皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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1話進ませるだけでどれだけ話数を使うのか想像もつきませんわ。1話5000文字がちょうどいいと言われているしちょうどそれくらいが纏まりつくんですが、そのわりには内面描写で文字を使い結局はあまり進まないというジレンマ。




皆城総士になってしまった…18

 

 闇の中に漂う意識。何処からが自分で、何処までが自分なのか曖昧な世界。

 

 ここはいったいどこだ……。僕はいったい……。

 

「ここは存在と無の地平線。その先にある場所だ」

 

「お前は……」

 

 そこには僕が……いや。僕じゃない。左目に傷を持つ存在。

 

「皆城総士……」

 

 今の僕よりも大人である彼。5年後。生存限界の中で戦った虚無の担い手。

 

「それは君もだ。皆城総士」

 

「僕が……、皆城総士…?」

 

 違う。僕は皆城総士じゃない。僕は彼とは違う存在だ。

 

「そこにいることを選んだとき、存在は生命(いみ)を持つ。君は選んだんだろう? 皆城総士でいることを」

 

「僕は……」

 

 そうだ。僕は皆城総士になることを望んだ。未来を知っているから、皆城総士になってしまったのなら、僕に出来ることは皆を守ることだけだ。

 

「それでも甲洋を犠牲にした……」

 

「それでも守れた命は多い」

 

 だからなんだ。皆を救えないと意味がない。皆を守れなければ意味がない。僕が存在している理由はただそれだけなのだから。

 

「生命を救う事は正しいことだ。だがすべての命を救えるはずがない。僕たちが存在と無の力を手にしていても多くの命を救えなかった様に」

 

「割り切れというのか? 犠牲は仕方がないことだと割り切れと!」

 

「違う。歩みを止めるなと言いたいだけだ。選べ、何度でも。そこにいることを選び続けろ」

 

「選ぶ……僕が…?」

 

 それは一騎が来主に送った言葉だ。悲しいからと諦めないで、()()にいることを選び続ける。

 

「世界に満ちる果てしない痛み。そのすべてに還る場所がある。お前の還るべき場所もそこにある」

 

「僕の……還る場所…」

 

 僕の還る場所。……帰りたい場所。

 

 たとえ皆城総士でなくなったとしても、僕には帰りたい場所がある。

 

「くっ…!」

 

 身体に結晶が生えてくる。同化現象……。

 

「苦しみに満ちた生でも、そこにいることを選び続けることが出来るのか?」

 

「ぐぅっ!!」

 

 傷を持たない皆城総士がいる。フェストゥムの側、無の中にいる皆城総士。一騎とひとつになりたいと思った皆城総士。

 

「それの何がいけない。人はひとりでは生きてはいけない。他者を求めるのは人の本質だ」

 

「なら何故一騎を同化しようとした」

 

 僕にはわかる。自分の存在がわからない。だけど僕を僕として必要としてくれる存在がいる。だから僕は僕でいようとした。皆城総士として皆を守り、皆城総士として皆と戦い、皆城総士として存在することを。

 

「一騎に傷つけられても共にいなくなりたかった。何故お前はそれを選んだ」

 

「いけないことか? 自分を理解してくれる者とひとつになりたいと思うことは、生命をもつ者が思う本能だ」

 

「ひとつになって消えることが相手を想うことだというのなら、僕は存在し続けることを選ぶ。痛みを伴っても存在し続けることが他人を感じられる唯一の方法だ」

 

 ひとつになりたいと思うことは確かに人が持つ感情だ。だがそれで本当にひとつになってしまっては相手の存在を感じることは出来ない。自分の存在を感じてくれる相手がいるから互いにひとつになれる喜びを得られるのだから。

 

「お前とはわかりあえない」

 

「対話を放棄する事は存在を否定する事と同じだ」

 

 虚無の担い手であっても、自身がその虚無そのものになることは違う。虚無の担い手であってもそこにいることを選び続けるから、虚無に呑まれることもなく無の力を手にする事が出来たのだと僕は思う。

 

 身体を包む結晶の侵食が止まる。左目が疼く。

 

「僕はここにいる。お前はどこにいる」

 

「前はいた。今はもういない」

 

「なら何故会話をする。お前は何故そこにいる。いないのなら何故お前はここにいる」

 

「ぐあっ」

 

 傷を持たない皆城総士の胸に結晶が生える。痛みを堪えるように胸に手を当てる皆城総士。

 

「痛みから逃げて、存在する事を拒んだお前に、僕を同化出来ると思うな!」

 

「ぐっっ」

 

 身体を包んでいた結晶が砕け散る。左目が痛む。それでもこの痛みは僕の存在の証しだ。

 

「痛みは僕の祝福だ。君はどう世界を祝福する」

 

「僕は――ここにいる事を選ぶ。痛みを伴おうとも存在を選び続ける。還る場所がそこにある限り、僕は何度でもそこに帰る」

 

「ぐあああああああ!!!!」

 

 傷のない僕が胸から生えた結晶に身体を侵食されていく。

 

「存在を選ぶ事が僕の祝福だ!」

 

 結晶が砕け散る。傷のない僕が消えた。いや、違う。

 

「これが、同化か」

 

 左目が突き刺さる様な痛みを発する。瞳から流れ出すもの。……涙ではなかった。

 

 赤い滴。命である証し。だが血が通っているから命というわけではない。血が通っていなくてもひとつの生命(そんざい)として存在し、存在する事を苦悩して答えを出した存在を僕は知っている。

 

 存在する事が生命になるということだと僕は思う。だから彼もひとつの生命だったのだろう。僕が皆城総士でなくても存在する事を選んで今日まで生きてきた様に。

 

「存在と無の共生。その道を選ばせる為に僕は君にあらゆる記憶を与えた」

 

「僕が他の存在だった記憶も作り物だったと?」

 

 皆城総士と向かい合って僕は会話をする。

 

「確かに竜宮島は楽園だった。だがそれ以上に平和を知る心が、平和を尊ぶ心が必要だった」

 

「無に抗う為か……」

 

「そうだ」

 

 自分の存在の根源がなにもない作られた存在だったとしても、僕はここにいることを選び続ける。その答えを得た。

 

「存在を選び続ける事が僕の祝福だ。もう無に囚われたりはしない」

 

「…僕は君にたくさんの痛みを背負わせた。今までも、そしてこれからも」

 

 先輩たちを救う事は出来なかった。その悔しさを胸に蔵前や羽佐間を救った。甲洋の事は僕の責任だ。だから僕は存在する事を選ぶ。いなくなることで痛みから逃げない為に。

 

「それでも存在する事を選ぶさ。僕の還る場所を守る為に」

 

「そうか……」

 

 皆城総士の存在が薄れていく。代わりに胸の中に温かい物を感じた。肌身離さず持っていた結晶に生命の暖かさを感じる。

 

「お前はどこにいくんだ?」

 

「僕の生命は既に受け継がれた。ここには最後の忘れ物を届けに来た様なものだ」

 

「存在と無の循環。その廻りの中で何度でも一騎と出逢う為に、か……」

 

「君がその存在に至る事はないだろう。存在を選び続ける限り、君は存在し続ける」

 

 まるで僕が望む限り死がやってこない様な言い振りを皆城総士は僕に言った。永遠の存在。それに僕がなるというのか。

 

「ゾッとしないな。僕は皆と生命を終えたい。人は何時か生命を終えて次に託すものだ。僕も乙姫もそうである様に」

 

 だがその時までは僕はこの祝福と共に行き続けよう。自分の存在が変わったとしても存在し続けよう。皆と生きる為に、皆を守る為に。皆と帰る為に。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの島から帰ってきてから春日井くんも皆城くんも姿を見せない。

 

 知っていたのに、私は目の前のことで精一杯で。春日井くんを助けられなかった。

 

 みんなで春日井くんのお見舞いに行った。ショコラも連れて。春日井くんとお散歩に行った日に、私はショコラを春日井くんから預かった。帰ってきたらまた一緒にショコラのお散歩をしようねって約束したのに、私はその約束を守る為に頑張らなかった。

 

 こんな痛みを、皆城くんはひとりで背負っていたんだ。

 

「まだ彼の心は消えていないよ」

 

「来主…?」

 

「アンタっ」

 

 春日井くんのお見舞いをしている私たちの前にあの子が現れた。来主 操。フェストゥムなのに心を持った存在のあの子が。

 

「お願い来主くん。春日井くんを治して」

 

「そうだ……、来主、お前なら甲洋を治せないのか?」

 

「治せるならさっさと治しなさいよ! アンタたちがやったことでしょ!」

 

 みんなの視線が来主くんに向く。それに来主くんは申し訳なさそうな顔を浮かべて答えた。

 

「おれには出来ない」

 

「っっ!!」

 

「咲良!」

 

 出来ない。それは治せないという現実を私たちに突きつけた。咲良がそれに凄い剣幕で来主くんに掴みかかろうとするのを一騎くんが止めた。

 

「離しな一騎! こいつらの所為で甲洋はっ、父さんは!!」

 

 今にも殴りかかろうと一騎くんに止められながらも暴れる咲良。咲良はフェストゥムが島を襲った日にお父さんを亡くした。そのお父さんの仇を討つ為にファフナーに乗っている。だから人の姿をしていても来主くんが憎くて堪らないんだろう。

 

「君はおれに憎しみを感じるの?」

 

「当たり前よ!! アンタたちが居なければ父さんは死ななかった! 甲洋もこんなことにはならなかった!」

 

 憎しみを来主くんに向ける咲良に私はハラハラしながら二人を交互に見ていると、真矢がもう一度来主くんに言った。

 

「春日井くんのこと。本当に治せないの?」

 

「うん。彼の存在は同化されて存在と無の地平線に居る。今治しても彼はただそこにいる存在になってしまう。彼が存在の側に来たときはじめて彼を取り戻す事が出来る」

 

 来主くんの言葉にみんな理解が追いつけていなくて言葉をなくしている。仕方がないよね。認識制限コードの所為だけじゃない。私たちはまだフェストゥムについて知らないことが多すぎるから、来主くんのいう言葉の意味を理解できない。

 

「今治しても、一生寝たままだっていうのか?」

 

 近藤くんの言葉にみんなの目が今度は近藤くんに向く。

 

「皆城総士の知識に当て嵌めて表現するなら彼のいう通りだよ。彼の人としての心は同化されてしまった。今治しても心のない存在になってしまう。人の心は本当に難しいんだ。だから彼自身が自分の存在を望んだ時でなければダメなんだ」

 

 私だけが今、来主くんの言葉の意味をわかっている。でもそれは春日井くんの人としての人生を歩めない時がやって来ることになる。皆城くんはそれが嫌で春日井くんを守ろうとしていた。それにどんな変化が未来で起きてもみんな一緒でなら乗り越えられると信じて。

 

 そこからみんな言葉もなくて解散になった。真矢に一緒に帰ろうと誘われたけど、私は聞きたいことがあったから残ることにした。

 

「来主くん。皆城くんはどこにいるの」

 

 訓練にも姿を見せなくて、果林ちゃんも姿を見ていなくて、見掛けたら教えてとも頼まれる程皆城くんは何処にも姿がない。だから来主くんに訊くことにした。この子なら皆城くんの居場所も知っていると思ったから。

 

「無の中。今、総士はそこで戦っているよ」

 

「無の中って……」

 

 皆城くんに何があったのか。どうしてそんな所で戦っているのか。またひとりで全部背負っているの?

 

「存在と無の共生。総士が総士である為に総士は戦っているんだよ」

 

 皆城くんが、皆城くんであるために。その言葉の意味を私には理解できない。でも存在と無の共生という気になる言葉を来主くんは口にした。

 

「皆城くんは何をしているの?」

 

「自分の存在を取り戻しているんだ。その結果、自分の存在が消えてしまうとしても、対話の先に総士の未来があるから」

 

 とても辛くて、悲しげな顔を来主くんは浮かべている。皆城くんを庇い続けて、同化じゃなく、一緒に存在する事を選んだ来主くん。そんな来主くんが、少し羨ましい。

 

「来主くんは皆城くんが好きなんだね」

 

「すき…? 好きって、どういう事?」

 

「え、えーっと…」

 

 身を乗り出して私に「好き」という意味を訊いてくる来主くん。

 

 嬉しい。悲しい。人の感情を持ってもまだ来主くんは人の感情すべてを理解しているのわけじゃないみたい。

 

「相手の事を考えると嬉しくなったり、一緒に居たいって気持ち……かな?」

 

 あとは胸がドキドキするとかもあるけど、そこまでいうと私には説明出来そうにないから、わかりやすい例え話しで来主くんに「好き」という感覚を私なりに伝えてみた。皆城くんならもっと上手く出来たのかな?

 

「…好き……好き……おれは、総士が好き……?」

 

 好きということがまだわからなくて首を傾げる来主くん。でも皆城くんを守っていた来主くんならきっとその気持ちもわかると思う。

 

「来主くんは嫌いって思いはわかる?」

 

「それならわかるよ。人類の火も今のおれの仲間も嫌いだ」

 

 嫌いという感情がわかるなら、好きという感情は伝えられる。

 

「その反対が好きっていう感情なの。その相手と一緒に居たい。一緒にいると嬉しい。その相手の為に何かしてあげたい。それが好きっていう心なの」

 

 私が一騎くんを想う様に、真矢が一騎くんを想う様に、一騎くんが皆城くんを想う様に、乙姫ちゃんが皆城くんを想う様に。

 

「好き……それが、人の心…。これが、好きっていう感情…」

 

 今はまだ小さな変化かも知れない。でも彼等が人の感情を理解した時、争いはきっとなくなると思う。たとえ彼等が憎しみを学んでしまったとしても、愛する事を学べば生命の大切さを学んでくれる。私はそう思うことでしか世界を祝福できないから。

 

 

 

 

 

to be continued…

 

 




翔子「ど、どうかな? 皆城くん」

総士()「要点は押さえている。先ず先ずの出来だ」

来主「なんでおれは褒めてくれないの~!」

総士()「ポエムとは1日にしてならずだ。お前のポエムは希望に向かう言葉で締め括る癖がある。修正が必要だ」

来主「おれにはわからないよ。だって人って希望の為に生きているんでしょ?」

総士()「希望だけ並べ立てても希望にはならない。希望を強調する表現が必要だ」

来主「人の心はやっぱり難しいよ」

乙姫「月刊少年冒険キングに隔月掲載の皆城ポエム指南もよろしくね!」




中断メッセ風その2。
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