皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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やっと、という感じかな?


皆城総士になってしまった…49

 

「皆城織姫、か…」

 

 アルヴィス首脳陣の今回の議題は、新たに現れた島のコアの少女に関するものだった。

 

「皆城乙姫の言葉と、皆城織姫本人の言葉を合わせると、ふたりは親子関係であると言うことです」

 

「親子って。皆城乙姫だってまだそんな歳の子じゃないでしょうに」

 

「見た目じゃ双子だもんな」

 

「問題は、皆城織姫もコアとしての能力を有している事か」

 

「はい。両名とも、島のコアである事に変わりはないと」

 

「ブリュンヒルデ・システム自体に問題はありませんが」

 

「皆城乙姫がファフナーで戦っているから、万が一を考えて代わりを用意した。そういう事なのか?」

 

「不明です。ただ、皆城織姫は自らが目覚める必要があったから目覚めたと言っています」

 

「必要がある、か。あの金色のファフナーに関係があるのか……」

 

 ひとつの島に二つのコア。

 

 そんな前例のない自体に会議はあまり進む様子はなかった。

 

 皆城乙姫も、皆城織姫も、何を考えているのか大人たちにはさっぱりではあるが、元々皆城乙姫の中にもうひとりの存在を察知していた史彦は、ふたりが何かを知っている事を確信していた。

 

 そしてそれは総士に対しても同じことだった。最初は父の皆城公蔵の遺した指示があるのではないかと思っていたが。ここ最近の総士の活動には総士本人の意志しか見えなかった。

 

 アザゼル型という強大な存在。それを打ち破るファフナーの開発。そしてマークザインとマークニヒト、マークレゾンの関係。

 

 ザルヴァートル・モデルを基にしたアルゴノート・モデル。

 

 目覚めた皆城織姫。

 

 すべてがなにかで繋がっている様な、そんな感覚を史彦は感じていた。

 

「真壁一騎と皆城総士、立上芹についてはどうなっている」

 

 皆城姉妹の話から次は史彦個人としても気を揉む内容に移った。

 

「一騎君については皆城織姫の提言通りにキールブロックに移送しました。皆城君は医務室で現在も眠っています。立上さんに関しても本人の要望通りに特殊隔離室で待機して貰っています」

 

 千鶴の報告は大人たちの表情を険しくさせた。

 

 戦闘後に現れたマークザインから救出された一騎は結晶の中に身体を横たわらせていた。

 

 そして総士もキールブロックの中で倒れていたのを発見された。

 

 芹も戦闘後に周囲の有機物を同化してしまうという事態に本人から隔離室に入る事を提言された。

 

 一騎に関しては織姫が。総士に関しては乙姫が対応した。

 

 まるでこうなることがわかっていた様に各自の行動は早かった。

 

 史彦としても息子がどうなっているのかを知りたかったが、アルヴィスの司令として優先すべき事を間違えるわけにはいかなかった。

 

「立上芹の同化現象についての関連性は?」

 

「戦闘記録を見る限りでは、強大な存在を同化した影響としか。彼女の能力は未だ未知数の部分が多すぎて結論が出せません」

 

「機体に関しては特に異常はないが。システム中枢は総士君でなけりゃ詳しいことがわからん」

 

 アルゴノート・モデルはノートゥング・モデルをベースにザルヴァートル・モデルのデータを反映させて発展させた機体となっているが、中枢システムは総士の独自設計になっていた。

 

 メカニックとして保は容子と共に全容の把握を急いでいるが、ザルヴァートル・モデルと同じく独自のシステムが組まれていて解明に時間が掛かっていた。

 

 アルゴノート・モデルの整備も調整も総士が抱え込んでやっていた事であったためだ。

 

 ファフナーの数と種類も増えてメカニックの手が足りなかったというのは言い訳にしかならなかった。

 

 ともかくアルゴノート・モデルのシステムの解明。消滅ではなく消えた金色のファフナー。更なる敵襲来への備え。やることは山積みだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 キールブロックに移送された一騎は、まるで棺の様な結晶の中で眠っていた。

 

 その様子を見守るのは皆城織姫。

 

 未来を見据える島のコアだった。

 

 命で溢れているキールブロック。ここが一番島のミールによる力が働く場所だった。

 

 キールブロックに聳える結晶の柱。

 

 命を力に変えるそれが現れたのは芹の力に島のミールが呼応したからだ。

 

 総士の傍に居たかったものの。総士の代わりに一騎を見る役割は自分でなければ勤まらない。だから癪なものの、総士と芹の事は母親に任せたのだ。

 

 数多く浮かんでは漂うコアに触れ、手元で遊ぶ。

 

 もう少し眠っているつもりだったものの、憎しみの理由さえ忘れた絶望のコアが器を得てしまったのなら話は別だ。

 

「奪わせはしない。今度は」

 

 島の命を奪わせないための戦い。ひとつひとつの命を守ることで紡がれる可能性。

 

 未来は別の道に向かって歩み出した。その未来を守るために自分はここにいる事を選んだ。

 

 踵を返して、織姫はキールブロックを出る。

 

 やれることはやった。あとは一騎次第で自分に出来る事はない。

 

 それよりも今は総士に逢いたくて仕方がなかった。

 

「王子さまのキスで目覚めるお姫さまが居るなら、反対も居るよね」

 

 今まで自分の身体じゃなかった為に我慢していた。でも、もう今は我慢しなくても良い。何故なら足から髪の毛先まで至るまですべてが自分の身体なのだから。

 

「芹ちゃんには負けるけど、愛さえあれば問題ないよね」

 

 何しろ自分は姪っ子。妹よりも遠慮なしに振る舞える。

 

「総士、総士、総士…、総士…っ、総士っ、総士! 総士!! 総士っ!!」

 

 ずっと逢いたかった。やっと会える。もう我慢する必要もない。皆城乙姫ではなく、皆城織姫として愛してくれる。皆城織姫として見てくれる。皆城乙姫を通してではなく皆城織姫として触れ合える。

 

「総士――っ」

 

 医務室に飛び込めば、ベッドで眠っている総士の姿がある。

 

 周りには誰も居ない。乙姫は芹の所に居る。そして千鶴もメディカルルームの方だ。

 

 それでも周囲に全く誰も居ない事を確認して、再度確認する。大事なことなので三回は確認した。

 

 誰も居ない事を確認して、掛け布団を捲り、総士に寄り添うように身体を布団に忍ばせる。

 

「温かぁい……」

 

 人肌で温められたベッドは殺人的な温もりだった。

 

 それだけじゃない。

 

「そーし……おーきて…」

 

 声にならず空気の霞む音で総士の耳元で囁く。

 

「おきないと……いたずらするよ~?」

 

 総士の身体の上に横たわり、重ねあった胸から鼓動が伝わってくる。そんな心地のよい鼓動を感じながら、総士の腕を取って、手を頬を撫でる様に宛がう。

 

「えへへ…。そーしぃ……」

 

 やっと触れた。それだけで顔が蕩けてしまいそうだ。

 

「もー、おきてよ、そーしぃ~」

 

 それでも本気で起こすつもりはない。

 

「もう、いいよね。我慢しなくても」

 

 馬乗りになるようにベッドに手を着き、そのまま顔を総士に近づける。

 

 髪の毛が額に触れる。吐息が頬に触れる。

 

「好きだよ、総士……」

 

 もう少し、あと数センチ…。数ミリ。

 

「……なにしてるの、織姫」

 

「っ!?」

 

 誰も居ないはずの医務室に声が響き、ガバッと振り向けばそこには人影があった。

 

「皆城乙姫……っ」

 

「ダメだよ。寝込みを襲うなんてズルいことしちゃ」

 

 悪いことをした子を叱るような態度で乙姫は指摘する。

 

「あなたの許可が必要なの? 総士は私のものよ。娘の楽しみを奪うなんて、情けない母親」

 

 それに対する様に睨み付ける。

 

「総士は誰のものじゃないよ。それは総士が決めること」

 

「だから私のものだって言ってるの! せっかく良い所だったのに邪魔しないでっ」

 

「つ、乙姫ちゃん。織姫ちゃんも、ね? 総士先輩寝てるし。ケンカはやめようよ」

 

「甘いわね芹! これはケンカじゃない。総士を賭けた女の戦いよ」

 

「今まで散々わたしを通して総士に甘えてたくせに。わたしがどれだけ苦労したのかわかる?」

 

「だったらもう苦労しなくて良いんだもの。良かったわね? だから出ていってよ!」

 

「ふ、ふたりとも。一旦落ち着こう、ね?」

 

「私は落ち着いてる。空気の読めない母親にイラついてるだけ」

 

「大丈夫だよ芹ちゃん。ちょっと聞き分けのない子を叱るだけだから」

 

 どちらも譲る気がない事に、唯一どうにか出来そうな存在である総士を芹は見るものの、それなりに騒いでいるのに総士は全く目覚める様子もなく眠っていた。

 

「ずっと好きなときに触れたんだから良いでしょ!」

 

「それで、起きた総士に何て言うの? 総士がどう受け取るかわからないなんて言わせない」

 

「乙姫だけいっぱい総士に触ってたんだから、私だって総士に触って欲しい! 総士だけ、総士だから、総士だったからっ」

 

「織姫ちゃん……」

 

 総士に覆い被さって、顔だけを後ろに向けながら親の仇でも見るような鋭い視線を織姫は浴びせていた。

 

「芹ちゃんでも総士は渡さない。皆城乙姫にだって渡さない。総士は私の、すべてなんだから!!」

 

 涙を溢れさせながら総士の胸に顔を隠す織姫を見て、芹は事情をわかっていそうな乙姫に視線を向けた。

 

 表面的には自分の知っている皆城織姫に見えて、何かが根本的に違うような気がしたからだ。

 

「わたしはお母さんから生まれた。それは既に確定していた事象で、過去がある。でも織姫は、総士が望んだから生まれた」

 

「総士先輩が、織姫ちゃんを?」

 

「総士はね、わたしだけじゃなくて、織姫も普通に過ごせる未来を望んだ。皆城織姫は総士の願いから生まれた。だからわたしや一騎以上に、自分に総士という存在が必要なの。それはわたしや芹ちゃんが総士を必要とさせるようにするくらい強い想いだった。存在が生まれても、本来ならばまだ産まれていない存在を産み出すまで、織姫はわたしを通して世界に触れていた。芹ちゃんが総士を必要としたのは、わたしとのクロッシングで織姫の影響を受けてしまったから。…ごめんね、芹ちゃん」

 

「あたしは…、別に。それでも、今は自分の意志で、総士先輩の傍に居たいと思うから」

 

 たとえ影響された事であっても、結果的に島を守るための力を得ることが出来た。その力を振るう覚悟も持てた。

 

 だから後悔もない。別に恨みもしない。

 

「泣くな。織姫」

 

「そ、うし…」

 

「……おはよう、総士」

 

「ああ」

 

 織姫ちゃんを胸に抱きながら腹筋だけで身体を起こす総士。その胸の中で織姫は借りてきた猫の様に大人しくなった。そんな織姫の背中を総士は優しく撫でていた。

 

「そうやって甘やかすと、止まらなくなるよ?」

 

「かと言って、僕は織姫を突き放す様な事はしない」

 

「もう。総士は甘いんだから」

 

 そう言いながら乙姫も総士の座るベッドに腰を落ち着ける。手を握る芹もそれに合わせて総士に近づく事になる。

 

「……大丈夫なのか、立上」

 

 スッと、総士の目が細められて芹に向けられた。

 

「取り込んだ相手が相手だから、暫く存在を同化しないで生命力が落ち着けば元通りになるよ」

 

「そうか…」

 

 乙姫の言葉に肩を撫で下ろす総士。流石に四六時中乙姫か織姫が傍にいなければ普段の生活も儘ならない様な事にならなかった事に安堵した。

 

「すみません。心配をおかけして」

 

「別に構わない。立上がなんともないのなら」

 

「総士先輩……」

 

 心配されて嬉しいという不謹慎な事を考えてしまいながら、芹は総士の起き上がった枕元を這って、乙姫とは反対側に腰掛けた。

 

「……正直言うと、少しだけ怖かったんです。誰かを同化しちゃうんじゃないかって。ずっとこのままなんじゃないかって」

 

「ああ」

 

「乙姫ちゃんや織姫ちゃんを守れるならそれでも頑張れるんです。でも、あたしは甘えられる相手が居るから、脇が甘いんです」

 

 身体を総士の側に倒して、芹は総士の肩に身体を預けた。

 

「織姫ちゃんが、ちょっと羨ましい」

 

「芹ちゃん…」

 

 総士の胸から顔を上げた織姫が芹の名を呟きながら顔を見る。

 

「すまない。立上」

 

「良いんです。代わりに、こうして甘えさせて貰えればそれで」

 

「ああ。これくらいで良いのなら」

 

 織姫を抱いていた腕を、芹が寄り掛かる右腕を動かして、総士は芹の頭を撫でた。

 

「ん、……総士先輩の手、いつも優しくて好きです」

 

「そうか」

 

「はい…、もっと触って欲しいっていう織姫ちゃんの気持ちは、あたしもわかりますから」

 

 総士の身体に身を委ねながら、頭に触れられる感覚をより感じる為に瞳を閉じる芹。

 

 ポフっと総士の背中に衝撃が伝わる。

 

「わたしも、ここに居るんだよ。総士」

 

「忘れちゃいないさ」

 

「知ってる。でも、ちょっとジェラシー」

 

「どうしろと言うんだ?」

 

 両腕とも塞がっている総士からすれば流石に三本目の腕が生えたりはしないため、乙姫の要望は答えられる範囲で応じようと思った。

 

「じゃあ、チュー、しよ?」

 

「ダメだよ乙姫ちゃん!」

 

「そうよダメよ。総士は私のものなんだから」

 

「そうじゃないよ織姫ちゃん! 兄妹でそんなことしちゃダメなんだからっ」

 

「大丈夫だよ芹ちゃん。ほっぺとかおでこなら、外国の挨拶みたいなものだから。家族でもやる様なことだよ?」

 

「うぇ!? あ、えっと、そ、それなら、良いの、かな?」

 

「なに押されてるの芹。ダメに決まってるでしょ。総士のはじめても私のものなんだから」

 

「独占欲が強すぎると嫌われるよ? ねぇ、総士?」

 

「どんな返事を期待して居るんだ」

 

 さすがの総士でも、今この瞬間に下手な事を言うのはマズいと理解していた。

 

 こういう時に来主の様な純真無垢な空気クラッシャーの存在が恋しくなった。

 

「これもひとつの、平和の代償…か」

 

 だが悪くはないと、総士は思いながら妹と姪の果てしない言い争いの地平に耳を傾けながら、身体を預けたまま眠ってしまった妹の様な後輩の頭を撫で続けるのだった。

 

 君は知るだろう。ただそこにある平和を手にした時こそ、それが零れ落ちないようにするために更なる犠牲を払う事を。

 

 

 

to be continued…

 

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