そしていよいよお待ちかね。聖戦士殿の出番であるぞ!
マークニヒトを起動させる。左目が疼くが、今は無視だ。
地表に向かうエレベーターを選択し、竜宮本島の空に舞う。敵は正面からの消耗戦の構えだ。だからどうにか対応出来ている。
「マークツヴォルフが再起動…? どうやって」
機体コンディションはどうやっても再起動出来るような損傷ではなかったはずだ。なのにジークフリード・システムから送られてくる情報には、マークツヴォルフが損傷していた形跡が綺麗になくなっている。
「まさか、SDPか…!?」
立上のSDPである「再生」の力であれば、機体の損傷どころかパイロットの致命傷すら再生してみせる。
だがその所為で自らの生命を保つ為に周りの生命を同化してしまう。
「僕は……っ」
守ると誓っても、だれひとり守れない自身に怒りを感じながら島の空を守るマークザインに近付く。
「無事だな、一騎」
『総士!』
背中合わせで周囲を見渡す。群れを作るタイプの包囲網を破るために、この力は出し惜しみはしない。
「敵の包囲網を破る! 5秒稼げ」
『わかった!』
ルガーランスからビームを照射しながら薙ぎ払うマークザイン。しかし出力が足りずに多くの敵は倒せていない。
マークニヒトの両手にワームが集まる。丸鋸状の巨大なワームを作り、それを投げつける。
3つに別れたワームは各々の子を生み出す親に向かっていく。それを子がワームに群がって盾になり威力を落としていく。
「味方を盾にするのか」
『どうする? 総士』
敵が盾になって本隊に攻撃が通らないのなら、その攻撃を無理矢理にでも通してやればいい。
「一騎。お前の生命を僕に預けられるか?」
『出来るさ。お前が望むなら』
マークザインが近付いてくる。その肩に手を置き、同化する。マークザインのリミッターを解除、マークニヒトとのエネルギーラインを構築。
「一騎、敵をすべて滅ぼせぇぇっ」
『っ、でやああああああ!!!!』
先程とは比べ物にならないほどの砲撃をルガーランスから放つマークザイン。負荷は此方で受け持っているが、一騎の身体に負担が掛からないわけじゃない。
薙ぎ払う砲撃は群れを呑み込み、それを生み出す親も呑み込んでいく。
「この力は……」
島のミールを伝って、なにかが島を包んでいる。今の一撃を逃れた群れが結晶化して消えていく。ワームに呑み込まれるのではなく結晶化した。
「立上…!?」
力のもとを辿ると、存在がマークツヴォルフに向かって流れ込むのを感じる。マークツヴォルフが生命で溢れ返っている。
「やめろ立上!!」
ノートゥング・モデルではそんな大量の生命を抱えられる程の器はない。このままでは戻れなくなる。
『良いんです。これがあたしが選んだ道ですから……』
「立上……」
システムを伝わって感じる立上の覚悟は生半可なものではなかった。島に生命を守られようと、自分が変わってしまっても存在する事を選んだ覚悟は、僕にはどうにも出来ない。
「ここは任せるぞ、一騎!」
『総士?』
マークザインとの同化を解き、僕は彦島に向かう。システムに新たな機体の登録があった。
マークレゾンが起動している。ミツヒロが起動させたのか?
やはりお前だったか……。
アザゼル型までも生み出した海神島のコア。
確かにウォーカーならば僕たちとの戦い方を知っているだろう。だがそれはこちらも同じことだ。
「スカラベ型…? 伏せていたのか」
スカラベ型がフィールドを張り、結晶の柱を空に伸ばしていた。
「させるか!」
ルガーランスを構えながらスカラベ型に突撃する。
「くっ、なかなか硬いな」
切っ先を障壁で受け止められた。だがスカラベ型程度でこのマークニヒトは止められない。
「貫けぇっ」
力任せにルガーランスの刃を押し込み、障壁に切っ先が沈むと刀身を展開して抉じ開けたそこからプラズマ弾を放つ。
アンカーケーブルを打ち込み、スカラベ型を同化する。
「自らの力で滅ぶがいい!!」
島に干渉しようとしていたスカラベ型のフィールドの先を海の中に居るウォーカーの本体に向ける。
「感じるぞ。お前の苦しみを!!」
だがそれをまだフェストゥムは痛みに一括りにしてしまっている。痛みはひとつだけではない。苦しさも辛さもあることを学べ!!
「ぐっ、がああああっ」
しかし相手は腐ってもアザゼル型だ。アンカーケーブルを通してマークニヒトを――僕を同化しようとしてくる。左目が熱を持ち始め、なにかが流れ出す。
「うぐっ、どうしたマークニヒト……、虚無の申し子がこの程度か!!」
マークニヒトのパワーが上がる。ウォーカーから力を吸い上げていく。こちらに干渉して同化するというのならば、こちらにも同化能力はあるぞ!
一騎は北極のミールの意思も、アザゼル型の2体分の存在さえ同化した。なら、僕にもアザゼル型の1体程度同化できるはずだ。
「無に還れ……っ、おまえは、まだ存在していてはならない存在だ!!」
マークニヒトが結晶に包まれていく。だがまだだ。まだ僕の生命はここにあるぞ、フェストゥム!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ」
身体を突き抜ける痛み。皆城総士であっても、皆城総士とは別の道を選んだ僕は皆城総士よりも痛みに弱い。この程度の痛みにすら声をあげてしまう。
それでも、痛みを伴おうとも、僕はここにいることを選び続ける。
◇◇◇◇◇
コックピットの中が水で満たされていく。潮の香り。冷たい水の中に沈んでいく。なのに身体は動かない。身体を突き抜ける金色の刃に縫い付けられた身体は少しも動かない。
身体に金色の結晶が生えてくる。私を同化する気なんだ。
「ごぼっ」
身体を同化されながら水に溺れさせる。本当に人を殺すことだけに長けている。
フェンリルも起動出来ない。このままじゃ、一騎くんに迷惑をかけちゃう。そんなのは絶対にイヤ。
左手をニーベルングから外して金色の刃に触れる。
触れた左手が金色の結晶に包まれていく。
『ア・ナ・タ・ハ・ソ・コ・ニ・イ・マ・ス・カ?』
フェストゥムの問い。それに答えれば同化を、否定すれば攻撃を。
「あなたたちは、だれも愛したことがないの…?」
金色の結晶が少しずつ生えてくる早さが遅くなる。
来主くんは人の心を学んでいつもわからない感情に悩んで理解しようと頑張っているのに。
「憎しみばかりを学んで、それ以外を知ろうともしないで」
フェストゥムの心が入ってくる。なにもない、なにも感じない虚無が心を塗り潰そうとしてくる。すべてを奪おうとする。
ふざけないで――。
「っ、奪わせない! 一騎くんへの、私の想いまで消させないっ」
金色の結晶が翠に変わっていく。手で触れている金色の刃が結晶に包まれていく。
「皆城くんが望んでくれた私の生命。あなたに奪われるわけにはいかないの」
刃が砕けて身体の感覚が戻ってくる。
ニーベルング再接続。機体を再起動。
「だから私は、この生命を島を守ることに使うの!」
レージングカッターを放って、ディアブロ型を捕まえる。
マインブレードを装備して、ワイヤーを巻き上げながら近づいていく。機体の傷が結晶に包まれて再生していく。
「これが、私のっ」
マインブレードに白い光が集まっていく。
ディアブロ型が丸鋸状のワームを放ってくる。レージングカッターを切り裂かれる。でももう勢いはこっちにある。
スラスターを全開にして斬り込む。
「生命の、力だああああ!!」
光の刃が伸び、海の水ごとディアブロ型を断ち切る。
海が割れて見えた空に向かって飛び立つ。
まだ生きているディアブロ型に向かって、空から急降下する。
「やあああああああ!!!!」
両手で握ったマインブレードにさらに光が集まって力強い刃になる。
突き刺す刃が障壁に防がれる。でも、今の私ならやれる。
「ひとつでダメならっ」
もう一本のマインブレードを抜き、二本目の光の刃を突き刺して壁を抉じ開ける。
「おちてよぉぉおおお!!」
ディアブロ型に突き刺さる右の刃でそのまま縦に切り裂き、返す左の刃で横に切り裂く十文字切り。
コアを切り裂かれ、ワームスフィアに呑まれて消滅したディアブロ型。
「はぁ…、やったよ。一騎くん……」
空を取り戻せたことを安堵しながら、海に向かって二本の光の刃を降り下ろす。
「今の私なら、皆城くんの役にも立てる!」
わかる。海の中に居る存在の生命を感じる。
皆城くんの生命を食い荒らそうとしている。
だから私の生命の力で、海の存在の生命を弱らせる。
海に向かってなにかが突き刺さる。赤い剣だ。
その赤い剣を中心に翠の結晶が海を呑み込んでいく。
「生命を食べてるの?」
海の存在の生命が急に減っていく。海を丸ごと食べる勢いで生命の力が広がって、海の存在の生命を奪っていく。
『羽佐間先輩!』
「芹ちゃん?」
マークツヴォルフが剣を掴むと、さらに生命が奪われていく。
私も力を入れて海の存在の生命を弱らせる。
皆城くんに生命を送る。そうすれば今よりも強く皆城くんは力を使える。
私の生命を望んでくれた皆城くんの為なら、私の生命を使って敵を倒せるならそれでも構わない。
「だから倒して! 一騎くんの島を守るためにっ」
◇◇◇◇◇
「ぅっ、ぐぅ……」
同化しながら同化される。気を抜けば此方が喰われる。一騎はこんなヤツを相手に同化したのか。虚無の力では出来ない。存在の力が存在を望む心に応えた故なのか。
「負けるなっ、マークニヒト……。虚無の申し子がっ、無の力に負けて、なるものか!!」
この場でウォーカーを倒さなければ、後に何をされるかわからない。だから倒す。意地でも今ここで。
「っ、なんだ…!?」
身体の結晶が砕け散っていく。身体に活力が溢れていく。
『総士先輩!』
『皆城くん…!』
「立上? 羽佐間まで」
感じる。二人の生命の力が僕に流れ込んできている。そしてウォーカーの生命を奪っていく。
「食い尽くせ、マークニヒト!!」
アンカーケーブルを海にも打ち込む。海を覆う結晶と同化し、立上の力を増幅させる。
『総士先輩?』
「喰らい尽くせ、立上!!」
『っ、はい!!』
マークツヴォルフがバスターソード・ライフルをさらに海に沈める。さらに結晶が海を包む。
『ふたりとも、私の生命を使って!!』
マークゼクスが蒼白い光に包まれていく。その光が海を浸透して、さらに結晶を育てる。
マークゼクスから火花が散り、背中の飛行ユニットが爆発する。機体が負荷に耐えられていないというのか?
「よせ羽佐間! これ以上は機体が保たないっ」
『私は大丈夫だから』
結晶の上に降り立ちながらも光の刃を手放さない羽佐間。脚のスラスターが爆発する。
『私は、私の生命が有る限り死なないから…』
マークゼクスが結晶に包まれていく。敵の同化がマークゼクスを喰おうとしている。
『させるものかあああああ!!!!』
マークレゾンが現れ、マークゼクスの機体に触れると、マークゼクスを覆う結晶が砕け散る。
『ミナシロ!!』
「っ、奪い尽くせ、マークニヒト!!」
アンカーケーブルを通じて電流を流し、さらにウォーカーを弱らせる。
「っ!? しまった……!」
だがその電流にスカラベ型の身体が保たずに砕け散り、ウォーカーもまた自身を蝕む最大の要因が消えたことでその存在を眩ました。
「はぁ…はぁ…はぁ……っ」
ウォーカーの気配はもう感じない。遠くに逃げたのだろう。
海の結晶も弾け、生命が僕の中にも流れ込んでくる。
ウォーカーも大分弱らせられたと思いたい。だが仕止めきることが出来なかったツケはいつか払わなければならないだろう。
「無事か……、みんな?」
『はい……、あたしは』
『私もここにいるよ…』
『……すまない。仕止められなかった』
皆の声が聞こえるだけで、それで良い。生きていてくれるのだから、今はこの疲労感を感じながら身を任せてしまおう。
脅威を退け、安堵した。それが一時的なものではあっても確かに平和を手に入れられたのだから。
だから今は眠ろう。再び次の戦いに挑むために。微睡みに身を預けて、僕は深い闇へと身を任せた。
to be continued…