その代わり砂糖多めにして戦いもない平和な島の風景をお届けします。なおキャラ崩壊注意報と1話じゃ終わらない模様。
様々な意味で悩ましいこの日を今年も迎えることになった。
所謂バレンタインデーと呼ばれる日だ。
平和という文化を受け継ぎ守る為にあるこの竜宮島でも、春夏冬休みは存在し、クリスマスお正月ゴールデンウィークも存在するのだから当然と言わんばかりにバレンタインとホワイトデーまで存在した。
僕は将来に備えて身の周りの子供たちと角が立たない当たり障りのない対応を努めてきた。
結果広く浅く僕は島の子供に認知されている。小中一貫性の学校の校長が父であったことも十二分に影響はあるだろうが。
そういった意味でもこの時期は毎年悩ましいのだ。
小学生なら軽い小物やクッキーのプレゼントくらいで済んでいるが。
中学生となると思春期真っ盛りとあってプレゼントのグレードが一気に上がって困るのだ。
「……………」
下駄箱の前で持参した紙袋を広げる。
パカッと下駄箱を開けるとドサッと落ちてくる小包の数々。小さなものが多いのは何かの暗黙の了解でもあるのかと思うほどに小さい手紙と共に下駄箱の中に詰め込まれていて、甘ったるい匂いが周囲に広がった。
「なんか、スゴいですね。総士先輩」
「立上か」
下駄箱の中の小包を丁寧に移しながら隣から身を乗り出してきた立上を見る。彼女からも僅かに甘い香りが漂ってくる。
「毎年どう消化したものか悩む」
「それほど慕われているってことですよ」
「慕われる理由がない」
何故当たり障りのない行動を取っていただけで、こうも重いものを背負わなければならないのか。
一方的に強い想いを抱かれても戸惑うだけだ。
一騎たちみたいに正式なファフナーパイロットであったり、乙姫の様に身内からでならば理解できるのだが。
ふと気になって立上の方に視線を向けた。
◇◇◇◇◇
総士先輩があたしの方を見て止まった。口はなんとも言わないけれど、視線ではあたしはどうだったのかと問われている視線だった。……やっぱりチョコの匂いは誤魔化せなかったか。
「あたしは別に…」
とはいいつつも、下駄箱の中には総士先輩程ではないけどいくつかチョコが包まれている小包や包装が入っていた。
ただうん。何個か女の子からのものがあるのがびっくり。
「要もボヤいていたな。何故女子からもチョコレートが贈られてくるのだと」
「あぁ……」
要先輩の話題を聞いて納得してしまった。姉御肌って言うんだっけ? 要先輩カッコいいから。
柔道強くてスポーツも万能で。学校の女子の中なら間違いなく要先輩は一番だ。でもなんであたしにまで来るんだろう?
「うっ……」
試しに手紙を開いてみたんだけど、あまりのガチさに頭が痛くなりそう。
「『親愛なる立上様へ。わたしは貴女を一目見た時から貴女の顔が忘れられません。朝も昼も夜も毎日貴女の事を考えてしまい、学校で見掛ける度につい視線で追ってしまう程、貴女の凛々しさに心を奪われてしまいました』」
「総士先輩、あたしと付き合ってください」
「気持ちはわかるが落ち着け立上。まだ女子からの手紙だとは限らない」
あたしが無言で差し出した手紙を受け取り、内容を音読し始めた総士先輩の言葉が区切れたところで背筋に震えが走ったあたしは総士先輩に救いを求めたものの、その言葉はスルーされてしまった。
「ピンクの包装紙に手紙のレターシールもハートマークの時点でアウトですって!」
冷静に分析しようとする総士先輩に突っ込みを入れつつ、あたしはこの手紙の差出人について心当たりはないか記憶を辿るものの、それらしい生徒は引っ掛からない。まさかストーカー!?
「おい立上」
「だって身に覚えないですよ。ストーカーですよ絶対!」
バッと総士先輩の腕にしがみつきながら前後左右を確認するくど、こっちを見張るような視線は見受けられない。
「この小さな島でストーカー事件など起こってたまるか…」
若干飽きれつつも、また手紙を読み返す総士先輩。あたしに配慮してか、今度は言葉だけでなく目で読んでいる。なにか手懸かりはないかと真剣に読んでいる総士先輩の横顔がとても頼もしい。
総士先輩の肩に頭を乗せながら顔を付き合わせる。
「文字の筆跡は所々丸い所謂女子文字というものか」
「もうギルティですよ……」
身体が変わってから色々な視線を向けられた。興味がある感じとか、男子のバレバレな視線とか。残念、この服の中を知っているのは総士先輩と乙姫ちゃんと来主くんだけだ。
確かに女子のちょっと危ない感じの視線もあるというか体育の授業での着替えなんかだと里奈をはじめクラスの女の子に揉みくちゃに合うけど、あれも半分は女子のじゃれ合いみたいなものだし。ファフナーに乗ったら大きくなるとか変な勘違いをされて総士先輩に紹介してなんてことも言われるけど、この身体の変化だってある意味寿命を縮めている様なものだし、ファフナーは間接的な要素であって直接の関係はミールにあるから誰でも成れるわけじゃない。
その辺りを説明してもみんなまだ理解できないから説明出来ないし。
だってチョコだって去年までは里奈との友チョコ交換とか広登になんとなくあげてただけだし。
なんというか露骨すぎて感動もへったくれもない。
「それにこういうのって普通は放課後に校舎裏で待ってますとかで締めるじゃないですか」
「一般論としてはそうだな。『わたしは貴女をいつも見ています』そう締め括られているな」
「絶対にストーカーです。あたしに同性愛なんて特殊性癖はありませんので。総士先輩、付き合ってください」
「学校での噂は耳にしている。見ないフリをするか対応するかは立上が決めろ」
「……あたしのこと、守ってくれますか?」
「立上に危害が及ぶようなら、僕のできる限りで力になることを約束しよう」
こういうことはさらりと言えちゃう辺りが総士先輩が総士先輩である由縁なんだろうなぁ。
「先ずはこの手紙を鑑識にまわして指紋採取と筆跡を島のデータベースに照らし合わせれば1日でケリはつけられる」
「それはなんだか卑怯な感じがする上に負けた気がするので最後の手段にしてください」
いくらあたしでもこの手紙を書いた娘を公開処刑にするのは偲びないので出来れば穏便に済ませたいんです。そんな手を使ったらあたしまで大人たちに公開処刑の目にあいますから。
「ならばミールの力で」
「お願いですから人間としての範疇で片付けましょう」
さすがにそれは公開処刑にはならなくても人として負けた気になるのでやめてください。
「仕方がない。なるべく穏便に済ませたいのならば選択肢は限られるぞ」
「それでも構いません」
総士先輩が動く気がしたから肩から頭を起こして向き直る。
「この手紙の差出人は立上に好意を向けていることは先ず間違いない。故にその好意を逆手に取る」
「どうやってですか?」
「僕と立上が親密であると相手に思わせ、嫉妬心を煽り、我慢できずに飛び出してくるのを待つ方法だ」
「……総士先輩って思考がサディストですよね」
「テクニカルな対処法を提示したまでだ」
でもそれなら今でも時々普通の男女のカップルよりもスゴいことはしてる気がする。主にあたしが総士先輩に甘えてるだけだけど。
そして総士先輩は丁寧に包装された小箱を鞄から取り出した。
「放課後に渡そうとした物だが。これを立上に渡そう」
「え?」
差し出された小箱。総士先輩の性格が良く出てるきっちりとした赤色の包装に白いレースのリボンが巻かれたちょっとすごい小箱。
総士先輩から小箱を受け取る。おかしな気配も視線も感じない。
「これ。あたしに?」
「そうだが? ビターだが味は保証しよう」
ボンッと音が鳴りそうなくらい一気に顔が熱くなった。
総士先輩があたしにチョコをくれた。しかも言い方の雰囲気的に手作りのチョコを。
「た、立上…?」
「……ごめんなさい、総士先輩」
ばさばさと手から吊るした紙袋が乱暴に揺れる。
総士先輩に飛び掛かる勢いで総士先輩の首に腕をまわして抱き着いた。
でも今、総士先輩に顔を見られるわけにはいかない。だって嬉しさが感極まって目の前は涙でぼやけているし、顔だって多分情けないくらいには真っ赤だし。
それが落ち着くまでは総士先輩からは離れられない。
◇◇◇◇◇
登校すると昇降口はいつもより騒がしく感じた。
「なんだろう。甘い匂いがいっぱい」
「ああ。来主は知らないんだな」
「知らない? 何を」
バレンタインデーなんてフェストゥムの来主が知るわけもなく、お世話になった人や、想いを寄せる好きな人に日頃の感謝や告白と一緒にチョコを渡す日だと簡単に説明した。
「だから一騎も甘い匂いがするんだ。一騎は総士にあげるの?」
「あぁ。まぁ……」
4年ぶりにちゃんと話せているし。俺が敵と戦って帰ってこれるのも総士のお陰だし。こんな日にチョコを渡すなんて総士も困るだろうけど、でもこうじゃないと日頃の言えない言葉も出せないし。
「総士と芹だ」
来主の声で現実に戻って来ると、下駄箱の前の廊下で。総士に抱き着いている立上の姿があった。昇降口が中々人がいなくならないわけがなんとなくわかった。
またなにかあったのか?
「総士」
「一騎か」
「か、一騎先輩!?」
俺が総士に声をかけたら立上は驚いた様に身体を跳ねさせながら少しだけ総士から離れてこっちを見た。総士はいつもと変わらない。
「こんなところでだと目立つぞ?」
俺がそう言うと立上は耳まで赤くさせる勢いで赤くなって総士の顔に隠すように影に隠れた。乙姫もだけど、仲良いんだな立上も。
「そうだな。少しだけ考えなければならない案件があってな」
「なにかあったのか?」
この事を一騎に話すかどうか一考する。相手は決まったわけではないが、恐らく女子だろう。
三人寄れば文殊の知恵とはいうが、相手は女子だとして男子ふたりと女子ひとりで考えても良い答えは出ないだろう。
「いや。この案件は僕の方で解決できることだ。一騎が気にする程でもない」
「そうか。なんかあったら言えよ?」
「ああ。ありがとう」
一騎の申し出を断るのは偲びないが、この問題は僕と一騎が組んだとして、解決は出来るだろうが穏便に済ませたい立上の意向には沿えないだろう。
故に力になれず心なしか肩を降ろしている一騎に痛む心を抑えつつ誰に相談を持ち掛けるべきか考える。
「とても強い心を感じる。それはなに? 総士」
一騎の脇から身を乗り出してきた来主。フェストゥムの来主がそう感じるのならば並みならない想いが込められた手紙であるのだろう。
「来主くんもこう言っていますから。この手紙は燃しましょう。お焚きあげしましょう…!」
ただのラブレターがお札と同列扱いとは如何なものか。
「HRも始まる。来主が居れば人の悪意がわかるだろう。来主、立上と一緒に教室に向かってくれ」
「うん。いいよ。行こう芹」
「う、うん。…総士先輩」
まだ不安そうな立上の頭を少々乱暴目にくしゃりと撫でてやる。
「心配するな。放課後までには対策を考えておく」
「はい…」
とりあえずそれで納得させて立上と来主を送り出す。
「僕たちも行こう。HRに遅れる」
「あぁ。……本当にいいのか? 総士」
「頼るときには頼らせてもらうさ」
一騎と肩を並べて教室に向かう。教室からも漏れる程甘い匂いが立ち込めている。この時期は仕方のないことで、大人たちもこの時期は見て見ぬフリをしている。
「おはよ、一騎くん、皆城くん」
「おはよう、遠見」
「おはよう」
教室に入ると遠見は腕を後ろに隠しながらニコニコと笑みを浮かべて近付いてきた。
「はい。一騎くん、皆城くんにも」
そう言いながら手渡されたのはクッキーが入っているだろう小包だった。
「あ、ありがとう遠見」
「いつも悪いな」
「今回は美味く出来てると思うから。あとで感想聞かせてね?」
毎年遠見からこうしてクッキーを貰っている。
本命は一騎だろう。僕の場合はこのクッキーの作りを教えた義理だろう。
僕のはあとで渡しても構わないだろう。彼女も義理堅いな。
「お前も遠見から貰ってたんだな」
この4年間。一騎との距離を計れなかった僕は、一騎の知らないことを沢山抱えた。これもそのひとつだ。
料理について僕は教えてはいないが、クッキー作りを教えたのは僕だ。3年前のバレンタインデーに便乗してどうにか一騎との関係修繕が出来ないかとトチ狂った僕は最高のバタークッキーを作ろうと躍起になっていたが、そのクッキー作りの練習時間を僅かでも確保する為に学校の家庭科室で練習していたのだ。
それを遠見に見られてから味見をしてもらい何故か作り方の教えを請われたのが始まりだった。
それ以来バレンタインデーや誰かの誕生日にクッキーを焼くときにこうして手渡される。
羽佐間先生が教室に入ってきた。今日も長い一日になりそうだ。
to be continued…
バレンタインデーである程度視点は自由に出来るので、活動報告辺りに「このキャラとの絡みが見たいななんてのがあれば気兼ねなくどうぞ。
正直頭痛くなるくらい仕事で頭使ってるからネタが考えられなくてインスピレーションが欲しいんですよ。