皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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今回は短めデス。


皆城総士になってしまった…13

 

 最近寝起きが凄まじく苦しい時がある。ただの息苦しさというよりなにか重石が体の上に乗っているそんな感覚。

 

「んぐ……ぅっ…んぁ?」

 

「…すぅ……すぅ…」

 

 その理由はとてつもなく簡単なことだった。如何に軽くても人がひとり仰向けになっている自分の上に寝ていれば寝苦しくて当たり前だ。

 

「またか……」

 

 乙姫が目覚めてから今まで添い寝だったのだが数日前から僕の体の上に乗って寝ている事が多くなった。お陰で息苦しくて起きることが暫く続いている。

 

 美少女の妹が体の上で眠っているんだからむしろご褒美だと? よろしい。ならば家族に目覚ましに30Kgの米俵を乗せてもらうと良い。完全にとは言いがたいが僕と同じ気分を味わえるだろう。

 

「乙姫…、乙姫」

 

「んんぅ……あと5分…」

 

 まるで朝起きられない低血圧の人間の様な文句を言う乙姫。寝ている間はいざ知らず、起きてしまっているとなるともう苦しさは誤魔化せない。

 

「きゃっ。…んもう、総士ぃ……」

 

「流石に5分は待てない。だから実力行使をさせてもらう」

 

 仰向けの身体を横向きにさせて乙姫を体の上から排除する。これで息苦しくはなくなったな。

 

 ただこのままだと乙姫がへそを曲げそうであるからあと5分、乙姫の身体を抱きながら頭を撫でたり髪を手櫛で鋤いたりと、機嫌を取る。髪の毛を手櫛で鋤くという行為は僕が僕になる前に母親にやってもらっていた事だ。まだ親と寝ていた時分。毎日の様にせがんでいた。子守唄代わりの子供の寝かしつけ方。どんなに眠くなくても手櫛の気持ちよさでいつの間にか眠ってしまうのだ。

 

「んぅ……気持ち良いよ、総士」

 

「そうか」

 

 乙姫の長い髪はサラサラで手櫛でも絡むことなく鋤き心地も良い。痛んでいる様な枝毛もない。一応髪の毛のケアに関しては僕も自分の髪で勉強した。

 

 皆城総士の髪の毛が長いからといって僕も自分の髪を伸ばす必要性はあまり感じられなかったが、将来乙姫の髪の毛を手入れ出来る様にと思って髪を伸ばして長い髪の保ち方とケアの仕方を実践した。そのお陰で乙姫の髪には細心の注意を払える。どう洗うと髪にダメージがないのか、どの成分のシャンプーを使えば髪に良いのか、顕微鏡を使ってまで昔は経過を見ていた。不思議がる蔵前に見せてと邪魔されたり髪の毛を顕微鏡で見るなんていうニッチな事に父さんは微笑んでいた。その時の夏休みの自由研究枠に使えたのは嬉しい誤算だったが。

 

 そんなことを思い出していたらもう5分は過ぎていた。

 

「乙姫?」

 

「…すぅ……すぅ…」

 

 どうやらまた寝てしまった様だ。まだ寝ていられる時間だし、今日は立上も虫取はしていない様だ。立上が朝方に虫取をしている時の乙姫の起床は僕より早い時もあるし、のんびりと朝眠っていないからだ。

 

 しかし二人で寝ているならまだ大丈夫だが、これが3人になると窮屈だろう。いずれはもう少し大きなベッドのある部屋に移るか作るか、あるいは家を修復しなければならないだろう。いや、まだ織姫まで一緒に寝るとは限らないか。3人で寝るなど、その時には僕もいい加減妹離れをしていなければならない。……甘えきっている僕が出来るのだろうか。妹離れ。

 

 乙姫を置いて僕は起きる。寝間着の端を掴まれるという典型的なことをされたが、今日の朝食当番は僕だ。乙姫に構いすぎて蔵前に注意される前に作らなければならない。寝間着を掴む指を丁寧に外し、髪の掛かる額を掻き分けて軽い口づけをする。こうすると乙姫の機嫌が良くなるのもここ最近の経験から来るものだ。日本人だから抵抗があるだろうが、外国では頬や額への口づけは挨拶の様なものらしい。だから別に他意はない。……こういう事をしているから蔵前に乙姫を甘やかしすぎだと注意されるのだからいい加減学べとも言われそうだが。

 

「…んにゃ……そう、しぃ…」

 

 こう幸せそうな寝顔を見せられると、止めてしまうことも憚られる。

 

 口許に笑みが浮かぶのを自覚しながら軽く頭を撫でて僕はシャワーを浴びにバスルームに向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 偽装鏡面で姿を隠しながら航行を続ける竜宮島。

 

 姿を隠しているといっても全く敵の襲来が無いわけではない。

 

「これでっ」

 

 ガンドレイクを突き刺すティターン・モデル。刀身が開き、傷口を広げ、スフィンクス型のコアを電磁加速された弾丸が破壊する。ティターン・モデルに乗ってからというもの、蔵前の調子は飛躍的に向上している。今までのデータとはまるで別人だ。なにかあったのかと問えば、

 

 将陵先輩が教えてくれるのよ。敵とどう戦えば良いのか――。

 

 そんな事を蔵前は言う。普通なら危ない人間の戯れ言と言われるのだろうが、こと僕の立場から見ればそうも言えない。

 

 慌ててウルドの泉を見に行ったが、ゴルディアス結晶の存在は見当たらなかった。

 

「貰うぞ、お前のコア(そんざい)を!」

 

 僕の場合はルガーランスやガンドレイクを使うときもあるが、基本は無手だ。なにも持たずに戦うのは僕の戦闘イメージが皆城総士の駆るマークニヒトが起源だからだろう。

 

 ティターン・モデルのパワーにものをいわせてスフィンクス型の胸に貫手を刺し込み、コアを引き摺り出す。その戦いかたが猟奇的だと蔵前に注意されるが、この戦い方が僕には合うのだから仕方がない。それに、そうでないと奪えない。

 

 手の中で結晶に包まれる敵のコア。命の温かささえ感じるそれが手の中で砕け散る。翠色の結晶が砕け散る様はとても幻想的でもあった。

 

 ティターン・モデルは僕と蔵前の二人乗りで負担を軽減している。更に10分の戦闘時間を5分ずつで分けている。ジークフリード・システムの負荷があるため僕の時は二重負荷が掛かっているだろうが、たった5分なら直ちに問題はない。蔵前は10分フルで戦いたいらしいが、少しでも彼女の時間を遺すために僕が妥協出来る状況が今の状態だ。

 

 そのお陰か。ノートゥング・モデルに乗っているときよりも大分同化現象の進行は遅い。負担を分けているといってもそれで説明はつかないほどだ。何かが起こっている。そう思わずにはいられない今日この頃。

 

 要と甲洋から実機を使った模擬訓練の申し立てが入り込んだ。……羽佐間が健在なのにどうしてだ?

 

「ファフナーがどういうものかわかっていての申し出だな?」

 

「いつまでも訓練ばかりで、翔子や一騎たちにばかり負担は掛けさせられないって思って」

 

 だから甲洋に僕が、要には蔵前が事情を聞くことになった。

 

 仲間思いの甲洋からすれば妥当な意見だが。やはり羽佐間の事が心配なのだろう。一騎への嫉妬がないとも言えないだろうが。

 

「確約は出来ないが申請は出しておこう」

 

「わかった。ありがとう総士」

 

 羽佐間が健在であることで本来の気遣いが出来る優しい甲洋のまま一騎との溝が生まれる事はないが、僕から見ても甲洋が焦っているのはわかる。

 

 本当ならもう少し訓練を積んでから実戦に出てもらいたい。パイロットが増えるほど戦闘時間も短縮できるだろうし、戦術も増える。撹乱と偵察向けのスピード型のマークフィアーが加わるのは心強いが、それでもまだ甲洋も要も漸く適正数値を超え始めたばかりで一騎や羽佐間には程遠い。

 

 10分の限定だがティターン・モデルも出撃出来る上、トルーパーもその個体防御力を認められて順次量産が正式に決定した。――みんなを守ることなら出来る。だから焦らないで欲しいと思うのは僕の我が儘だ。

 

 医者としての観点から遠見先生に反対されたが、模擬訓練の実施する有用性はあると真壁司令が認めてくれた。

 

 シナジェティック・スーツに身を包み、僕はティターン・モデルで模擬訓練を行う慶樹島の崖に立っていた。

 

 確かめたい事があった為、今回は僕がひとりで乗っている。とはいえ今は自動操縦でジークフリード・システムしか接続はしていないが。

 

 あいにくの雨模様だが悲しみを隠す雨ではないだけでとても気分は楽だった。

 

「クロッシング完了。ファフナー、オールスタンバイ」

 

『了解。ファフナー搭乗員は今一度、保有する全ての弾がペイント弾であることを確認してください』

 

『マークエルフ、確認完了』

 

『マークドライ、確認』

 

『マークフィアー、確認』

 

 システムでも確認している。要からは好戦的な感情が伝わってくる。甲洋からはやはり焦りの幅が大きい。

 

 マークドライとマークフィアーがスタートした。

 

 甲洋のファフナーに乗りたい理由が焦りなら要の理由はやはり父親の復讐だった。

 

 憎しみをフェストゥムに向けてそれを学習してしまわないかの危惧はある。だが仇討ちをするなとは言えない。それが感情を持つ人の心の正しさだ。

 

 フェストゥムが怒りと悲しみを学べばあるいは海神島のコアも理由のない憎しみという破綻した存在にはならなかったのだろうか。彼らに学ぶ時間がなく、また彼らは最悪の形で憎しみを獲得してしまったのだから。

 

 もし僕が狩谷先生の様に目の前で、しかも自分の手で乙姫や一騎を殺させられてはフェストゥムに憎しみを抱かないかと聞かれても首を縦には降れない。

 

 マークエルフが先行する二機のファフナーを追い始めた。今までシミュレーター漬けとあって初動は甲洋も要も先ず先ずだ。

 

 マークエルフのあとを僕も追う。模擬訓練は1ステージは15分のタイム性だ。その第一ステージ、僕はティターン・モデルとコード形成を行い、ティターン・モデルに乗る上での同化現象の進行度合いを計測するつもりだ。これでも同化現象の進行が緩やかなら確実に何かがティターン・モデルに起こっている。

 

 模擬訓練に関しては僕の知る未来と変わらず、甲洋と要の惨敗だが、マークエルフの脹ら脛辺りに一発のペイント弾が当たっていた。当てたのは甲洋のマークフィアーだった。

 

「前回と比べてシステムとファフナーの二重負荷だから正確な比較は出来ないけど、同化現象の進行はとても緩やかだわ」

 

「そうでしたか」

 

 これで決まった。やはりファフナーに何かが起こっている。

 

 出来れば西尾博士の意見も聞きたいが、第一線を退いている博士に訊ねることは大人たちもあまり歓迎されている雰囲気ではなかった。ただティターン・モデルが現時点で何らかの変化を見せているのは確かだった。これは折を見て西尾博士に相談する事にしよう。

 

 模擬訓練の翌週。ついに蓬莱島を見つけた。海神島は人類に襲われ、コアも新国連に接収され、ファフナー用のコアを産み出すプラントにされていた。

 

 蓬莱島も表向きには新国連に編入とあったが、フェストゥムに滅ぼされたのはそのあとということだろうか。

 

 どのみち蓬莱島のデータがなければ同化現象に対する治療技術の頭打ちは解消されないだろう。

 

 陣頭指揮は狩谷先生が勤める事になった。

 

 参加させるファフナーはマークエルフ、マークゼクス、マークフィアー、そしてトルーパーが二機。

 

 遠見も参加する事になった理由は、蓬莱島のコアを見つけ、一緒にミツヒロ・バートランドのもとに送るためだったのではないかと考えるのは僕の深読みのし過ぎだろうか。

 

 未来をその手に掴めると思った。運命を変えられると浮かれていた。ただ僕は知るべきだった。慢心は足元を掬うと誰かがいった。この時の僕はそんな偉人の言葉さえ頭から抜け落ちていた。

 

 

 

 

to be continued… 

 

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