皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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特に戦闘してないのにこうも文章がわいてくる。世界の祝福が私にあるうちに、この物語を書き上げたい。

※今回わりとギリギリ攻めていますので、苦手な方は深呼吸してから同化してください。


皆城総士になってしまった…29

 

 ミツヒロと話したあと、僕はミツヒロのメガセリオンをノルンの格納庫に誘導し、マークツヴァイとマークツヴォルフのもとに向かった。

 

 ふたりともまだ眠っているといいんだが。

 

 戦闘後、マークニヒトからシステムを経由して立上と乙姫の意識は喪失(ブランク)させた。

 

 心理グラフは危険域だった立上は当然のこと、立上とのクロッシングで影響を受けていた乙姫も休ませる為だ。

 

 先にマークツヴァイにコックピット・ブロック排出信号を送る。

 

 僕が眠っていたのは一月程か。乙姫には寂しい思いをさせてしまったな。

 

 コックピット・ブロックのハッチが開く。中を覗き込めば、穏やかな寝息を立てる乙姫がいた。

 

 来主はいったい島になにをもたらしたんだ。マークツヴォルフはわかるとしても、マークツヴァイにもショットガン・ホーン等という立上以外には扱い辛い武装まで装備されている。

 

 現状を把握したい欲求に駆られるが、今は乙姫と立上を医務室に運ぶのが先だ。

 

 ニーベルングシステムとの接続を切り、乙姫を抱えようと身を屈めた時だった。

 

「捕まえた……」

 

「なに…?」

 

 ぐっと身体を引き寄せられ、コックピット・ブロックのハッチが閉まる。

 

「なにがどうなって。開かない…っ」

 

 ニーベルングシステムのコンソールを触るが、反応はない。

 

「やっと、会えた……」

 

 首に腕を回してくる乙姫。今はそんな状況じゃないが、あれこれやってもハッチが開かない原因は目の前の妹くらいしか思い当たらない。

 

「目を覚ましたか乙姫。どういうつもりだ」

 

「ふたりっきりになりたかったからだよ。お兄ちゃん…」

 

 首筋に顔を埋めて耳元で囁く様に言葉を紡ぐ乙姫。いつも以上に距離の近い乙姫。この様な行動に出るような乙姫ではなかったはずだ。

 

「ぐっ、乙姫、寝惚けているのか…?」

 

「……わたしを、皆城乙姫と呼ばないでっ」

 

 ヘッドロックに近い形で、首に回されていた腕が頭を締め付ける。地味に痛い。

 

「待て乙姫。痛いぞ…っ」

 

 だが力が余計に掛かり、痛みが増すばかりだった。

 

「総士のバカ。イジワル。わたしがこんなに総士のことを想っているのに」

 

「乙姫? っ、い…!」

 

 耳元でカリッという音がして、耳に痛みが走る。

 

「ん……はぁ…、…総士の味……おいしい…」

 

「乙姫っ、やめろ…っ」

 

 耳を噛まれて、血を舐める乙姫の様子は普通ではなかった。

 

「なにがあった。答えろ乙姫」

 

 出来るだけ優しく乙姫に問う。理解が追いついていない所為で正直頭が混乱しないようにするのが精一杯だが、乙姫になにがあったのか知る必要がある。

 

「まだわからないの? いっぱいヒントをあげてるのに、悲しいなぁ。お兄ちゃん…」

 

 甘えるように甘い吐息と共に僕の耳に囁く乙姫。いや、乙姫ではないな。

 

「……織姫、か」

 

 ぎゅっと抱きつく力が増す。だが痛みを与えるような暴力的なものではない。優しく包み込むような、そんな抱擁だ。

 

 コアギュラから目覚めた僕は、島が人類軍に占領されているのを知り、そしてプレアデス型が島を襲っているのを知った。だがそれ以上は知らない。

 

 敵と戦おうとした僕の目の前に、キールブロックの壁面を多い尽くしていた結晶を砕いて中から現れたマークニヒト。島のミールを通じて乙姫の危機を知り、僕は跳んだ。そしてマークニヒトを呼び出したまでだ。

 

 将陵先輩が帰ってきたことも、来主が居るだけでも驚きだった。そしてミツヒロがこんなにも早く島に来たことも驚いたが。

 

「何故、織姫が」

 

「わたしの存在を、総士が望んでくれたからだよ」

 

「僕が?」

 

 僕が織姫の存在を望んだとはどういうことだ。

 

 先輩も乙姫も、織姫も、僕が望んだからここにいるというのか。

 

「最初はそう。切っ掛けは総士が総士でいることを選んだから。そして可能性は生まれた」

 

 僕が僕でいることを、皆城総士になることを決めてから、すべては始まっていたらしい。

 

「でも可能性は可能性のまま。それを選ぶことで、可能性は現実になるんだよ。総士」

 

「お前も選んだのか。織姫」

 

 織姫がなにを選んだのか。僕にはわからない。だが織姫が望むのなら、僕に出来ることはなんでもしよう。乙姫にしているように、織姫もまた、僕の家族なのだから。

 

「わたしは、ここにいるよ」

 

 僕の手を取って、自分(乙姫)のお腹に手を当てる織姫。

 

 暖かい。人の体温を感じる。生きている証しだ。

 

 だがそれ以外のものを感じる。そこに生きる生命の鼓動も。

 

「そろそろ、岩戸に戻らないと…」

 

「……大丈夫なのか?」

 

 島のミールは存在と無の循環を学んだと将陵先輩は言っていた。生命の循環を学んだミールなら、乙姫を犠牲にすることもないだろうと思うが。

 

「……ホントはね。ちょっとだけ、恐いの」

 

 僕に抱きつく乙姫の身体が震えていた。

 

「…でもわたしは、ちゃんと総士と触れあいたい」

 

 少しだけ震えが治まった。いや、我慢しているだけだ。織姫はいつも耐えていた。

 

「だからわたしたちに勇気をちょうだい。もう一度、総士と逢える様に」

 

 乙姫の腕がまた、首にまわされる。身を起こせる様になった僕は、乙姫の顔を――織姫の顔をようやく見ることが出来た。

 

 不安で恐がっている顔を――そんな不安を見せまいと我慢している顔を。

 

「大丈夫だ」

 

 両頬に手を添えて、両目の視線を交わした。

 

「存在を選ぶ限り、お前もここにいる。必ず、もう一度会える」

 

「総士……」

 

 顔を近付けて、額に口づけをする。

 

 唇を離した表情は不服そうだった。

 

「そこは唇にする雰囲気だったよ。総士」

 

「僕は兄で、妹と姪だぞ。僕を社会的に抹殺するつもりか?」

 

 こんな人口2000人規模のコミュニティでそんなことをしてみろ。僕は島中で笑い者だ。

 

「意気地無し…」

 

「だからこれが精一杯だ」

 

 身体を抱いて、頭を撫でてやる。恐怖も不安も、落ち着くように。

 

「もう少し、強く抱いて欲しいな」

 

「ああ…」

 

 兄妹でこんなこと、普通はおかしいのだろうが。乙姫も織姫も、こんなことをすることも、させることもなく、僕は見送ることしか出来なかった。

 

 だから気が済むまで、ふたりの好きにさせよう。僕に出来るのは。それしかないのだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「少し熱いね。総士」

 

「密閉空間で密着していたからな。まだ頭がボーッとする」

 

 少しだけ顔の赤い乙姫が手で顔を扇いでいた。僕も上着を脱いで身体の熱気を逃がす。

 

「立てるか?」

 

「うん。大丈夫だから、総士は芹ちゃんを運んであげて」

 

「立上を? いいのか?」

 

「さすがにわたしじゃ、芹ちゃんを運んであげられないから。悔しいけど」

 

 確かに乙姫の体格だと、立上は運べないな。……おんぶなら出来そうだが医務室までは運べないな。

 

「じゃあわたし、先に行ってシャワー浴びてくるから」

 

「ああ。風邪、ひかないようにな」

 

 乙姫が近頃寝相が悪い原因がわかった。あれは織姫が悪かったらしい。

 

「大丈夫。わたし風邪ひかないから」

 

「半分は人間なんだ。油断はするな」

 

 人とフェストゥムの融合存在でも半分は人間なのだ。疲れはするのだから風邪をひかない保証はない。

 

「心配性だなぁ、総士は」

 

「家族を心配しない兄がどこにいる」

 

「家族、か……」

 

 嬉しそうに、でも少し残念そうに乙姫は僕に背中を向けた。

 

「わたしが生まれたら、もうそんなことを言っている暇はないよ? 総士」

 

「ああ。楽しみにしている」

 

「…、総士も芹ちゃんも、ホントにわたしの心を弄ぶのが上手だよね」

 

「織姫……」

 

「……じゃあ。またあとで」

 

「ああ」

 

 去り行く乙姫(織姫)を見送り、僕はマークツヴォルフのコックピットブロックの排出信号を送る。

 

 コックピット・ブロックのハッチが開くと、中の立上はまだ眠っていた。

 

「感謝する。立上」

 

 乙姫のことも、織姫のことも、本来僕がやるべきことを立上に背負わせてしまっている。これでは兄失格だな。

 

 上着を掛けてやりながら立上の身体を抱き上げると、小刻みに震えていた。額を合わせても熱が出ている様な熱さはない。極めて平温だ。

 

 ……無理もないか。

 

 いきなりの実戦で味方部隊の全滅に死の恐怖まで感じるような敵の襲来。絶体絶命。

 

 立上の心に傷が残らなければ良いのだが。

 

「んっ……っっ、…!? そ、総士先輩!?」

 

 どうやら目覚めたらしい。

 

「目が覚めたか。立上」

 

「な、なんであたし、総士先輩にっ!?」

 

 運ぶ体勢が不味かっただろうか。だが背負う方がもっと不味いと思うが。

 

「背負われる方が良かったか? 手が何処に当たっても責任は取れないが」

 

「い、今のままで、お願いします……」

 

「了解した」

 

 そこで降ろしてくれと言わない辺り、今自分が歩けそうにないことくらいは理解しているようだ。下手に暴れられて怪我をさせたら乙姫と織姫に怒られてしまうからな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 目が覚めて、総士先輩の顔が目の前にあった時は思わずびっくりしちゃった。それに気を遣ってくれたのに聞かなくていいことも聞いちゃって、恥ずかしい。……お、重くないよね?

 

「気にするな。乙姫に比べたら仕方がないが、負担は掛かっていない。9キロの誤差程度気にすることでもない」

 

「な、なんであたしの体重…」

 

 どうしよう。またびっくりして恥ずかしいこと言っちゃってるよあたし。

 

「パイロットのデータは把握している。候補生の選抜も僕がしている。フィジカル面とメンタル面の把握は第一記録事項だ」

 

 事務的に返されて、少しだけ恥ずかしがったあたしがバカみたいで。でもそのお陰で落ち着けた。これが学校で総士先輩が人気の理由のひとつだったりする。

 

 恥ずかしいこととか言いにくいことも、事務的に返してくれるからわかりやすくて相談しやすくて、結果もちゃんと言ってくれるから。でも、学校のみんなはそれ以上の総士先輩を知らない。

 

 総士先輩がこんなに優しく包み込む様に抱えてくれることも、総士先輩の優しくて静かな鼓動も、上着を掛けてくれる気遣いも。学校のみんなは知らないんだ。

 

「なんだ?」

 

「い、いえ。別に」

 

「そうか。……シャワーは浴びれそうか?」

 

「は……はい…」

 

 シャワールームに着いて、総士先輩に身体を降ろして貰う。

 

「ひぁっ」

 

「っと。……ダメそうだな」

 

「……すみません」

 

 まだ、足腰に力が入らない。倒れそうになったあたしの身体を、総士先輩が支えてくれる。バレエとかで二人で踊ったりする時の最後のポーズ。あんな感じで総士先輩があたしの身体を支えてくれている。ほぼ床と平行になっているあたしの身体を支える為に目の前に総士先輩の顔がある。改めて考えると今のあたし、物凄い格好になっちゃってる…?

 

 身動きすれば鼻がぶつかってしまいそうな距離にある総士先輩の顔に、恥ずかしいと感じる前に目を引くものが映る。

 

 ……左目の傷。近くで見るととっても痛そう。それにキレイな紅い目。あれ? 総士先輩の左目って、紅かったっけ?

 

「気持ち悪いかもしれないが、今日は寝た方が良い。明日乙姫に頼んで、シャワーを浴びると良い」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

 声を間近で掛けられた所為で認識が現実に追い付いて、一気に恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「大丈夫か立上? 顔が真っ赤だぞ」

 

「ふぁぃ……」

 

 半分以上、総士先輩の言葉が頭に入ってなかった。

 

 なんであたしここにいるんだっけ? そうだ。シャワー浴びに来たんだ。熱いし汗かいてるし、早く服脱いでシャワー浴びちゃお。

 

「なにをしているんだ?」

 

「服が邪魔ですから」

 

「……僕の言ったことを聞いていたか? 一人で浴びられないだろう」

 

「先輩が手伝ってくださいよ……」

 

 服の肩紐から腕を抜く。でも手が震えて、上手く服を掴めない。

 

「すまない。僕の目覚めがもう少し早ければ。いや、僕が僕に囚われなければ、立上にこんな思いはさせなかった」

 

 あたしの手を掴んで、総士先輩は優しく震える手を揉みほぐしてくれた。気持ち良い。

 

「もっとしてくれますか…? 震えが、少しだけ治まるんです」

 

「……少し待っていろ。今なにか」

 

 背中を向けようとする総士先輩の胸に倒れ込む。今のあたし、どうかしちゃってる。総士先輩が行っちゃうって思っただけで、身体の震えがまたひどくなって、泣きそうになって、恐くなってくる。自分で自分がわからなくて、恐いよ…。

 

「いかないで、ください……」

 

「立上…?」

 

「いっちゃ、いやです…っ」

 

 総士先輩の服を掴んだまま、総士先輩の胸に顔を埋める。きっとあたし、今は人に見せられないひどい顔をしてる。

 

「ここにいて、くださいっ」

 

 総士先輩とは乙姫ちゃんを通じて話す様になったけど、それでも友達のお兄さんなのに、学校だと遠巻きで見かけることのある先輩というくらいあまり接点もないのに。

 

「すまなかった。立上」

 

 総士先輩に頭を撫でられただけで、すごく安心する。

 

 総士先輩の胸の音を聞くだけで、すごく落ち着いてくる。

 

 乙姫ちゃんもきっと、あたしと同じなんだろうなぁ。

 

「……シャワー浴びるの、手伝ってください」

 

「良いのか?」

 

 総士先輩が言いたいことが、わかっているけど、なんかどうでも良いかな。総士先輩なら、大丈夫だって、思える。だから――。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 立上にシャワーを浴びせたあと。患者服を着せるのも一苦労だった。一ミリたりとも離れたくないという無言の圧力を耐えながらバスタオルで身体を拭き、患者服を着させ、ベッドに横にさせた。服を固く掴まれたまま根負けした僕も添い寝をしながら端末を使って最低限出来ることはしておいた。

 

 ファフナー部隊は壊滅。マークザインとマークニヒトがあるとはいえ楽観視はしない。

 

 一番損傷の軽いマークフュンフと、一番損傷のひどいマークアハトを同時に修理する。マークフュンフは頭部ユニットの換装くらいで終わりそうなのが不幸中の幸いか。だがパイロットのダメージが酷すぎる。痛みが治まるまで、衛と剣司は絶対安静だ。

 

 マークフュンフの次はマークゼクスの修理だ。マークゼクスがいないと制空権に不安が残る。平行してマークツヴォルフの装甲交換もある。

 

 必然的に要のマークドライの修理が一番最後になってしまった。これはまた要の小言を聞かなければならないな。

 

 マークノイン、マークツェーン、そしてフュンフタイプの2号機の建造。ツヴォルフが完成が速かったのは近接格闘タイプであるマークエルフの為に予備パーツがあったからだ。マークエルフが島から出たことで余った補修パーツでマークツヴォルフが一番に組上がったようだ。マークアインもようやく組み上げられる。

 

 そしてメガセリオンの解析とザルヴァートル・モデルの研究データもこちらに回してくれるように手配しておく。問題は来主の乗るファフナーをどうするかだが。そちらについては案があるもののまた後日にしよう。僕も疲れた。

 

 一騎と会話をしたかったが、今日はもう無理そうだ。

 

 また明日。一騎を訪ねれば良いだけだ。

 

「…つば、き……、ちゃん…」

 

 寝言を漏らす立上の髪を手で鋤き、僕も横になる。

 

 しっかりものに見えて、その実まだ僕たちよりひとつ下の後輩なんだ。甘えたくなるときもあるだろう。

 

 胸のなかに身体を寄せて眠っている立上に布団をかけ直して僕も眠りについた。

 

 焦る必要はない。僕たちはここにいる。ここにいる限り、明日は必ずやって来る。

 

 

 

 

to be continued…




活動報告版も作ってみましたので何かあればそちらにもどうぞ。ただ荒し行為や誹謗中傷はお止めください。

ポエムのネタがなくなってきたからネタが欲しくなったとかそんなんじゃ決してないからな(パリーン
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