事後処理が終わらんが、次はようやくカノンと一騎の地雷原でタップダンスが書けるかな?
怒濤の1日から一夜が明けた。
「…そう、し……」
「…つ、ばき…ちゃ、ん……」
「……どういう状況だ」
立上に添い寝をした覚えはあるが、いつの間にか僕が真ん中にいて胸のなかには立上。背中に来主がいる。
「起きているか? 来主」
「ん…っ、ふぁ……。おはよう、総士」
「ああ。で? どうしてここにいる」
最近物事が僕の知らないところで動き過ぎている所がある。一月眠ってしまった僕が悪いのだが。やはり把握出来ていない事態は注意が必要だ。
「朝から一緒に居れば、たくさん話せるでしょ?」
なんというか。来主らしい物言いだ。
「立上が寝ているからな。あまり大きな声は出すな」
「うん。やっと総士と話せてうれしい」
背中にしがみつかれて身体が動きそうになるが耐える。立上が居るからな。会話がしやすい様にだろう、来主が僕の耳元に顔を寄せてくる。
僕も来主とは話したいことが山ほどあった。立上には悪いが、今は来主と会話することを選んだ。
「何故島に来たんだ?」
そもそも何故来主が存在しているのも気になったが、頭が情報処理でパンク気味だ。だから簡単な質問から切り込む。
「総士を守るため。総士が痛みを背負ったのはおれの所為なんだ。勝手なことしてごめん。でもおれはみんなの痛みを減らしたかったんだ」
痛みをなくすのではなく減らす。その違いの価値観がよくわからなかった。
「痛みを消すのではなく、か」
「痛みは消したくない。痛みは生命の証しだから。生まれる嬉しさを知るなら、痛みも知らないと」
驚いたな。来主はもう生命がどういうものかわかっているらしい。
「みんなにいなくなって欲しくないから、おれはここにいるよ」
来主のお陰でアクティビオンが完成している。それも2年後の効果の高いものだ。これならパイロットを同化現象から守ることが出来る。痛みを減らすという意味が少し見えてきた。
「島を守ってくれたことに感謝する」
「おれが望んだことだから、気にしなくて良いよ」
それでも来主が来てくれたお陰で希望が見えてきた。
「お前の存在はどうなっている」
「おれのコアもここにある。今のおれは仲間にとっては理解できない異物でしかないから。真壁紅音でも理解するのは難しいと思う」
個を獲得し始めたばかりのフェストゥムにとって、個性を持ち、心を持った来主は理解できないものなのだろう。彼らがもとは同じだった島のミールや乙姫を理解できなかった様に。
「だからおれはおれを理解してくれるこの島が好き」
「……今、なんと言った?」
物凄い一言を僕は聞いたような気がするんだが。
「島が好きってこと? 変かな。みんな驚くけど」
「……いや。変じゃないさ」
好意を持つにまで来主は学習しているらしい。ナレイン将軍が見たら目を見開くだろうな。
「ミツヒロのことは助かった。感謝する」
ミツヒロを海神島のコアの支配から解放できたのは来主の助力が大きい。あのままならどちらが同化で打ち勝つかという勝負になっただろう。
だが来主はミツヒロに語り掛けて存在の側へと導いた。すべてを無に帰すフェストゥムが、生まれることを促す。
人とフェストゥムとの共存の道は案外近くに見えているかもしれない。
「でもあの憎しみのコアが消えたわけじゃないから気をつけて。そして無を選んだ彼も」
海神島のコアは今のところ手はつけられないだろう。それに岩戸がなければ人類はこの先疲弊する戦いの中で滅びを迎えてしまう。僕たちの都合だけで世界を犠牲にするわけにはいかない。
だがあのマスター型だけは引き続き警戒が必要だ。マークニヒトを奪って再び島に来たときが勝負の時だ。
「……起きているな? 立上」
「ひゃ、ひゃぃ…っ、……」
来主と話している途中から立上の体温上昇は感じていた。昨日は立上も少々変わっていたが、一晩眠ったことで余裕が出来たのだろう。理解が現実に追い付いて赤面しているのだろう。
「そろそろ起きるぞ。朝食の時間もある」
「あ、あの……」
「なんだ?」
身体を起こそうとする僕に立上が声を掛けてきた。心配しなくても昨夜の事を言い触らすつもりは僕にはない。
「まだ、……立てそうになくて…」
羞恥心が落ち着くとまだ恐怖が振り返すらしい。心的外傷に発展しなければ良いのだが。
身体を起こしながら立上の身体にも腕を回して共に身体を起こしてやる。中々腹筋を使う動作だが、僕の身体能力は一騎という特例を除けばパイロットよりも上だ。この程度ならまだ大丈夫だ。
「恐いか?」
「…わかりません。まだ、勝手に身体が震えちゃって」
僕に身体を預けて胸に顔を埋める立上に、乙姫の姿が重なった。だから乙姫にする様に背中に腕を回して頭を撫でてみる。
「……優しいんですね。先輩の手、安心します」
「そうか…」
最悪、立上はファフナーのパイロットから外す必要がある。心的外傷を抱えたまま戦場に出れば立上だけでなく他のパイロットにも被害が及ぶ可能性がある。
「総士も芹もどうしたの? 起きないの?」
来主が僕たちを不思議そうに覗き込む。感情を学びながらもデリカシーに関してはまだまだの様だ。
「人の心は難しいことだということさ」
立上の背中と膝の裏に腕を回して抱えあげる。
「そ、総士先輩!?」
「朝食に遅れると蔵前に怒られるからな。効率的な移動手段を取るまでだ」
「ま、待ってくださいっ、じ、自分で…っ」
「立てるのか?」
落ち着いてはいても身体の震えはまだ伝わってくる。ここまでひどい理由が見当つかないが、また倒れそうになってケガをされても大変だ。そういう可能性も排除するのが僕の役目だ。
「ひぁっ」
「っと……まだ無理だな」
「……すみません」
とりあえず立たせてみようと降ろしてみたが、生まれたばかりの小鹿の様に上手く立てずに腰が砕け落ちそうなのを支え直す。……これは私生活にも重大な障害を与えかねないな。カウンセリングに遠見先生に相談することも予定に組み込まなければ。
「おはよう!」
「おはよう、総士。芹ちゃん。操」
「おはよう、乙姫」
「つ、乙姫ちゃん!? お、おはよう…っ」
食堂へ行く前に乙姫を迎えに行く道すがら乙姫に声を掛けられた。
「つ、乙姫ちゃん、あのね、これはね」
「大丈夫だよ芹ちゃん。芹ちゃんのことはわたしもよくわかってるから」
「乙姫ちゃん……」
その言葉の選び方はあまり褒められないぞ乙姫。たとえ互いに理解していても、言葉を交わさなければ擦れ違ってしまう。僕と一騎の様に。
「丁度良い。立上を着替えさせたい」
「アルヴィスの制服なら用意できてるから、持ってきたよ」
そう言って紙袋を見せる乙姫。用意がいいな。だがアルヴィスの制服を着せる意味を乙姫が知らないはずがない。どうあっても乙姫は立上に関わらせるつもりか。
僕はそれが出来なくてきっと一騎と一緒にいるために一騎を同化しようとしたのだろうな。
これもお前の選択か、乙姫。
「一番近いのは僕の部屋か」
「そうだね。着替えはさすがにわたしが手伝うよ」
「ああ。立上もそれでいいか?」
「は、はい…っ」
震えは少し治まったが、今度は身体ががちがちに硬くなった。心配しなくても、部屋に連れ込んでとって食べるつもりはないから安心しろ。
そういうことで僕たちは僕の部屋に移動した。
「総士の部屋だ! 懐かしいなぁ。なにもない部屋のままだ」
「ベッドとテーブルとソファと机と壁には写真もあって、コンパクトなバスルームもあるだろう」
「そういう意味じゃないと思うよ? 総士」
ベッドに飛び込む来主に向けて部屋の調度品をあげていく僕に乙姫が言う。わかっているさ乙姫。だが前置きは大切な事だ。
「聞いて驚け来主。枕元には新たにコンパクトな本棚を増設した!」
「おおおっ!!」
フッ。あまりの変化に来主も目を見開いて感動しているようだな。
「手元を照らすライトも増設した。極めて便利だ」
「すごいすごい!!」
「総士先輩って、子供っぽいんですね」
「そこが総士のかわいいところなんだよ。芹ちゃん」
来主に本棚を自慢するのはさておき、立上の着替えだったな。
立上をベッドに降ろして離れようとするが、首に回された立上の腕から脱け出せない。
「……立上?」
「ご、ごめんなさい…っ。あ、あれ? おかしいな…?」
これは真剣に考えた方がいいかもしれないな。
「大丈夫だよ芹ちゃん。今は大丈夫だから」
「あれ? 取れた…」
乙姫が立上に何かしたのか? 立上の腕が簡単に外れた。
「じゃあ、着替えが終わったらまた呼ぶから」
「ああ。行くぞ来主」
「あ、待ってよ総士!」
ベッドから慌てて抜け出してきた来主を連れて僕は部屋を出た。一騎とはまた違うが、来主も犬に見えて仕方がない。
「おはようございます。ミナシロ」
「ミツヒロか。おはよう」
「おはよう!」
「あ、あぁ……。…本当に人と話しているみたいだ」
ミツヒロに挨拶を返すと、来主の返事に彼はまだ驚きを隠せないと言った具合だった。
「少し窮屈だろうが、我慢してくれ」
「いえ。島に残ることを許してもらえた。それだけで充分です」
一騎に対しては特にそうだったが、ミツヒロは僕たちを神聖視している所がある。それもこれから関わる中で落ち着けば良いが。
「今日の事だが。ミサイルの迎撃には道生さんも来るとは思うが、出来るだけ僕たちで迎撃する心構えでいてくれ」
「ミチオが? いや、彼はそう言えば」
「道生さんが戦う理由は弓子先生の為だ。島に戦略ミサイルが撃たれると知れば道生さんは飛んでくるだろう」
狩谷先生も道生さんと弓子先生には甘い部分がある。彼女が島の危機を道生さんに告げれば道生さんは島に来てくれるだろう。だが可能性にかけてなにもしないというわけにもいかない。
「あなたに貰ったこの生命に替えても、島は守ります」
「違うな。間違っているぞ、ミツヒロ」
確かにナレイン将軍は人類とフェストゥムの共存に理解のある方だったが、根本的な部分で島とは違うやり方なのだ。
「生命を懸けることは間違いじゃない。でもそれで生命を捨ててもならない。最後の一瞬まで生きる事を模索して諦めないのが僕らの戦い方だ」
「ミナシロ……」
「お前はここにいる。だから生命を捨てるな。生命の大切さと、生きて得る平和を島で学べ」
ミツヒロの胸に手を当てながら、ミツヒロの存在そのものに言い聞かせる様に僕は言葉を伝えた。
「了解…っ」
その言葉にミツヒロは身を正して敬礼で答えた。僕の言葉の意味をわかっているのか否かは、これからの戦いの中にある。それを見守らせてもらおう。
「お、青春してるな。お前ら」
「将陵先輩…。おはようございます」
「よ、総士。んで、こっちがフェストゥムで、こっちが総士が勧誘した真矢ちゃんの弟か」
「はじめまして!」
「ミナシロ。この方は?」
これもひとつの可能性か。
「彼は将陵 僚。僕たちの先輩でファフナーのパイロットだ」
「そうか。…ジョナサン・ミツヒロ・バートランド。ファフナー メガセリオン・モデルのパイロットです」
「よろしくな、ふたりとも」
「はい!」
将陵先輩と握手を結ぶミツヒロ。僕の言葉から本来ならいなくなっていた人だと察した様だ。5年後の島に、ファフナーのパイロットなのに出会わなかったことから推察したんだろう。
「来主 操。よろしくね。あのね、ききたいことがあるんだ!」
「ああ。なんでも訊いていいぞ」
来主の質問を快く受ける先輩。質問の内容はアレだろう。
「空が綺麗だって。思ったことある?」
身を乗り出すくらい興味津々に先輩に訊ねる来主。これが来主の相手への問い掛けだ。人の感情を理解しながらスフィンクス型らしく来主は僕らに質問するのだ。
「あるよ。この島から見える空は最高なんだぜ。今度空が綺麗に見える場所を教えてやるよ」
「ほんと!? うれしい!!」
先輩の言葉にはしゃぐ来主。先輩と来主の相性もよろしいようで安心した。
「蔵前がお前のこと探してたぞ総士」
苦笑いしながら僕に蔵前が呼んでいる事を伝えてくれる先輩からあまりよろしくない雰囲気を感じた。覚悟を決めるか。
「わかりました。自分は先に行きますので、ここで妹と後輩を待っていてください」
男手が3人も居るなら僕が抜けても問題ないと思って踵を返そうとしたら先輩に呼び止められた。
「待った総士。やっぱり俺が行くよ」
「蔵前が用があるのは僕なのでは?」
「朝飯何人分なのか知りたがってたみたいだからな。それくらいなら俺も出来るよ。この身体なら、ファフナーに乗ってなくても走れるんだぜ?」
それは僕に身体のことは心配するなということなのだろうが、その身体のことの方が僕は心配であったりする。
「心配すんな。俺はここにいるから」
「…はい」
先輩は僕の頭をくしゃりと撫でると走って行ってしまった。……本当に大丈夫なのだろうか。
学校行事は欠かさず来ていた人だったが、休みが多い時に平気な顔をして行事の挨拶に来ていた人だ。その辛さを隠していた人だから尚の事心配だ。
「ミナシロ。彼は」
「1年前に、島の為に戦っていなくなった」
「島のミールが生命を与えた? ユミコさんやエメリーの様に」
「断定は出来ないがな」
だから僕は願うしかない。先輩もちゃんとここに存在し続けることを。
to be continued…