いなくなった人達が、再び存在を得て帰ってきた。
それは奇跡のような出来事だろう。もう会えなくなってしまった人と、再び出逢えるのだから、誰もが帰ってきた人を迎い入れた。
それは、俺にとってもそうだった。
「ただいま…、僚」
「おかえり、祐未」
その言葉を、やっと言うことが出来た。
「遅くなっちゃって、ごめんね」
「良いさ。こうしてまた逢えたんだから」
あの暗い海の底からやっと続いた俺たちの時間。本当なら訪れる事はなかったこの時間を、これからは大切にしよう。
「……祐未?」
「…ねぇ、僚。僚の所も、お父さんやお母さんは帰って来なかったの?」
「あぁ。でも良いんだ。俺は受け入れてるし、寂しくないしな」
「そう。私はね、やっぱりまだ、少し寂しいの。なんで父さんは帰って来なかったんだろうって」
皆が帰ってきたわけじゃない。帰って来なかった人も居ることには居た。それは俺の両親だったり、祐未の親父さんだったり。どうして帰って来なかったのか。帰って来れるのだから、帰ってくれば良いのにと不満を口にする人も居る。でもそれは無理に帰ってこなくっても良いんじゃないかと思ってる。多分帰って来なかった人は、帰らない事を選んだのだから。
俺も両親が帰って来ないことをとやかくは言わない。それはそれで前と変わることのない生活を送るだけだからだ。
「俺が居たんじゃ、駄目か?」
「僚…」
「俺が、お前の親父さんの分まで傍に居るんじゃ不満か?」
「……バカ。そんなわけないじゃない」
陰りのあった祐未の顔に笑顔が戻った。その笑顔が、俺を安心させてくれる。
「なぁ、折角だし、ちょっと歩かないか?」
「良いけど、身体は大丈夫なの?」
「心配ご無用。この身体になってから、走ってもへっちゃらなんだぜ?」
そう見せるように祐未の前でトントンと跳んで見せる。
「なら構わないけど、どこか行きたい場所とかあるの?」
「いや、特に無いな。適当にぶらついて、適当な時間に昼飯にしようぜ。良い店、知ってるんだ」
「デートプランとしては褒められたものじゃないけど、まぁ、良いかな」
そう言って祐未は俺に付き合ってくれた。
特に行きたい場所なんてなかったけれど、自然と足が向いたのは祐未と泳いだ浜辺だった。
「平和ね。とっても」
「あぁ。でもこの平和もいつ終わるかはわからない。それでもまた、平和を勝ち取るんだ。何度でも」
皆が帰る場所を守るために、俺はファフナーに乗り続けた。それはこれからも変わらないだろう。ファフナーに乗れなくなるその時まで。
「あのね。私、考えたの。私もまた、ファフナーに乗ろうって」
「祐未…」
「あなたが乗ってるんだもの。だったら、パートナーの私だって乗るわ」
同化現象に対する拮抗薬があって、島のミールのお陰で、今はファフナーに乗っても同化現象に悩む必要は殆んどない。でも戦いに出るということは、戦いの中でいなくなる可能性がゼロというわけじゃない。
今は後輩たちも育って来ているし、無理にファフナーに乗る必要はない。俺は自分の意思で、皆を守るためにファフナーに乗っているだけだ。
「私だって、あなたを守りたいの。それとも、私のこの想いは独りよがりの迷惑かしら?」
「…負けたよ。ただ、約束してくれ。必ず、生きて帰ってくるって」
「ええ。約束する。だから僚も死なないで」
「あぁ」
祐未と約束を交わす。大丈夫だ、俺は死なないし、祐未も死なせない。
「……そろそろ昼にするか」
「ええ。ところで何処で食べるの?」
「着いてくれば判るさ」
俺は祐未を連れて目的の場所へと向かった。
「いらっしゃい。まだ開店には…、マサオカ、あなたでしたか。おはようございます」
「よ、ミツヒロ。なんだ、まだちょっと早かったか」
「いえ。もう店は開けられるので構いませんよ」
祐未を連れてきたのは喫茶『楽園』だった。
「僚が来たいって、ここだったのね」
「そ、結構美味いんだぜ? ここのカレー」
「恐縮です」
「そう謙遜することないさ。結構有名だぜ? ミツヒロカレー。2つ頼むよ」
「わかりました。少しお待ちを」
そう言ってミツヒロはカウンターの中に入って行く。店に入った時からそうだったけど、もう匂いだけで美味いって判る。
カレーを待っていると、2階から甲洋が降りてきた。
「あ、こんにちは、将陵先輩。それと、生駒先輩、おかえりなさい」
「よ、お邪魔してるよ、甲洋」
「ええ。ただいま、…春日井君」
まぁ、ここは甲洋の家でもあるから甲洋は居て当たり前の場所だ。
「お待たせしました。ミツヒロカレーです」
「お、待ってました」
「良い香り…」
出てきたカレーをスプーンで掬って、少し冷ましてから口に運ぶ。ピリ辛なのがまた食欲を唆るんだよな。
「美味しい」
「だろ?」
「これも良かったらどうぞ」
「良いのか?」
「ええ。サービスです」
続けてミツヒロが持ってきたのはカップに入ったミネストローネだった。カレーの付け合わせには丁度良い量だ。これも美味いのは知ってる。
「こっちも美味しい」
「な? 良い店だろ」
「ええ。そうね」
祐未も喜んでくれた様で何よりだ。
「いらっしゃい。マカベ、ミナシロ、おはようございます」
「ああ。おはよう、ミツヒロ」
「大人数でやって来て悪いが、カレー7人前で頼む」
やって来たのは一騎と総士、それに続くように来主と立上、乙姫と織姫、蔵前というだいたいいつも見掛ける面子だった。
「こんにちは、将陵先輩。それと、おかえりなさい、生駒先輩」
「あぁ。こんにちは、総士」
「ただいま、皆城君」
俺たちに声を掛けてきたのは総士だった。総士に声を掛けられて丁度良かった。
「皆城君、お願いがあるのだけれど」
「なんでしょうか?」
「私を、またファフナーに乗せて欲しいの」
「良いのですか?」
「良いの。私がそうしたいの」
「わかりました。機体を用意しましょう」
「ありがとう。でも反対しないのね」
「反対する理由がありませんからね」
「そう。なら、よろしく頼むわね」
「わかりました」
軽くすらすらと祐未のパイロット復帰が決まった。昔ならファフナーに乗せるだなんて生命を捨てさせる様なものだから躊躇われたものだったけれど、今はそんな酷い事にはならないからこうして乗るという意思を尊重される。
「あの…、おかえりなさい、祐未先輩」
「ええ。ただいま、果林ちゃん」
少し硬い空気が、祐未と蔵前の間に流れた。
「あの…、ごめんなさい。それだけ、言いたかったんです」
「そう。…ありがとう、果林ちゃん。僚と一緒に戦ってくれて」
「い、いえ。私の方こそ、将陵先輩に助けて貰いましたから。えっと、それじゃあ、失礼します」
そう言って蔵前は乙姫や来主が居る席に戻って行った。
「強いわね、果林ちゃん」
「そうだな」
ファフナーでクロッシングしていたから、蔵前が俺の事をどう想っているのかは知っている。でもごめんな、俺には祐未が居るから。蔵前の気持ちには応えられない。それも後でちゃんと、言葉にして伝えないとな。
昼を食べ終えて食後の茶にしながら、なんとなく一騎と総士たちを見る。
一騎と総士は2人の席で静かにカレーを食べていた。
一番うるさいのは来主か。それでもただカレーを美味しい美味しいと言ってるだけだから嫌味はない。でも織姫がそれを煩わし気に睨んでいる。そんな来主を蔵前が注意していて、乙姫は笑って見守っている。なんだか見てるだけで平和ってやつを実感するただの家族のやり取りだった。
茶も飲み終わって総士たちに別れを告げて店を出る。
まだ陽は高いが、本当にやることがない。
「この後、俺んち来るか?」
「え? ちょ、い、いきなりなによ!」
「や、本当にやること思い付かなくてさ。だったら家でのんびりしようかなって思って。でもまだ祐未とは一緒に居たいし」
「ま、まぁ、それなら仕方ないわね。うん。でも、変なことしないでよね?」
「なに? 期待しちゃってんの?」
「ばっ、ばか! さっさと行くわよっ」
怒った祐未だけど、それでも繋いでいた手は離さなかった。
平和ってやつを噛み締めながら、俺も祐未の後に続いた。
to be continued…