皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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5000文字前後に止めているから少し短いけれども出来上がったので投稿しました。しばらくは話が進みそうにありませんがご了承ください。


皆城総士になってしまった…52

 

 還ってきた、というよりは再び存在を得た人々の身体の検査結果は普通の人間と変わらないという事だった。

 

 彼らが存在を得たと言うのならば、もし万が一にも再び生命が喪われてしまった時はどうなるのだろうか。もし死と言うものが無くなってしまったと言うのならば生命の循環はどうなるのだろうか。それは誰にも判らない。物は試し、なんて非人道的な事は出来ない。

 

 どうなるか判らないからこそ、やはり生命は大切に扱う事に落ち着くだろう。

 

 普通の人間と変わらないのならその生活もまた変わらない。数々の再開があって、島は活気に溢れていた。

 

 それは僕たちも変わらなかった。

 

「はじめまして、お父さん」

 

「はじめまして、お爺さん」

 

「ああ。はじめまして、乙姫、それと」

 

「織姫。わたしの名は皆城織姫」

 

「ああ。これからよろしく、織姫」

 

 父さんはそう優しく乙姫と織姫を迎え入れた。

 

 娘の乙姫はともかく、織姫からすれば父さんは祖父と言うことになる。

 

「苦労を掛けたな、総士」

 

「いえ。こうしてまた話せるだけでも嬉しいです」

 

 父さんには今まであったことを既に伝えている。

 

 苦労した、と言ってもそれは皆を守るためならば苦にも思わない労力だ。

 

 本当なら母さんにも還ってきて欲しかったが、再び存在を得た人々の中に母さんの姿は無かった。皆が皆、存在を再び得たわけではなかった。中には還ってきて居ない人も僅かながら居た。その基準は判らない。ただ父さん達は存在を得るか否かを選ばされたという。ならば自発的に存在を得ることを選ばなかった人も居るという事なのだろうか。その事に関しては僕でも知る事は出来なかった。

 

 父さんが帰ってきた事で島の体制はどうなるのかと思ったが、引き続き真壁司令がその席に着き、父さんはそのサポートに回るそうだ。今は島には来主というフェストゥムも生活している。人類とフェストゥムとの共存を目指す真壁司令の体制を、父さんは支持するという事だった。

 

 一夜明けて、僕は一騎に呼び出された。

 

「珍しいな。お前が僕に相談なんて」

 

「あぁ。考えてみて、先ずは総士と話した方が良いって思ったんだ」

 

 一騎の姿は今から5年後の姿となっていた。だが髪の毛は短い。それが意味するのは、あまり考えたくはないが、そう言うことなのだろう。

 

「島の祝福を授けたのか?」

 

「あぁ。今の俺なら、お前の事を本当の意味で理解できる。お前はこんなにも重い物を背負っていたんだなって」

 

「……今はもう、僕だけじゃないさ」

 

 乙姫も織姫も、立上、羽佐間、来主、ミツヒロ、多くの仲間が未來を知っている。

 

「前の俺じゃ、出来なかった。でも今の俺なら出来る。俺にも背負わせて欲しい。未來は変わっている。その未來を守るために、新しい力が要る」

 

「新しい力? ザインではダメなのか?」

 

「ザインは対話の為の力だ。でも今の俺が欲しいのはより強く戦う為の力だ。その為の器が欲しい」

 

 島の祝福を授けた一騎ならば、マークザインでもアザゼル型を苦もなく倒せるだろう。しかしそれではまるで足りないと言わんばかりの視線を一騎は僕に向けてくる。

 

「一体どうするつもりだ?」

 

「カノンはまだ力に目覚めていないからエインへリアル・モデルは造れない。でも総士が代わりになる物を造っただろ? それをファフナーに載せて、あとはそれをザルヴァートル化させたら、俺がどうにか出来る」

 

「確かに今ある機体をザルヴァートル・モデルにするのは出来るだろう。SDPエクストラクターも問題はない。機体は…、マークツヴァイを使うか」

 

 スケジュールは立て込むが、SDPエクストラクターは僕が造った物だから問題はない。機体のザルヴァートル・モデルへの改装は、島に帰ってきた日野洋治さんの協力を得られれば早いだろう。そうでなくてもデータ自体はあるから難しい事ではない。

 

「解った。遅くても1週間程で用意しよう」

 

「あぁ、頼む。それと今日の、甲洋の事だけど」

 

「そうだな。甲洋の同化自体は僕でもどうにか出来るが、問題は甲洋の心が存在の側へと傾かなければならないということだ」

 

「それは、多分大丈夫だと思う。だからこれから甲洋を探しに行かないか?」

 

「そうだな。おそらく乙姫が甲洋を解き放っている筈だ。誰かを同化してしまう前に甲洋を探そう」

 

 僕はそう言って島のミールを通して島のシステムにアクセスして甲洋を探す。

 

「見つけたぞ。どうやら羽佐間とカノン、あとミツヒロと共に居るみたいだな」

 

「翔子とカノン、は解るけど、ミツヒロもか?」

 

「あぁ。どうやら羽佐間の家に向かっているらしい」

 

「翔子の家か。皆も呼ぶか」

 

「その方が良いだろうな」

 

「なら俺が先に甲洋の所に行く。総士は皆に声を掛けてくれ」

 

「わかった。こちらは任せろ」

 

 そう言って一騎はフェストゥムの力のひとつである転移で甲洋のもとへと跳んだ。

 

 それに一抹の不安を憶えるが、こうして一騎と何も隠すこと無く本心で話せる事が少なからず嬉しいと思う自分を自覚する。

 

「さて。僕もやることをやるか」

 

 電話を取って剣司、衛、要、遠見に連絡を取る。皆事情を説明すると直ぐ様羽佐間の家に集合する事になった。一通り連絡を済ませて、僕も一騎と同じ様に転移で羽佐間の家の前に跳んだ。

 

「羽佐間先生」

 

「あ、皆城君。翔子とカノンが春日井君を連れてきたのだけれど…」

 

 家の玄関の外に居た羽佐間先生に声を掛ける。不安そうな羽佐間先生を安心させる為に言葉を紡ぐ。

 

「一騎が着いていますから万が一も無いでしょう。甲洋は今、自分を取り戻そうとしています。今は静かに見守ってください」

 

「え、えぇ。でも、本当に大丈夫なのね?」

 

「ご心配でしたら父や真壁司令に声を掛けてください。然るべき措置をしてくれるでしょう。僕も中にお邪魔しますが、よろしいですか?」

 

「……わかったわ。翔子とカノンをお願いね」

 

「わかりました」

 

 羽佐間先生と共に家の中に入り、羽佐間先生は電話で連絡を取り始めた。僕はそれを横目にリビングに入ると、テーブルの椅子に甲洋は座っていた。その隣には一騎が居て、向かいには羽佐間が座っていた。

 

 いつでも動ける様にカノンとミツヒロは立っていて、カノンは銃の入ったホルスターを肩から下げていて、ミツヒロも手に銃を持っていた。

 

「いらっしゃい、皆城くん」

 

「ああ。甲洋を保護してくれて感謝する。羽佐間、何がどうなっているのか説明してくれ」

 

 システムにアクセスすればおおよその事は知る事が出来るが、当事者が目の前に居るのだから直接聞いた方が早い。

 

「ショコラが急に騒ぎだしたからカノンと一緒に外に出たの。そうしたら春日井くんとミツヒロくんと会ったの」

 

「自分は仕込みを楽園でしていたら急に彼がやって来て、ミゾグチの許可を取って彼を追跡しました。銃は万が一に彼が島の住人に危害を加えるようなら撃てと言われて持ってきました」

 

「状況は理解した。今皆がこの家に向かってきている。全員が揃うまで甲洋を見張る」

 

「わかりました。しかし人を集めては危険では?」

 

 ミツヒロがそう言うが、心配する事はない。

 

「一騎と僕が居る。万が一にも誰も同化させたりはしないさ。それよりも甲洋の心を取り戻すには皆が居る方が良い刺激になるだろう」

 

「そうですか。……取り戻せると良いですね」

 

「取り戻せるさ。必ず」

 

 そうこうしている内に剣司、衛、要、遠見がやって来た。

 

 皆がリビングに集まってちょっとした大所帯になるが仕方がない。

 

「本当に目を覚ましたんだな、甲洋」

 

「ホント、無事で良かったよ」

 

「総士から話を聞いた時は驚いたけどね」

 

「でも春日井くん、まだ戻ってきてないんだね」

 

 甲洋を心配して皆集まってくれた。あとは甲洋次第だが。

 

 皆が家を飛び出して来たのだから当然何事だという事になる。そして羽佐間先生から真壁司令へと連絡も行っているとなると、ここに居る皆の親までも集まる事になる。

 

「このバカ息子! さっさと出ておいで!」

 

「衛ー! 出てらっしゃーい!」

 

「そいつはもう、お前らの知ってる甲洋君じゃないんだ!」

 

 と言うわけで説得が始まるわけだが。

 

「うるせぇー! もしフェストゥムが甲洋でも、甲洋はフェストゥムだけど甲洋で、あーっ、何言ってんのかわっかんねぇ!」

 

「とにかく! 甲洋は渡さないよ!!」

 

「絶対に渡さないからね!!」

 

 剣司と衛、要が親に向かって言い返していた。そうしていると、甲洋が口を開いた。

 

「タス、ケテ、ク、レテ、アリ、ガトウ」

 

「当然だろ。俺たちは」

 

「ウミ…、ウミ、カラ、トオミヲ、タシカニ、タスケ、タ、ゾ、カズ、キ…」

 

「春日井くん…」

 

「そうだ。甲洋、お前が、遠見を助けてくれたんだ」

 

「あ、あたしは、お前を助けられなくて…」

 

「アリ、ガトウ、サク、ラ…」

 

「っ、あたし…っ」

 

 甲洋は忘れてなどいない。それが甲洋の天才症候群である絶対記憶能力だ。たとえフェストゥムに同化されても、甲洋の記憶までは奪えなかった。

 

「総士」

 

「あぁ。頃合いだろう」

 

「何をするの? 2人とも」

 

 示し合わせる僕と一騎に遠見が声を掛けてくる。

 

「これから甲洋の同化された心を取り戻す」

 

「みんなも甲洋の事を想ってくれ。その想いが甲洋に届く筈だ」

 

 僕と一騎で甲洋の肩に触れる。集中しようとしたところに地響きが襲う。

 

『このバカども!! またぶん殴られたいか!』

 

 外から道夫さんの声が響いてくる。道夫さんがメガセリオンに乗ってやって来たのだ。

 

「ふーんだ! どうせバカだもーん!!」

 

「何回殴られたって、変わらねぇもんは変わらねぇんだよ! もしもあんたが同化されたら、おんなじ様に俺たちが守ってやるよ!」

 

『こんの、バカやろうども』

 

 剣司と衛がメガセリオンへ向けて声を上げる。道夫さんからは嬉しさを隠しきれない声が滲み出す。

 

「遠見、窓から狙撃されそうな位置を割り出せるか?」

 

「うん。多分大丈夫、春日井くん窓から離れてるから」

 

「わかった。……始めるぞ、一騎」

 

「ああ。…俺は、お前だ」

 

「お前は、僕だ…」

 

 甲洋の身体から、翠色の結晶が生えてくる。だがそれは僕たちを傷つける事はない。

 

「帰ってこい、甲洋!」

 

「待ってるよ、甲洋!」

 

「早く目ぇ覚ましな、甲洋!」

 

「春日井くん!」

 

「生命を選んで、春日井くん」

 

 剣司が、衛が、要が、遠見が、羽佐間が、甲洋へと声を掛ける。

 

「ワン!!」

 

 ショコラが、甲洋のもとへと歩み寄る。

 

「僕は、お前だ…」

 

「お前は、俺だ…」

 

 意識が引っ張られるままに身を任せる。

 

 そこは存在と無の地平線だった。

 

「甲洋!」

 

「一騎…」

 

「皆のもとへ帰るぞ、甲洋」

 

「総士…」

 

 僕と一騎が甲洋へと声を掛ける。

 

「みんなの声、聞こえてたよ」

 

「ああ」

 

「俺も、帰りたい。みんなの居る場所に」

 

「わかっている。すまなかったな、甲洋」

 

「総士が謝る事じゃないさ。お陰で俺も、俺の戦いが出来る」

 

 甲洋の手を掴んで、一騎と共に存在の側へと引っ張り上げる。

 

 意識が浮上して、結晶が砕ける音が聞こえる。

 

「……ただいま、みんな」

 

「おう! 待ってたぜ、甲洋!」

 

「おかえり、甲洋!」

 

「ちゃんと帰ってきたね、甲洋」

 

「良かった…」

 

「おかえりなさい、春日井くん」

 

 皆が甲洋の帰還を喜んだ。

 

「平気か? 一騎」

 

「ああ。これくらいなんともない」

 

「そうか。少し席を外す」

 

「わかった。こっちは任せろ」

 

 一騎にそう告げて、僕は電話を借りてCDCに連絡する。

 

『…総士君か?』

 

「はい、真壁司令。甲洋の同化は解きました。もう大丈夫です。ご心配をお掛けしました」

 

『いや。皆が無事ならばそれで良い。検査の為に、甲洋君をメディカルルームへ連れてきてくれ』

 

「わかりました。では」

 

『ああ。よろしく頼む』

 

 真壁司令との通話を切って、僕はリビングに戻る。

 

 外の親にも事態の終結を伝える。剣司や衛が小言を貰っていたがそれくらいだ。それほど心配されていたという事だ。

 

 甲洋をメディカルルームに連れていくとなって、皆がそのまま着いてくるという大移動になったが然したる問題ではない。

 

 検査結果は、身体の変異こそそのままだが、意識は完全に甲洋のままという想像していた通りの結果だった。ならば人として過ごしても問題は無いということだ。

 

 ということでこの日は解散となったが、僕は甲洋を呼び止めて話をしていた。

 

「そうか。父さんと母さんは」

 

「島に不利益を齎す存在を抱える程、父さんと真壁司令は甘くはない。それに、眠っているお前の生命維持装置を切ろうとしたことについては僕も分を超える。彼らを庇う理由はない」

 

 甲洋にとっては辛い事かも知れないが、息子を島に居るための道具としてしか見てなかった甲洋の両親を赦す事はない。

 

「あの家には、そのまま住んでも良いんだよな?」

 

「元々は甲洋の家だ。今は店の管理を溝口さんとミツヒロがしているが、住む分なら別に問題はない」

 

「わかった。それが聞けて安心したよ」

 

「学校にも復学するだろう? 手続きはそれ程ないが、それで構わないな?」

 

「ああ。それと、パイロットとしても戦うよ」

 

「それは助かる。機体は、試してみたい事がある。接続テスト、今からやれるか?」

 

「わかった」

 

 僕は甲洋を連れてブルクへと向かった。

 

 甲洋が島の祝福を授けているのならば乗ることが出来るだろう。

 

「これは…」

 

「僕が開発した新型ファフナーだ」

 

 甲洋を案内したのはマークベルクロスに立上が乗ることによって空席となったマークレルネーアだった。

 

 シナジェティック・スーツに着替えた甲洋がコックピット・ブロックに入り、機体へと送還される。

 

 機体の起動は問題なく完了した。甲洋にはこのままマークレルネーアを任せよう。色も甲洋のフィアーに合わせて塗り直すか。

 

「凄いんだな、あの機体。乗ってるだけなのに力が強まるのを感じたよ」

 

「その為のアルゴノート・モデルだからな」

 

 機体から降りてきた甲洋の感想に返す。甲洋のSDPも問題なく扱えるだろう。甲洋の、アザゼル型にも通用する『毒』の力は確実に島の戦力になる。

 

 甲洋を家に帰らせて、僕は研究室へと足を向けた。SDPエクストラクターをマークツヴァイに搭載する用意があるからだ。その為の申請書を書かなくてはならない。それが終われば日野洋治さんと面会の場を設けて、可能であればマークツヴァイのザルヴァートル・モデルへの改装に協力をして貰う。駄目なら駄目でもデータはあるから僕でもザルヴァートル・モデルへの改装は可能だろう。それが終われば、あとは一騎に託すだけだ。

 

「しばらくは、忙しくなるな」

 

 ただこの程度で島の平和を勝ち取れるのなら安い物だ。

 

 気合いを入れて、先ずは必要な書類の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

to be continued…

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