皆城総士になってしまった…   作:星乃 望夢

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インターミッションで他のUXキャラと絡ませようとして何度も書き直した結果がこれ。


皆城総士になってしまった…UX07

 

 ボレアリオスとの『対話』を終えても、僕たちの存在が還る事はなかった。

 

 それは僕たちがまだこの世界でやることがあるということを示唆しているのだろうか。

 

「まさか君までこの世界にやって来るとはな。だが良いタイミングだった」

 

 実際、ミツヒロがマークレゾンと共にこの世界に来てくれた事は戦力的にも心強いことだった。

 

「オリヒメの“声”がおれを導いてくれました」

 

「そうだったのか」

 

 織姫を見れば得意気に胸を張っていた。

 

「しかし見掛けないファフナーに乗っていましたね。マークザインと思えばマークニヒトの特徴もある」

 

「此方の世界で新たに生まれた機体だ。分類としてはザルヴァートル・モデルと言っても過言はないだろう」

 

「ニヒトでもザインでもレゾンでもない、第四の救世主ですか」

 

「ああ。エクジスト、存在を意味する機体だ」

 

「ザインと同じ…」

 

 ミツヒロがマークエクジストを見上げて一瞥すると僕へと視線を戻した。

 

「ボレアリオスとの『対話』の真っ只中でしたが、ここは“過去”という事でしょうか?」

 

「純粋に過去というわけではない。可能性のひとつを歩む並行世界だ。現に、日本は滅びることなく健在だ。しかしフェストゥム以外の敵も存在する複雑な世界であり、彼らとの『対話』を経た今、しかし僕らが存在する理由は不明だ。役目を終えれば島に帰れるとも思ったが」

 

「そうではなく、あるいは未だに何かの役目があるのか。それとも…」

 

「帰ることを諦めるつもりはないが、最悪の場合この世界でアルタイルを迎える覚悟も必要になるかもしれない」

 

 しかしそんなにも此方の世界で過ごしてしまっては僕たちの島が危うい。レゾンが此処に在り、僕も此処にいる上に一騎がまだ眠り続けているのだからザルヴァートル・モデルを1機も動かせないという戦力不足に悩まされる。

 

 通常のフェストゥムならば対応は可能だが、アトランティスのコアが相手ともなるとそうはいかないだろう。出来るだけ早急に僕たちは僕たちの島への帰還を果たさなければならない。

 

「一仕事終えた後ですまないが、真壁司令にレゾンとミツヒロの事を報告する。疲れているなら僕だけで構わないが」

 

「いいえ、問題ありません。行きましょう」

 

「わかった。立上と織姫はどうする」

 

「あたしは、岩戸に降りようかと」

 

「ならわたしは芹と行くわ」

 

「わかった。また後でな」

 

 立上と織姫と別れて、僕はミツヒロを伴って作戦会議室へと向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「織姫ちゃんは、あたしのやろうとしてること怒る?」

 

「怒って欲しいのなら、怒ってあげる」

 

 ワルキューレの岩戸へと向かう途中で、あたしは織姫ちゃんにそう言葉を掛けた。それは織姫ちゃんが仏頂面であたしを見ていたからだった。

 

 織姫ちゃんは納得はいかないっていう雰囲気を出している。

 

 それでも止めた方が良いという言葉が出てこないのなら、あたしのやろうとしていることは問題ないのかもしれないと勝手に判断する。

 

「わたしの島の皆城乙姫の為ならまだ我慢してあげる。でもこの島の皆城乙姫の為にあなたが存在を削ってまでするべき事だとは思わない」

 

「それでもあたしは、乙姫ちゃんにここにいて欲しいんだ。乙姫ちゃんには人としてもっと多くの時間を過ごして欲しいの」

 

 ワルキューレの岩戸に入ると、遠見先生たちが、コアの代替者をミールと繋げるための機材を片付けているところだった。

 

「立上さん? それに…」

 

「少しだけ邪魔するわ、千鶴」

 

「え…?」

 

「すみません。ほんの少しだけお邪魔します」

 

 織姫ちゃんと手を繋ぐと、この島のミールと繋がった事が解る。

 

 キールブロックへとあたしの意識はやって来た。

 

「芹ちゃん……?」

 

「良かった。まだ間に合った」

 

「え…?」

 

 あたしは乙姫ちゃんに歩み寄ると、膝を曲げて視線を合わせた。

 

「さ、帰ろう、乙姫ちゃん」

 

「帰るって、そんなこと出来ないよ芹ちゃん。わたしの存在はもうミールの中に還ってしまうもの」

 

「でも、乙姫ちゃんだって島に居たいんでしょ? ミールはもう、生命の循環を学んだから、乙姫ちゃんがいなくなることなんてないんだよ」

 

「ダメだよ。わたしが戻ったらミールが正しい生命の廻りを勘違いしてしまう。芹ちゃんの気持ちは嬉しいけれど、皆の為にわたしは戻るわけにはいかないの」

 

 それでも悲しそうな顔をする乙姫ちゃん。この世界では乙姫ちゃんがミールに生と死の循環を学ばせる存在だった。

 

 でも、数ヶ月だけの存在なんて、それは生命のほんの少しだけしか理解させられないと思う。そして、あたしの島の乙姫ちゃんの様に、この島の乙姫ちゃんにももっとたくさん笑って欲しいから。

 

「既にミールは生命の循環を学んだ。還りたいのなら好きにしなさい。その方が芹を煩わせないで済むから」

 

「意地悪言っちゃダメだよ織姫ちゃん」

 

「意地悪じゃないわ。うじうじしてる母親に腹が立ってるだけ」

 

「母親……。そう、あなたは…」

 

「血筋上母親というだけよ。わたしの存在は総士から生まれた。総士が望んで、わたしの存在がある。総士だけがわたしの存在の親よ」

 

 織姫ちゃんの言葉から問題ない事を確信して、あたしは乙姫ちゃんの身体を抱き締めた。

 

「帰るのがダメなら、もう1度生まれよう? 来主くんや、来主くんのミールの様に」

 

「もう1度、生まれる…?」

 

「うん。もう1度、乙姫ちゃんとして生まれるの。総士先輩の様に」

 

 総士先輩がフェストゥムの側で自分の存在を生まれ変わらせた様に。織姫ちゃんとしてではなく、乙姫ちゃんとしてもう1度存在を生まれ変わらせる事が出来るはず。

 

「いいの…? わたしが、わたしの存在を選んでも……」

 

「存在を選ぶことが生命の祝福だから。あたしが、乙姫ちゃんに居て欲しいから」

 

「存在したいのなら選びなさい。未練たらたらな母親なんて見てるだけで恥ずかしいから」

 

「もう、織姫ちゃん」

 

「ふん!」

 

 乙姫ちゃんには当たりが強い織姫ちゃんだけど、今日は更に輪をかけて当たりが強かった。

 

「わたし…帰りたい。島に…、帰りたいよ……」

 

「帰ろう、乙姫ちゃん。乙姫ちゃんの島に」

 

 意識がキールブロックから、岩戸へと戻る。

 

 結晶が砕ける音と共に眼を開ければ、腕の中に乙姫ちゃんが居る。

 

「芹ちゃん……」

 

「お帰り、乙姫ちゃん」

 

「ありがとう、芹ちゃん…」

 

 乙姫ちゃんの鼓動を感じながら、あたしはもう1度乙姫ちゃんを抱き締めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ジョナサン・ミツヒロ・バートランド。ミツヒロに息子が居たとはな」

 

「彼は我々の島の同胞です。マークレゾンと共に島の為に戦ってくれています」

 

「先の戦闘でもその点に関しての疑いはない。君の同胞であるのなら、我々の同胞であることに変わりはない。我々の島への到来を歓迎しよう」

 

「ありがとうございます。マカベ司令」

 

 僕の味方であることを説明すれば、ミツヒロの存在を真壁司令は受け入れてくれた。しかしそれだけで話しは終わらなかった。

 

「遠見先生から、皆城乙姫が帰ってきたと連絡があった。君の側の立上芹と島のコアがやったと聞いたが、何の為にミールとひとつとなった彼女を甦らせたのかね?」

 

「甦らせたというのとは違うと思います。肉体は同化されても意識はまだこの島と完全には一体化してはいなかった。皆城乙姫の存在を皆城乙姫として新しく生まれ変わらせたのでしょう。理由はただ皆城乙姫に人としての時間を過ごして欲しいという立上のわがままではないかと思います。自分の監督不届きです」

 

「いや。不都合がなければ構わないが。君たちはいなくなった存在を再び甦らせる力があるのか?」

 

「あくまでも存在を選ぶことが僕たちの祝福です。いなくなってしまった者を甦らせるというのとは異なります」

 

「そうか。いずれにせよ、君たちがその力を悪意に使う様な存在ではないことは承知している。皆城乙姫の件、そして島への助力の恩は君たちの帰還する術を全力で支援する事で返させてくれ」

 

「はい。ですが未だ、この世界に敵が多いことも事実です。我々にも出来ることがあれば申し付けてください」

 

「承知した。ならば早速で悪いのだが」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「マークザインの回収は終わったが、問題はコイツだな」

 

 防護服を身につけた保さんが溢す。

 

 マークザインを庇ったマークニヒトは消滅することなく島の海岸に鎮座していた。

 

「戦力として使わないのならば封印してしまう方が良いでしょう」

 

「そもそもコイツを扱えるパイロットが居るのかって話だが。君の方の島だとコイツも扱ってたんだろ?」

 

「ええ。僕がマークニヒトのパイロットをしていました」

 

 保さんの言葉にそう返答するが、僕の乗っていたマークニヒトは正確には目の前にあるものとは異なる生まれをした器だ。

 

 本当の意味で憎しみと虚無の器であるマークニヒトに僕が乗ることが出来るのかどうかは試さなければわからない。

 

 今は僕と一騎とミツヒロの3人で鎮めたから小康状態といったところだが、パイロットを乗せることで活性化をすれば容赦なく憎しみと虚無の渦の中へ引き摺り込むだろう。

 

 放置しても危険だが、戦力として使うのもまた危険。封印処置をするかどうかはこれから決まる。

 

 真壁司令に相談されたのは目の前の怪物の始末についてだ。

 

 マークニヒトを運用していた事は、この島の真壁司令にも話している。此方にお鉢が回ってくるのは自然の事だろう。

 

「ミツヒロ、頼む」

 

『了解』

 

 ミツヒロの乗るマークレゾンがマークニヒトに触れると、触れた先から結晶が機体の手に生えてマークレゾンを同化しようとする。

 

『虚無に囚われた憎しみか…。だがもうおれは囚われない!』

 

 その言葉と共に結晶が弾ける。マークニヒトの憎しみをミツヒロは振り払った。

 

「パイロットが乗っていないのに同化するのか」

 

「見た目はファフナーであってもミールに等しい存在ですからね。パイロットはあくまでも力に指向性を与える存在に過ぎません」

 

 マークレゾンに抱えられて、マークニヒトは臨時の露天ケージへと移される。

 

 シナジェティック・スーツに身を包む僕はコックピット・ブロックへ搭乗し、身を預ける。

 

 万が一に備えてマークレゾンが待機している前で、マークニヒトの起動を行う。

 

 ニーベルングに指を通し、機体と接続を開始する。

 

「っ…ぐぅ…」

 

 ニーベルングと接続する腕から結晶が生え、痛みが駆け巡る。

 

 マークニヒトに囚われている意思が憎しみを僕へと囁いてくる。

 

 ニクイ、ニクイ、ニクイ──。

 

 ただ憎いという言葉と共に僕を憎しみに染め上げようとする。

 

 確かに強い憎しみだ。だが理由すらない憎しみに僕が屈するわけがない。

 

「静まれ亡霊どもっ、この怪物を支配する力を、僕に与えろ…!」

 

 理由のない憎しみを捩じ伏せる。ワームが機体を包むが、存在と無の鬩ぎ合いの中で存在を僕は選び続ける。痛みを知り、いなくなることへの恐怖を知るこのマークニヒトならば消失を否定し、無でありながら存在することを望む器となる事が出来る。

 

 ワームが晴れた景色。警戒しているマークレゾンが映る。

 

『ミナシロ!』

 

「心配するな。僕はここにいる」

 

 腕を覆っていた結晶は既に砕けていた。

 

 マークニヒトの起動は成功したが、理由のない憎しみというものは骨の折れる相手だった。

 

 起動には成功したが、ニヒトの処遇は真壁司令に委ねられるだろう。

 

「マークニヒトに乗ったって。大丈夫だったんですか?」

 

「検査結果も問題ない。極めて良好だ」

 

「そう意味じゃなくてですね…」

 

 マークニヒトの同化を受けたが為に一応検査をしたが、同化現象はそれ程重いものではなく治療を受ければ直ぐに回復する程度のものだった。

 

 それに、マークエクジストが存在することを選び続ける事で存在するのであるならば軽度の同化現象はさほど心配するものでもないだろう。

 

「君の方こそ、島のミールとクロッシングしただろう?」

 

「あたしは。ただ乙姫ちゃんに居て欲しかったから」

 

 とはいえ、検査を受けて患者服を着ているのなら治療が必要だと判断されたということだ。

 

 病室のドアが開き、織姫と、この島の皆城乙姫と皆城総士が入ってきた。

 

「君の側の彼女から話を聞いた。島の為に戦ってくれたらしいな」

 

「皆城総士であるのだから島の為に戦うのは当然の事だ。なにもおかしな事はない」

 

「だが島を守ってくれた事は事実だ。その事について礼を言いに来た」

 

「律儀だな。今日くらい、乙姫や一騎たちとの時間を優先しても文句は言われないさ」

 

「……乙姫の事も、感謝する」

 

「僕ではなく立上の判断だ。礼なら彼女に言ってくれ」

 

「そうか。……マークニヒトを制御したらしいな。使うつもりか?」

 

「必要であるのならばな。あれは皆城総士の為の器だ。僕がやらずとも、いつか君がやっただろう事だ。それでも、今は必要な力だ。君はどうする」

 

「この身体の事も含めて今はまだ僕には時間が必要だが、戦術指揮官として仲間と共にUXに合流するつもりだ。そちらはどうする」

 

「同じだ。ボレアリオスとの対話はほんの一区切りに過ぎない。未だ戦わなければならない相手が居るのならば、僕たちも戦うまでだ」

 

「そうか。君たちが島に帰還できるよう、こちらも最善を尽くそう」

 

「ああ。僕たちも、この世界が平和になるための最善を尽くそう」

 

「そうか。……一騎が彼らとの対話を終えた祝いに楽園でパーティーを開くそうだ。来るか?」

 

「一騎からの誘いを僕が断るとでも?」

 

「愚問だったな。なら検査で遅れることだけ伝えておこう」

 

「ああ」

 

 互いに皆城総士であるから必要以上の言葉は必要ない。

 

 会話は質素なもので終わり、皆城総士は病室を出ていった。

 

「総士が全部伝えてしまったけれど、わたしからもあなたたちにお礼を言わせて。島の為に戦ってくれてありがとう」

 

「妹の為に身体を張るのが兄の勤めだ。礼など要らないさ」

 

「あたしも、島を守りたかったから乙姫ちゃんが畏まる事なんてないよ」

 

「わたしは総士と芹が戦うから戦ったまでよ。その生命を全うすることがわたしたちへの恩返しと思いなさい」

 

 僕も立上も自分のしたいことをしたまでだ。しかし織姫はいつになく上から目線だ。なにかあったのだろうか。

 

「別に。総士が気にすることじゃないわ。でもそうね、抱っこしてくれたら良いわ」

 

「わかった」

 

 これは話す気がないらしい事が窺えるが、必要ならば織姫から言うだろう。

 

 織姫を横抱きに抱えると、首筋に顔を寄せてくる。

 

「甘えん坊なんだね、あなたたちの新しいコアは」

 

「自分の感情に素直になってるだけよ。わたしは総士を愛してるからそれを伝えているだけ」

 

 僕の頬に自分の頬を寄せて言い放つ織姫。

 

 まるで僕たちの島に居る時と同じ様に乙姫に対する当たりが強い。いや普段よりもトゲがあるな。

 

「人として生きるのなら自分の心に素直になることを覚えなさい。わたしに言えるのはそれだけよ。それを忘れてコアとして生きるのならわたしはあなたを許さない」

 

「わかった。ちょっと難しいけど頑張ってみる」

 

 それは人としての生を歩む先達としての祝福だったのだろう。

 

 乙姫へと当たりが強かったのはおそらく照れ隠しか。

 

 喫茶楽園へと出向き、世界は違えども一騎のカレーは変わることなく同じ味だった。

 

 他にはミツヒロのカレーも振る舞われた。もちろん僕もシチューを作らせて貰った。

 

 どちらも好評の様でなによりだ。

 

「料理出来たんだな、総士って」

 

 そう僕と皆城総士を見比べて溢したのは剣司だった。

 

「蔵前と当番制で食事を作っているからな」

 

 僕が僕となった時から存在する他者の“平和”の記憶。島のミールが憶えているそれらの記憶の知識を駆使すれば人並みには料理もこなす事が可能だった。

 

「……蔵前もいるのか、君の島には」

 

「ああ。ファフナーにはもう乗れなくなったが、今も彼女は島にいる」

 

「そうか…。君の島の仲間が戦いを生き残れる事を祈ろう」

 

「守ってみせるさ。僕の存在に懸けても」

 

 そう胸に誓って止まっていた食事を再開する。

 

 平和を噛み締められるからこそ、僕たち人間は次の戦いに望むことが出来る。

 

 しかし次の戦いは僕たちに休む暇を与えず迫っていた。

 

 地球外変異性金属体(ELS)が地球圏へと移動を開始し、火星圏で人類は防衛線を構築。その最前線へ特化戦力であるUXは出撃が決まった。

 

 竜宮島のファフナー部隊もUXへ合流。僕たちもまたUXへと合流する事にした。

 

 ELSは群体性の相手であり、果てしない数の群団であるため、広域殲滅能力の高いマークニヒトが早速必要となった。

 

「マークニヒトか。大丈夫なのか?」

 

 ブルクのケージに固定されているマークニヒトを見上げてそう僕に訪ねて来たのはアスカさんだった。

 

 二度もUXと敵として対峙した機体だ。思うところはあって当然だ。

 

「万が一は僕らで処理します。とはいえ、この器の力が必要である事も事実です。あれだけの群団を相手にするのにマークニヒトは適した機体です」

 

 危険であっても必要ならば使うしかない。ファフナーはその最も足る兵器だ。

 

「力はただ力でしかない。人の心が力を正しくさせるものだと僕は思う。例え危険な力でも君が正しく使ってあげれば、マークニヒトも人の為の力になると思うよ」

 

 そう言ってくれたのはキラ・ヤマトだった。彼の言う通り、力は使う者の心次第でどの様にも変化するものだと僕も同意見だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 総士がこの世界の無の器に乗ることを選んだ。本当の憎しみの器を知ることも、総士には必要な事だった。

 

 総士がマークニヒトに乗るのなら、総士が生み出した器が空席になる。

 

「ふふ……総士に包まれてるみたい…」

 

 これは芹ちゃんは乗せられないなぁ。

 

 そう思えるくらいこの器は思っていたよりも強力で、総士だけの器だった。総士が生んだ器なのだから総士の為に存在していて当たり前だ。

 

 感じるのは圧倒的な存在感と、絶対的な肯定。総士に自らの存在を肯定されているわたしや芹ちゃんだとこの機体に乗っているだけで総士とひとつになりたいという願望が剥き出しになるだろう。

 

 だって総士の器に乗るということは、自分が総士で総士が自分ということになる。

 

 こんなものに芹ちゃんが乗った日には大変な事になるんじゃないかな。それくらいこの機体はある意味危険でもあった。

 

 起動試験でこれだから戦うためにより深く同期した時が今から楽しみだった。

 

「コアであるあなたまでファフナーに乗るなんて、ちょっと意外」

 

 この島の皆城乙姫がわたしに話し掛けてきた。この島の芹ちゃんがツヴォルフの調整をしているからその付き添いでブルクに皆城乙姫は居た。

 

「誰かの為に誰かが立ち上がるのがわたしたちの戦いだもの。必要なら乗るし、わたしの側の皆城乙姫も乗っているわ」

 

「コアでありながら人としての存在を望まれたわたし、ね」

 

 島のミールを通じてわたしと皆城乙姫はクロッシングしている。

 

 島の機能を使うためでもあり、総士や芹ちゃんの為にそうする必要があった。ミツヒロとレゾンを呼び込む為でもあった。

 

 だからわたしの情報は皆城乙姫に伝わるし、伝わってしまう。

 

 そしてわたしは皆城織姫でありながら皆城乙姫でもある。

 

 総士が望んだわたしたちの存在は、この島のわたしや皆城乙姫とは異なる分岐を与えたことも伝わっている。

 

「まぁ、精々人として悩みながら生きてみなさい。わたしが言えるのはそれだけよ」

 

「あなたは逆に悩まなさすぎだと思うよ」

 

「総士は許してくれるから良いのよ」

 

 そもそもコアであるから人であることを悩むなんてバカらしい事をしている暇があるのなら、わたしは総士と一緒に居ることを選ぶだけ。

 

 総士はわたしの事を肯定してくれる。だからわたしも、総士の望む未来を肯定する。

 

「お待たせ乙姫ちゃん」

 

「ううん。お疲れ様、芹ちゃん」

 

 ツヴォルフの調整を終えたこの島の芹ちゃんが機体から降りてきた。

 

「それじゃ、わたしは行くわ」

 

「あ、待って…!」

 

「なに?」

 

 呼び止められて脚を止める。

 

「あなたの名前、まだ聞いてなかったから」

 

「聞いてどうするの? 必要以上に馴れ合う意味をわたしは感じない」

 

「そんなこと…」

 

 この島の芹ちゃんが悲しげに表情を陰らせるけれども、織姫という名はわたしにとってただ七夕の日に外に出たからという意味だけの名前じゃない。

 

「何をしているんだ? 織姫」

 

「……もう。総士のバーカ」

 

「なんだ。いきなり」

 

 そんな気遣いを一言で全部総士が台無しにした。

 

「あ、総士先輩、その…名前を聞こうと思って」

 

「名前を? 教えてなかったのか」

 

「まだ外に出られないわたしに配慮したつもりだったのに。総士のお陰で台無し」

 

「そうだったのか、すまなかった。だが、織姫は織姫だ。同じ名であっても、僕の目の前に居る織姫が僕にとっての皆城織姫であることに変わりはないだろう?」

 

「……はぁ。ホントに、もう…」

 

 直ぐそうやってわたしが欲しい言葉をくれて骨抜きにしようとする。もう抜かれる骨も筋も残ってないよ。

 

「行くよ総士。シャワー浴びたいから洗って」

 

「仕方がないな」

 

 取り敢えず総士のお陰で台無しになった気苦労を癒して貰おうと総士の手を引っ張ってシャワーを浴びに向かう。

 

「え? あ、え? いやいや、ちょっと待とうよ2人とも!」

 

「なに?」

 

「なんだ?」

 

 この島の芹ちゃんに呼び止められてわたしと総士は揃って足を止める。

 

「いや、シャワー浴びるって、一緒に入るみたいに聞こえたんですけど」

 

「そうよ。別に構わないじゃない」

 

「いや構おうよ。恥ずかしくないの?」

 

「別に。総士だから見られたって別に構わないもの」

 

「えぇぇ~。というか総士先輩も普通に受け入れないでくださいよ」

 

「すまないが僕には」

 

「こっちの側の芹とも総士はお風呂入ってるから今更よ」

 

「え゛っ?」

 

 わたしの言葉を聞いて、この島の芹ちゃんは女の子が出しちゃいけない声を上げる。

 

 とはいっても一緒にお風呂くらいわたしたちにとっては今更なもの。でも一向に手を出したりしないんだから、まったく総士はどうなっているんだか。

 

「おかしいな乙姫ちゃん、あたしなんか間違ってること言ってる?」

 

「…わたしも、総士と入ってみようかな」

 

「乙姫ちゃん!?」

 

「だって、今まで一緒にお風呂入ったことないし。兄妹なのに」

 

「兄妹でも流石に混浴制限あるよね!? ていうかなんでもうひとりのあたしとも平気で入っちゃうんですか!」

 

「色々とあるんだ。色々と…」

 

 この島の芹ちゃんに詰め寄られて困った顔を浮かべる総士。うん、少しはわたしの気苦労を味わってくれたかな。

 

「総士先輩、お待たせしました」

 

「あ、あぁ。ご苦労だった立上」

 

 そこへベルクロスの調整を終えた芹ちゃんがやって来ると、この島の芹ちゃんがズイッと芹ちゃんに詰め寄った。

 

「ど、どうかしたの…?」

 

「総士先輩とお風呂に入ってるってホント?」

 

「あ、うん。総士先輩髪の毛洗うの上手で気持ちいいんだぁ」

 

「そうじゃなくて…、恥ずかしくないの?」

 

「別に? 総士先輩になら見られても良いし。というか見て欲しいというか…、うん。ね?」

 

「ね?って、……総士先輩と付き合ってたりするの?」

 

「え? 付き合ってないと一緒にお風呂入るのってダメなの」

 

「……わかんない。同じあたしのハズなのにあたしの考えがわかんない」

 

「し、心配しなくても、えっ、エッチなこととかしてないよ?」

 

「もうそんなんじゃないよぉ…」

 

 同じ人間であっても世界が違えばこうも違う。芹ちゃんは特にその1人だと思う。頭を抱えて項垂れるこの島の芹ちゃんと、何かおかしいかなと顔に書いて首を傾げる芹ちゃん。まぁ、いつも通り。

 

「芹も居ることだからお風呂に切り替えね」

 

「この空気で僕に同伴を求めるのか」

 

「頑張って戦ったわたしと芹へのご褒美。最近忙しくてお風呂もご飯も別々だったし」

 

「……僕の敗けだ」

 

「絶対変なことしちゃダメですからね!」

 

「しないさ。ただ髪と身体を洗って湯船に浸かるだけだ」

 

 この島の芹ちゃんが釘を刺すけれども、本当にそれだけなのがわたしは不満。でも総士がわたしや芹ちゃんの事を大切にしているのは解っているから今は仕方がない。それでも直接総士が手で触れてくれるだけでもご褒美ではあることだし。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「なんだか災難でしたね」

 

「いや。彼女の反応が先ず普通だ」

 

 湯船に浸かりながら総士先輩に背中を預ける。ちょっと乙姫ちゃんには悪いと思いながら、前後に織姫ちゃんと総士先輩に挟まれててまるで天国みたいな気分だった。

 

「先輩はあたしと入るのはイヤですか?」

 

「だったら一緒には入らないさ」

 

 うん。総士先輩ならそう返してくれるってわかっているけれど、改めて正しい事を突き付けられると、やっぱり間違っているって自覚が襲ってくる。

 

「芹ちゃんは気にし過ぎ。わたしたちにはわたしたちのコミュニケーションの仕方があるってだけ」

 

「そう、かなぁ…」

 

 でも甘えてばかりじゃ総士先輩にだって悪いし。

 

「じゃあ、総士はわたしが独り占めして良いよね?」

 

 そう言って織姫ちゃんがあたしの身体を押し退けて総士先輩に身体を寄せてくる。

 

「立上が狭苦しいだろう」

 

「別に良いでしょ? 芹ちゃん、総士とちょっと離れたいみたいだし」

 

 そう織姫ちゃんに言われると胸がキュウって苦しくなる。

 

「やだ」

 

「ん? 芹ちゃんなにか言った?」

 

「総士先輩取っちゃやだっ」

 

 あたしも織姫ちゃんに負けじと総士先輩に身体を寄せた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「あまり立上を煽るな、織姫」

 

「素直じゃない芹ちゃんが悪いんだもーん」

 

「うぅー、総士せんぱぁーい」

 

 総士の首筋に鼻を擦り付ける芹ちゃんはすっかり甘えん坊モードに変わった。普段我慢してるから一度スイッチが入ると芹ちゃんはこんな風になる。

 

「心配するな立上、僕は何処にも行ったりしない」

 

「んー…、えへへ、総士せんぱぁい」

 

 総士に頭を撫でられるとトロトロになる芹ちゃんは、正直押し倒したいくらいカワイイ。

 

「わたしもぉ」

 

「わかったわかった」

 

 でも芹ちゃんばっかりに掛かりっきりは寂しいからわたしも総士におねだりすると、ちゃんと総士はわたしも構ってくれる。

 

 総士の手は大きくて、優しくて、温かくて、気持ち良くて。

 

 これをこの島の芹ちゃんは知らないからあんな事言えちゃうんだろうなぁ。

 

 と言っても、この島の総士は総士みたいに甘やかし上手じゃないからこんなことはしないし、やったとしても皆城乙姫にだけくらいだと思う。

 

 ボレアリオスとの戦いで忙しかった代わりにうんと甘えて、そして次の戦いに備える。

 

「ん…っ、はぁぁ……。…良し」

 

 マークエクジストと一体化して総士の存在の器を受け入れる。

 

 まるで総士とひとつになっているみたいに感じる。総士の温もりに包まれているみたいな多幸感が全身を駆け巡る。

 

 意識を切り換える。

 

 戦力差は1万対1の戦いにもならない戦いに、わたしは身を投じる。

 

「ゴウバイン・コンバット、始動ぉぉっ」

 

『そんなものはない』

 

 総士がクロッシングで突っ込みを入れて来るけれども、人間は感情の昂りで力を発揮出来る生き物だ。

 

 わたしの闘争心に呼応する様に従えているトルーパーがイージスから強固な『壁』の力を展開してELSの群れを押さえ込んだ。

 

 彼らもなにかを叫んでいる。けれども彼らと『対話』をする存在の準備には今少しの時間が要る。

 

 その為の時間を稼ぐための戦いが始まった。

 

 

 

 

to be continued…

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