皆城総士になってしまった…   作:望夢

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ホント味方が多くて苦労するって嬉しい悲鳴だけど、敵もその分嬉しい悲鳴をあげるぞ。

気付いた人もいるだろうけど新型ファフナーの由来のアニメ見返してたらなんかちょっとヤバい感じの事を思いついて。たぶんウォーカーさんは泣いていい。


皆城総士になってしまった…47

 

「状況は?」

 

 CDCに来ると既に要先生と近藤先生が配置に着き、敵の情報を解析していた。

 

「すみません、遅くなりました!」

 

 遅れて弓子君も入ってくるが、皆アルヴィスの制服ではなくエプロンや割烹着姿だった。まさかフェストゥムが1日の内に2度も、しかも時間差で攻めてくるとは思いもよらずしかも夕食時だ。火消し忘れの二次災害が出ないことを祈りつつ、状況を整理する。

 

「ソロモンの解析によれば敵はアザゼル型ウォーカーと断定。竜宮島海域にフィールドの発生を確認。ヴェルシールド展開済みですが既に第一ヴェルシールドは突破されました」

 

「敵は彦島に陣地を確保。現在マークニヒトが迎撃中。しかしパイロットが不明です」

 

「パイロットは総士君ではないと?」

 

 近藤先生が敵の詳細を、要先生が現状を伝えてくれる。

 

 ザルヴァートル・モデルに乗れるのは一騎と総士君、そしてミツヒロの息子の3人だけだと思っていたが、他にも乗れるパイロットは――。

 

「先発のファフナー部隊出撃します!」

 

 弓子君の報告と共に出撃したファフナーは、新型のアルゴノート・モデルの2号機と、ノートゥング・モデルのマークアインだった。マークアイン……こちらに総士君が乗っているのか?

 

「マークアインに通信を」

 

「了解。回線開きます」

 

 直ぐ様マークアインとの通信が開かれ、モニターにはやはり総士君の姿が映った。

 

『真壁司令…?』

 

「マークニヒトに乗っているのは来主操だな?」

 

『はい。来主が現在マークニヒトでの迎撃展開中です』

 

 来主操は既に島を守る為に幾度も戦っている。今さら疑うようなこともしないが。

 

「大丈夫かね?」

 

『僕は彼を信じていますから』

 

 疑いようもなく即返事を返した総士君は、それほどまでに彼を信頼しているという証だ。

 

 来主操と共に生活するようになって幾日も経つが。人らしくないところもありながら下手な人間よりも人間らしいその在り方に好感を抱くのにはそれほど難しくはなかった。見た目が総士君に似ているからだろう。一騎も警戒はしていないのならば、彼は敵ではなく島の住人として申し分ない存在だろう。

 

「数が必要だ。グノーシスも出す」

 

『溝口さんはともかくパイロット候補生は』

 

「わかっている。だが敵はこれまでにない大攻勢を島に掛けている。責任は私が取る」

 

 敵の数がこれまでにないほど多い。出せる戦力は少しでも多い方が良い。島をやつらにくれてやるわけには行かないのならば、未だ未熟な戦士たちですら駆り出さなければならない。その責務は司令官である自分が果たさなければならない。

 

『直ぐに対応出来るよう、展開は竜宮本島でお願いします』

 

「了解した。後方支援はこちらに任せたまえ」

 

『ありがとうございます』

 

 マークアインとの通信が閉じる。前線で戦いながら指揮を取る事に集中する為だろう。背中は任されているのだから、その信頼に応えるのが我々の仕事だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「聞こえるか、来主」

 

 マークアインからマークニヒトに向けてクロッシングで呼び掛ける。無線通信も使いたい所だが、ディアブロ型が居る場所で電波通信は自殺行為だ。

 

『ごめん総士! でも――』

 

「状況は察している。そのままマークニヒトで敵の本隊を相手出来るか?」

 

『やってみせるよ! マークニヒトがおれに力を貸してくれてる』

 

 来主は以前、マークニヒトに乗って戦ったこともある。僕よりもフェストゥムである来主の方が、マークニヒトの力をより強く引き出せるだろう。

 

「雑魚はこちらに任せろ。立上!」

 

『はい!!』

 

 立上のマークレルネーアがバスターソード・ライフルを構え、射撃モードで敵のスフィンクスB型種を薙ぎ払う。

 

 レヴィンソードを構え、スフィンクスA型種を切り裂く。

 

 レージングカッターを脇を過ぎ去るウーシア型に打ち込み、ワイヤーを巻き上げながらレヴィンソードでコアを貫き破壊する。

 

「よし。動かせる」

 

 左目が疼くが、許容範囲内だ。

 

「後続のファフナー部隊はまだか…」

 

 時間は夕食時とあって突然の敵襲だ。僕と立上もアルヴィスの中に居たから最初に出て来られただけだ。

 

 スカラベJ型が向かってくるが、それをジャンプして避けながら装備してきたゲーグナーを撃ち、レヴィンソードで傷口から切っ先を抉り込み、真っ二つに切り裂く。

 

 マークニヒトよりも人の戦い方をする分、違う自分になることを求められる。違うモノになる方が穏やかさを感じるとは。僕もまだ自分を御しきれていない証拠か。

 

『総士!』

 

「乙姫!」

 

 乙姫のマークツヴァイが海から飛び出しながらルガーランスを投げてくる。僕もマークツヴァイに向けてレヴィンソードを投げる。

 

 レヴィンソードはマークツヴァイの背後から現れたプレアデス型を貫き、マークツヴァイの投げたルガーランスは僕の背後から迫っていたスフィンクスB型種の胸に突き刺さった。

 

 ルガーランスの柄を掴み、そのままスフィンクスB型種のコアをプラズマ弾で撃ち抜いて破壊する。

 

 乙姫の方も、レヴィンソードでプレアデス型を倒してそのまま背中合わせに機体を寄せる。

 

「いったいどうなっている…」

 

『憎しみのコアが、海の存在を使い潰してでも島を沈めようとしてる』

 

「弱った手駒に用はないというわけか」

 

 竜宮島に特化した戦い方を出来るウォーカーを捨て駒にする程の何かをしようと言うのか? その意図が読めないが、島を沈めるというのならば対応するまでだ。

 

『う゛っ、ああっ』

 

「ぐっ。…島の、痛みか」

 

 彦島は今激しい戦いが繰り広げられている。島の痛みが僕たちに伝わってくる程に。

 

「空までもか……」

 

 空を覆うオーロラ。確実に島を殺しに来ているようだ。

 

「ぐあっ」

 

『総士!!』

 

 っ、スフィンクスB型種が伏せていたか。

 

 なにもない空間から触手だけが伸び、左肩を貫いていた。侵食が近い。本体に入られるっ。

 

『ごめんっ、総士!』

 

 肩口が焼ききられる痛みを感じながら逆手に持ち替えたルガーランスで上の虚空に向かって刃を突き刺す。

 

 だが障壁によって突き出した切っ先は受け止められた。

 

「くそっ。…乙姫!!」

 

『総士の中から出て行って!!』

 

 マークツヴァイが僕の肩に突き刺したレヴィンソードから結晶が生えて内部侵食を同化する。結晶が触手を伝って、虚空からスフィンクスB型種が姿を現しながらルガーランスの上に落ちてきた。胸に突き刺さったルガーランスのプラズマ弾を浴びてスフィンクスB型種は消えた。

 

『大丈夫!? 総士』

 

「ああ。僕は平気だ」

 

 改良前のノートゥング・モデルであるマークアインであったから侵食速度が思ったより早かった。乙姫のお陰で命拾いをしたな。

 

 油断も隙もない戦い方は間違いなくウォーカーの群れのフェストゥムの戦い方だ。

 

『ミナシロ!』

 

『総士!!』

 

「一騎、ミツヒロ」

 

 マークザインとマークレゾンも出撃した。3機のザルヴァートル・モデルならばアザゼル型でも倒せるだろう。

 

「ウォーカーが攻勢を仕掛けてきた。ヤツを倒さなければ島が沈む」

 

『ウォーカーが!? かなり弱らせたはずなのに』

 

 あれだけ弱らせてからまだ時間は経っていない。つまりかなり無理をして来ているはずだ。ならばここで倒せれば後顧の憂いを絶つことも出来る。

 

「未だ姿は見せていないが、存在は感じられる。海のフィールドを破壊して敵を減らすぞ」

 

『島の守りはどうする?』

 

「それは僕たちに任せろ。一騎、お前は敵フィールドを破壊しろ」

 

『わかった』

 

 マークザインが飛び立つ。リミッターが施されている分、性能は落ちるが、それでも敵のフィールドを破壊するくらいなら今の一騎でも充分こなせるだろう。

 

「ミツヒロは来主のもとへ。敵の策に対抗してもらう」

 

『了解!』

 

 ワームによる転移で跳ぶマークレゾンを見送ると立上のマークレルネーアが帰ってきた。

 

『倒してもキリがありませんね』

 

「敵は消耗戦に移行しつつある。無理せず勢いはセーブしろ」

 

『了解。でも、全然まだやれますから。必要なら遠慮なく言ってください』

 

「なら少し休め。……長丁場になるかもしれないからな」

 

 圧倒的物量があるのにも関わらず、その攻め方は消極的だ。彦島に陣地を確保しているといっても、ウォーカーはその気になればアルヴィス周囲15万tの海水の何処からでもフェストゥムを送り込んで来れる。

 

 島全体をカバーするにはファフナーの数が足りない可能性もある。

 

 転移移動できるマークレゾンとマークレルネーアの運用には細心の注意を払う必要があるが、最大戦力であるザルヴァートル・モデルのマークレゾンを遊ばせておくわけにもいかず、立上に頼るしか今は出来ないことが歯痒い。

 

『皆城くん!』

 

『待たせたな!』

 

『これより指揮下に入る』

 

 マークゼクス、メガセリオン、ベイバロンが戦闘配置に着いた。

 

 クロッシング完了。双方向量子通信接続。

 

「羽佐間、聞こえるか」

 

『うん。…私が島の空を守るから』

 

 未だ制空権を掌握される程敵の姿はないが、マークゼクスで出てきてしまった以上無理はさせない戦い方を考えなければならない。

 

「マークゼクスでは君の力には耐えられない。万が一には退いて貰うぞ」

 

『うん。ありがとう。いつも心配してくれて』

 

「君がいなくなると皆も悲しむ。だからそうならないために気を配るのが僕の仕事だ」

 

 羽佐間との会話を終えて僕はメガセリオンとベイバロンに通信を開く。

 

「メガセリオンとベイバロンには本島直掩を要請。グノーシス部隊と共に島に上陸する敵を任せます」

 

『了解した。…グノーシス部隊ってのは島で用意した方か?』

 

「ええ。ルーキーではありますが、ファフナーパイロットとして訓練をして来ました。最低限の作戦行動は取れるでしょう」

 

『ルーキーを抱えたまま戦えと?』

 

 軍人であるカノンからすればルーキーを抱えたまま敵の大群と戦うかもしれない戦場は不確定要素だらけで嫌がるだろう。

 

「隊長機は百戦錬磨の猛者だ。余裕があれば気にする程度で大丈夫だ」

 

『百戦錬磨……?』

 

『おいおい、新米のおじさんをあまりいじめないでくれよ』

 

 カノンと話していると横から通信に割り込みが入った。グノーシス部隊も出撃した。ファフナーパイロットとしては新米でも、その戦場を渡り歩いた経験は僕たちにはない貴重な物だ。

 

『なるほど。溝口さんなら納得だ』

 

『ファフナーパイロットとしてはそっちが先輩だ。頼りにしてるぜ?』

 

 大人たちの落ち着いた会話で広登たちも落ち着ければ良いのだが。

 

「広登、里奈、暉。聞こえるな」

 

『は、はい!』

 

『き、聞こえます!』

 

『〈聞こえます〉』

 

「戦闘指揮官として命令する。必ず生きて戻る事を最優先事項として設定。良いな!」

 

 僕たちの戦いは島を守りながらも、生きて帰る事が最低限の条件だ。それを守ることを第一に行動する事をこの戦いで学んで貰う必要がある。

 

『『了解!』』

 

『〈了解!〉』

 

 配置を終えたところにようやく要たちも出撃した。

 

「来たか!」

 

『遅れてすまないね。剣司のバカを連れて来るのに手間取ったよ!』

 

『恐いよぉ、眠いよぉ…、帰りたいよぉ……』

 

『うぉぉぉおお!! ゴウバイン、参上!』

 

 寝ていた剣司を叩き起こしに行っていたらしい。近藤先生はCDCに居るのに。いや、先生が家に帰っていなかった可能性もあるか。

 

「マークドライ、フュンフ、アハトはトリプルドッグで慶樹島に展開。防衛線に上陸する敵を迎撃!」

 

『了解! さぁ、どんどん掛かってきな!!』

 

『止めてよ姉御ぉ…、戦いたくないよぉ』

 

『行くぞ、ゴウバイン!!』

 

 いつも通りの3人組に安堵しつつ、これ程の仲間をすべて僕が守る。その重圧を感じつつも、それが僕の守るべきものだと改めて実感する。

 

「ティターンモデルに動きがない? なにかあったのか」

 

 ティターンモデルのコックピット・ブロックの収容は確認しているのに起動が出来ていない。

 

「将陵先輩…」

 

 こちらの通信も応じない。なにかが起こっているのか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「…もう一度……お願い、します…っ」

 

 これで四度目の再起動。でもティターンモデルは起動してくれない。

 

 スレイプニール・システムにも小型のコアが使われている。機体のコアとの同調させて並列起動させる為に、スレイプニール・システムを起動させるのにもシナジェティック・コードの形成が必要になる。

 

 シナジェティック・コードの形成数値が落ちている私は、とうとう先輩の背中を守ることも出来なくなった。

 

「蔵前……」

 

「次は、…次は必ず起動させます!」

 

 三度目の正直は既に終わっているけど、だからって降りられない。降りるわけには行かない。

 

「……もういい蔵前。今すぐ降りろ」

 

「っ、そんな、待ってくださいっ」

 

 私はまだここにいるのに降りられるわけないじゃないですか。

 

「このまま起動出来たとしてもお前がいなくなるだけだ」

 

「それは先輩だって」

 

 私が降りても先輩ひとりで機体とシステムの三重負荷状態で同化現象が加速してしまう。ジークフリード・システムだって部隊管制用の負荷が重いものを載せていて、二人乗りが前提だって皆城くんも。

 

「お前は充分戦ってくれたよ蔵前」

 

「そんな、そんなこと、言わないでくださいっ」

 

 私は充分戦えていない。島の為に戦えていない。先輩の為に戦えていない。みんな戦ってるのになんで私だけ。

 

「身体の中のミールの因子を減らすことで、ミールがお前を守っているんだ」

 

「ミールが……なんで…」

 

 ミールが私の生命を守る為に私の中のミールの因子を減らすって、ファフナーに乗れなくなったのはその所為?

 

「でなかったら末期症状でもうお前の生命がなくなっていた」

 

「私の、生命が……」

 

 同化現象の末期症状。身体が結晶化して砕け散る。私がいなくなっていた。

 

「祝福を与えてミールは力をくれる。そして生命を守る」

 

 将陵先輩が私を振り向く。その目がまるでフェストゥムの様に金色に光っていた。

 

「戦えないことを悔やまなくていい。蔵前は充分戦ったんだって、ミールが判断したんだ」

 

 ティターンモデルのコックピット・ブロックが排出されてハッチが開く。シートから立ち上がった将陵先輩が私に手を差し出した。

 

「私は……」

 

 この手を取ってしまえば、私はもう二度とファフナーに乗れないかもしれない。

 

「そんなのイヤです。だって私は…」

 

 もう先輩にいなくなって欲しくないからたたかっていたのに。

 

『僚なら大丈夫よ』

 

「え?」

 

「祐未…」

 

 将陵先輩の隣に祐未先輩が見える。なんで? どうして。

 

『果林ちゃんの気持ちもわかるわ。でも今は島を守らないとならないの』

 

「祐未先輩……」

 

 祐未先輩にそんな事を言われたら、私が逆らえるわけないじゃないですか。

 

『島は私たちが守るから』

 

「っ、……はい」

 

 将陵先輩の脇を通り過ぎて、コックピットから出て振り返った。

 

「必ず、帰ってきてください」

 

見送るしか私には出来ない。今も、この前も。ただ無事に先輩が帰ってくることを。

 

「ああ」

 

『こんどはちゃんと帰ってくるから。心配しないで』

 

 コックピット・ブロックが格納されてあっさり起動したティターンモデルがエレベーターでリフト・アップされるのを見送る。

 

「ずるいですよ。祐未先輩」

 

 いなくなっても、将陵先輩の事を想い続けて。

 

「バカみたい。勝てっこないよ……」

 

 それでもせめて笑顔で先輩を見送ろう。泣くのはあとでも出来るんだから。

 

 

 

 

to be continued…


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