたのはマークジーベンの戦い方で、マークジーベンのパイロットが遠見だと伝えた覚えはない。遠見は弓子先生のデータ改竄で今はCDC勤務でオペレーター見習いをしている。ファフナーの訓練もしていない為、遠見がマークジーベンに乗ることは僕くらいしか知らないことだ。

 

「私を助けてくれて、ありがとう。皆城くんのお陰で、私はここにいるよ」

 

「……あぁ。これからもよろしく頼む」

 

「うん」

 

 どちらともなく僕たちは手を差し出し合い、固い握手を交わした。儚げな少女の手は見た目以上に細く、力を入れてしまえば折れてしまいそうだった。そんな手にも武器を持たせて島を守って貰わなければならない。

 

「皆城くん…?」

 

「いや。もう少し栄養を取ったほうが良いかもしれないな」

 

「あまり動かないから太っちゃうよ」

 

「テクニカルな助言をしたまでだ」

 

 その点も含めて羽佐間先生は栄養接種に気をつけているのだろう。ミールが命を学べば、羽佐間の病も癒してくれるのだろうか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「明日の訓練は休みにしておく。ゆっくり休め」

 

「また明日な、翔子」

 

「一騎くんも皆城くんも、ありがとう」

 

 部屋を出ていく一騎くんと皆城くん。真矢と春日井くんも来てくれたみたいだけど、皆城くんが追い返してしまった。

 

 また明日もある。今夜はもう休ませてやれ――。

 

「明日……か…」

 

 明日。私の明日があるのは皆城くんのお陰。

 

 私は今日――いなくなるはずだった。  

 

 皆城くんとのクロッシングで、皆城くんの心を見た。いくつもの心が――たくさんの事を皆城くんは抱えていて、その中には私を死なせないために必死の皆城くん。私に戦い方を教えてくれる皆城くん。そして、島の未来の事を皆城くんは知っていた。

 

 将陵先輩が島に居ない理由も知った。皆城くんが乗っていた赤いファフナーに乗って、なにも知らない私たちの平和を守るために戦っていなくなったことを。

 

 皆城くんも、将陵先輩たちみたいにみんなの知らない所でひとりで戦っている。

 

「こんばんは、翔子」

 

「乙姫ちゃん」

 

 医務室の扉が開いて乙姫ちゃんが入ってきた。多分来るかもしれないと思ってた。

 

 乙姫ちゃんは私の横になっているベッドの横に来ると椅子に座った。私も身体を起こそうとするけど乙姫ちゃんに身体を押さえられて横にさせられてしまう。

 

「横になったままで良いよ。あ、総士には内緒だよ? 知られたら怒られちゃうから」

 

 イタズラを隠す様に悪い顔をしながら私の口に人差し指を置く乙姫ちゃんは私なんかより大人の女の子に見えた。そんな乙姫ちゃんに私は頷いた。

 

 一度ニコッと笑った乙姫ちゃんはまるで別人になったかの様に表情を変えた。

 

「総士の心に触れた感想はどう?」

 

「ど、どうって……」

 

 どう答えたら良いのだろうかと思っていると、乙姫ちゃんは言葉を続けた。

 

「あなたに未来を背負う覚悟はある?」

 

 普段見ている優しくて明るい乙姫ちゃんの見る影もなく、今の乙姫ちゃんはとても恐かった。

 

「私は……」

 

「あなたが未来を背負えないならそれでも構わない。余計な事は忘れてもらうだけだから」

 

 乙姫ちゃんの声も表情も全部本気なのが伝わってくる。未来を皆城くんは知っていて、それをすべてじゃないけど私も知った。だから乙姫ちゃんは私を試す為に来たのかもしれない。

 

「総士の痛みは他人が背負えきれるものじゃない。この痛みは一騎にだって背負えない。背負えるのはわたしと総士のふたりだけ」

 

「乙姫ちゃん……」

 

 とても悲し気に私に向かって言葉を紡ぐ乙姫ちゃんが全く恐くなくなった。かわいいと思った私はちょっとおかしいかな。

 

「乙姫ちゃんは皆城くんの事が大好きなんだね」

 

「当たり前よ。総士はわたしたちの為に戦ってくれてる。だからわたしたちも総士の為に出来ることをするだけ」

 

 乙姫ちゃんが少し羨ましい。誰かを好きな事を恥ずかしげもなく断言できるのはその人の事が好きだと胸を張れる証拠。私にはとても真似出来ない強さが乙姫ちゃんにはある。

 

「……乙姫ちゃんみたいには出来ないかもしれないけど、私も、この未来を背負おうと思う」

 

 忘れる事は簡単で、知らない方が苦しいことだってないと思う。でもそれで一騎くんの役に立てなくなるのはいやだった。私が戦える様になれば皆城くんの負担も減らせると思う。未来を守る為に私も戦いたい。そう思う。

 

「犠牲によって勝ち取る未来を、あなたは耐えられるの?」

 

「そうさせない為に皆城くんは戦っているんでしょ? なら私も戦う。一騎くんの帰る場所を守る為に」  

 

 私の願いは一騎くんの帰る場所を守ること。その為には私だけじゃ出来ない。皆城くんの力も必要だから、この未来を背負って皆城くんのお手伝いをしたい。私なんかがなんの役に立つかはわからないけど、強くなってきっと役に立つから、この未来(きおく)を奪われたくない。

 

「……いいわ。その覚悟を忘れない限り、わたしはあなたから記憶(みらい)を奪わない」

 

 目を閉じながら立ち上がる乙姫ちゃん。その顔は私からは見えない。

 

「あなたの未来はあなた自身のもの。未来を切り開く力はあなたにもある事を忘れないで、翔子」

 

 部屋を出ていく乙姫ちゃんの声はいつもの優しい乙姫ちゃんのものだった。……許して貰えたのかな?

 

「未来を切り開く力……」

 

 私にそんな力があるのだろうか。ううん、手に入れなくちゃ。一騎くんの為にも。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 新国連へのファフナーの引き渡しは中止になった。というより渡せるファフナーがないのも実情だ。

 

 マークツヴァイは大破。新品だったトルーパーも新造する方が早い有り様。最高戦力たる一騎のマークエルフは渡せない。同じ理由でマークゼクスも渡せない。戦闘のどさくさに紛れて偽装鏡面を展開した竜宮島を新国連は見つけられずに退くしかなかった。またフェストゥムに襲われたら次は終わりだとわかっているからだ。

 

 スフィンクスC型種を倒してから雨が続くが、島は平和だった。羽佐間が健在の為、皆の顔もいつも通りだ。

 

 いつも通り焦っている。焦りは良い結果を生まない。辛うじて甲洋が蔵前のシミュレーション結果を超え始めたくらいだがまだ実戦には出せない。

 

「ジークフリード・システム、起動!」

 

「ニーベルング接続。対数スパイラル形成、コア同期確認。ティターンモデル、起動!!」

 

 僕の直ぐ足元のシートに座り機体を起動する背中。癖っ毛の髪はいつも見ているものだ。

 

 同化現象に身体を一番蝕まれているのに尚も戦う彼女を止める術は僕にはない。

 

「ノートゥング・モデルより身体が大きい。これがティターン・モデル…」

 

「大丈夫か? 蔵前」

 

 ティターン・モデルを起動した蔵前の背中に僕は問う。なにか異常があれば接続を解除するつもりだが、今の所は見た目に異常はない。

 

「大丈夫よ皆城くん。先輩が着いてるから」

 

 ティターン・モデルに乗れたからか、蔵前の声は生き生きしていた。

 

 敵は此方の都合を考えてはくれない。変わらずフェストゥムは島にやって来る。

 

「ナイトヘーレ、開門! ティターン・モデル、発進!!」

 

 カタパルトレールに沿って地上に向けて上がっていくティターン・モデル。

 

「トリプルドッグ、エンゲージ!」

 

 蒼と白のファフナーを従え僕らは行く。残された時間の使い方。なにも出来ない僕にその使い方を否定することは出来ない。それでも願わくば砕け散ることなく明日を迎えられる事を祈るしかなかった。

 

 

 

 

to be continued…

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