皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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何故か芹ちゃんが出てくる夢を見ました。

何故か芹ちゃんを押し倒してる体勢で、慌てて退こうとしたら芹ちゃんが芹ちゃん殿になって押し倒される体勢になって、身体を同化されながら「なんであたしを放っておいたんですか?」って言われながら色んな意味で食べられた夢でした。

恐くなったのでお話は進まないものの投稿致します。だからお願い芹ちゃん殿赦してください(パリーン


皆城総士になってしまった…UX03

 

 後輩組の訓練の最中。島に来主の気配を感じた。

 

 乙姫を通して僕は島のミールと繋がっている。

 

 島のミールが異なるミールの使者を察知すれば、同時に僕もそれを知ることになる。

 

 ブルクのファフナーで動かせる機体はマークゼクスのみだった。他にはマークフィアーもあるが、フィアーはコアが内蔵されていない為、対フェストゥム戦闘には使うことが出来ない。

 

「ちょっと、何をするの皆城君!」

 

「敵が来ます! マークゼクスの起動をお願いします」

 

 上着を脱ぎ、コックピットブロックに乗り込む。

 

「ぐぅっ。改良されているとはいえ、シナジェティック・スーツがなければこんなものか…っ」

 

 接続時に感じる痛み。その痛みに生理的な涙が溢れそうになるのを、奥歯を噛み締めて耐える。スーツを着ていれば痛みも軽減されるが、スーツ無しでの接続はかなりの痛みを伴った。

 

 コックピットブロックがファフナーに送還され、機体との接続が始まる。

 

 起動は問題なく成功した。

 

「お前たちなのか? 来主」

 

 記憶にある本来の未来。北極の決戦後に訪れる対話の時。

 

 それは本来ならば2年後の話だが、この世界はなにが起こるか予想がつかない。

 

 なにしろ日野美羽が生後2ヶ月にして既に2才児程度に育っているのだ。ミールが彼女の成長を促したのか。それを確かめる術はない。

 

 だが、彼らが来るというのならば、何れにしろ戦わなければならないだろう。

 

 ルガーランスを装備して発進する。

 

 海面を割って飛び立ち、上空からフェストゥムのもとへ向かう。

 

 敵はグレンデル型、アルヘノテルス型、スフィンクスA型種とD型種を確認している。

 

 一番近い立上のマークアインとクロッシングし、彼女を現場に急行させた。

 

 レヴィンソードでアルヘノテルス型を切り裂いたマークアインは、そのコアを掴み取って同化していた。

 

 SDPは使えないはずのこちら側のファフナーで敵を同化する。どの様なトリックを使っているのか一瞬考えたが、考えるよりも先に彼女を止める方が先決だった。

 

「止せ、立上! ノートゥング・モデルでは同化現象は…!」

 

 通常の同化現象に合わせて、SDPは新たな同化現象も引き起こす。そして今の立上は自身のミールの因子を活性化させ、SDPを発動させているのだろう。

 

 それは人の道から自ら外れるものだ。

 

『あたしも守ります。世界が違っても、ここは乙姫ちゃんの島だから…っ』

 

「だが…」

 

 その選択は尊重したい。だが、なにも立上が生命を削ってでも成すべき事ではないはずだ。

 

『それでも。あたしはやります』

 

 スフィンクスD型種を同化し、立上はひとりでフェストゥムを一掃した。ノートゥング・モデルでもSDPが使えれば、マークザインと同等の戦力になる。それが立上の強みだ。だが、SDPをノートゥング・モデルで使用すれば、立上自身どうなるのかわかっているはずだ。

 

「大丈夫か、立上」

 

『平気です。心配してくれるんですか?』

 

「当たり前だ。僕たちは帰らなければならない場所がある。君がいなくなれば、乙姫と織姫は深く悲しむだろう」

 

『総士先輩は、悲しいと思ってくれないんですか?』

 

 少し意地悪な聞き方だろう。なにも思わない他人とプライベートまで付き合う様な人間じゃないことは立上もわかっているはずだ。だが互いに思うことを言葉にしなければ不安に思い、時にはすれ違うのが人間だ。

 

「……僕も、悲しいと感じる時はある」

 

 相変わらず自分でも回りくどい言い方しか出来ないと思う。立上がいなくなると考えると、心がざわつく。僕にも仲間を想う感情はある。

 

 一騎の居ない現状で、それでも普段通りでいられるのは立上が居るからだ。

 

 彼女は僕に甘えていると言うが、僕も少なからず彼女に甘えているところがある。

 

 その戦闘能力は当然として、僕は一騎に頼るよりも、事情を共有している立上に頼る事が多い。最近の僕はそれがより顕著だ。

 

『ふふっ。大丈夫ですよ。あたしはいなくなったりしませんから』

 

 そんな保証など何処にもない。だが立上は確信を込めてそう言い放ってきた。

 

 確かに立上の場合はそう言えるのだろう。だが、果たしてそれで良いものかという不安もある。

 

「ん…?」

 

 機体の識別コードが新たに加わった。

 

『マークザイン…。こっちの一騎先輩?』

 

「…………」

 

 あえて接触を避けていた相手。こちら側の一騎は、記憶にある本来の未来の一騎に近い状態だろう。

 

 僕自身。一騎の不在で不安定な部分もある。立上に甘えているのはそういうところだ。

 

 自分は皆城総士ではないが、皆城総士である。

 

 そんな自分が、一騎ではないが、真壁一騎である存在を前にして、どう接して行けば良いのかわからなかった。

 

 敵はすべて退けたものの、マークザインが出てきた訳。恐らくそれは敵がまだ退いていない事を示している。感じるのだ、ミールを通して、別のミールの気配を。

 

『総士先輩…』

 

「ああ。まだこれからだ」

 

 再びスフィンクス型が現れた。スフィンクス型の1体がマークザインの目の前で姿を変える。

 

 エウロス型。個体能力ではリミッター付きのマークザインと同等。ディアブロ型と双璧を成す個体だろう。

 

 単体でならば問題はないだろうが、見た限り増援のスフィンクス型すべてがエウロス型へと変化した。

 

 エウロス型相手にファフナー部隊は苦戦し始めた。初陣の後輩組を庇うために、剣司たち先輩組は奔走しなければならず、己の持ち味を生かしきれていない。

 

 そしてマークザインも動きが鈍い。

 

 いや、マークザインの中にいるマークニヒトを抑える事で精一杯のはずの一騎が、戦闘の負荷で急激な同化現象に襲われているからだろう。

 

「っぅ…っ」

 

『総士先輩…!?』

 

「なんでもない。マークザインを援護する。エウロス型はこちらで引き受けるぞ」

 

『わ、わかりました!』

 

 立上に指示を出しながら、痛みの走った自分の腕を見てみれば、僅かに結晶が見えた。

 

 肉体が結晶化するには随分と早すぎる。ファフナーに乗っている事で起こるものではないと瞬時に判断し、思考を戦闘に振り向ける。

 

 マークザインを攻撃するエウロス型に何者かの攻撃が突き刺さる。

 

 エネルギー系の兵装だったが、それらの兵装を持つのは現状ではマークフュンフのゲーグナーか、マークドライツェンのルガーランスだが、どちらもエウロス型からの攻撃を避けるので手一杯だった。

 

 そして現れたのは赤い戦闘機と、青い人型機動兵器だった。

 

 二機の連携攻撃で、マークザインを襲っていたエウロス型は倒されたが、青い人型機動兵器は空間を砕いた様にも見えた。

 

 そして空中に浮く戦艦から様々な人型機動兵器が現れた。

 

 あれがアルティメット・クロス――UXと呼ばれている混成部隊か。

 

 フェストゥムを相手に通常兵器で対抗できる特殊部隊。

 

 強い意思を感じる者たちだった。

 

 しかしエウロス型の波状砲撃の弾幕によって思うように前には出れないらしい。フェストゥムが人類の兵器を使うというのはそれほどの衝撃を与えるものだ。

 

 立上のマークアインがエウロス型に切り込むが、レヴィンソードを捕まられて身動きを止めていた。

 

「使え、立上!」

 

 ルガーランスを投げ、立上が相対するエウロス型の胸に突き刺さる。

 

『うおおおおおっ!!』

 

 その衝撃の隙を突き、ショットガン・ホーンを突き刺して砲撃し、エウロス型を吹き飛ばした立上は、吹き飛ばされるエウロス型に突き刺さるルガーランスを掴み、レヴィンソードと合わせた二刀流で上段からエウロス型に降り下ろした。

 

 ライフルに変化した右腕で防御するエウロス型だったが、その防御を打ち払い、ショットガン・ホーンをエウロス型の胸に突き立てて地面に押し倒した。

 

『…大丈夫だよ。痛いのも、怖いのも。すぐに終わるから』

 

 もがき暴れるエウロス型を同化する立上は何を思ってそう呟いたのか。

 

 そして立ち上がるマークアインがルガーランスを掲げ、展開した刃から光を放ち、その光に触れたエウロス型が次々に結晶化していく。

 

「…っ」

 

 腕の痛みが引いていく。だが内心穏やかではいられない。この現象がどの様にして行われているのかを知っているからだ。

 

「増援だと? まだ来るのか」

 

 沿岸部にエウロス型の増援が現れる。腕をライフルに変化させたエウロス型による遠距離砲撃に機動部隊も足並みを乱される。

 

「ぐぅっ」

 

 さらに島にダメージを与える攻撃に、身体に激痛が走る。

 

『総士…!』

 

 クロッシングしている乙姫の声が聞こえてくる。

 

「心配するな。僕は、平気だ…っ」

 

 島の痛みを、乙姫と織姫を守る為ならば、僕はいくらでもこの身を犠牲にしよう。それは世界が異なろうとも変わらない。

 

 弾幕を張るエウロス型が攻撃の手を止め、撤退していく。

 

 エウロス型が退き、そして島に来主が現れ対話を求めて来た事で戦闘は終わった。ファフナー部隊は自動操縦で島に帰投する。

 

 コックピットの中で、僕は身体から生えている結晶を振り払う。エウロス型の攻撃による島への負荷を肩代わりした程度で、痛みに喘いでいたらこの先が思いやられる。皆城総士だったのなら、この痛みにすら耐える事が出来たのだろうか。

 

 コックピット・ブロックのハッチが開くと、立上が待っていて、不安を浮かべた表情でこちらを覗き込んできた。

 

「…総士先輩」

 

「あまり無茶をするな」

 

「総士先輩だって。他人のこと言えませんよ」

 

 そう言いながら、立上は僕の腕を掴んできた。何故だかその視線に咎められている気分になる。

 

「島の痛みを、乙姫ちゃんと織姫ちゃんの負担を肩代わりするなんて」

 

「…それは君も同じだろう」

 

 僕の感じた痛みさえ同化してしまった立上には言われたくはなかった。

 

 ファフナーの、ノートゥング・モデルの性能を超えているSDPの行使は、着実に立上の人としての存在を削ったものだろう。

 

「あたしは良いんです。あたしは死なないから。でも、総士先輩はそうはいかないんです。だからあたしに任せてください。痛みはあたしが背負いますから」

 

「立上……」

 

 自分は死なない。そう言う立上に、なにもしてやれない僕は申し訳なさでいっぱいだった。その役目は僕がしなければならない事だ。なのに僕の弱さが、彼女に負担を掛けてしまう。それが申し訳なかった。

 

「立上。僕に出来ることはないか?」

 

 だから僕に出来ることは立上の望みを叶えてやるくらいのものだ。痛みを背負わせてしまっている彼女にはそれでも足りないだろう。

 

「いつも通りで、あたしは満足ですよ」

 

 コックピット・ブロックから立上に引き上げられる。僕自身そこまで軽いわけでもないのだが、彼女は軽々しく僕を引き上げた。そして柔らかい笑みを浮かべながら、彼女は僕の胸に頭を預けてくる。

 

「でも。そう言ってくれるなら、ひとつお願いしても良いですか?」

 

「僕の出来る範囲で全力を尽くそう」

 

「じゃあ…」

 

 そう言いながら立上は僕の腰に腕をまわしてくる。

 

「抱き締めながら、頭を撫でて貰えますか? 乙姫ちゃんにするみたいに」

 

「わかった…」

 

 そう言いながら身体を預けてきたということは、今この場でして欲しいのだろう。ある程度事情が知れ渡っている僕たちの島でなら構わないのだが、ここは僕たちの島ではない。

 

 しかし出来ることはすると言ったのは僕だ。

 

「ん…っ」

 

「これで良いか?」

 

「はい…。とっても、安心できます」

 

 いつも僕が洗っている指通りの良い髪の毛を撫でる。手入れに関してはいずれ乙姫の世話を出来る様にする為に自分の髪の毛を伸ばして研究してきた甲斐あって我ながら満足できる仕上がりだ。

 

「大丈夫か?」

 

 僅かに震えている立上に声を掛ける。彼女がこうも場所を選ばずに甘えてくる理由があるのを僕は察して、その理由を問い掛ける。

 

「はい。でも、もうちょっとだけ、このままで」

 

「わかった…」

 

 立上の頭を撫でてやりながら、僕は出歯亀をしている面々になんと説明しようかと思い悩む。

 

「ちょっとちょっと。向こうのあんたと総士先輩ってやっぱりそういう仲なわけ?」

 

「あ、あたしに訊かれてもわかんないよぉ…」

 

 里奈がこちらの立上に訊ねているが、答えられないのも仕方がない。なにしろ僕自身ですら立上をどう扱いたいのか、扱って接するのが正しいのかわからないのだから。

 

 赤の他人ではない。妹と姪の親友。学校の後輩。ファフナーのパイロット。未来を知る者同士。

 

 僕たちの関係は改めて考えても言葉にするのは難しい物だ。ただ立上か傍に居るのは既に僕にとっては当たり前の日常になっている。だから失いたくはない存在である事は間違いない。

 

「まったく、なにやってんだか」

 

「でもちょっと様子が違うような気がするけど」

 

 要の呆れたような声と、洞察力の鋭い遠見の声も聞こえる。

 

「立上。そろそろ良いか?」

 

「いやです。もうちょっとだけ」

 

 どうやら今の立上は普段より我が儘であるらしい。普段は乙姫や織姫が居るから何処か遠慮をしている彼女だが、二人きりの時は乙姫よりも甘えてくる傾向がある。その辺り乙姫は聞き分けが良い。織姫は、あとで埋め合わせする必要があるが渋々受け入れてくれる。

 

 普段遠慮がある分、一度こうなると中々立上は離れたがらない。PTSDを患った時に甘く接しすぎたのがいけなかったのだろうか。しかし僕にはもう彼女を冷たく引き離す事は出来ない。彼女の好意を知るからこそ、歪な想いを抱かせてしまったからこそ。僕は立上の敵になってはいけないのだ。もしそうなった時、彼女は壊れてしまうだろう。だから僕は何があろうとも彼女の存在を肯定し続ける義務がある。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 島の負担を肩代わりして痛みを背負う総士先輩が心配で、ちゃんと総士先輩がここにいる事を感じる為に甘えるだけ甘えたあと、あたしはここが自分達の島じゃないことを思い出した。でも早いか遅いかの違いしかない。

 

 総士先輩があたしたちを覗き見ていたみんなに、あたしがPTSDを患っている事を話すと、一様に空気が暗くなってしまった。

 

「あの、それって、あたしもなっちゃったりするんですか?」

 

 そう不安そうに手を上げて総士先輩に質問したのはこっちの世界のあたしだった。

 

「まったくならない、とは僕にも断言は出来ない。PTSDを発症するのはその人間それぞれだ。立場も状況も違えば発症しないとは言い切れないものだ」

 

 そう総士先輩は伝えた。あたしはただ、あたしだけの恐怖心だけじゃない。乙姫ちゃんが感じた恐怖も一緒だった。

 

 あたしは総士先輩に支えてもらうことでその恐怖を誤魔化した。優しく接してくれる総士先輩の温かさに触れる事で生まれる安心感で恐怖を忘れる。

 

 それはあたしが乙姫ちゃんとクロッシングしていたから感じた想いで、あたしの想いの半分は乙姫ちゃんの物だった。

 

 でも今は、違う。この想いはあたしだけの物だって胸を張って言える。だってあたしは決めたから。未来のあたしから記憶を受け取った時、あたしは乙姫ちゃんや織姫ちゃんだけじゃない、総士先輩だって守るんだって。

 

「でも少しは人目を気にしなって。見てるこっちが恥ずかしくなるっての」

 

「なるべく善処はする。だがある種の治療行為の様なものだ。大目に見てくれると助かる」

 

「そりゃ、そうかも知んないけど」

 

 傍から見ると、やっぱり人目を気にしないで抱き合ってるようにしか見えないのは仕方がないと思う。確かに要先輩の言いたいことはわかる。今までそういう事を言われることもなかったから気にしなかった。でも普段から人目を気にしていないわけじゃない。今回は総士先輩が無茶をしたから悪い。あたしは悪くない。

 

「ま、まぁ、なんにせよだ。取り敢えず着替えようぜ。総士だっていつまでもそんな格好じゃアレだろ?」

 

「そうだな。検査も控えている。この場は解散としよう」

 

 シナジェティック・スーツなしでファフナーに乗った総士先輩はアルヴィスの制服を新しく着替えないとならないし、総士先輩の言うように検査もあるし、いつまでもシナジェティック・スーツのままじゃいられない。

 

 近藤先輩が提案してくれたことで取り敢えず解散になってブルクから移動する事になった。

 

「……やっぱり、迷惑でした?」

 

「気にする必要はない。言い出したのは僕だ」

 

 でも、それに甘えたのはあたしだ。

 

 そんなあたしを、総士先輩は何も言わずに受け入れてくれる。

 

 だからあたしは、そんな総士先輩に甘える。その代わりにあたしは戦う事が出来る。

 

 恐くても、総士先輩が居るから恐くない。乙姫ちゃんと織姫ちゃんの島を守るために戦える。

 

 総士先輩の、乙姫ちゃんの、織姫ちゃんの英雄として、あたしは戦えるんだ。この生命が尽きたとしても、あたしは死なないから。戦い続ける事が出来る。

 

 痛みだって、あたしが背負う事が出来るんだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 初めての実戦は、なんかあっという間に終わっちゃって、戦った実感もほとんどなかった。

 

「なんか、あっちの芹は色々凄いのね」

 

「うん。そうだね…」

 

 里奈の言葉にあたしは頷いた。

 

 同じノートゥング・モデルに乗ってるのに、まるで別の機体の様な戦い方をする別世界のあたし。

 

 見た目はまったく違うのに、歳は同じなんていうのも信じられない。それに総士先輩と抱き合っている時のあたしはとても幸せそうだった。髪型があたしの知ってる総士先輩に似ているからか、総士先輩に抱き着いているあっちのあたしがなんでか乙姫ちゃんに見えた気がした。

 

「だがPTSDを抱える者を戦場に立たせるのは、あまり賛成ではない。言ってしまえばいつ動けなくなるかわからん味方が部隊に居ると言うことだからな」

 

 元々人類軍だったカノン先輩がそう零した。トラウマを抱えてでも戦わないとならない。だからあっちのあたしはあんなに強いのかと考えてしまう。

 

「もしそうなった時は助けてあげれば大丈夫だよ。あたしたちの戦いは、みんなで痛みを背負って生き残る事なんだから」

 

「まぁ。その辺りはなるようになるでしょ。白馬の王子さまも居るようだし」

 

 心配してもしもの時は助けてあげようと提案する遠見先輩。それはあたしも賛成。違う世界から来てもあたしはあたし。あたしだから危ないときは助ける事に異論はない。

 

 にやにやする要先輩があたしを見てくる。いや見られても反応に困ります。

 

「見てて砂糖吐けそうですよね。芹もあと5、6年したらあんな風になんのかぁ」

 

「なっ、ならないよっ」

 

 バカ里奈にそう言い返すけど、ちょっぴり羨ましいかなって思ったりはした。

 

 でもいったい何がどうなってあっちのあたしは総士先輩とあんなにも仲が良いのか疑問に思う。やっぱり付き合ってたりするのかな? でも一騎先輩一直線の総士先輩をどうやって振り向かせたんだろう。そう考えると急に恥ずかしくなってきた。自分の事じゃないのに、余計なことまで考えるのはあっちのあたしが色んな意味ですごいからかもしれない。やっぱり人前で気にせず抱き合っちゃうくらいだから、恋人なのかな。でもなぜかそう思えない。それはあっちのあたしをまるで乙姫ちゃんみたいだからと思った所為なのか。

 

 結局、考えても答えなんて出なかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 立上の検査は少し長引いた。通常の検査に加えて、SDPによる影響が現れていないか確かめる為だ。

 

 立上の場合は新同化現象が起きると周囲のものを同化してしまう。とはいえ、それは島がパイロットの命を守ろうとして発症するものだ。ゴルディアス結晶のないこの島ではどういった形で現れるのかは未知数だ。

 

 念入りに調べて大げさとは言えない。それが同化現象だ。

 

 しかしいつまでもノートゥング・モデルで戦わせていたら立上の存在は消えてなくなってしまうかもしれない。或いは甲洋や、島の祝福を授けた一騎の様な存在となってしまうだろう。

 

「SDP――超次元現象、か」

 

「はい。立上の場合は単独でザルヴァートル・モデルが行使する能力。敵の同化、武器との同化による性能強化、機体の再生を行えます」

 

「その代償は人であることから外れること、か」

 

 僕は真壁司令にSDPについての説明をしていた。今回の戦闘で立上の見せたSDPによる戦闘。ふたりの立上が居て、その両名が同じノートゥング・モデルに搭乗していてあれほどの戦闘能力の差を発揮するともなれば、機体ではなくパイロットが注目されるのは不思議な事ではない。

 

「彼女の戦闘能力を充分に発揮する為にはアルゴノート・モデルが必要です。現状でエウロス型に対抗出来てはいますが、その分機体とパイロットに多大な負荷を掛けています」

 

「アルゴノート・モデルはその為の機体であると?」

 

「はい」

 

 アルゴノート・モデルを作ったのはSDPによる負荷を軽減させる為に、より効率良く力を引き出す為だった。

 

 機体をミールと同質の存在とする事で、関係性を機体とパイロットで完結させる。それによってパイロットの、島のミールとのクロッシングの負担を減らすことが出来る。だがそれは結局は乗りやすくなったザルヴァートル・モデルに乗っているだけに過ぎない。同化現象は過酷だ。それを島のミールが命を守る特性を利用して同化現象を抑えさせていた。

 

 この島のミールと、現状保管されているコアでは同じようには行かないだろう。しかしそれでも、彼女を守る力にはなるはずだ。

 

 そして、いずれ現れるだろうマークニヒトに対する対抗手段にもなる事が出来る。

 

「更なる敵襲来に備え、戦力を強化する必要もあるか。よかろう、アルゴノート・モデルの建造を許可しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 許可を貰えたことで、僕は感謝を込めて真壁司令に深く頭を下げた。

 

「君の齎した力は、いずれ我々の力になる時が来るやも知れん。なら、現状でその扱い方を理解している君たちが居る間にその力を見極めさせてもらいたい」

 

「了解しました」

 

 その言葉を聞きながら、僕は建造スケジュールを組み立てる。組み立ては僕自身が出来るとしても、パーツに関しては保さんとも相談しなければならない。

 

「君は来主操をどう思う」

 

 そんな僕に真壁司令が問いかけて来た。来主の言葉は全島民に中継されていた。

 

 僕にとっては来主は既に共に戦う仲間ではあるが、こちらの来主はまだ人間を理解している最中だ。

 

「敵ではない、と思っています」

 

 むしろ来主たちボレアリオスは被害者だ。彼らは争いを望んでいない。だがそれを無差別に人類軍が攻撃してしまった。

 

 その所為で人類に敵意を持っていない彼らを憎しみに染めてしまった。

 

「人類軍の核攻撃が、彼らを憎しみと憎悪に向かわせてしまった。しかし、まだ引き返せるでしょう。その為に、彼らとの対話の道を切り開く必要があると思います」

 

「彼らが我々に使者を送ったように、我々にも彼らと対話する使者を送る事が出来ると?」

 

「はい。しかし、それにはおそらく乙姫以上に我々の言葉を彼らに伝える事の出来る存在が必要でしょう」

 

「ふむ…」

 

 本来ならば、このことを伝えるのはこちらの世界の皆城総士の役目であるが、この世界の事情を考えると、僕の知る未来に辿り着けない可能性もある。憎しみに駆られた彼らとの対話は、皆城総士の言う様に賭けに近い。

 

 今の現状で出せるヒントはこれが精いっぱいだ。何故なら僕たちはこちらの真壁司令には過去の人間であるという認識だからだ。なのに彼らとの対話の手段を口にしてしまえば余計な混乱と疑念を生んでしまうだろう。

 

 エスペラントである日野美羽。彼女が希望であると伝えられない歯痒さ。

 

 だから、その答えが導かれるまで、島を守れる力を僕は欲した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 総士先輩が真壁司令に呼び出されてしまったから特に予定なんてないあたしは、岩戸に来ていた。

 

 まだ赤ん坊の織姫ちゃん。赤ん坊だけど、この島を守っている。いつも泣きたいのを我慢して、島を守っていた。

 

「守るよ、必ず。あたしが守るから」

 

『芹ちゃん…』

 

 織姫ちゃんを抱いた乙姫ちゃんが姿を現した。その顔は心配そうで、悲しそうだった。

 

「乙姫ちゃん…」

 

『ごめんね。芹ちゃんには関係ない事なのに』

 

「関係なくなんてないよ」

 

 あたしはそう言いながら、乙姫ちゃんに歩み寄って、膝を着くとその身体を抱きしめた。

 

 感じる。乙姫ちゃんと織姫ちゃんの存在(いのち)を。

 

『芹…ちゃん?』

 

「大丈夫だから。必ず守るから。恐くなんてないから」

 

 だから笑っていて欲しい。悲しい顔なんてしないで欲しい。世界は違っても、乙姫ちゃんは乙姫ちゃんで、乙姫ちゃんが悲しいと、あたしも悲しいから。

 

「ねぇ、乙姫ちゃん――」

 

 あたしに出来る事は少ないけれど、戦う事しかできないけれど。総士先輩に出来たのなら、総士先輩に負けないくらい乙姫ちゃんを想ってるあたしにも出来ないはずがないんだから。

 

 だってあたしは、乙姫ちゃんに幸せになって欲しいから。あたしの知ってる乙姫ちゃんや織姫ちゃんみたいに、笑っていて欲しいから。だから乙姫ちゃんを救いたい身勝手なあたしを許してなんて言わないから。

 

 

 

 

 

 

 

to be continued…

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