皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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会議で忙しくて書く暇もないわ。二月はそんな日が多くなるかもしれない。

今回も色々とぶちこんだけど、総士()は総士だった。


皆城総士になってしまった…33

 

 ここ最近の日課は立上を連れて乙姫の様子を見に来る事が多い。乙姫と共にコアギュラの中にいる小さい子供。一週間前はまだ胎児だったのにもう小学生くらいの大きさにまで成長している。1日でひとつ歳をとる様に成長している様だ。もう一週間程度で乙姫と同じくらいに成長するが、そんな急激に成長して大丈夫なのだろうか。

 

「こんばんは、乙姫ちゃん。織姫ちゃん」

 

 コアギュラに手を触れながら、立上が二人に声をかけた。立上は片手でコアギュラに触れながら、もう片手は僕の服を掴んでいる。遠見先生の診断ではやはり心的外傷――PTSDと診断された。ファフナーに乗っていたり、僕と一緒にいるときは平気らしいが、それ以外だと鎮静剤がないと生活が出来なくなってしまった。乙姫には黙っていて欲しいと言われたが、乙姫のことだ。筒抜けだろう。

 

 朝と夜の二回、立上は岩戸を訪れる。昼間は学校に行っていたり、ファフナーの訓練を受け続けている。学校にいるときは一時限が終わる度に廊下で立上と話している。鎮静剤で耐えながら、僕にも会うことでどうにか誤魔化しているらしい。乙姫が目覚めれば教室に乙姫が居るだろうからもう少しマシになるとは思うのだが、そんなになってまで立上が島を守るのも、乙姫の為だ。

 

 僕と同じ理由で戦っている彼女を僕に止めることなど出来ない。だから無理しないように彼女を支える事が僕に出来ることだ。

 

 立上は今日、学校であったことを話すのが日課になっている。里奈や広登とのバカ話や、授業の課題が難しかったなど。その日その日にあった他愛のないことを話している。まるで昔の僕のようだ。

 

 話終わった立上はスッキリとした顔になっているが、それでも僕の服は離さない。

 

「お待たせしました。総士先輩」

 

「いや。構わないさ」

 

 僕の代わりに外の事を立上が伝えてくれるのはこちらとしても有り難いものだ。今の僕の話題と言えばファフナー開発の事ばかりになってしまう。そんな事を伝えても乙姫も織姫も面白くはないだろう。

 

「いつもありがとう、立上」 

 

「いえ。乙姫ちゃんと織姫ちゃんに会いたいのは、あたしの方ですから」

 

 優しい笑みを浮かべる立上の手を取る。そこでようやく立上が僕の服を握る手を離した。

 

「すまない。君に不自由な生活を強いる事になってしまった」

 

「総士先輩が気にすることじゃありませんよ。あたしが望んだ事ですから。それに恐くても、総士先輩が居てくれれば恐くありませんから」

 

「そうか…」

 

 あまりよくはないのだろうが、立上の頭を撫でてやる。目を細めて立上はそれを受け入れる。繋いだ手から伝わる震えが和らいだ。…根本的な治療法を早く探さなければ。これでは立上を縛りつける事になってしまう。

 

 一番可能性があるとしたらやはり乙姫とのクロッシングだろう。あの夜の戦闘ログを調べてみたが、やはり立上の恐怖を乙姫が感じて乙姫の恐怖を立上も共有して負の連鎖となっていた。

 

 乙姫とのクロッシングで恐怖を払拭出来れば恐らく立上の症状も治まるだろう。

 

「あの、総士先輩。今日も課題見てもらえますか?」

 

「良いだろう。それくらいは可能だ」

 

 こちらも片付けられる仕事を片付けながらで片手間だが、それくらいのことはしてやれる。

 

 部屋に戻るといつも先客が居るのもここ最近の見慣れた光景だ。

 

「おかえり! 総士、芹」

 

「ただいま、来主くん」

 

 ナチュラルに挨拶をしているが、一応僕の部屋だ。最近来主は僕の漫画を読み漁っている。お気に入りはゴウバインと対話がテーマの機動戦士だ。

 

「人がおれたちと同じ力を持っていれば良いのに」

 

「互いに心がわかる世界か。だが誤解なくわかりあえたとしても、会話が減りそうだな」

 

「そうなのかな?」

 

「人は効率を求める生き物だ。言葉が要らない社会になれば会話が減るだろう。会話をしなくてもお互いの感情や思考が伝わるのなら」

 

「……それはイヤだな。おれはみんなと話したい」

 

「だから人は不完全だからこそ言葉という手段で他者を理解しようとする。たとえわかりあえなくても、わかりあえない事を理解できる。そしてわかりあえる相手を探す。それは世界を作り、人の壁となるが、でなければ人は生きていけない。人は個を大切にする生き物だからな」

 

「人って、やっぱり難しいよ」

 

「ゆっくり学べばいい。努力は裏切らないからな」

 

 人を理解しようと苦悩する来主。まだ人を学び始めたばかりなのだ。人類の歴史のなかで複雑に進化してきた人の心が生まれて1年もしない来主が理解しきる事が出来るわけがない。だからこそ学ぶ努力は裏切らないと教える。人との生活を教える。人の営みを教える。……乙姫が目覚めたら学校に通わすのもいいな。いつまでもアルヴィスの中だけじゃない、違う世界を来主にも学んで欲しい。乙姫を受け入れた立上のクラスなら、来主も受け入れてくれるだろう。

 

 ソファに座って立上の課題を見てやる。端末を弄りながら見るつもりだったが、今日もそれは無理そうだ。

 

「僕が見る必要がないと思うが…」

 

「そ、そんなことないですって、総士先輩の説明わかりやすくて助かります」

 

 僕の足の間に座っている立上。テーブルの手元を見るのにどうしても密着して覆い被さるような姿勢になってしまう。窮屈だろうが、身体から震えを感じない。これで正解なのか?

 

「ふぅ……。終わりました」

 

「そうか。シャワーを浴びてくるか?」

 

「あ、はい……あの、総士先輩」

 

「僕が居ないことにも慣れる必要がある。学校でも出来ている。なら大丈夫だ」

 

「が、学校は、ひとりじゃ…ない、ですから……」

 

 ひとりにしようとすると途端に震え始める立上の身体。いつまでも僕と一緒に居るわけにもいかないのだが、こういった場合は無理をさせない方が良いと遠見先生も言っていた。

 

「毎度思うが、恥ずかしくはないのか?」

 

「は、恥ずかしいです、けど。総士先輩…ですから……」

 

 乙姫もそうだが立上も、もう少し僕を異性だと意識した方が良いのではないかと時々思う。乙姫は妹だからまだ良いのだろうが、立上とは他人だ。既にここ最近は立上がシャワーを浴びるときに同行しているが、それでも学校の先輩と後輩の関係だ。変な噂をされても立上が困るだけだろう。

 

「お願い、です……ひとりに、しないで…ください……」

 

 わかっているのだが。立上の表情が乙姫と重なって、結局は僕も断りきれないのが悪いのだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 あたしもこのままじゃだめだろうなって、わかってはいるんだけど。総士先輩が一緒にいてくれるだけで安心できる。本当は学校でも一緒に居ないだけで結構辛い。里奈がいるし、バカ広登とのやり取りも、平和なんだなぁって安心は出来るけど、それはそれでいつ敵が来るかわからないという恐さがある。

 

 ファフナーの訓練をしているときはそんな恐さも感じない。ファフナーに乗っている時のあたしは、乙姫ちゃんの島を守ることでたぶん頭がいっぱいだから。他の事を考えている余裕がないから。

 

 でもファフナーを降りるとそんなこともなくなって恐くなる。ひとりでいることが耐えられない。だから総士先輩を頼ってしまう。総士先輩だって忙しいのに、嫌な顔ひとつしないであたしの事を色々と考えて、落ち着かせてくれる。

 

 こんなに優しくされたら、頼りたくなっちゃうよ。

 

 恥ずかしいけど、総士先輩なら安心できるからお風呂も一緒に入って貰ってる。さすがにお手洗いの時は頑張っているけど、終わったあとは胸が痛くて、総士先輩が優しく背中とか頭を撫でてくれてようやく落ち着けるくらい。

 

「あったかい…」

 

「温度は自動調整で管理されているからな」

 

「違いますよ。総士先輩の手ですよ…」

 

「そうなのか? 自分じゃわからないな」

 

 タオル一枚だけの姿で、総士先輩が背中を洗ってくれる。…恥ずかしげもなく真剣な顔で洗ってくれるから最初は恥ずかしかったけど、今はなんか、ちょっと違う。慣れ、とはまた、少し違うかも。

 

「気になるところはないか?」

 

「いいえ。優しくて、気持ちいいです…」

 

 柔肌を触る様な柔らかくて優しい触り方に最初はびっくりしたけど、乙姫ちゃんと一緒にお風呂に入っていたと聞いて納得しちゃった。

 

「総士先輩の手は、暖かくて、優しくて。安心できるんです…」

 

「僕の手が……か…」

 

「…総士先輩?」

 

 鏡越しに総士先輩を見れば、総士先輩は自分の右手を見つめて固まっていた。

 

「いや。なんでもない…」

 

 あたし、なにか余計な事を言っちゃったかな。

 

「立上…?」

 

 まるで消えてしまいそうな目をしていたから、あたしは振り向いて総士先輩の手を取っていた。

 

「総士先輩の手は、あたしを助けてくれます…」

 

 総士先輩の手を胸に抱いて、言い聞かせる様にあたしは伝える。

 

「乙姫ちゃんや織姫ちゃんも、総士先輩の手が大好きです…」

 

 あたしにはわかる。乙姫ちゃんの心が伝わってくるあたしには。

 

 総士先輩の全部が好きだけど、自分を受け入れて抱き締めてくれる総士先輩の手が大好きなのを。

 

「そんな優しくて大きな総士先輩の手だから、あたしも安心できるんです…」

 

 胸に抱いていた総士先輩の手にあたしは手を重ねてグッと握る。この手を離さない様に。今だけは、学校のみんなが誰も知らない、あたしだけが知っている総士先輩の事を。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 最近、総士と話せてない気がする。いや、仕方ないよな。総士だって忙しいのかもしれないし。

 

 俺がカノンを説得している間も敵と戦ってたみたいだし。心配するなって総士は言うけど、またひとりで無理してないか心配だ。

 

「総士、ちょっといいか?」

 

「手短にな。人を待たせている」

 

「あっ、ならいいんだ…」

 

「…そうか。なら僕は行く」

 

 敵の攻撃が激しくなってきて、学校は週3回。日曜休みで他の3日はみんなアルヴィスで何らかの任務に着いたり訓練とかしている。

 

 最近は訓練にも顔を出してくれない。俺たちの訓練は将陵先輩と蔵前が見ていてくれる。だけど総士が居ないのは寂しい。

 

 学校で見掛けても休み時間の度にいつの間にか居なくなっている。朝も朝礼5分前に教室に入って来るから声を掛けられないし、放課後もやっぱり気づいたら居なくなっている。

 

 やっぱり忙しいんだろうな。今だって人を待たせているって急いでいたみたいだし、これは総士が落ち着くまで待つしかないよな。

 

「まーたフラれたな。一騎!」

 

「剣司、お前なぁ…」

 

 絡んでくる剣司に溜め息を吐く。別にフラれたわけじゃないだろう。ていうかそういう表現を使われるのはなんかイヤだ。

 

「知ってるか? 一騎」

 

「何をだよ…」

 

 首に腕を回してくる剣司。重いし逃がすつもりもないなら離してくれ。普通に聞くから。

 

「総士に彼女が出来たんだってさ…!」

 

「彼女…? ……総士がっ!?」

 

 なんというか、人生で一番驚いた気がする。それほど衝撃的な言葉を剣司から聞いた。

 

「総士が……。うそだろ…?」

 

「ウソじゃねぇって。下級生の間じゃ、結構噂になってんだって…!」

 

 確かに総士は人は良いし、優しいし、みんなを見ているし、人気者だし。今でも下駄箱にラブレターが5枚入っているのはザラだし、料理は得意だし、裁縫も出来るし、カッコいいけどさ。

 

「本当なのか……? 総士に、好きなやつがいる?」

 

 なんだ。この足元が崩れ落ちそうな感覚。今まで信じてものが一気に崩れ去る様な感じは。

 

「総士……!」

 

 教室を出て、総士を追い掛ける。右か、左か。総士なら右に行く!

 

 下級生の教室は下だったな。

 

「総士…!」

 

 総士の背中が非常階段の方に入っていく。非常階段? 普段鍵が閉まっているのに。総士なら開けられて当然か。

 

 さすがに非常階段に入っていくとバレる。下から柵を越えて非常階段に入るか? 非常階段の出入り口で待ち伏せるか。

 

 早いのは廊下の窓から外に出て非常階段を登るルートか。高さは2階――。なんとかなるだろ。

 

 窓を開けて枠に脚を掛けて飛ぼうとしたら首根っこを掴まれた。

 

「ぐっっ」

 

「…何をしているんだ? 一騎」

 

「そう、し……?」

 

 勢いが着いていたから苦しかったけど、それよりも総士に見つかったことの方が言葉が出なかった。

 

「ただ、総士が気になって……」

 

 無言の圧力に負けて理由を話した。ただ総士に訊きたかったんだ。

 

「総士が付き合ってるって、剣司に聞いて」

 

「なに?」

 

「下級生と、彼女がいるって……!」

 

 言葉が少し変だったけど、総士に意味は伝わったらしい。

 

「次の訓練は課題を倍にしてやる……」

 

 総士は溜め息を吐いて、俺の額を小突いた。

 

「噂を鵜呑みにするな。事実無根だ」

 

「でもお前人気あるし…」

 

 別に総士が誰と付き合っていても関係ない。俺には関係ない。関係ない……けど。

 

「たとえそうだとしても、僕にそんなことに時間を割いている暇はない」

 

 なんでこんなにモヤモヤするんだ…。

 

「総士先輩……?」

 

 少しあきれ顔、そんな総士の背中からひょっこり顔を覗かせたのは新しいファフナーのパイロットだ。

 

「一騎先輩…?」

 

「立上……?」

 

 立上芹だ。乙姫とも仲が良い友達の。

 

「ひとりで行けそうか? 立上」

 

「っ、……はい、なんとか…」

 

 総士の服を掴む立上。そんな立上に総士は優しく声を掛けて頭を撫でた。……剣司の嘘つき。今度の勝負は手加減しない。

 

「それじゃ、先輩…、またアルヴィスで」

 

「ああ」

 

 立上を見送った総士が俺に顔を向けた。皆まで言うなよ。

 

「そういうことだ」

 

「ああ」

 

 なにか事情があるのは立上を見てわかったし、総士のあの接し方でなんとなくわかった。

 

「……このあと、サボらないか?」

 

「難しいことをいうな…」

 

 やれやれと言った様子の総士の服を掴む。

 

「……仕方ないな。今日だけだ」

 

 無言で総士の服を掴んでいたら総士が折れた。

 

「屋上に行くぞ。今日は良い空が見えそうだ」

 

「ああ!」

 

 予鈴はとっくに鳴っていて生徒が誰もいない廊下を俺と総士は歩いて屋上に向かった。一応授業が始まるから息を殺して静かにバレないように。

 

 それがなんだか子どもの頃に戻ったみたいで、嬉しかった。

 

 訪れた束の間の平和。この島だけの日常。緩やかに過ぎる時間。そのすべては尊いものだ。

 

 だがその時間が過ごせる理由を忘れてはならない。それは彼らから奪った時間なのだから。

 

 だから僕らはその時間が続くように、より多くの時間を奪い続ける。みんなの時間さえも。

 

 君は知るだろう。時間というものは生命の時間と引き替えに手に入れられるものだと。

 

 

 

 

to be continued…

 

 

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