そしてジョナミツの総士病発症まであと……。総士()は珪素キラーだから仕方がないよね。
おれの名はジョナサン・ミツヒロ・バートランド。
新国連のファフナー開発を取仕切るミツヒロ・バートランドの息子だ。……そういう記憶を与えられた人形だ。
パペットと呼ばれる存在だ。やがて世界を滅ぼそうとする存在になる。
最初はおれもいなくなろうとした。だが、おれを信じてくれたマカベの為にも、おれはひとりでも多くの誰かを助けようと決めた。その時が来るまで、何処かの誰かの平和の為に、おれが戦う事で、少しでもDアイランドに平和が訪れる様に。
あの男がモルドヴァで進めていたザルヴァートル・モデルの開発に参加した。だがおれにザルヴァートル・モデルは扱えなかった。コアの問題もあるのだろう。このコアはマカベのファフナーから移植されたコアだ。だからマカベ以外には動かせられないのだろう。
あれだけ皆を苦しめたマークレゾンが時々恋しくなる時がある。世界中で生命を救うために戦った。だが救えない生命も多かった。人類軍で最強のファフナーであるメガセリオンに乗っていても、救える生命に限りがあった。ザルヴァートル・モデルであれば救える生命を救えなかった。
マークザインが生まれる場所に居合わせられたことはこの上なく幸運だった。だがマヤまでも同化するところだった。こんな時にマヤにも会えて良かった。偽りの繋がりでも、彼女はおれを家族として迎い入れて、おれの為に涙を流してくれた。だからマヤだけは憎めなかった。
マカベと話終わったマヤがおれのところにやって来た。
「ありがとう、助けてくれて」
「いや。そうしたかっただけだ」
「そう。……ねぇ、お父さんは元気?」
「ああ。……フェストゥムに復讐する為にファフナーの開発ばかりしている」
「そうなんだ……」
最初はやはりぎこちない。それも仕方がない。明らかに歳が近い。ならそういう事かも知れないとマヤは考えてしまうのだろう。
「こんにちは!」
「っ!? お前は!!」
「きゃっ、ミ、ミツヒロ!?」
あわててマヤを背中に庇い、銃を向ける。何故お前がここにいる。
「君はおれに憎しみを感じるの?」
「フェストゥムが何故ここにいる。なにを企んでいる!」
マヤが着ている対Gスーツと同じものを着ている。見たところマヤはコイツを警戒していないが、コイツはボレアリオスのコアだ。それが何故今マヤたちと行動を共にしている。
「痛みを減らす為に、おれはここにいるんだ」
「痛みを減らす……だと?」
「君もそうでしょ? 痛みを減らす為に戦ってる」
その言葉を聞いて銃を構える腕が下がる。その腕をマヤが押さえてさらに下げてくれた。
「なんだかよくわからないけど、皆城くんを守る為に来主くんは島にいるんだって。もう何度も私たちの為に戦ってくれたの」
「ミナシロが?」
ミナシロになにがあったのか? 話されてなかっただけかも知れないが、この時期にミナシロに何かがあった等知らない。
だからボレアリオスのコアが島にいるのか?
「それより早く島に帰ろう。島がおれの仲間に襲われる」
「本当か来主?」
「一騎くん?」
マヤに肩を借りていたマカベがマークザインに戻ろうとする。
「行かなきゃ。島を守らないと」
「でも、一騎くん疲れてるのに」
「頼む遠見。今行かなきゃ、きっと後悔する」
島を守るために、マカベは迷いはないだろう。かつてのおれがミワやエメリー、エスペラントを守ることに迷いがなかった様に。
「わかった。気を付けてね、一騎くん」
「ああ。ありがとな、遠見」
マークザインに乗って飛び立つマカベ。世界の救世主が島を守るために飛び立った。きっと島は大丈夫だろう。
「さて、俺らも帰るか」
派遣部隊の指揮官だったミゾグチの言葉にマヤとボレアリオスのコアが頷いた。
「君も来る?」
「おれは……」
マカベたちと戦ったおれに、Dアイランドの地を踏む権利があるのか。
「おれも一騎たちに痛みを与えた。でも今は、こうして総士を守るために島にいる。君にもあるよ。島にいる理由が」
「おれは……」
ボレアリオスのコアが居れば大丈夫だろうが万が一もある。
「マヤたちを島に送り届ける為に同行しよう」
それが今のおれに用意できる精一杯の理由だった。
◇◇◇◇◇
「どうしよう、島が占領されちゃったよ。お父さんお母さん大丈夫かな」
「大丈夫。二人ともシェルターにいるから」
「そう。良かった……」
芹ちゃんの両親。真幸と鈴奈はシェルターにいることを伝えると、芹ちゃんは安心してくれた。
一騎は選んだ。きっと総士も目覚める。でもその前に彼らがやって来るのが早い。
もう日は沈んだ。ソロモンのセンサー外で存在が増え続けているのを感じる。
もうすぐ彼らがやって来る。
「芹ちゃんはファフナーを動かせるよね?」
「う、うん。とりあえず接続テストはしたから一応は動かせるけど」
シェルターに連れていくことも考えたけど、今はそれ以上に安全な場所がある。
「もしかして、フェストゥムが来るの?」
「うん。そう遠くない内に」
でも芹ちゃんが戦う必要はないよ。戦うのは私の役目だから。マークツヴォルフは完成しているけれど、まだ芹ちゃんは実機訓練もしていない。いきなり戦わせるのに相手がプレアデス型なのはかわいそうだよ。
マークツヴォルフはマークツヴァイと同じ様にショットガン・ホーンとイージスを装備しているから守りは硬い。だからシェルターにいるよりも安全な場所だ。慶樹島のブルクは押さえられてしまったけど、本島のブルクにはまだ人は来ていない。そこは秘密のブルクで、行き方を知っている人間はそういない。私たちの他には多分史彦くらいしか知らないブルクにマークツヴァイとツヴォルフは隠した。
「行こう。他の人に見つからない様にするからゆっくりになるから」
「つ、乙姫ちゃん……?」
通風口の格子を外して中に入る。さすがに通風口からアルヴィスに入るとは思われないよね。
ちょっと埃っぽいけど我慢する。空気はミールが浄化してくれている。
「乙姫ちゃん、どこ行くの?」
「わたしたちの秘密基地、かな?」
四つん這いになって下へ続くルートを行く。点検用の作業通路にもさすがに人はいない。
「アルヴィスの中にこんなところがあるなんて」
「普段はエレベーターとか使っちゃうからね」
普通に生活していたり、パイロットなら先ずは立ち入らない場所。
「ちょっとびっくりするかも知れないけど、気にしないでね」
「え?」
キールブロックに入る。エレベーターホールとキールブロックの入り口の通路の通風口から外に出てキールブロックの入り口を跨ぐ。やっぱり総士にちょっかいを出そうとしてた。
「皆城……っ、乙姫!」
「こんにちは、由紀恵」
少し苦しそうに膝を着いている由紀恵。無理もない。彼女は島の人間で遺伝子操作もされているからその程度で済んでいる。でなければ彼女と一緒にいた人間みたいに同化されている。
「ちょうど、良かったわ。私と一緒に、来てもらうわ」
「島を棄てたあなたに、わたしは触れない。ミールがわたしを守っているから」
「くっ…!」
余計苦しそうに呻く由紀恵。わたしを害そうとする存在をミールが拒んでいる。
「総士には手を出さない方が良いよ。でなければあなたの存在はここで消える」
「脅しの、つもり?」
「脅しじゃないよ。事実を伝えただけ」
芹ちゃんの手を引いて先を急ぐ。キールブロックの通路をわたってジークフリード・システムに乗り込むエレベーターに向かう。
「待ちなさいっ」
立ち上がろうとして、一歩を踏み出した由紀恵の靴が結晶に包まれる。
「それ以上は本当に進まない方が良いよ。生きていれば会えるけど、いなくなったらもう会えなくなるから」
「ッ、ミツヒロさん…っ」
由紀恵は唇を噛み締めながら足を退く。結晶が砕けてなんともない様に見える。それを見届けてわたしは総士の前にやってくる。
「総士先輩……なんで…?」
「時が来るまで眠っているだけ。自分の器を育てながら」
コアたちがわたしたちの近くにやってくる。
「暖かい。でもこれって」
芹ちゃんにコアが触れる。だけどわたしみたいに身体に一体化したりはしない。
ファフナーのパイロット候補として訓練を始めてる芹ちゃんにも、コアがなんなのかはわかっているみたい。
「この島の生命そのもの。今この島は生命を産み続けているの」
「生命を……」
でもただ産むだけじゃダメ。その育みかたを教えないと。だから総士もコアたちを使って器を作っている。わたしも生命を育もうとしている。
「行こう、芹ちゃん。彼らがやって来る」
「うん。生命を守るために、乙姫ちゃんは戦ってるんだね」
そんな芹ちゃんの言葉に微笑みかけながらエレベーターに入る。この直ぐ下が総士の研究室兼秘密のブルク。
「最初は痛いけど、我慢してね」
「うん。平気だよ。乙姫ちゃんと一緒なら、あたし、我慢できるから」
ちょっと緊張していそうな芹ちゃんに声をかけてからわたしはコックピットブロックに入って先に機体を起動させる。ジークフリード・システムで芹ちゃんのマークツヴォルフの起動を手伝うために。
「クロッシング完了。芹ちゃん、用意は良い?」
『うん。お願いします!』
気合いが入ったところで、芹ちゃんがニーベルングに指を通した。
『ん゛っっ、あ゛あ゛あ゛ああああ!!!!』
最初は結構痛いし、シナジェティック・スーツも着てないからかなりの痛みがあったはず。
ごめんね芹ちゃん。でもこれは芹ちゃんを守るためだから。
「ニーベルング接続確認。ジークフリード・システム起動。対数スパイラル形成、コア同期確認。ファフナー・マークツヴォルフ、起動!」
マークツヴォルフは無事起動した。対フェストゥム機構も問題ない。武装はやっぱりレヴィンソードかな?でも長物なら丁度良いのがあったかな。
「芹ちゃんはこっちを使って」
『これ、データにないんだけど……』
分厚い鉄の塊みたいな剣。総士が造った試作武装バスターソード・ライフル。
ルガーランスを改良する為に造ったプラズマ核融合弾砲の試作品。そこで質量系の大剣を造っちゃうところがわたしにはわからないけど。
「使い方はルガーランスと一緒だから芹ちゃんでも使えるよ」
レヴィンソードで一刀両断に敵を切り捨てる芹ちゃんなら多分扱えると思った。
「ナイトヘーレ、開門!」
マークツヴァイとマークツヴォルフがサーキットに移動する。わたしも今回の武器はバスターソード・ライフルの試作で造ったバスターソードを装備した。CDCにバレないように機体を出すからどうしても武器が限られてしまう。あとはゲーグナーも装備して行く。
「マークツヴァイ、マークツヴォルフ、発進!!」
衝撃吸収剤に包まれたわたしたちのファフナーが射出される。海面を飛び出し、向島に着地する。
『これが……戦争っ』
「芹ちゃんは自分の身を守ることだけ考えて」
『乙姫ちゃんは!?』
「わたしは島を守るっ」
こちらの姿を見つけて群がってくるプレアデス型の子をバスターソードで薙ぎ払う。
「わたしの島で、勝手なことはさせない!!」
それが戦いの第二幕の始まりだった。あらゆる可能性が集い、希望に満ちた始まり。もしこの戦いを終えられたのなら、今日までの日々を覚えていよう。まだ無邪気だったあの楽園に帰る日々を願っていた事を。空想の中に浸れていた自由だったあの日々を。
to be continued…
真矢「生命。生まれることの痛み、存在することの苦しみ。いなくなることへの恐怖。それをすべて無に帰そうとする存在が島に現れる」
「私ハ認メナイ…」
真矢「目覚めるのは虚無の力。帰るのは存在の力」
「いくぞ、マークニヒト!!」
「クロッシングがしたい。マークエルフと同じ様にできるはずだ」
「よっ、後輩!」
「っっ、せん…ぱい…っ」
真矢「次回、蒼穹のファフナー。第3746話、生誕の序曲。あなたは、そこにいますか…?」