angelaのmemoriesという歌を聴きながら書いたらこうなっちゃいました。当時知らずに良い歌だなぁと思っていたらまさかのangelaだったのをつい最近知りましたビックリですよね。次は「ホライズン」か「暗夜航路」か「さよならの時くらい微笑んで」か「Separation[Pf]」のどれを聞いて書こうかなぁ(パリーン
島外派遣の日程の調整。ファフナーを出撃させる為、調査隊での僕の権限は狩谷先生の次に指揮権がある。戦闘になれば此方の指揮権が優先される事にもなっている。真壁司令は最高指揮官であるから別として、ことファフナーにおける指揮権を僕は誰にも譲るつもりはない。その為に父さんがまだいた時に、戦闘時の指揮権の優先権を貰えるように提言し、それを真壁司令も承諾してくれている。その為に大量の仕事が舞い込んできて来ても、それがファフナーを、パイロットの命を守ることに繋がるのなら僕は喜んで引き受けよう。
ただアルヴィスに引きこもり続けるのも健康に良くはない。だから僕は散歩に出掛けた。久し振りの快晴だ。明日に島外派遣を控えている時にこの晴れ模様は気持ちいいものだ。
「綺麗だな……」
鈴村神社の鳥居からは島を一望出来る絶景スポットだ。今日は久し振りの快晴ということもあって乙姫も立上の所にお邪魔している。良い友人関係を築けている様で何よりだ。島外派遣で大人たちは忙しいとはいえ、いつ何処で乙姫を狙われるかはわからない。だから僕が付き添っている。最悪僕なら襲ってきた者たちを同化出来る。……あまりやりたくはない対処法だ。フェストゥムの力を使うということは、それだけフェストゥムの側に近くなるということだ。
自分の存在が変わることを受け入れられずノートゥング・モデルに乗れない僕が、皆城総士が否定したフェストゥムの側の存在になることに躊躇いがない。理由はあるのだが、僕も歪んでいるな。
それでも乙姫を守れるなら安いと思ってしまう。乙姫を守り、織姫に逢わせてやりたい。僕が目指す未来のひとつの指針だ。それを見失うわけにはいかない。兄妹愛にしては酷く
最近過激になりつつある乙姫の甘え方の対処も考えたいが、これは蔵前に言ったらアウト案件なのは僕でもわかる。身の周りに妹を持つ兄の立場の人間が居ないことが悔やまれる。しかも周りに乙姫の存在を知る人間が少ないことも僕の頭を悩ませる。誰にどう相談するべきか。西尾姉弟の姉である里奈に相談出来れば良いのだが、今の僕は彼女との接点はない。同じ理由で暉にも話は聞けない以前に今の暉はまだ喋る事が出来ない。
これもティターン・モデルと同じで機会を待つ必要がある案件の様だ。そう言えば里奈は羽佐間がCDC勤務でない事から近くオペレーターとして召集が掛かる予定だ。それを期に、暉、立上、広登も合わせてファフナーのパイロット候補として召集出来ないか真壁司令と交渉中だ。
スカラベ型の件もある。生身でいるより万が一の時はファフナーに乗っていられる方が危険は却って少ないこともある。道生さんとカノンが島に合流するか確定されていない以上、島の中で戦力を増やす事の必要性は真壁司令も理解していらっしゃることだ。僕に出来る事はパイロットの命を守ること。召集のこともそうだ。同化現象の危険性はあっても、ファフナーに乗れるか乗れないかで身の安全性は天地の差が開く。自分の身を守る術もない島の外の人間に比べたら僕たちは恵まれた環境に生まれたといっても過言ではないのだから。
「皆城くん?」
「総士? どうしたんだ、こんなところで」
「羽佐間、甲洋」
海と空を見て呆けていた僕に掛かる声。羽佐間と甲洋が連れ立って境内に上がってきた。それなりに相当な階段の数があるはずなのだが、登りきったのか羽佐間。
「犬?」
「わんわん!」
甲洋の手から伸びる紐の先を追っていくとまだ子犬のショコラが繋がれていた。成る程。
「お散歩デートというやつか」
「デッ!?」
少しからかおうとしただけだが、あの甲洋が面白い程目を見開いて固まってしまった。
「久し振りに晴れたから、ショコラのお散歩しようって春日井くんに声をかけたの」
だが羽佐間は普通にこの状況の経緯を話してくれた。皆城総士から見ても分かりやすかった甲洋と羽佐間の恋心は複雑に擦れ違わない。甲洋は羽佐間を好いていて、羽佐間は一騎を好いていて、一騎はそれに気づいていない。一歩間違えれば竜宮島でサスペンス劇場が繰り広げられかねないが、優しい甲洋が身を退いてそうはならない可能性が自然と考えられる辺り僕も非情だな。
僕が言ったデートという部分を華麗にスルーした羽佐間に、甲洋も肩を落としていた。哀れ甲洋、いくら僕でも羽佐間に対するアプローチにテクニカルな助言をしようにも言葉が思いつかない。あとで僕がガトーショコラでも作ってやろう。御門さん家程の腕はないがな。
「確かに外出する事は健康にも良いが。大丈夫なのか羽佐間」
「皆城くんも春日井くんも心配し過ぎだよ。大丈夫。最近身体の調子は良いの」
前回羽佐間が倒れた時に訓練行程を見直し、羽佐間の身体に疲れが残らない様な行程に変えた。まだ手探りだが以来羽佐間が体調を崩した様子はない。しかしそれでも身体的ハンデを抱えているのは変わりはない。遠見先生からも最近の羽佐間は大分症状が安定してきているとのこと。
羽佐間が元気になり始めたのもファフナーに触れる様になってからだ。ティターン・モデルだけでなく、ノートゥング・モデルまで変化が現れているのか。或いは――。
「どうかしたの? 皆城くん」
「いや、なんでもない。考え事をしていただけだ」
「島外派遣のこと?」
「ああ」
本当は別の事を考えていたが、僕の考えていることは確証も証拠もないただの心配事だ。しかしそれで態々羽佐間を不安にさせることもないだろう。
「お、おいショコラ」
「わうわう!」
ショコラに引かれて境内を駆けずり回る甲洋。竜宮島の犬は名犬ばかりだ。甲洋が離れたことで羽佐間が然り気無く僕の隣に寄ると、甲洋には聞こえない声で僕に言った。
「大丈夫。春日井くんは私が必ず助けるから」
「羽佐間…」
頼もしいが。やはりその手の言葉を羽佐間の口から聞きたくはなかった。
僕の罪。羽佐間に未来を背負わせてしまった。それは僕の弱さだ。心の何処かで望んでしまった理解者が欲しいという僕の思いに彼女を巻き込んでしまった。
羽佐間を救う為に、遠見の戦い方をイメージに乗せた。だが羽佐間を死なせない為に必死過ぎた僕は彼女の精神の奥深くに入り込んだ。
羽佐間の一騎への想いを感じ、その想いで島を守ろうと戦場に立った。乙姫や仲間の為に島を守ろうと戦う皆城総士や僕と同じだ。大切な人の為に戦うという共通意識の強さがより強いクロッシングをする事に繋がった。羽佐間が何を見たのか理解出来る程に。
「君が背負う必要はないんだぞ?」
「うん。わかってる。ありがとう、皆城くん」
僕に微笑む彼女の横顔はとても穏やかで綺麗だった。そんな綺麗な笑顔を向けられる事がより僕の罪を見せつけられている様に思った。
「おからハンバーグでも作ろうか?」
「おからハンバーグ?」
「肉、好物だろう。羽佐間の」
「でも、私は」
「使うのは鳥の挽き肉だし、量も7割はおからだ。ひじきも入れるから極めて健康に良い」
少しでもなにか出来ないかと思い提案を出したのだが、羽佐間はそんな僕に小さく吹き出した。
「な、なんだ?」
「皆城くん、お母さんみたいだなって」
「感謝の気持ちを示そうとしただけだ」
笑われるとは思わなかった為、面食らってしまった。ただ感謝したいのも本当だった。羽佐間の存在は僕も心強いからだ。
◇◇◇◇◇
大型輸送機でのファフナーの輸送。350km離れた場所での作戦行動。内密に溝口さんには改めて注意を配って貰えるように進言した。
少し久しく感じるCDCのジークフリード・システムのシートに身を預けつつトルーパー・モデルで輸送機を護衛する。パイロット3人にはコード形成をさせずブランクモードで待機して貰っている。可能な限り消耗を抑える為だ。
敵が蓬莱島を滅ぼし、罠を張っているのは承知の上で島外派遣に挑む。その危険性を犯しても、この島には僕たちにとって有益なデータがあるだろう。
一騎、羽佐間、甲洋。3人のバイタルも精神も落ち着いている。甲洋が若干興奮気味だが、緊張の所為だろう。
羽佐間は健在。一騎と甲洋に溝はない。未来の通りに事が進んでも遠見と溝口さん、そして甲洋は必ず助ける。
蓬莱島に到着、ファフナーを起動させる。先行してトルーパーが島に上陸し、安全確認を行う。敵影はなく、揚陸艇が上陸。調査隊はテントを設営しつつ島の調査に乗り出す。
トルーパーで調査隊を護衛しつつ僕もデータを吸い上げる。戦闘記録や医療記録。ありとあらゆる情報を見ていく。
この蓬莱島も竜宮島と同型とあって同じ形をしていたが、今はその見る影もなく、両舷のボートはない、剛瑠島と慶樹島に当たる島もない。敵に奪われながらフェンリルを使い続けて本島を守ってきたらしい。何かを間違えれば竜宮島にも訪れるような未来をこの蓬莱島は経験し、そして滅んだ。
第二次蒼穹作戦、第三次蒼穹作戦は下手をすれば島が滅んでいたかもしれない。カノンの戦いがあって第三次蒼穹作戦は成功出来たが、エインヘリアル・モデルだけではダメだった。甲洋が帰ってきてくれたからウォーカーを撃退する事が出来た。
僕はそれ以上の未来を目指さなければならない。誰も犠牲になることなく、皆がここにいる未来を。
そんな未来を僕は作れるのだろうか? いや、作ってみせる。そのために僕はここにいるのだから。
『私たちの島も、間違えたらこうなってしまうのね』
クロッシングしている羽佐間から悲しさと恐怖が伝わってくる。空を飛べるマークゼクスは上空から島を調べて貰っている。竜宮島と同じく自然と人の暮らしが調和した島。だが明らかにフェストゥムに襲われた形跡が、この島が滅んだ理由を物語っていた。
『罠…、なんだよね?』
「ああ。僕たちの様な存在を引き寄せる為のな」
フェストゥムがそんな戦術の様な行動を取り始めた。目立つ餌を用意しこちらを誘き寄せて襲う。生物的な狩猟本能にも近いものを感じるが。モルドヴァでは情報戦を理解し、皆城総士の知識から消耗戦を学び、ボレアリオスミールは真壁紅音の知識から戦い方を学んだ。ロードランナーは後方の輸送基地という兵站の概念さえ理解した。
それを思えば今回の待ち伏せはまだかわいいものなのだろう。
「フェンリルのアクセスコードは手に入れた。必要ならいつでも吹き飛ばせる」
『真矢を地下に行かせない方法、なにかないかな皆城くん』
難しい問題だが、遠見は医療班として派遣されている関係上、ケガ人が出れば向かわなければならない。流石に地下ブルクにトルーパーは向かわせられない。崩落の原因は地下の岩戸の扉を爆破したからだと推察出来るが、調査隊の指揮が狩谷先生にある以上僕にはどうにも出来ない。
「警戒を続けるしかない。すまない、羽佐間」
『謝らないでいいよ。無理を言っているのは私だから』
無理をさせているのは寧ろ僕の方だ。羽佐間は謝ることはない。
どう考えても対処法が見つからない。崩落事故の原因というより遠因はわかっているのに今回のことは対処が出来ない。こういう事は現地に赴けなければ難しい問題だが、現地に居たとして自分に何が出来るのか考えても出来ることは甲洋の代わりに海に潜るくらいか。
『総士!!』
僕が考えを巡らせていると、それを乙姫が吹き飛ばした。
「乙姫!? 敵だと!?」
『皆城くん!?』
ソロモンよりも早く敵を乙姫が感じたらしい。その思考がクロッシングで僕が感じ、さらに僕の思った敵の出現という思考が羽佐間に伝わった。
「避難はトルーパーと一騎たちで対応させる」
『私が敵を倒せば良いのね』
「頼む」
深い領域でクロッシングしているからだろう。反射的に言葉を出すが、それすら必要ない程に互いの思考を共有していた。
理解者がいることが頼もしい。それに嘘はない。それは彼女の力を信じているからだ。だがそれは彼女に重荷を背負わせてしまっていることに他ならない。それでも僕は彼女の好意に甘えた。それが僕のひとつ目の罪だった。
to be continued…