来主から語られた共存の道。
しかしそれは島にとっては到底受け入れられない物だった。
核の炎で痛みを増やす人類や、他のフェストゥムの群れと共に戦う。戦う力を相手から奪うことで戦えなくする。そうすれば全てが平和になると来主は語った。その為に来主が島のミールを同化する。痛みを消す為に。
対話か、或いは戦いか。
「一騎、お前があの存在と対話しろ」
「俺が…?」
「命を費やすだけが戦いではない。残された時間の中で島を救う術を探れ」
「わかったよ、父さん」
世界は違えども、対話で道を切り開く選択を選ぶ真壁司令の言葉に安堵する。
だからこそ世界は違えども島を守る事に迷いはない。
話が一段落ついた真壁司令が僕らの事をUXに紹介してくれた。
「まさか島がピンチの時に別世界の総士がやってくるなんてな。まるでマンガだけどナイスな展開じゃないか!」
そう溢したのはラインバレルのパイロット、早瀬浩一だった。どうにも衛に通じる物を感じる。
「ま、同じ総士だって言っても見掛けは違うから紛らわしさはないわな」
そう言うのはガンダムマイスターの1人、ロックオン・ストラトスだった。
「でも良かったの? 君たちには君たちの戦いがあるはずなのに」
そうこちらを慮るのはストライクフリーダムのパイロットであるキラ・ヤマト。
「それでも島を守る事が僕の義務であり、僕個人の意思です。たとえ違う世界の竜宮島であっても、此処は僕が帰るべき場所であることに変わりはありません」
気遣いを嬉しく思いながらも、しかし戦う意思を告げる。島を守る事が僕の義務であることは本当の事だ。そして皆城総士にとって竜宮島が帰るべき場所であるのだから、皆城総士である僕にもこの竜宮島を守る理由がある。
「でも無理するなよ? 俺たちも出来ることは手伝うからさ」
そう言うのはデスティニーガンダムのパイロット、シン・アスカだ。此方を気遣うその言葉の色が将陵先輩と被って見えた。
この世界の皆城総士が築いて来た絆に感謝すると同時に、言ってしまえば名が同じだけでその厚意を受けてしまう事に後ろ髪を引かれるが、その分、自分に出来ることで彼らに返そうと思う。
喋れる様になった暉が戦いを軽んじている風な様子だったが、それを咎めるのは森次玲二室長や三國志の武将と同じ名を持つ三璃紗の武人孫権。ああして咎めてくれる人が居ることも良い傾向だ。
しかしMSが人間である世界とは不思議な異世界もあったものだ。
「うっ、ぐぅっ…!」
「総士!?」
胸が締め付けられる様な苦しさに襲われて、呻きが漏れ、膝を着きそうになるのを目の前に居たアスカさんが支えてくれた。
「島の空が、奪われた…っ」
「島の空? どう言うことだ、総士」
ボレアリオスが島のミールを弱らせる為に空を覆った。それがオーロラとなって現れている。
「うっ……! ごほ、ごほごほっ!」
「真壁司令!?」
「父さん! どうしたんだ父さん!?」
その所為で真壁司令も咳き込んで踞ってしまう。
胸が締め付けられて息苦しい。こんな苦しみを耐えていたというのか。
「させるものか……っ」
「総士!?」
痛みを負ってでも存在し続ける事が僕の祝福だ。
『ダメ! やめて総士!! あなたがいなくなるっ』
「いなくなりはしない…。僕が僕である限り、僕は存在する」
「総士、さっきから何を言っているんだ?」
せっかく心配して支えてくれたアスカさんには申し訳無いが、その身体を突き飛ばす。
「そ、総士!? なっ!?」
「まさか、同化現象!?」
アスカさんとその恋人のルナマリアさんが僕の身に起こった結晶化現象に驚いているが心配は要らない。
ミールと深く自分を同化させる。
乙姫が僕のしようとしている事を止めようとしているが、妹と姪を守るのは僕の役目だ。
「そうやっていつもひとりで抱え込もうとするのが総士の悪いところね」
僕の手を温かい手が包む。
「織姫……?」
僕の耳に聴こえたのは織姫の声だった。今も手を伝って織姫の存在を感じる。
「わたしはあなたがいるから存在する。芹ちゃんにばかり良いカッコはさせないよ?」
結晶が砕け散り、崩れそうになる身体を誰かが背後で受け止めてくれる。いや、誰かがなんて確認しなくても僕には判る。だが、何故織姫がここに──。
◇◇◇◇◇
島のミールの負担を──皆城乙姫と、この島のわたしの負荷を肩代わりするためにミールと深くクロッシングした総士は疲れて眠ってしまった。──わたしが眠らせた。
総士がいるところにわたしはいる。だって総士が存在している事がわたしが存在する証だから。
「皆城、乙姫…!?」
「ウソ、乙姫ちゃん…なの?」
総士を受け止めたわたしの姿に、シンとこの世界の芹ちゃんが驚いている。
「わたしをその名で呼ばないで。わたしは皆城乙姫じゃない」
そう。わたしは皆城乙姫じゃない。わたしはわたし。総士が望んで産まれた存在だ。
「と、とにかく落ち着けよ。総士だって今同化される所だったんだしさ」
剣司が割って入ってわたしを宥めようとする。別にわたしは落ち着いている。ただ皆城乙姫と同じだと言われることに我慢ならないだけ。
「君は、彼と同じ並行世界の存在か」
「そうよ。わたしは総士から産まれたコア。総士が望んで、わたしがいる。総士が存在するからわたしが存在する。皆城乙姫から分岐した存在よ」
話が解りそうな玲二の問いに答える。ある程度の情報は教えておかないと後々面倒になるから。
「この島の、皆城乙姫から産まれたコアと同等の存在か」
「その認識で構わないわ。でもわたしはこの島のわたしとも違うことを覚えていて。わたしはわたし、この島のわたしとわたしは既に同じわたしじゃない」
「じゃ、じゃあ、なんて呼べば良いのかな…?」
この世界の芹ちゃんがわたしの名前を訊こうとする。名乗っても良いけれど、そうするとこの島のわたしに不都合が生まれる。
「それよりも今は史彦と総士をメディカルルームに運びなさい。総士はともかく、史彦は身体が持たなくなるわよ」
そうする事で話をはぐらかす。史彦が危険なのは本当のこと。今はまだ、史彦にいなくなってもらうわけにはいかない。
たとえどんなに痛みを背負っても。
総士をメディカルルームに連れていくと芹ちゃんもやって来た。
「織姫ちゃんもこの島に来たんだ」
「まるでわたしがいると悪いみたいな言い方ね、芹」
「そ、そんなことないよ」
「どうだか。わたしや皆城乙姫がいないから総士を独り占めに出来るとか思ってたんでしょ?」
「そ、それはぁ…、あはは…」
ホラやっぱり。でも芹ちゃんだからこれくらいで赦してあげる。
「総士先輩、どうしちゃったの?」
「ボレアリオスからの負担を受け持とうとしたの。その為にこの島のミールと深く繋がった」
「……大丈夫、だよね」
わたしの言葉に芹ちゃんが不安そうにする。それも仕方がない。わたしだってそう思う。違う世界の存在なのだからそんなに身を擲つ様なことしなくて良いのに。
それでもやっぱり総士だから皆城乙姫やわたしの為に無理をする。嬉しいけれど、やっぱり無理はして欲しくない。
「っ、く…っ」
「そ、総士先輩? ダメですよ動いたら」
目が覚めてそのまま身体を起こそうとする総士を芹ちゃんが横たわらせ様とする。でも総士は身体を起こした。
「彼らが来るわ」
「ああ。わかっている」
「なら、あたしが行きます」
そう言い残して芹ちゃんは行ってしまう。
芹ちゃんを見送った総士は重い腰を上げる様に立ち上がる。島のミールと同化してこの島の皆城乙姫やわたしの負担を肩代わりしているからボレアリオスの悪影響で身体が弱っている。本当ならベッドから起き上がれる様な身体じゃないのに。
「織姫…?」
「わたしは総士がいるから存在出来る。こんなことで総士の存在を使わせたくない」
総士の手にわたしは手を重ねてこの島のミールと繋がる。
「良いのか、織姫」
「わたしは総士がいる限り存在する事が出来る。だから良い。そして、教えてあげなさい。彼らと、この島のミールに、あなたが選んだ道を。存在と無の地平線の先にある答えを」
「わかった…」
頷いた総士と額を付け合わせてわたしと総士は跳ぶ。
「な、なんだ!? 総士君…!? それに、皆城…、乙姫?」
いきなり現れたわたしと総士に保が驚いているけれど構ってはいられない。
「ありがとう織姫。あとは自分で行ける」
「あなたの作る道は未来に繋がる。それは信じて良い未来よ、総士」
「ああ。行ってくる」
そのまま総士はコックピット・ブロックのシートに身を預けた。
コックピットが向かう先は、この島の果林の器だったもの。
一騎の器の為に空席になっていたけれど、甲洋の器と共に新たに用意されていた器。
彼らが生を学ぶ為に島を襲うのなら、総士と芹ちゃんなら伝える事が出来る。
存在と無の地平線を越え、痛みを背負っても存在を選び続ける事を選んだ総士と、生と死の狭間で
◇◇◇◇◇
島にフェストゥムがやって来た。
僕はマークツヴァイのコックピットに居る。
フェストゥムが出撃ハッチを攻撃したが、僕にはその程度の事は関係がない。
「使わせて貰うぞ蔵前。お前の器を」
自分のフェストゥム因子を励起させてSDPを目覚めさせる。
「跳べ、マークツヴァイ!」
ブルクを傷つけない様に出撃ゲートの中でワームを使って空間跳躍を行う。
すると既に三璃紗の三國志でも有名な曹操将軍と劉備、孫権が戦っていた。彼らは人とあまり変わらない大きさとあって出撃ハッチが塞がれても人間用の通路や出入口を使えば出陣は容易いという事か。中々便利だな。
「来たな、立上」
出撃ハッチの瓦礫を退けて地表に出たプトレマイオスから出撃する各機動部隊の中からマークアインが此方に向かってくる。
『総士先輩、なんで先に行っちゃうんですか!』
「僕にも島を守る義務がある」
『だからって。あたしを置いて行かなくても良いじゃないですか』
「僕が行こうとすれば止めるだろう?」
『それは、…だって、倒れたばっかりで戦うなんて言い出したら止めますよ』
「だからだ」
『心配するあたしの身にもなってくださいよね』
互いにクロッシングで会話しながらも問題なく敵は倒していく。
立上の場合は触れた相手は問答無用で同化していく。触れたらアウトというのは中々にシビアなものだ。
それに比べれば僕はアームブレードを突き立て、広がる傷口に手を突き込み、敵のコアを同化するやり方だ。
スフィンクス型へアームブレードを突き刺すと、その頭部に顔が現れ口を動かす。
「痛いか。それが
『あなたたちの
この世界の立上は、フェストゥムが何を言っているのか理解したらしい。痛みがあり、助けてと発する彼らに自分たち人間と変わらない生命であると定義し、涙した。存在は生命であり、それを奪うことに悲しみを抱く。それが彼女のフェストゥムへの祝福だったのだろう。
それでも島を襲うのなら戦うしかない。戦わなければ守れない。生きるために戦う。
青い空が見たいと涙を流す彼女の言葉には僕も同意見だ。
「天とは…己が魂で観るべきもの!」
戦場に響き渡る何者かの声。
機体のデータが何者であるかを教えてくれる。それは三璃紗の暴将呂布。
「命が始まりならば、死もまた始まり…。生は、死によってこそ輝く。ならば、生と死の
その呂布の言葉に、僕も思うものはあった。
生と死の渾沌──その繰り返す輪廻が天へと通ずる道だと彼は言っている。
存在と無の地平線の先にあるもの、それは信じられる未来だと織姫は言った。
なら無の先に存在があり、存在の先に無がある、その地平線はなにも無く、しかしあらゆるすべてがそこに在る、可能性への道。
「選べというのか、織姫」
フェストゥムたちが呂布へと向かっていく。彼らは『答え』を欲している、命とはなんなのか。
生み出されても、産み出すことを、命を育む事がわからない今の彼らは生命の答えを探している。
その意思が、魂を懸ける呂布に引き寄せられている。
フェストゥムたちが答えを得ようと呂布へと向かい、そして倒されていく。命を理解しようとして消されていく。
それを止めようと劉備が呂布に切りかかるが、逆に呂布の反撃に合い海へと沈んでいった。
「そう。生命の輝きは誰もが持っている。それをどうするかはその人次第」
『織姫ちゃん!? なんで外に、危ないよ!』
「生命の『答え』。知りたいのならば教えてやるぞ、フェストゥム」
『総士先輩!?』
フェストゥムの群れの中心へ僕はマークツヴァイを転移させた。
『あなたは…そこにいますか?』
フェストゥムが僕へと問う。左目が痛みを発する。僕の答えは変わらない。僕が僕で在る限り。
「ああ、いるぞ。僕はここにいる」
スフィンクス型がマークツヴァイへと触れてくる。機体から翠色の結晶が生えてくる。
「たとえ痛みに満ちた生であっても、僕は存在する事を選び続ける。それが僕がお前たちに与える祝福だ、フェストゥム」
両腕を広げて、空を仰ぐ。
次々とフェストゥムが僕を同化しようと近付いてくる。呂布へと向かっていたフェストゥムたちも、僕の方へと向かってくる。
身体を包む結晶を通してフェストゥムの生命を同化する。
命の答えを知りたいというのならば、先ずは生まれる事を学べ。すべてはそこからだ。
◇◇◇◇◇
総士先輩のマークツヴァイがフェストゥムに群がられていく。
「行ってはダメ」
「どうして!? このままじゃ総士先輩が」
「総士は彼らに生命の『答え』を学ばせるの。だから邪魔をしてはダメ」
今すぐに総士先輩を助けに飛んで行きたいのに、織姫ちゃんはダメって言う。
『総士先輩に何をさせる気なの?』
「黙って見てなさい。総士が進む
戦場にやって来たフェストゥムがすべて集まって結晶に包まれていく。同化が始まった。
それでもあたしには見守るだけしか出来ないなんて。そんなの辛すぎるよ。
◇◇◇◇◇
「存在と、無の地平線か…」
光と闇、生と死、存在と無の狭間に僕は居た。
無の中に目に傷を持つ皆城総士が居る。おそらく、この世界の皆城総士だ。
『集え、始まりのもとへ』
「可能性の先にある場所か」
『そうだ。この世界の可能性の先へ進め。お前ならそれが出来る』
「僕は僕の意思で存在を選び続ける。お前と僕は違う。辿り着きたいのならば、自分で辿り着け。皆がお前を待っている」
それだけを言い残して前へと歩き出す。果ての無い地平線の先にあるものを信じて。
◇◇◇◇◇
結晶が砕け散って、眩い光が暗い空を照らし出す。
それだけじゃない。海からも光が立ち上って、劉備が天の力を得た。
「おかえり、総士」
光が晴れたそこにいるのは新しい器。
「マークエクジスト──。“存在”を選んだ総士の器」
その姿はザインでありながらニヒト、ニヒトでありながらザインとも呼べる形をしている。その色は濃紺、果林から受け継がれて一騎のものとなった器と同じなのは総士らしい。機体の至る所に翠色のパーツが使われているのは総士の中にある力としてのイメージがニヒトである印象が強かったからだろう。
「いなくなってない。みんな、あの中にいる。なんで? 同化されたはずなのに」
操が新しい総士の器を見てワケがわからないと言う風に声を漏らす。
「同化しながら自らを保つ。それが存在を選び続ける器。総士が選んだ“存在”の形」
両腕を空へと掲げる。両手が結晶に包まれる。
『島の痛みが、なくなっていく』
「俺たちのミールを同化する気!?」
「違う。痛みを背負っても存在を選び続ける総士がこの島のミールとあなたたちのミールに伝えているだけ」
ボレアリオスから空を取り戻す迄には至らなかったけれど、彼らの痛みを退ける事は叶った。
これでこの島のわたしへの負担は大きく減る事になる。
総士が彼らに生命の『答え』を示す傍らで、天の力を得た劉備と魂を懸ける呂布との戦いも決着した。
生の先にあるもの。それは死ではない。始まりと終わりの先にある新たな生命がその『答え』。
存在と無の地平線の先へと進む総士だからこそ彼らに生命の『答え』を示す事が出来る。
生命の終わりは無ではなく、未来へと繋がる始まりであることを。
to be continued…