皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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久し振りの更新が季節外れのバレンタインデーネタで身体から結晶が生えそうだけど。

BEYONDが来年の1月から12話で先行上映されるらしい。

まだ砕け散るには早い……。BEYONDを見終わるまではまだ私はここにいることを選び続けるだろう。


バレンタインデーになってしまった 2

 

「珍しいじゃん。総士があたしに相談なんてさ」

 

「早急に解決しなければならない案件なんだ。だが僕でも妙案が浮かばなかった。その為に意見を求めるならば要が最も適していると判断した」

 

 昼休み。咲良は総士に声を掛けて教室の隅で話していた。

 

 この時期で男女の密会というのは色々と余計な事を勘繰られてしまうが、ファフナーの指揮官とパイロットである。そういった繋がりのお陰でふたりに聞き耳を立てている気配はなかった。

 

「……なにこれ」

 

「なにも聞かずに先ずは読んでみてくれ」

 

 総士が差し出した件のラブレターを怪訝な表情で見詰める咲良。

 

 咲良からすれば似合わないことをしている総士はどうかしたかと思ってしまったが、真剣な表情に取り敢えずラブレターにしか見えない手紙を受け取った。

 

 そして読んでみて、別の意味で面倒ごとの舞い込みに咲良は肩を落としながら言葉を紡いだ。

 

「事情はなんとなく読み込めたけど、あたしからどうこう言えたもんじゃないわよ?」

 

「率直な意見として、その手紙の差出人に立上を諦めさせるのにはどうしたらいい」

 

 立上 芹。

 

 新人ファフナーパイロットとしてはずば抜けた能力を持っていて、自分のひとつ下なのが嘘のように思える美人な後輩。というのが咲良の持つ芹の評価だった。

 

「そうねぇ。ていうかあんたが立上と付き合っちゃえば万事解決な気がするけど?」

 

 普段あれほど見ている側が恥ずかしくなる様なやり取りをしていて付き合っていない男女の仲というのが咲良は信じられなかった。

 

「やはりそうして相手を誘き出す作戦が最も有効か」

 

「だからなんでそうなるってのよ」

 

 不器用ながらもコミュニケーション能力は一定力有している総士だが。恋愛脳が死滅しているのではないかと思わずにはいられない考えにたどり着く作戦指揮官に咲良は頭痛を覚えそうだった。

 

「まぁ。あんだけ人目も憚らずにイチャコラしていてこんな手紙を出してくるってことは、相手も本気だってわけ」

 

「なるほど」

 

 本当にわかっているのかと思いながらもあの総士から意見を求められていることに少し気分が良かった咲良は少しだけ付き合ってやる事にした。

 

「一応下級生の間だとあんたたち付き合ってる事になってるくらい噂になってるけど。そこんところどうなのよ?」

 

「別に僕は立上と交際しているわけじゃない」

 

 じゃああの砂糖が吐けそうな程の普段の行いがスキンシップとでも言えるのだろうかと咲良はジト目で総士を睨む。

 

「要の言いたい事はわかる。だが僕は彼女からの好意を受け取れる様な人間じゃない」

 

「どういうことよ」

 

 好意に気づいているのなら朴念仁というわけでもない。なのにのらりくらりと女の子の好意を躱しながらもあんな風に接しているのはある意味最低な男だ。でもそこまで総士がバカではない事も咲良はわかっている。

 

「僕の所為だ…」

 

 ただその一言で締め括られた。そうなると喋る気はないのは咲良も察せられる。

 

「まぁ。あんたたちの間に何があったか深くは聞かないけど。これをどうするかって所よね」

 

「要は普段はどうしている」

 

「あたし? 別になんもしてないわよ。まぁ、付き合ってくださいとかって言うわけでもないからね。応援してますとか、憧れですとか、そんなもんよ」

 

「そうか」

 

 そこで少しホッとしている総士を見るが、咲良もその総士の気持ちを少なからず読み取れた。

 

 小さな島の小さなコミュニティーでストーカーが出るというのも考えたくないという意味である。

 

 しかしそれに発展しかねないくらいには危ない文章のラブレターが咲良の手元にあるわけだが。

 

「取り敢えず誰がこの手紙を書いたかって言うのがわかれば、あとの解決はトントンよ」

 

「そうだな」

 

 相手がわかればあとは芹から直接言葉で伝えてもらえば良いのだ。

 

「ま、乗り掛かった船だしね。あたしの方でも相手探し手伝って上げるよ」

 

「助かる。今度何か礼をしよう」

 

「なら次の出撃はあたしのマークドライも先発に加えな。それでチャラよ」

 

「いいだろう」

 

 女子コミュニティーの頂点とも言える咲良の協力を得られた事は総士にとっては心強い味方だった。

 

 放課後になって芹たちの教室に向かった総士。すると来主が総士に飛び掛からん勢いで近付いてきた。

 

「総士見て見て! おれもチョコレート貰ったんだよ!」

 

「そ、そうか。良かったな」

 

 口の端にチョコを着けながら両手で貰ったのだろうそれなりの数のチョコレートを抱えて自慢してくる来主の姿は微笑ましかった。

 

「うん! だからさ総士。おれにチョコレートの作り方教えてよ!」

 

「チョコレートのお返しか。ならクッキーの焼き方を教えよう」

 

「ほんと? 約束だよ総士!」

 

「ああ」

 

 見掛けも似通っている総士と来主のやり取りは嬉しいことを報告する弟と、それを受ける兄の様に周りには映っていた。来主は言葉が拙くとも身体で表現するので、言葉を並べるよりも相手に気持ちが伝わり易い利点がある。

 

「お疲れ様です、先輩。それで、どうでしたか?」

 

「ああ。要の協力を得られた。相手がわかればあとは立上の仕事だ」

 

「そうですか。それ以外になにかわかりましたか?」

 

「文脈から相手も本気だろうという事は要も言っていた」

 

「うっ。やっぱり…」

 

 総士の言葉に肩を落とす芹。それも仕方のない事なのかもしれない。

 

「どうかしたの? 芹ちゃん」

 

「乙姫ちゃん…。ううん。なんでもないの」

 

 とは言いつつ苦笑いを浮かべる芹がなんでもないと言ったところで説得力は皆無だった。

 

「ねぇ、はやく帰ってクッキーの作り方教えてよ総士!」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

「クッキー作るの? 総士」

 

「来主がチョコレートのお返しに作るためにな」

 

 話題が総士に逸れた事で芹はホッと肩を撫で下ろした。乙姫には知られたくはないらしい。

 

「じゃあわたしにもクッキー作ってよ総士!」

 

「そうだな。わかった。夕食前になるからあまり量は作れないがな」

 

「やった! だから総士大好きだよ」

 

「おれだって総士のこと好きだよ!」

 

「お、おい。お前たち」

 

「ふふ。仲が良いですね」

 

 両脇から乙姫と来主に引っ付かれる総士は倒れないように踏ん張り。そんな仲の良い兄()を見ながら、芹は総士の背後にまわって抱き着いた。

 

「あたしも。仲間に入れてくれますか?」

 

「芹ちゃんなら良いよね? 総士」

 

「みんなでクッキー作ろうよ総士!」

 

「……ああ。そうだな」

 

 団子になって動き辛さを感じつつも、決して離せとは言わない辺り総士自身も今の状況を受け入れていた。

 

 平和な時間の贅沢な悩み。それを総士は自覚していた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「渡せなかったなぁ…」

 

 放課後に気づいたら姿がなかった総士。昼休みにも咲良と話していたから渡せなかった。だから放課後に渡そうかと思っていたものの、その機会すら逃していた。

 

「どうかしたの? 一騎くん」

 

「翔子? あ、いや。別に」

 

 あとはアルヴィスの総士の部屋に出向いて渡そうかと考えていた所に翔子から声を掛けられた。

 

「なにか用か?」

 

「う、うん。…あ、あのね。コレ、受け取って欲しいの」

 

「チョコレート?」

 

 蒼い包装に白いリボンが巻かれた小包。まるで空をイメージした色合いに翔子らしいと思った。

 

「はじめて作ったから形はちょっとあれなんだけど。味は大丈夫だから」

 

「…ありがとな、翔子」

 

「う、うん。…そ、それじゃ、また、明日ね!」

 

 返事を返す前に翔子は走って教室を出ていった。そんなに急ぎの用があったのか。なんだか悪いことをした様な気分だったものの、それでもチョコレートだけは手渡しで持ってきた翔子を少し尊敬した。

 

「やっぱり渡しに行こう」

 

 そう思って動こうとした所に肘鉄が飛んできた。

 

「っ、なんだ。剣司か」

 

「なんだ剣司か、じゃねーよ! なんで一騎ばっかそんな色々な奴から貰ってんだよ!!」

 

「そんな貰ってないぞ」

 

 貰ってる個数で言えば総士の方が貰ってる。

 

「直接女子から手渡しで貰ってるだろ! っかー! なんで自覚ねぇかなこの朴念仁は!」

 

 ていうか生徒会長の俺にもチョコがひとつくらいあっても良いじゃんかよー!って叫んでる剣司。

 

 それは日頃の行いの所為なんじゃないだろうか。

 

 そう思いながら、早く総士の所に向かうために絡もうとしてくる剣司を避ける。

 

「ちょ、逃げんな一騎!」

 

「悪いけど、忙しいんだよ俺も。じゃあな!」

 

「あ、おい、一騎!」

 

 剣司から逃げる様に走り出す。総士も色々と忙しいかもしれない。それでもチョコレートを渡すくらいの時間くらいはあると思う。

 

 急いで廊下を走って、昇降口を出た所で総士を見つけた。

 

「総士!」

 

「一騎?」

 

 乙姫と来主、立上に引っ付かれて歩いている総士は少し歩きにくそうだった。ちょっと羨ましいなと思った。

 

「……歩き難くないのか?」

 

「…実は言うととても歩き辛い」

 

「そ、そうですよね。ごめんなさい」

 

「それは言わぬが花ってものだよ。総士」

 

「一騎も一緒にクッキー作る?」

 

「クッキー?」

 

 クッキーで総士の方を向くと、来主がチョコレートのお返しにクッキーを作るために練習するそうだ。

 

 遠見から貰ったクッキーも美味しかったのを思い出して、それが総士から作り方を教わったものだった。

 

「俺も行っても良いか?」

 

「そうだよ。一騎にも覚えてもらえば良いんだ!」

 

 来主に腕を組まれて引っ張られる。空いているもう片方の腕は総士の腕と組まれている。

 

「確かに一騎にも覚えてもらえば、来主がいつでも練習できるわけか」

 

 そんな風に真剣に考えている総士を見て。来主の面倒を押し付ける気だとわかるものの、総士も忙しいから仕方がないかと思う。

 

「材料の買い出しから始める。付き合ってくれ、一騎」

 

「ああ」

 

 これだけの人数でクッキー作りともなると材料も色々と必要なんだろう。大丈夫だ。荷物持ちなら任せろ。

 

「あ、総士。これ」

 

「チョコレート?」

 

 濃い紫の包装と緑色のリボンが巻かれた小包を総士に渡す。

 

「いつも世話になってるから」

 

「……世話になってるのは僕の方さ」

 

「え?」

 

「なんでもない。行くぞ」

 

「ああ」

 

 立上が離れた事で少しだけ歩きやすくなった総士が歩き出すと、来主によって腕が繋がっているから一緒に歩くことになる。

 

「わたしが居るのに一騎と二人だけの世界に入っちゃうなんて。ひどいよ総士」

 

「そうは言われてもな」

 

「今夜はオムライスが良いなぁ」

 

「仕方がない。それで手を打とう」

 

「やった!」

 

 総士と乙姫は本当に仲が良いと思いながら、自分も昔みたいに遠慮もなにもない様に出来たらと考えつつ。

 

 今は一緒に歩けるだけでも良いかと思った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 一騎先輩も加わってクッキー作りをしたわけだけども。

 

 改めて一騎先輩の料理の腕を見て。負けてると実感する。総士先輩も料理が上手い。そんな二人から料理を教わっているからか来主くんの手際も良かった。

 

 乙姫ちゃんは専ら食べる専門。

 

「わたしは総士に養ってもらうから必要ないもん」

 

 それは女の子としてどうなのかな乙姫ちゃん。

 

 夕食はそのまま総士先輩がオムライスを作ってくれた。しかも玉子が上にただ被せてあるだけじゃなくて、オムレツみたいな形の玉子をスプーンで割るとトロトロの中身が出てくるちょっとスゴいオムライスだった。デミグラスソースまて手作りって。

 

 お菓子作れて料理も得意で面倒見も良いって。総士先輩女子力高過ぎますよ。

 

 そんな平和な時間が何時までも続いてくれれば良いのにと思いながら、アルタイルの事を考えてしまう。

 

 アルタイルを眠らせる為に島に残った織姫ちゃん。

 

 でも織姫ちゃんにももっと平和な時間を過ごして欲しい。そして今度は織姫ちゃんも一緒に島を出れる方法を探さないとならない。

 

「どうすれば良いのかな……」

 

「なにがだ?」

 

 そんなあたしの呟きはお風呂の中だから小さくても反響して、髪の毛を洗っている総士先輩の耳にも届いてしまったらしい。

 

「え、いや。その。あの手紙の事です」

 

 今は考えても答えは出ないから咄嗟に手紙の話題に切り替えた。ナイスあたし。

 

「暫くは様子を見るしかない。それでも動きがないのなら気にすることもないだろう」

 

「そうですね」

 

 それでも少しだけ不安になるのは相手が女の子だからだろうか。それとも別の気持ちがあるからだろうか。

 

「不安に思う事はない。相手が見つかれば話し合う事も可能だ。対話が充分になされれば理解しあう事もできる。受け入れるにしろ拒絶するにしろ、先ずは話し合う事だ。充分な対話もなく互いに擦れ違ったままでは必要以上の代償を支払う可能性もある」

 

「対話……ですか」

 

 総士先輩のその言葉にはとても重い現実感が込められていた。そんな総士先輩は何処か遠くを見つめていた。

 

「今度は織姫ちゃんも一緒に連れていきます。必ず」

 

「そうだな。織姫だけを残しはしない」

 

「総士先輩も、居なくなっちゃダメですからね」

 

「……善処しよう」

 

「ダメです。約束してください」

 

「無茶を言う」

 

 まだ北極のミールとの戦いも終えていない。

 

 前は沢山の人が居なくなった。

 

 だから今度は誰ひとり居なくならないようにしなくちゃならない。

 

 その為にあたしは命を使う事を選んだんだから。

 

「勝手に背負うな。なんの為に僕たちが居る。痛みを互いに背負うのが僕たちの戦い方だ」

 

 そうは言っても総士先輩はひとりで多くの痛みを背負っているのに人のことは言えないと思う。でもそれを先輩は表に出したりはしないから。

 

 だから支えてあげることしか出来ない事が少し辛い。

 

 だから本当は、もっとあたしに甘えて欲しい。弱いところも、辛いところも。もっとあたしに見せて欲しい。

 

 それを言葉には出さない。それが総士先輩を余計に引き締めてしまうとわかっているから。

 

「ともかく。なにか変わった事があれば直ぐに知らせてくれ」

 

「はい…」

 

 取り敢えずその日はそんな感じで終わって。何時ものように総士先輩と乙姫ちゃん、今日は来主くんも一緒になって眠った。

 

 もうこんな感じで寝ることが当たり前で。

 

 だからこそ。やっぱり織姫ちゃんにも傍に居られる日が早く来ることを願った。

 

 そうして毎日が過ぎて結局なにも変わらない日常は過ぎて。ラブレターの事はすっかり頭の中から抜けてしまった。

 

 

 

 

to be continued… 

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