新型のファフナーを造ろうかザルヴァートル・モデルを増やすか悩むなぁ。あ、聖戦士殿には是非オーラファフナーを与えたいのだが如何だろうか?
アザゼル型のウォーカーを退けたものの、倒すには至らず、結果的にこちらの手をさらしてしまった痛み分けに近い結果だろう。
「大丈夫か? 立上」
『ええ。いつもと変わりはありません』
マークツヴォルフに乗る立上に声を掛ける。昨日の今日でなら敵も襲ってこないだろうと、二日目のテストを実施。里奈も広登も暉も、改めて意思を聞いたが全員ファフナーを降りることはなかった。
万が一に備えて僕もマークニヒトに乗って現場で待機している。機体を慣らす為にミツヒロもマークレゾンで現場に居る。
グノーシス部隊の慣らしが終わった次はトルーパーとの模擬戦を行う。そして連携テストを含めて、強大な敵との遭遇を想定したマークレゾンとの模擬戦も組んだ。
トルーパーとの模擬戦では個々の力で挑むためわからなかったが、連携テストになるとやはり個々で戦うようなきらいが里奈たちにある。5年後に多少はマシになるのだろうが、それでも要に言われるほど、戦いが激しくなると連携をしなくなるというか、互いを助け合うより自分の目の前の敵を倒すことを優先してしまう。
立上が機体特性に合わないままフォローにまわるが、里奈か暉が崩されて総崩れになる展開が多い。その点広登はマークフュンフに乗ることを想定して堅実に味方の守りとして動いている。
里奈と暉がマークノインとマークツェーンのパイロットなのもわかる気がする。これでマークツヴォルフのような近接戦闘型に乗せた日には生命がいくつあっても足りない。
しばらくはグノーシス・モデルで訓練を積み重ねて、ノートゥング・モデルの搭乗はまだ先になるだろう。
そして問題は里奈たちだけではなかった。
「なにかわかりましたか?」
「いや。機械的にはさっぱりだ」
保さんもお手上げなのがマークゼクスに起こった現象だ。羽佐間が獲得したのだろうSDP。
SDPはフェストゥムの力そのものと思っていたが、羽佐間のSDPは特殊過ぎた。
機体に負荷が掛かる程の強力な力。生命の力が働いていることは僕も感じていたことだが、科学では解明しきれていない人の生命の力がSDPとして発現したとでもいうのか。
「パイロットのバイタルデータも異常は見当たらなかったわ。逆に活性化して行くほどよ」
羽佐間先生も娘が正体不明の力を発揮したことに心配せずにはいられないだろう。だからこそ、羽佐間のSDPをなんとしても解明する必要がある。
「羽佐間は生命の力という言葉に拘ります。人が解明できていない力。気や生命力、そういった類いの力ではないかと僕は思っています」
仮説でしかないが、あながち間違いだとも思わない。僕が感じた羽佐間の生命の力は、まだ僕の中にも残っている。
「生態エネルギーを力に変える力か。あまり使い過ぎない方が良いぞ」
ロマンを理解している保さんは話が早い。僕の言葉で懸念を理解した。
「もしくは使っても、負担を掛けない物を作るしかありません」
少しの力でも、その力を増幅させる特殊な機材があれば、少しでも羽佐間の負担が減らせるはずだ。
「皆城くんには宛があるの?」
羽佐間先生が縋るような視線を向けてくる。ないこともないが、その研究に関しては僕もまだ未知の領域だ。
「ミールの欠片を使って、パイロットのSDPを増幅させます」
カノンは島のミールとのクロッシングを促す機構を造り上げて、パイロットのSDPを強化した。パイロットが単体で島の力を引き出していた負担を大幅に軽減させた。だがその機構に関して僕は未だに辿り着けない。
僕に出来ることはミールの欠片を直接機体に乗せて島のミールとの交換器にすることで、パイロットの負担を減らそうという手だ。
「しかしそうなると、今のノートゥング・モデルじゃ機体が保つかどうか」
保さんの懸念は最もで、そして恐らく機体は保たないだろう。ただでさえ、マークゼクスは羽佐間のSDPの負荷に耐えられていない。
SDPにも耐えられる新たなファフナーが必要になった。
ザルヴァートル・モデルを宛がうのが順当だが、あの機体もミールに等しい存在だ。
羽佐間のことを考えれば全く新しいファフナーを用意するのが懸命だろう。
生命を使いきらせはしない。たとえ何があっても。
◇◇◇◇◇
「大丈夫? 翔子」
「うん。ちょっと張り切りすぎちゃっただけだから」
真矢がお見舞いに来るのも久し振りな気がする。そう感じるほど、最近の私は身体の調子が良かったから。
昨日の戦闘のあと、気を失った私はアルヴィスで一晩を過ごして今も医務室に居る。
私が手にいれた力。私だけの力。この力があれば一騎くんの島を守る事が出来る。
「強いよね、翔子は」
「そんなことないよ。真矢の方が、強いよ」
真矢が暗い表情で私に言う。ファフナーに乗れない自分を責めている様に私には見えた。
真矢がファフナーに乗れないのは弓子先生が真矢のデータを改竄したから。皆城くんもそれを知っているはずなのに未だに真矢をファフナーに乗せないのはなにか考えがあるからかもしれないから、私からは真矢が本当はファフナーに乗れることを伝えられない。
「私、いつも見ているしか出来なくて。みんながいなくならないように祈るしか出来なくて」
「真矢……」
それがどれだけ大切なことなのか、もっと真矢は胸を張っていいの。だってそれは私たちのことを忘れないように、ここにいることを望んでいてくれているもの。
「みんなが傷ついているのに、私はなにも出来なくて。私もファフナーに乗れたらって、私も戦えたらって」
私は出来ることなら真矢にファフナーには乗って欲しくない。私には、一騎くんが帰りたいと思う場所にはなれないから。だから私は一騎くんの帰る場所を守るから、真矢には一騎くんの帰る場所になって欲しいの。
戦う前のみんなを覚えていて欲しいの。変わらずに、帰る場所であって欲しいの。
その為に、私は私の生命を使う。だから真矢は急がなくていいの。今はまだ、戦いに踏み込まなくてもいいの。
「真矢はまだ、そこにいて」
「っ、翔…子……?」
どうしてそんなことをいうのかという見捨てられた子供みたいな表情を浮かべる真矢を見ると少し辛い。
でもこれは私のワガママでもあるから。
「真矢にはまだ、そこにいて欲しいの。戦いだけじゃない。みんながそこにいることを真矢には見ていて欲しいの」
「翔子…」
寂しげな目を向けてくる真矢の手を握る。強く、強く、私がまだここにいる事を伝える様に。
「私はここにいるから。ここにいて、島を守るから」
「っ、翔子!!」
真矢が覆い被さって涙を流す。真矢には辛い思いをさせちゃうけど、今はまだ、私に島を守らせて欲しいの。
一騎くんの為に、真矢の為に、私の戦いがちゃんと島を守っていることを実感したいから。
◇◇◇◇◇
「おはよう、乙姫ちゃん」
「おはよう、芹ちゃん」
岩戸から目覚めた乙姫ちゃんを、あたしは出迎えた。でも他に出迎える人は居ない。乙姫ちゃんがあたしだけを呼び出したから。
「織姫ちゃんは?」
岩戸の中にはまだ織姫ちゃんが眠っていた。
「織姫はまだ、生命が足りていないから。その時が来るまで、まだ眠っているの」
「織姫ちゃんに何かあったの?」
島が攻撃されると、コアに負担が掛かるのは遠見先生や総士先輩から聞いている。昨日の戦闘で何かあったのか考えてしまう。
「ううん。大丈夫だよ。ただ元々存在があったわたしと違って大分無理をしているから、その分休ませているの」
「そっか…」
理屈はわからないけど、でもなんとなく乙姫ちゃんの言いたいことはわかる。でもなんだか……。
「「変わったね、乙姫ちゃん/芹ちゃん」」
もうクロッシングはしていないのに、あたしと乙姫ちゃんはまったく同じ言葉をまったく同じタイミングで口にした。
「っ、ふふ」
「あ、ははっ」
どちらともなくあたしたちは笑った。あたしも変わったんだ。あたしが乙姫ちゃんを変わったと思うように。
「良かったの? 芹ちゃん」
「うん。あたしが決めたことだから」
あたしはあたしが望む未来を作るために変わることを躊躇わない。
「島に居る限りは、島が芹ちゃんの生命を守るけど。守るのは生命だけ」
「人のカタチまでは守ってくれない。でしょ?」
あたしから教えられたあたしの未来。でも恐くないよ。だってあたしはあたしで選んだから。
今はまだ抑えていられるけど、あの飢餓感が抑えきれなくなった時が、あたしが人でいられる時間の終わりなんだろう。
「乙姫ちゃん……?」
「芹ちゃんがどんなに変わっても、わたしがずっと傍にいるから」
乙姫ちゃんがあたしの身体を抱き締めてくれた。肩が震えているのは泣いているから。
「泣かないで乙姫ちゃん。あたしは乙姫ちゃんの笑顔が見たいな」
「芹ちゃん……」
あたしを見上げる乙姫ちゃんの目元を親指で拭って、髪の毛を掻き分けて、乙姫ちゃんのおでこにキスをする。なにがあってもお姫様を守る騎士の様に。
「守るよ。なにがあっても。乙姫ちゃんも、乙姫ちゃんの島も、みんなも」
「芹ちゃんっっ」
乙姫ちゃんに押し倒されて、わんわん泣かれちゃった。ごめんって何度も口にする乙姫ちゃんの髪を撫でながら、失敗したかなぁって思いながら視線を上げると、織姫ちゃんの顔が少し飽きれ顔に見えたのはあたしの気のせいかな?
大丈夫だよ。織姫ちゃんのことも、あたしが守るから。
『芹ちゃんのバカ…』
乙姫ちゃんと同じ声だけど、乙姫ちゃんと違ってトゲのある声で織姫ちゃんは言った。でも知ってるよ。織姫ちゃんも乙姫ちゃんと同じくらいみんなのことを好きだってこと。
『……芹ちゃんのバカ』
それはあたしじゃないあたしに向けられた言葉。織姫ちゃんもたくさん頑張って戦ったんだから、もう頑張らなくても良いんだよ。少しは甘えてくれても良いんだよ。あたしも総士先輩も、それを望んでいる。織姫ちゃんも乙姫ちゃんも普通の女の子として過ごせる日常を作るために戦っているんだ。
◇◇◇◇◇
「ただいま。総士」
「おかえり。乙姫」
また総士と会えた。総士は変わらずにわたしを出迎えてくれた。それが日常の延長のように。朝家を出て、夜家に帰って来たかの様に。特別感はない当たり前の出迎え方。でもそれがわたしにとってとても大切なこと。
「今週末にはパイロット同士の親睦を深めるために海水浴学習を行うことになった」
「知ってる」
「間に合ってよかった」
「それはどっちの意味で?」
だから変わらずにちょっと総士にいじわるする様に言う。特別なことは芹ちゃんといっぱいしてきたから、総士とはいつもと変わらない感じがわたしにとって特別になるの。
「両方の意味で、と言いたいが。この場合は前者の意味であることを強く希望する」
「そこは普通にわたしとも一緒に海に行けて嬉しいってことだけで女の子は嬉しいものなんだよ? 総士」
「僕にそういったことは向かない。性分なんだ」
幾分か器用にはなったけど、別の意味で不器用を加速させてしまっている総士。これはフェストゥムに感情を教えるよりも難航だよ、織姫。
「……そこはウソでも一緒に海に行けて嬉しいって言って」
「…素直な気持ちを口にしているまでだ」
「ぜんっぜん、違う! もっと総士は女の子の気持ちを学ぶべきよっ」
「難しいことをいうな、織姫」
こうしてわたしたちが変わっていることは一目で見分けがつくのに、わたしたちの気持ちもしらないで。総士のバカ…っ。
「な、なにをする織姫!?」
「お風呂。芹ちゃんとも一緒に入っているのも知ってるんだから。だからお風呂。髪の毛だけじゃなくて身体も洗って」
「あれは不可抗力だ…」
知ってる。でももう芹ちゃんは自分で身体を洗えるのに態々総士に洗ってもらってるのを総士は知らない。だからわたしも総士に身体も全部洗ってもらう。
わたしが先に総士にして貰いたかったのに、まさか芹ちゃんがなんて考えが足りていなかったわたしの敗因だ。でもまだ巻き返せる。
「身体は乙姫のものだろう」
「わたしは皆城乙姫でもある存在だから問題ない」
「乙姫として扱うと怒るクセによくも言える」
「アレはわたしをわたしとして見てもらう為の方便よ。それに総士はちゃんとわたしたちを見てくれるからいいの」
総士はちゃんとわたしたちを見てくれる。だからわたしも気にせず皆城乙姫の身体でいてもわたしを見失わないの。
わたしも、織姫とひとつの器を使っていても、総士がわたしと織姫をちゃんと見分けてくれるから、わたしも恐くないんだよ? それがどれだけわたしたちの心を支えてくれているか、総士はもう少しわかってほしいな。
「だからわたしの身体も洗ってくれるよね? 総士」
「……はぁ。僕の敗けだ。だが立上も同伴だぞ? 2回に分けて入り直すのも非効率的だ」
「芹ちゃんなら一回家に帰るって」
「……大丈夫なのか?」
服のサイズが合わなくなったから新しい服を取りに行った芹ちゃん。生命の取り込みすぎで身体が保たないのを生命を守るためにミールが芹ちゃんの身体を成長させているから。総士はまだ見てないからわからないだろうけど、結構強敵は芹ちゃんだよね。
「大丈夫だって。わたしも送り届けたから。だから今日は家に泊まって明日来るって」
「そうか…」
そこで残念に思わずに安心しちゃうのが総士だよね。普通なら芹ちゃんみたいな女の子と一緒にお風呂に入れなくてガッカリするのが男の子だと思うのに。
「なにしてる? 早く入らないと蔵前に小言を言われるぞ」
「はーい」
バスタオルと着替えを腕に掛けた総士に呼ばれてわたしもバスルームに向かう。
平和が帰って来たことを噛み締めながら日常を過ごす。
その日常が次の戦いを戦い抜く活力になるから。
だから今はこの平和な日常を胸に刻みつけよう。
この思い出があれば、どんな痛みにも耐えられるから。
to be continued…