核万歳人類派の方も同化されてもええんやで?
だからこの世界を祝福して!
いくつもの可能性を見た。希望に溢れている未来もあった。だが絶望に沈んだ未来もまたある。
存在と無は表裏一体。どちらかがあるからどちらかがある。存在なくして無はなく、無なくして存在はない。
存在と無の循環はそういうものだ。
誰かが覚えている限り、その存在は生き続ける。
痛みを伴っても存在し続けることが辛いからと存在を諦めてしまった時、存在は意味を持たず無に還る。
無に還りたいと思うのは生命の回帰本能だ。
「お前は、どう世界を祝福する。一騎」
僕は選んだ。たとえ苦しみに満ちた生でも、そこに存在することを。悲しいことも苦しいこともたくさんあるだろう。だからといってその痛みを否定したくない。その痛みはその生命がそこにあった証だからだ。
「やっと、お前の答えを見つけられたんだな? 総士」
「先輩……」
僕は先輩たちを救えなかった。僕は答えを出すのが遅すぎた。
「そんなことないさ。お前が俺たちを忘れない限り、俺たちもここにいる。島の生命としてな」
「生まれ変わるという事ですか?」
「わからない。それを決めるのは俺たちじゃないからな」
先輩の手が僕の胸に触れる。生命の鼓動を示す場所に。
「お前はそこにいることを選んだんだろ?」
「はい」
「なら大丈夫さ。一騎だって、お前と同じ気持ちのはずさ」
果てしなく広がる可能性。その可能性の中に先輩たちを犠牲にしない未来もあるのだろうか。
「過去に戻ることは出来ない。たとえ戻れてもお前はそれをしちゃいけない。それは俺たちやみんなが戦った覚悟を裏切る事だ」
「未来を変えることは同じことでは?」
「人によったらそういう考えもあるかもしれないけど、俺はそうは思わない。過去は既に過ぎた事だ。でも未来はこれから訪れるものだろ? 選ぶことが出来るんだ。それを選ぶのは今を生きるお前たちだ。文句は未来の誰かに言わせとけ」
先輩の言うことも一理ある。確かに未来を変えて非難されるとしたら未来を生きるものたちからだろう。何故なら今を生きる者に未来などわからないのだから。
「みんなを頼むぞ。お前なら変えられるはずだ」
「……はい」
だが先ずは一騎の選択がすべての始まりになるだろう。一騎が存在ではなく無を選ぶことはないとは思っているが、それでもその時は僕が一騎を無から引き上げてやれば良い。
◇◇◇◇◇
「本当は行きたいんでしょ? 僚」
「祐未…」
総士を見送った俺に声を掛けてくるのは祐未だった。
「でも俺たちはもういなくなった存在だ。そんなやつらが出ていったらみんなびっくりするだろ」
未来を作るのは生きているやつの仕事だ。本当は俺が総士や蔵前に声をかけているのだってやり過ぎなくらいなんだ。
「それでも私は島に帰りたいよ…今でも…」
「祐未……」
島を守るために俺は祐未の願いを無碍にした。そうしないと島が危険だから。俺たちが戦った意味がなくなってしまうから。
「よくある話よ。死んだはずの先輩が生き返って、迷っている後輩を叱咤して、生きてて良かったってみんなで笑顔で終わるの」
「少年マンガみたいなノリだな。てか、それ実は死んでなかったネタだから俺たちは使えないって」
あの真面目な祐未がそういう話題を持ち出すなんて思わなかった。これも総士の影響かな。あいつ生徒会室に色々マンガ持ち込んでたしな。
学校という子供の夢を育む場所において必要なものだって。……戦争のない世界を目指して戦ったロボットものの話は好きだったな。人と人が誤解なくわかりあえる世界を目指して、最後は地球外金属生命体なんていう存在とすらわかりあう物語。
この世界とは反対だな。人と人よりも早く人とフェストゥムがわかりあおうとしている。
「それでもまだあの子たちは迷っている。だから迷子にならないように大人たちじゃない人生の先輩が必要なのよ」
「あいつらともう歳は変わらないだろ」
「でも戦った時間は私たちの方が先輩よ。その分の人生経験もね。仲間がいなくなっても希望を信じて戦った私たちの経験は、必ずあの子たちにも必要になるわ」
「まだ誰かがいなくなるって思っているのか?」
総士も頑張っている。あいつが及ぼした影響が島を守っているのに、これ以上の犠牲は出さない様に。なのに祐未はそんなことを俺に言う。
「危機管理能力の話よ。あなたが皆城君の味方なら、私は皆城君の敵。生徒会でもそうだったでしょ?」
そういえば意見の対立は大抵が総士と祐未だったな。総士が肯定派に立って、祐未が否定派に立って議論するのは生徒会の暗黙の了解事項だった。
ほんと不器用だなあいつは。答えなんて、もう自分の中に持っていたじゃないか。
「あの子たちを支えてあげて。皆城君は強がっているけどある意味あの子たちのなかでは一番の子供なのよ」
未来を認められなくてわがままで世界と戦っている総士。犠牲が出るのは嫌だと、戦いなら犠牲は付いて回るものを認めたくなくて抗っている総士。
確かに見ていて無理をしてるよな、あいつは。
「祐未は、それで良いのか?」
一緒にいられるのに、俺がいなくなっても平気なのか。
「存在と無の循環はそういうものよ。皆城君の言葉を借りるなら、祝福の彼方で会いましょう。何度でも」
「祐未……」
寄り添う祐未を抱き締める。確かにある暖かさ。でもそれも総士がいるから感じられる。あいつがいるから島に生命が溢れている。
あいつを消させない為か……。もう一度、島を守るために俺は――。
◇◇◇◇◇
「一騎くん……」
「心配ないよ。一騎はただ選びに行っただけだから」
シートに腰掛けながら後ろから身を乗り出して私に声を掛けてくれる来主くんに振り返る。
「うん。一騎くんなら大丈夫だって、信じてるから」
溝口さんが操縦する戦闘機で私は一騎くんのいる場所に向かっていた。来主くんが付き添いに来てくれた。フェストゥムなのにフェストゥムと戦ってくれる彼が、私を守るために。
「おれの仲間は生命の大切さを知らない。だから君がいなくならない様に守るよ。君がいなくなったらみんなが悲しむ」
来主くんは何が悲しいのか知っている。それがフェストゥムと戦わないで済む未来に繋がっているのなら、そうであってほしい。
「たくさんの存在を感じる。みんな恐いんだ」
「え?」
「お前さんがいるとレーダー要らずだな。モルドヴァを逃げ出した連中さ。もうじき一騎に会えるからな、口説き文句考えておきな嬢ちゃん」
「く、口説き文句って……」
一騎くんになんて言ったら良いのかなんて、私にはわからない。本当に来てほしい人は、私じゃない。本当に来たがったのは、私じゃない。
そんな私が、一騎くんにかけてあげられる言葉なんて……。
「言葉はそこにいる証し。君は一騎と話したい? 話したくない?」
「それは……」
「話すことは嬉しいよ。だって相手がそこにいるんだから」
「そうだね……。うん、そうだよね」
一騎くんは変わる前の自分を覚えていて欲しいって、言っていた。だからそれを覚えている為に会話は必要なこと。だって話さなかったらどう変わったのかすらわからないもの。
日野のおじさんに一騎くんのいる場所を教えてもらった。日野のおじさんはいなくなった。知っている人が、もうこの世にいないことがとても悲しい。でもそれが外の世界の常識で、生命なんて簡単になくなっちゃう。だからお母さんたちは必死で島を守ってきたんだって、本当の意味でわかったんだ。
マークザイン。一騎くんが乗っているファフナーがフェストゥムと戦っている。赤い光に包まれてみんな熔けていく。
『そこの機体、止まれ!』
「ちっ、見つかっちまったか!」
ファフナーが私たちの乗る戦闘機を掴んで離れようとする。
『ここは危険だ。これから生命の同化が始まる』
生命の同化?
「危ない!」
来主くんが身を乗り出して叫んだ。目の前に広がる赤い手が迫っていた。
「おわっ」
「きゃあっ」
『掴まれ!!』
溶岩の様にどろどろで赤い手が伸びてきた。ファフナーが戦闘機を抱えて空に逃げてくれる。
「ふぅ、助かったぜ」
『礼には及びません。マカベに助けられた我々はあなた方を守る義務があります』
「そりゃありがとさん。竜宮島の溝口だ。お礼にお前さんの名前を聞かせてくれ」
『人類軍参謀本部直属技術開発部所属。ジョナサン・ミツヒロ・バートランドです』
ミツヒロって、お父さんの……?
「お前……」
溝口さんも同じ事を思っているみたい。世界が広いと言っても、ミツヒロ・バートランドなんていう名前の人が他にいるのかな。
『あの男から島の事は聞いていました。だからといってあなた方を害する気持ちは自分にはありません。マカベの代わりに俺があなた方を守ります』
お父さんとどういう関係何だろう。私たちを守ってくれるのなら、悪い人じゃないよね。
「彼も選んだんだね。憎しみの中にある可能性を。それでも存在を選ぶことを」
◇◇◇◇◇
なにもない闇の中。仄暗い闇。僅かな赤い光が自分の輪郭をたしかめることが出来る光源の世界。
「総士……なんで?」
目の前に総士が居た。でも子供の頃の総士だ。包帯を巻いて左目を隠していた。その包帯が解けて左目の傷が現れる。
『総士君の目どうしたの!?』
『ひとりで遊んでいて転んだんですって…』
『かわいそうに…』
違う……。
『総士君の目、やっぱり回復は難しいそうよ』
『あんなひどい傷…。転んだなんて本当かしら』
『まさか誰かが?』
「俺がやったんだ……」
あの日、総士を傷つけた。それが怖くなって逃げたんだ。
痛がる総士を置いて、俺は自分の事だけしか考えられずに逃げたんだ。
「なんで俺がやったって言わなかったんだ!!」
そんなつもりはなかった。傷つけるつもりなんてなかった!
総士はなにも答えてはくれない。ただ言葉だけが口を突いて漏れ出していく。今まで溜め込んでいたものを吐き出すように。
一言で良かったんだ。その目の傷は俺がやったんだって、言ってくれれば良かったんだ。
「なのに、なんでお前は俺を責めないんだ!? 」
総士が言わないなら自分で言えば良かったんだ。でも出来なかった。総士を傷つけた事を知っているのは自分だけで、傷を負ったのは誰も俺の所為だなんて思っていない。
その事に安堵した自分が自分の罪を告白出来なかった。
だから自分の殻に閉じ籠った。無言で責められているような気持ちを自分で感じていたかったんだ。
「その傷の所為で、お前はファフナーに乗れないんだろ!!」
ファフナーに乗れない理由。俺たちと違うのは左目の傷。ティターン・モデルに乗ることがどういうことなのか蔵前に聞いた。
「俺の所為で、お前はしなくて良い無理をしているんだろ!!」
何度も倒れて、負担がかかるファフナーじゃないと戦えなくて、みんなの痛みをひとりで背負って。
「俺が逃げたからか!」
総士のこと、なんでもわかっているつもりだった。好きなことも嫌いなことも全部知っているのと思っていた。でもそうじゃなかった。
総士はたくさんの秘密を抱えていて、俺たちがなにも知らない頃から島を守っていた。その事も知らないで俺は総士から左目を奪ったんだ。そして逃げた。
「俺があの時、お前を置いて逃げたからか!!」
だから総士は俺になにも言わずに守ろうとしたのか。俺は総士の左目の代わりに……総士と一緒に、背負いたかったのに。
「お前は俺を怒っているんだろ。憎んでいるんだろ?」
総士を裏切った。総士を傷つけた。総士から逃げたから。
「だからお前は俺に、戦って死ねって言いたいんだろ!? 総士!!」
総士はいなくなっていた。俺のことなんか、どうでも良いんだ。総士…っ。
「ずっと、いなくなりたかった」
総士から左目を奪った自分がなんでなんの罰を受けることなく生きているんだって、ずっとそう思っていた。
「俺なんか、いなくなればいいって……」
ありがとう、一騎。お前がいてくれたから、島を守ることができた――。
「でも…せめて、お前に謝りたくて……」
俺がいることに感謝してくれた。だから総士の為になんでもしようって思った。なにも出来なくても、一緒にいることは出来るって。でも総士の気持ちをもっと知りたくて、総士と同じ目線に立ちたくて、だから島を出て世界を見てみたかったんだ。
「この傷が、僕を僕にした」
「総士……っ」
目の前に総士がまた現れてくれた。でも俺が知っている総士じゃない。
「僕は痛みを得る事で、人としての道を。存在する側の道を選ぶ事が出来た」
「僕は一騎とひとつになりたかった」
今度は俺の知っている総士が現れた。でも左目に傷がない。それはいいことのはずなのに、総士なのに総士じゃない感じがした。
「僕は島を守るために生きている。自分のために生きることは許されない。だからお前とひとつになって生きたかった」
身体から結晶が生えてくる。傷のない総士の右手にも結晶が生えている。総士が……なんで。
「はじめての痛み」
「乙姫?」
乙姫が俺と傷のない総士の間に立ち塞がる様に現れた。
「総士が総士として存在する為に必要な痛み、大事な傷。総士はね、一騎に感謝しているんだよ?」
「感謝……?」
あんなひどい傷を負わせたのに、なんで総士は俺に感謝するんだ?
「人の持つ回帰本能。自分の存在を否定された時、人は自らを肯定してくれる存在を求める。回帰本能がミールの因子を呼び覚まして、僕は一騎と共に無に還る事を望んだ」
「無に還るって……」
「すべてを無に帰すのが彼らの祝福だ。存在を消すことが彼らの祝福だ」
なんで総士がそうなったんだ。なんで総士だったんだ。
「僕は初めからどこにもいないんだ。だからお前とひとつになれる場所に帰りたい……。共に生きよう、一騎」
「総士…お前…!?」
傷のない総士と俺の身体の同じところに結晶が生えて来る。
「まだお前には理解出来ないかも知れないが、いずれわかるときが来る。お前はどうする? 一騎」
「俺は……っ」
「あなたは、そこにいる?」
島を出る前に来主に言われた言葉。あの時答える事が出来なかった言葉。
「それとも、いなくなりたい?」
「俺は……!」
総士と一緒に居たいと思う事は総士と同じだ。
でもっ。
「俺は総士に、ちゃんと、もう一度、話がしたいっ」
身体の結晶が砕け散る。傷のない総士が消えてしまった。
「総士……!?」
「あなたはここにいることを選んだんだよ」
「俺が…?」
ずっといなくなりたいと思っていた俺が、ここにいることを選んだ…?
「会話は相手がいなければ成立しない。言葉は相手が存在してこそ意味を持つ。お前は対話という方法で存在を選んだんだ」
相手がそこにいるから、会話は成り立つ……か。
「コアに進むべき道を示してくれて、ありがとう」
「世界の未来を選んだ事に、感謝する」
乙姫と、俺の知らない総士が消えていく。
「総士……」
「…僕は待っている。お前が帰るべき場所で、ずっと」
待っていてくれ総士。そして帰ったら話をしよう。今まで出来なかった分、たくさん話そう。
to be continued…
来主「総士!」
総士()「なんだ?」
来主「なんでもない! ただ呼んだだけ」
総士()「???」
来主「総士は一騎が好きなのはどうして?」
総士()「なんだ? 藪から棒に」
来主「好きって感情は難しいよ。おれは総士のことも一騎のことも、みんなの事が好きって事になる」
総士()「それはこれから学べばいい。だから難しく考えるな」
来主「総士……」
総士()「僕は君の事を好ましく思っている」
来主「ホント? 総士がおれの事を好きで嬉し!」
乙姫「本人たちが天然だから良いけどこれはみんなには聞かせてあげられない。ただでさえ学校の裏の即売会で最近ネタにされているのに」
僚「難儀だな。妹ってやつも」
中断メッセ。好きってなに?