今回は羽佐間姉妹の話しだ。だがカノンはまだ悩んでいるらしい。
私の家に、新しい家族が増えました。
「おはよう、カノン」
「お、おはよう…。翔、子…」
うちで預かることになった女の子。カノンは私の妹になるのかな?
皆城くんが推薦してくれたみたい。私がここにいるからカノンがどうなるのか心配だったけど、それは皆城くんも気にかけていたみたい。
お母さんもまだカノンとの距離の取り方に迷ってるみたいだけど、これからきっと仲良くなってくれるよね。
真矢のところにもミツヒロくんが住むことになって、同じ時期に弟と妹が出来たから話題はついそのことばかりになっちゃう。ミツヒロくんは料理が得意なんだって。カノンが料理しているところはまだ見たことないからちょっと気になる。……早く切ることを最優先でジャガイモを大雑把に切ったりしてたら、ゆっくり作っても大丈夫なのを教えてあげよう。
でも大変なのはこれからかな。カノンの生命を消さないようにするにはどうすればいいのか。
5年後。カノンは島のみんなの未来を紡いでいなくなる。でもそんなことはさせたくない。
未来に触れる力はカノンのものだけど、カノンが居なくなったらみんなが悲しむことになる。
だから皆城くんは、きっともっと早い段階から未来を選び始めて戦っている。その結果、敵が強くなってもみんながここにいる未来を、皆城くんは必死で探している。
未来を背負う覚悟を決めても、たいして役には立てていない私がどうすれば未来の為に、一騎くんの帰る島を守る為に戦えるのかずっと悩み続けていた。
私にも、島の力が使えれば良いのに。
どういう力になるかなんてわからない。でもひとつでもなにか特別な事が私にもあれば、一騎くんを助ける事が出来るかもしれない。
でも今はその前にやることがある。
「ショコラのお散歩に行くけど、カノンも行こうよ」
「それは命令か?」
カノンはまだ自分に言われた言葉を命令かそうじゃないかで区別する。
「ううん。命令じゃないよ。提案だよ」
ショコラは優しい子だから元気でもまだ体力のない私の事を考えて歩いてくれるからお散歩も苦じゃない。でもこう口実がないとずっとカノンは部屋に籠ってそうなんだもん。
「……命令でなければ、どうしていいのかわからなくなる」
「自分で決めていいんだよ。カノン」
「…私が、決める」
もしカノンにも祝福があるのならそれは「選択」だと思う。カノンは選んで選んで選び抜いて、……一騎くんと一緒に生きる未来を捨ててまで島のみんなの未来を選んで、自分の生命を使う事を、残りの時間の使い方を選んだ。
凄いよカノンは。……私だったらきっと一騎くんを選んでしまうだろうから。
そんな「選択」をし続けたカノンはここにいる事を選んだ。そして今は私とお散歩に行くかを選んでいる。
「…上官の提案に従う」
「私は上官じゃないよ。あなたの家族だよ、カノン」
「か、ぞく……」
家族を失ったカノンにまた家族を作ることが抵抗がないわけがない。
今はまだ早すぎちゃったかな。
でも少し強引でも踏み込まないと今のカノンとは仲良くなれないかもしれない。
「行こう。カノン」
「…了解」
「あっ、せっかくだから着替えようよ」
「着替える? 服はこれしか持ち合わせがないが」
島に来たばかりだから仕方がないとしても、女の子が制服だけなんてダメだよ。
「カノンにぴったりの服があるから、待ってて」
「私には、合わない。と、思う…」
「そんなことないと思うよ」
本当はお母さんからカノンにして欲しかったけど、一緒にお散歩に行くんだもの。一緒に似たような服を着て、一緒に歩きたいのは私のワガママ。
ライム色のワンピースに着替えたカノンは思った通りかわいい。
「や、やっぱり、私には…合わない……」
身体をもじもじさせて恥ずかしがっているカノンに頬が緩む。
「ううん。そんなことないよ、カノン」
「あ、お、おい……!」
そんなカノンの手を引いて外に出る。お揃いの帽子も忘れないで。
カノンの門出を祝ってくれるように、玄関から出た瞬間に見えた空はキレイな青空だった。
「うわぁ! キレイな空」
「……そうだな」
カノンは空を見ながら少し辛そうな顔を浮かべていた。
「私は島を消そうとした。命令に従って。ただそれだけで。そんな私が、この島にいていいのかと思っている」
「…私は嬉しいよ。カノンがいてくれて」
「翔子…」
一人っ子だった私に妹が出来て、まだ身体が悪い頃は兄弟が欲しいと思ってた。そうすればひとりの寂しさもなくなるのかなって。
毎日真矢が来てくれたから寂しくはなかったけど、やっぱりひとりは寂しい。今は私も身体が元気だから学校に行けて毎日が楽しいからもう平気だけど、やっぱりカノンがいてくれて嬉しいのはホントのこと。だってこうしてお揃いの服を着て出掛けられるから。
「よ、羽佐間と、カノンだっけか」
「こんにちは、将陵先輩」
ショコラのお散歩していたら将陵先輩と出会った。木の木陰で休んでいたから一瞬具合悪いのかなって思ったけど、顔を見ると大丈夫そうだった。
「カノンは羽佐間の家に住んでるんだな」
「あ、あぁ……」
「良かったじゃないか。そうして並んでいると姉妹みたいだぞ」
「私がお姉ちゃんです!」
カノンの腕を抱いて身を寄せながらちょっと胸を張ってみる。そうしたら将陵先輩は笑った。
「はは、良かったな羽佐間。これでもう寂しくないな」
「…はい」
私はお母さんもカノンも居るから大丈夫。だけど一番寂しいのはきっと将陵先輩。
私たちも木陰で休むことにすると、ショコラが将陵先輩にじゃれつき始めた。
「はは、いい子いい子」
「すみません。遊んでもらっちゃって」
「いいっていいって。俺、ヒマだし」
将陵先輩が帰ってきたことで島の大人たちは多かれ少なかれ衝撃が走った。
「……聞かせてくれますか? L計画のこと」
「蔵前にも言われたけど、あんま面白い話じゃないぞ?」
面白い面白くないじゃないと思う。ただ、聞かなければならないと思う。こうして私たちが今も島にいられるのは、将陵先輩たちが戦ってくれたからだ。
「L計画…?」
「1年前に行われた作戦さ。敵から島を守るための囮作戦だよ」
私たちがここにいるのは先輩たちが戦ってくれたから。先輩たちの犠牲があって、竜宮島は生きている。苦渋の犠牲を払って、竜宮島の平和がある。
◇◇◇◇◇
「島の平和を守るために誰かが戦う。敵を倒すだけじゃない。生きるために、俺たちは戦ってるんだ」
リョウから話を聞いた。私にはわからない。この島の人間ではない私でさえ、この島に帰りたい理由は察せられる。だがそんな感情を押し殺してまで何故戦えるのか聞いた答えが、それだった。
戦う理由が見つけられない私には、この島に居る理由がない。
「そんな深く考えなくても、もっと軽い気持ちで考えればいいんだよ。襲われるから生きるために戦えばいい。今生きている場所が、お前がここにいる理由になるだろ?」
「私の、生きている場所が……?」
「お前だって、いなくなりたいわけじゃないだろ、カノン」
「私は……」
一騎に言われた。ずっといなくなりたかった。それをリョウにも言われた。
私がわかりやすいのか。それとも一騎もリョウも生きる為に戦っているから、戦うことさえ命令だから戦っていた私には、存在する理由さえ自分で持っていなかったから、私はいなくなりたかった事がわかってしまうのか。
「私は、ここにいる。だが、それが戦う理由になるのか、私にはわからない」
「まぁ、悩める内に悩めば良いさ。お前は生きているんだからさ」
ただここにいるだけの私が生きているのだろうか。
「戦う理由なんて人それぞれだから、お前の戦う理由を見つけろ。それまではいなくならない為に戦うくらいの気持ちだって充分だ」
「いなくならない為に、戦う……」
それなら、私でもわかる戦う理由になる。戦う理由がわからなくても、この生命を奴らにくれてやる理由はない。
「リョウは何故戦う」
「島を守るためさ。みんなの分まで。そして悩める後輩に先輩として教えてやる為かな?」
「新兵に戦いの厳しさを教える為か?」
「違うよ。戦う意味の大切さってやつかな。戦う意味を見失わなければ、辛い戦いだって乗り越えられる」
「戦いを終えても、戦いが終わるわけじゃない。戦い続ける事を恐れないためか?」
「戦いばかりじゃないさ。戦いと戦いの間にある平和な時間を楽しめ。そうすれば自然とわかってくるさ。俺はカノンに命令してやる。もう少しバカになれ、お前は真面目過ぎだ」
「バカになる……か。高度なミッションだな……」
私が島に居る理由か。見つけられるのか? 私に。
「将陵先輩はすごいですけど、怠けすぎですよ」
「肩の力を抜いてるだけさ。四六時中張り詰めていたらプッツンしちまうよ」
生きるために戦う。いなくならない為に戦う。……奪われない為に戦うということか。
「そういや羽佐間、一騎とはどうなんだ?」
「ふぇっ!? ど、どういう意味ですか?」
「告白したりチューしたかって意味♪」
「こっ!? ここ、こここ、ちゅ、ぅ……きゅぅ――」
「あ、こりゃまだだな」
「翔子はどうしたんだ?」
「まぁ、そっとしておいてやれ」
頭から煙を出してリョウの肩に倒れた翔子はなにかをうわ言の様に言いながら意識はない様子だ。眠かったのか?
◇◇◇◇◇
「これで良かったんだよな? 祐未」
復活した羽佐間とカノンを見送って、俺は相変わらず日陰で座っていた。
『最後のはデリカシーがないわよ』
「青春って、いいよなぁ」
『なにいってんのよ。あなただって現役でしょ』
「お前がいないと意味ないだろ?」
『ばっ!? バカっ!!』
「はは、顔が瞬間湯沸し器みてぇになってるぜ?」
『だっ、誰の所為よ! バカっ』
こうして話すことは出来ても、触れられない。存在と無の循環を島のミールが学んでも、もう居ない者を存在させるにはそれ相応の犠牲が要る。
『無理はしてない?』
「してないさ。総士が望む限り、俺も存在はなくならない」
『痛みを伴っても存在し続ける皆城君の祝福。それによって永遠の存在となる島の祝福が生命を生かし続ける。生命の循環からは外れた存在か……』
一騎がなるはずだった存在に総士がなった。その影響が何処まで出るのか。
「守るさ。お前の分も、この世界を」
『僚……』
肩に祐未が身を寄せてくる。重さは感じないけど、暖かさは感じる。祐未の魂はここにいる。
『私も、必ず帰るから。島に、そしてあなたのもとに。必ず…!』
「あぁ。俺は待ってる。ずっと…」
島が沈んだとしても、俺は待ってる。ずっと、永遠に。
永遠を人は求めたがる。美しさ、富み、生命。手に入るものではないからこそ、人は焦がれて追う。
だがそれは永遠である事の苦痛を知らないからだろう。
永遠である代わりに失い続ける痛みを知らないからこそ、痛みを知るものが耐える痛みを羨むのだろう。
to be continued…