皆城総士になってしまった…   作:望夢

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咲良や剣司、衛に視点を置きたいけど何故か珪素メンバーにしか視点が置けない私の未熟さを許してくれ。

でも急に視点置かれると危ないのがファフナーなんだよなぁ……。オルガさんの辺りとかも一期から見てるともうヤバいんだよなぁ。


皆城総士になってしまった…46

 

 正面は立上の独壇場だった。今回の襲撃は北極のミール側の群れの攻撃だろう。

 

 何故そう思えるのか。これがもし海神島のコアやウォーカーの放つ群れだったのなら何かしらのこちらの動きにあわせたなにかがあるはずなのだ。だが今のところそれは見られない。敢えて隠している可能性もないわけではない為、警戒は怠らない。

 

 真紅の閃光の様にフェストゥムを倒して行くマークレルネーアの姿を見守る。

 

 立上はアルゴノート・モデルの力を僕の予想以上に発揮している。

 

 SDPエクストラクターの調子も良好の様だ。

 

 カノン式アクセラレーターがパイロットと島のミールのクロッシングを行わせてより強いSDPを引き出していたのに対して、SDPエクストラクターはSDPの発現もとである島のミールの欠片を直接機体に内蔵することで、機体そのものを島のミールの子機と化して島の力を機体から直接引き出せる様にしたものだ。

 

 機体そのものが島のミールの小ミールであり、機体単体で島のミールの特性を持ち、パイロットの生命を守ってくれる。

 

 だがアルゴノート・モデルにも欠点はある。

 

 それはザルヴァートル・モデルと同じで違うモノになる事を受け入れなければならないこと。島のミールとのクロッシングを受け入れなければならないこと。

 

 立上と羽佐間はその点をクリアしたからアルゴノート・モデルに乗ることが出来る。

 

 強い力を制御して人が操れる様にした結果がこの搭乗素質の高い要求であった。

 

 ザルヴァートル・モデルを量産しようと思えばこうもなるという実例にもなった。

 

 ならばザルヴァートル・モデルのままふたりに機体を造ることも出来ただろうといわれるが、ザルヴァートル・モデルとアルゴノート・モデルの違いは身体に掛かる負担の違いが雲泥の差であることにある。

 

 アルゴノート・モデルの設計思想は1分でもパイロットの生命の時間を残す事に最大限の努力をしている。対同化現象に対して最大限の処置を施してある。

 

 性能はザルヴァートル・モデルに一歩及ばないもの、パイロットのSDP次第でザルヴァートル・モデルと同じ様な事をしていてもパイロットに掛かる負担は比べ物にならないほど軽くなっている。

 

 ただそれもSDPエクストラクターに使われているミールの欠片の力と、立上と羽佐間というSDPに目覚めたパイロットだからだろう。

 

 島のミールとのクロッシングが出来るSDP覚醒者は島のミールの祝福を受け、生命は守られる。

 

 だがSDPに目覚めていないパイロットがSDPエクストラクターを搭載したファフナーに乗った場合。コアの二重同期に耐えられないだろうシミュレーション結果も出ている。

 

 カノン式アクセラレーターの仕組みがわかっても設計が未だに浮かばない現状、エインヘリアル・モデルも造れない。

 

 これはやはりカノンが造ることでしかエインヘリアル・モデルは生まれないということなのだろうか。

 

 カノンを犠牲にして手に入れる力。そんな力は誰も望んでいないだろう。カノンがいなくなれば皆が悲しむ。今でさえ、羽佐間は悲しむだろう。羽佐間と仲の良い遠見も、教室でカノンと話しているのを見掛ける。何れは要とも話すようになって仲良くなるのだろう。

 

 だれひとりとしていなくなっていい者などいない。だれもいなくならないように戦うのが僕の戦いだ。

 

『あなたは、そこにいますか――?』

 

 スフィンクスA型種が目前まで近づいていた。

 

 左目が疼くが、構わずに僕はマークニヒトを駆る。

 

「何度問われようとかわらない。僕はここにいるぞ」

 

 スフィンクスA型種がマークニヒトを同化しようと手を伸ばすが。マークニヒトに触れた瞬間同化されたのはスフィンクスA型種の方だった。

 

 正面の敵は片付いた。

 

 スフィンクスA型種1体に苦戦していた頃がまるでウソの様だが。それと引き換えに失ったものも多い。

 

 人としての存在を代償に島のミールの祝福を授けた。

 

 僕だけが背負うべきだったものを無関係な者たちにも背負わせてしまった。

 

 その責任は必ず取るつもりだ。だから僕は何があっても皆を守る義務がある。

 

 ファーストエンゲージから3分足らずで15体のスフィンクス型を撃破。最多撃破数は立上の10体だった。

 

 敵が追撃で来る様子もなく、しばらく様子を見た後で撤収となった。

 

 検査の結果も良好だった。アルゴノート・モデルに乗っていた立上は、搭乗時に同化現象の抑制剤を過剰投与した時と同じ状態になっていた。狙い通り島が立上の生命を守ってくれている。

 

 ただ問題なのは、島のミールの影響が遠く及ばないだろう島外派遣にアルゴノート・モデルが対応出来るかどうかだ。

 

 SDPは機体自体が島のミールの小ミールである為問題ないだろうが、パイロットの生命をどれほど守ってくれるか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「大丈夫か? 立上」

 

「お疲れ様です。総士先輩」

 

 戦闘の後。いつもより長い検査を終えて、医務室のベッドに身を投げ出していたあたしに総士先輩が声を掛けてくれた。

 

「もう少し服をちゃんと着たらどうだ?」

 

「いや。なんだか身体が火照っちゃって」

 

 患者服1枚でも身体が少し暑くて、帯を緩めて胸元も少し開いているみっともない状態だけど、相手が総士先輩だからあたしも気にしない。これが広登とかだったら枕くらい投げてるのかな?

 

「アレに乗った気分はどうだ?」

 

「スゴい……の、一言ですかね。あのファフナーならみんなを守れるって、そう思いました」

 

 マークツヴォルフの時はただ必死で守らなきゃって意気込んでいたのに、マークレルネーアに乗った途端に沸き上がってきたのは確信と高揚感。そして今のあたしならなんでも出来るって思う全能感。

 

 多分今のあたしならアザゼル型が相手でも同化出来る気がする。

 

「そうか。だが今のアルゴノート・モデルも初期段階の機体だ。これから少し改良も入る。違和感を感じたら直ぐに言え」

 

「……アレで完成じゃないんですか?」

 

 今のままでも物凄いのに、これよりももっと強くなったらあたしどうにかなっちゃいそうなんですけど。

 

「今のアルゴノート・モデルは完成を急いだからな。これから今の改良型ノートゥング・モデルと同じ様にアップデート作業もある。それに実践データを踏まえた改良も可能だ。……そんな機体に乗せて戦場へ送り出すことしか出来ないことを謝罪する。すまなかった」

 

「そんな。謝られても困ります」

 

 だってあたしは今のままでも総士先輩に感謝しか出来ないのに。これ以上色々されてもあたしに出来ることは――。

 

「今日は徹夜になる。来主も一騎の所に行くだろう。乙姫の事を頼みたい」

 

「は、はい……」

 

「すまないな。だが立上がいてくれるから乙姫にも寂しい思いをさせなくて済む。ありがとう」

 

 そう言い残して踵を返す総士先輩の背中に、あたしは飛びつくようにしがみついた。

 

「た、立上…!?」

 

 慌てて立ち上がって、勢いもあったから結構凄い格好になっていて人前には出られない姿になっているけど、同じくらいの背丈になっても広く感じる総士先輩の背中があたしのそんな姿を隠してくれる。

 

「まだ、時間はありますか?」

 

 乙姫ちゃんと一緒にいることはあたしも大歓迎だけれど、乙姫ちゃんは寂しくなくてもあたしは寂しいと思うんですよ? 総士先輩。

 

「汗かいちゃいましたから。一緒にお風呂、入りませんか?」

 

 なんだかんだ、この身体になってから総士先輩とは一緒にシャワーすら浴びていない。ちょっとの間しか空いてないのに、やっぱり総士先輩と一緒にいられないのは寂しいし。置いていかれちゃうんじゃないかって恐くなる。……それが乙姫ちゃんと織姫ちゃんが一番恐がっていたことだから。

 

「……頑張って30分が限度だな」 

 

 忙しいのに、30分もあたしの為に時間を取ってくれた総士先輩。その後多分一睡もしないで仕事をするんだろうと簡単に想像出来るけど、悪い女の子のあたしはその30分だけでも総士先輩の事を独り占めしたいと思ってしまう。

 

「じゃあ、30分だけ。総士先輩の時間をあたしにください」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 今日、新しい力が目覚めた。生命の力が島の新しい力になった。新しいミールの器が生まれた。代わりにまた、痛みが増えた。

 

「痛みを減らしたいのに、違う痛みが増えていく……」

 

 この島のみんなは、誰かが痛みを背負うなら自分が痛みを背負おうとする。痛みなんて進んで背負うものじゃないのに、いったいどうしてこの島のみんなは痛みを簡単に背負おうとするの?

 

『それが人間なのさ。痛みだけしか生まない。憎しみだけしか生まない生き物なんだ』

 

「みんなは君とは違うよ」

 

 僕の前に現れた憎しみに囚われたコア。この島のコアと同じ様にたくさんの生命と過ごしていたのに、憎しみだけしか生まないコア。

 

『おまえにもぼくの気持ちがわかるはずだ。彼らがおまえの島を攻撃した時、おまえは彼らをどう思った?』

 

「おれは痛みを理解した。人の感情を理解した。そう言うのはね、お互い様なんだって。互いに痛みはイヤだと思っても、互いに痛みを与えてしまっても、赦せるのが人の心なんだ」

 

 だからおれは総士を助ける。この島を痛みから守る。みんな痛みを背負って、今は互いに傷つけあうことしか出来ないから。互いにわかりあえる時が来るまで、みんなを消させないために。

 

『憎かったはずだ。島を攻撃した人間も、仲間が痛みを背負うことも、人間が存在しているから憎しみが生まれるのさ』

 

「違う。憎しみを生んでいるのはおれたちの方だ。人間が憎しみを生まない生き物だなんて言わないけど、それでもこの島のみんなはおれを受け入れてくれる。きみだってそうじゃなかったの?」

 

『人間が島のみんなを奪った。大きな炎ですべてを焼いた。泣いても叫んでもすべて奪って憎しみを与えたのは人間たちだ!!』

 

「ぐっっ」

 

 言葉と一緒に、大きな炎に焼かれる生命の悲鳴を感じる。おれも知ってる悲鳴だ。ただ静かに暮らしたかっただけなのに、人類が憎しみを振り撒いてしまった。

 

「それでもおれは憎しみをなくす! 君たちが憎しみを振り撒くなら、おれが止める! 一騎や総士みたいにっ」

 

 一騎も総士も、おれたちを理解してくれる人間だ。この島のみんなだっておれたちを理解してくれる人間がたくさんいる。

 

 おれたちに憎しみを持つ人間もいるけど、それで憎しみを向けたってなにも生まれない。

 

 生まれることの嬉しさを知っているおれが、なにも生まない道を選ぶわけにはいかないんだ。

 

『無の器はぼくが手に入れる。そしておまえたちより先に新たなミールを迎える。おまえたちはミールの欠片の力で滅ぶ』

 

「星からミールの欠片を引き寄せても、存在と無の力が。英雄の力がこの島を守る。そしておれもここにいる!」

 

 皆城総士の知識を使って今のおれの感情を言葉に当て嵌めるのなら、これは宣戦布告だ。

 

 話し合いで解決出来ないなら、戦うしかない。失わないために、奪わせないために。

 

『星の目はまだなくても、おまえたちを滅ぼすことは出来る』

 

「おれたちの島はなくても、今はここがおれの島だ。だから守る!」

 

 互いに引けないにらみ合いって、こういうことなんだろうな。でも一歩も引かない。だから始まった。

 

「海のミールの存在? だけど、だからって負けられない!」

 

 人は暗くなるとみんな休憩の時間になる。人は休まないと生きていけないから。

 

 だからみんなが来るまでおれが島を守る。

 

「お願い、マークニヒト。力を貸して」

 

 おれだけの力じゃ、海のミールを止められない。だから総士が産み出した、皆城総士が遺してくれた無の存在に語りかける。

 

 ワームの中から顕れる虚無の存在の中に入る。

 

「力を貸してくれるんだね」

 

 無の存在を感じながらおれは憎しみを振り撒く存在に向かって飛ぶ。

 

 話し合いで解決出来るなら、互いに歩み寄ることも出来るけど、それが出来ない相手がいるなら力で言うことを聞かせるしかない。

 

 だからおれたちは平和を作れないって一騎は言ったんだ。だから平和を作るのはみんながやって。

 

 おれはその為に力で戦うから。

 

 

 

 

to be continued…


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