皆城総士になってしまった…
「僕の名は皆城総士。君が誰かを、僕は知らない。だがこの言葉を君が聞いている時、もう僕はこの世に居ないだろう」
まさか僕がこの言葉を残す側になるとは思わなかった。
僕自身、定められた路であっても、その通りに事が進むとも思っていなかった。
僕は皆城総士。いや、皆城総士に
自分でもおかしな事を言っている自覚はある。だが事実だ。
僕の最も古い記憶は痛みだった。左目を襲う痛み。あまりの痛みに声を出す事もなく左目を押さえ呻くだけだった。叫ばなかった自分を褒めてもいい。何故ならば僕は皆城総士ではないから痛みも普通に人並みに痛い。
目の前には血の着いた小枝を手に持ち、震えている男の子がいた。いきなりの出来事過ぎてその子が慌てて駆け去るのを見送るしかなかった。
ようやく落ち着けて自分の名が皆城総士であることを知る。ケガの治療は出来たものの、以後は左目の視力は著しく低下してしまった。
それならまだ良かったのかもしれない。ただ、何故僕は皆城総士になってしまったのだろうか。疑問は尽きない。もしこれが神の仕業だとでもいうのなら、僕はその神に虚無の申し子を全力で差し向ける所存だ。
「残された時間は、決して多くはない。だから僕は君にこの言葉を遺そう。楽園と呼ばれる島は確かにあった事を。竜宮島という素晴らしい島があった事を」
レコーダーに向けて思い出す様に僕は言葉を紡いでいく。この先長くない自分の命が終わる時、次に生まれる皆城総士の為に僕は僕たちの戦いを伝えるために今ここにいる。
◇◇◇◇◇
慶樹島からボートに揺られて竜宮島に向かう。
とうとうこの日がやって来てしまったのかという憂鬱な気分が込み上げてくる。しかし嘆いてもいられない。知っていて犠牲にした先輩たちの為にも、これからの戦いを乗り越えて行かなければならない。
戦いたくても戦えないもどかしさがこんなにも辛いものだったとは思わなかった。
ちなみに僕はファフナーに乗ることは出来る。だがファフナーとの一体化に皆城総士とは別の意味で致命的な欠点を抱えていた。
本来の皆城総士が目が見えてしまう事を受け入れられずにファフナーの起動が出来なかった。
僕の場合はまた別だ。
僕は皆城総士という存在になってしまった別の人間だ。以前の記憶は思い出せない事も多い。それでも僕はこの世界の未来を知っていて、そして皆城総士とは別の人間だったという自覚があった。
それ故だろう。ファフナーとの一体化、つまり違う自分になる事が受け入れられないのだ。自分が変わってしまって、果たして僕自身はどうなってしまうかがわからなくて、怖くなってしまう。自己保身に走る無意識の防衛本能が邪魔をする。変性意識で思考防壁を作る対フェストゥム戦闘という観点で考えるとファフナーのパイロットとしてこれ程使えない人材は居ないだろう。
思考を読まれない様に付けられた機能を使えないパイロットなど使えない。故に僕もまた、ジークフリード・システムに乗ることになった。
見送る事しか出来ず、仲間が戦う戦場に赴けない自分を情けなく思う。
父への挨拶を済ませ、教室に向かう。保さんに頼まれた雑誌を届ける為だ。
道すがら、僕はこれからの事に頭を悩ませていた。正確な日時はわからずとも、恐らく今日、竜宮島にフェストゥムはやって来る。そしてファフナーに乗る前に蔵前果林――僕にとっての数少ない身内を喪うことになる。
数度の起動実験で既に同化現象の初期症状が出始めてしまっている為、あまり長く戦えないだろう。だとしても家族であり、気心知れた相手を亡くす事は辛い。死ぬとわかっているなら尚更見捨てられない。
なんの力もなく、先輩たちを助ける事も出来なかった自分が言えた義理じゃないだろう。
だが蔵前の事に関しては力がなくともどうにか出来る術はある。
雑誌を届けて直ぐに蔵前を連れて慶樹島にとんぼ返りすればきっと間に合う。
ファフナーの調整という理由をつければ蔵前を連れていく事は出来る。その為の船も出して貰えるだろう。
だがそうすると最悪帰りにフェストゥムと鉢合わせる危険もある。
もしもの時は剣司もシステムに乗れるが、訓練もなしに指揮は執れないだろう。あれは四年という歳月の実戦経験があればこそ出来た事だろう。
最悪の場合は僕もファフナーで出るしかないだろう。起動指数ギリギリのコード形成数値なら変性意識もさほどなく動かすだけならば出来るだろう。どのみち変性意識とジークフリード・システムとのクロッシングがなければフェストゥムの読心能力は完全には防げない。
初陣での一騎やニヒトと戦った時の道生さんが動きを読まれたのもその為だろうと僕は考えている。たとえ蔵前をファフナーに乗せても、システムとのクロッシングがなければ一騎と同じく敵に動きを読まれてしまうだろう。
ファフナーに乗りながらシステムを使う。ゼロファフナーやティターン・モデルは、そう言った意味ではとても効率的で、その設計思想はより多くの敵を倒す事に向いているのかもしれない。
アクティビオンが開発され、同化現象への対策が出来ればシステムとファフナーの二重負荷が掛かっても戦えるのだが、ないものねだりをしても仕方がない。今出来る最善を尽くす事が僕の戦いだ。
教室に着いたらやはり蔵前とぶつかってしまった。片目が見えない生活は長いとはいえ、どうしても死角は常人よりも増えてしまう。
「ごめん。上手く見えなかった」
「皆城くん、帰ってたんだ」
「ああ。今朝に」
実際帰ってきたのは今朝だ。ただ報告書を纏めていたら午後になって、父さんへの挨拶をしていたら放課後になってしまった。
ぶつかって落ちてしまった紙袋を蔵前が拾って手渡してくれる。
「おお!? それは、麗しの最新号! 待ってたぜー!」
紙袋が書店のものと知る衛が目敏く気づき、興奮しだした。ゴウバインを愛する衛は毎回この漫画雑誌を欠かさず買っている。島唯一の漫画雑誌だから気持ちはわかる。僕もゴウバインは単行本の出版を提案して読み揃えている。漢のロマンがわかっている保さんには尊敬の念を禁じ得ない。
「ねぇ、皆城くん。東京どうだった?」
「東京?」
そんな事を思っていたら遠見に訊かれた。何故東京の話が出てくるのだろうか? いや、確かに半年ほど慶樹島かアルヴィスに缶詰めで学校にも来ていなかったが。
すると蔵前が思わせ振りに眼鏡をクイっとあげ直した。確かそう言えばそうだったか。要点を覚えていても細かいところは色々と忘れてしまっているらしい。余りに長い休みだったから蔵前が気を利かせてくれたんだろう。
「思ったよりも人が多い場所だったよ」
ただ、僕の場合は実際の東京がまだ人の街として栄えていたのを知っている立場だったから、皆城総士よりも極めてリアリティがあり不自然さを感じさせない感想を口に出来ただろう。
「そうなんだぁ。ねぇねぇ、芸能人とかに会えた?」
「…いや。そういう人とは会えなかった」
「なーんだ。残念」
田舎という設定の竜宮島の子からしたら都会の東京はひとつの憧れみたいなところもある。僕からしたらこの竜宮島の暮らしにこそ憧れの感情を抱いていたが、今はそれどころじゃない。
視線で教室を軽く見渡しても一騎は居なかった。おそらく剣司と校舎裏で決闘しているんだろう。将陵先輩の懸けが当たるまではもう何ヵ月か先だ。……その時、僕はどうしているだろうか。
「遠見。一騎は何処に?」
「一騎くん? 授業が終わったら近藤くんと出ていったけど」
「そうか。ありがとう」
やはり一騎は剣司との決闘らしい。――蔵前を連れていく序でに一騎も連れていきたかったが……。
「蔵前。少し付き合ってくれ」
「え? う、うん。いいけど」
リスクが先か後か、どちらも変わらないのなら最善を選ぶ。それが僕の戦いだ。だから僕は先のリスクを選択した。
蔵前も普通に答えれば良いだろうに、変に吃るから教室から黄色い声が上がる。お前たち僕たちが義理とはいえ姉弟なのは知っているだろう。義理だから問題ない? アニメの観すぎだ。そもそも竜宮島でそんな深夜枠のアニメがやっているわけがないだろう。さらに言うなら蔵前が好きなのは将陵先輩だ。
「ごめん皆城くん」
「いや」
茶化されたのは気にしていない。ああいう年頃は得てして他人の恋バナというのは気になって仕方がなくて不思議と盛り上がるものだ。僕も以前経験した。再び中学生生活を無邪気に満喫しきれないのが小さな悔いだが、何も知らないままではいられない。僕は島を守らなければならないからだ。
「でもびっくりした。皆城くんから誘われるなんて思わなくて」
皆城総士も不器用な一騎にまで不器用と言われるほど不器用オブ不器用だったが、僕にもその不器用な部分は残っている。……いや、敢えてあまり人を寄せ付けないだけかもしれない。それは皆城総士に対しての僕なりの贖罪だ。僕が皆城総士であるかぎり他人を好く資格などない。何故なら本当なら皆城総士が紡ぐべき絆であって、僕が紡ぐものじゃない。
話はするが、ほぼ必要最低限な事が多い。ただあまり敵を作らないように程度には皆城総士よりも紡ぐ言葉は多いかもしれない。僕たち島の子供すべてがファフナーのパイロット候補なのだ。円滑な作戦行動に備えて、所謂角の立たない程度の会話はしている。
そういう会話をしたい相手が一番心が遠いのが皮肉だ。
僕の目を傷つけて以来、一騎とは疎遠だ。皆城総士にとって親友であり、共に無へと還りたかった相手。それほどまでに気心を許していた相手。僕にとっては物語の主人公の一人であり、皆城総士の局所的な交友関係上無視できる相手でもない。
だから何度か会話をしてみようとした。だが実際、一騎に対して何を話したら良いのかわからない。だから言葉を掛けられず対面しても互いに何も喋らず擦れ違う事が多い。好きな相手に告白したくても出来ずに何も言えなくなってしまう女子でもあるまいし。
しかしこれからは違う。違う様に努力しよう。新しい価値観を、感情も痛みも共有する事で少しでも一騎を理解できる様になるかもしれない。
「一騎にファフナーを見せる」
「真壁くんに!? そんな、なんで…!」
人が少なくなってきた廊下で蔵前に本題を話す。
だがその内容に彼女は予想外だったのだろう。歩みを止めてその理由を問う。
「戦闘指揮官としての判断だ。パイロット候補の中で群を抜いたコード形成数値を遊ばせておくつもりはない」
「でもファフナーは!」
「先輩たちのくれた時間を無駄にするわけにはいかないんだ」
「っ、皆城…くん……」
卑怯な言葉だろう。だが事実でもある。先輩たちのお陰で、ファフナーの運用に関する貴重なデータを手に入れる事が出来た。今までフェストゥムは水の中に入る事は出来なかった。それがフェストゥム襲来から30年間の常識だった。フェストゥムから逃れる為にファフナーはゼロファフナーたるエーギル・モデルの時点で水中行動が考慮された設計がされている。
だがその常識は崩れ去った。さらに数年後、フェストゥムの統括者であるミールの一部であるアザゼル型が海にコアを隠すまでになった。
水の中にも敵がいる今、ピンチになれば海に逃げるという手段は使えない。現状一人しかいないパイロットで複数の敵が攻めてくればアウトだ。それはマークゼクスという犠牲で証明されている。
皆城総士ではないが、ジークフリード・システム内の全パイロットの生命は何がなんでも僕が守ってみせるつもりだ。
だから初陣でいきなりまともな説明もなく一人で戦わせるつもりもない。蔵前のサポートがあれば初陣でも一騎なら戦えるはずだ。
すべてを救えると思うほど傲慢じゃないつもりだ。でも手の届く範囲の者を救う事くらいは許して欲しい。僕も人並みには家族や友達を大事に想っているのだから。
だから勝算を上げ、なるべく犠牲の出ない方法を捜し、あとは選んで進むだけだ。
「敵が一体だけで攻めてくるとも限らない。出来るときに戦力の増強はやっておくべきだと僕は思っている」
「でもそれなら真壁くんだけじゃなく、他のみんなだって。第一それじゃなんのために先輩たちも戦ったのか」
確かに僕の言い方では一騎だけを特別扱いする様に聞こえる。なにも一騎だけでなく、他のパイロット候補も連れていって然るべきだ。
でもそれではダメだ。
「ただ平和にこのまま過ごせる事に越したことはない。だが敵が来ない保証はどこにもない。だから出来るときに出来る最善を選ぶ。今この瞬間だって、誰かが戦って得た
そこまで言って僕はまた歩き出す。誰かが勝ち取った平和。先輩たちの戦いで半年という時間を貰った。ノートゥング・モデルの開発も、先輩たちのくれた時間がなければ間に合わなかった。
竜宮島でティターン・モデルによる防衛戦などという状況は考えたくもない。
確実にパイロットの数が足りなくなる消耗戦の末、竜宮島は落ちる未来しか見えない。
そのノートゥング・モデルにしてもシステム分の負荷がなくなっただけで、依然同化現象の危険性は解消できていない。こればかりは蓬莱島や真壁紅音のデータがなければどうにもできない事だ。
校舎裏にやって来ると、一騎と剣司の姿があった。果敢に挑む剣司だが、すべてが一騎に見切られている。
一騎は基本反撃はしない。ただ避け続けて、相手がバテるのを待つだけだ。理由は何となくだが想像はつく。
剣司には悪いが先を急ぐ。
「…か……」
だがいざ実際、一騎に声を掛けようとして言葉に詰まる。一騎になんと言って着いてきて貰うかだ。
いや普通に着いてきて欲しい。或いは用があると一言言えば良いだけだ。なのにそれが出来ない。何故だ。何故こうも一騎相手になると途端に口が開けなくなる。
「……剣司!」
「んあ? げっ、総士…!?」
なんで居るんだと言わんばかりのジト目を剣司に向けられる。
「一騎に用がある。良いか?」
また逃げてしまったと思いながら剣司に用件を告げる。他人を挟めば問題なく言葉に出来る自分がひどく嫌になる。
「お、おう…」
剣司はバカ息子呼ばわりされるが、バカじゃない。少しお調子者ということだけで決してバカじゃない。バカじゃないが、ああもあしらわれたらムキになっても仕方がないだろう。男なら尚更だ。
「…総士……」
「………………」
こうして対面するとやはり言葉が告げられなくなる。一騎もまた、僕の名を口にするが直ぐに顔を背けられてしまい気まずい雰囲気が場を支配する。しかし流石に今は一刻の猶予すら惜しい。
「……か、っ、……一騎。一緒に、来て欲しい」
「…ああ」
4年振りのマトモな言葉。僕から初めての彼に向けた言葉はたったのそれだけだった。それでも一騎は何処か安心した様な表情を浮かべて頷いた。ただ一瞬だけ酷く自分を忌ましめる様な表情を浮かべたのを蔵前や剣司は気づいていない様だった。
「っぐ!?」
いきなり左目に激痛が走り、咄嗟に目を押さえて踞ってしまう。
「っッ」
「皆城くん!?」
「おい、大丈夫か総士!」
そんな僕を気遣って蔵前と剣司が声を掛けてくれるが、せっかく、ようやく、やっと、一騎に言葉を掛けられたのに、デリケートな場所をデリケートな相手に向けて――『あなたは――そこにいますか?』……潰してやるぞ、フェストゥム!
◇◇◇◇◇
緊急事態の為、バーンツヴェックの使用許可が降りた。
せめてファフナーに乗る所くらいは見届けたかったが、時間がない。今から慶樹島に向かって帰ってくる時間の間にいったいどれだけの時間が使えるか。
「蔵前、あとを頼む」
「…うん」
蔵前は少し沈んだ表情で返事を返してきた。ここに来る前に一悶着あった所為だろう。蔵前と一騎を連れて真っ先にアルヴィスに降りたからだろう。避難が最優先とはいえ一騎まで連れていく意味を訊かれたとき、僕は一騎をブルクまで連れていく旨を伝えた。まだ認識制限コードが低く軽く混乱していそうな一騎を連れていく意味を蔵前に解かれたが、一騎をファフナーに乗せる可能性があると説明すると、彼女にしては珍しく噛みつかれた。
気持ちはわかるつもりだ。しかし個人の復讐心や自尊心に構っていられるほど敵は甘くはない。
蔵前のデータは可もなく不可もなくというレベルだ。それこそ平均的な能力であり、ファフナーでの戦闘シミュレーションでも僕より成績は下だ。シミュレーションなら動かすだけで思考防壁を張る変性意識も関係ないなら実戦よりは幾分か動かし易い。基の皆城総士がフェストゥムに同化された純フェストゥムとも言えるマークニヒトを乗り回せる程だ。その皆城総士の身体を持つ僕がデータ上なら蔵前を上回っていて当然であり、つまり何重のハンデもある僕に勝てず、そんな僕が制限なしの状態と同レベルでファフナーを乗り回せる一騎の可能性をデータ的に示せば彼女はなにも言い返せなかった。
テストパイロットという、蔵前からすれば屈辱に近い言葉を口にして黙らせた。
「……今夜は僕が作る。リクエストを考えておいてくれ」
だから別れ際にそんな言葉を遺した。それには無事に帰って来て欲しいという僕自身の願望もあった。
「……アップルパイ」
「それはデザートだろう…」
甘いものが好きな女子の例に漏れず、蔵前も甘いものが好きだ。趣味で色々と作っているから偶に作ると喜ばれる。御門さんの店には足元にも及ばないがな。
少し明るくなった蔵前と未だ混乱状態でそわそわと落ち着かない一騎を見送り、僕も走り出した。向かう先はCDC。そこが僕の戦う場所だ。
CDCに駆け込み一瞬だけ立ち止まるが、僕も覚悟を決める為に声を張り上げた。
「
「総士。――頼んだぞ」
「はい。――父さん」
閉まる扉の向こう。父の背中は遠く、システムから出た時、再びそこに変わらずその背中がある事を僕は祈った。
ジークフリード・システムはファフナーとのクロッシングで全機体の管制を担っている。皆城総士の天才症候群の並列処理能力は違和感なく使える僕もジークフリード・システムの適性は高い。
「ニーベルング接続を確認。対数スパイラル形成問題なし。ファフナー・マークエルフ起動!」
初のファフナー搭乗とあってマークエルフの準備は此方で進める。蔵前も無事にブルクに辿り着けた様だ。マークツヴァイの起動ログがシステムに上がる。
「マークツヴァイ。行けるか?」
『……大丈夫。出るのは初めてじゃないもの』
シナジェティック・スーツに身を包んだ蔵前の声が頭に響いてくる。クロッシングで互いに感情を共有するのは否応に互いの心は筒抜けと同義だ。
「マークツヴァイは待機。マークエルフの起動を進める」
『了解――』
マークツヴァイからマークエルフにリンクを切り替える。まだ目を覚ましていないらしい。
「……一騎」
不思議と自然に声が出た。
「…一騎」
『…総士? なんでここに……』
一騎の意識が戻り、本格的にクロッシングが始まる。なにもない闇でふたりきりだ。でも恐怖は感じない。寧ろ温かさと安心を感じる。
「ジークフリード・システム内の僕と、ファフナー内のお前は直接脳で繋がっている状態だ。先ずは目を開けろ。ファフナーの目が、
言い聞かせる様に一騎へと語りかける。視界が開き、真っ暗闇から光の中へと還る。一騎の視界を通して同じ景色を僕も見ている。左目が見えるのは久方だったが、その感覚は問題なく受け入れられた。今の僕の左目は一騎の左目だからだ。
「先ずは武器を取れ」
『武器? これか…』
ジークフリード・システムから格納庫にアクセスして封印から外れている武器を呼び出す。
ティターン・モデルの使っていたガンドレイクのプロトタイプだ。他には演習用のペイントガンとハンドガンのデュランダルだ。此方は蔵前のマークツヴァイに回す。
マークエルフの起動が済んだ事でマークツヴァイにも再びクロッシングを接続する。
『どういうこと? 皆城くん』
変性意識で些か強気になっている蔵前の低い声が聞こえる。
「マークツヴァイはバックス。フォワードはマークエルフに担当させる」
『どうして!? 武器の扱いなら――』
「素人にいきなり射撃は無理だ。蔵前の腕をアテにしている」
『でもペイントガンでどうしろって――』
「だからサポートに回って欲しい。マークエルフの切り込む道を作ってくれ」
『……わかったわ』
やはりどうしても先行したい気概が蔵前を荒げさせるが、ひとつひとつ理由を並べれば理解はしてくれる。攻撃するのに理想的な意識か。内向きか外向きかで違いは出るし千差万別十人十色とは良く言うものだ。初めて剣司と咲良と衛のトリプルドックを指揮した皆城総士の苦労が少しわかる気がする。
「マークエルフはマークツヴァイの援護のもと、敵を直接叩く。いいな」
『ああ。わかった』
一騎の方は普段と変わらない様子にホッとする。だがそれがとても危ういものだと真壁司令も仄めかしていた。積極的な自己否定の先にある絶対的な肯定。僕は一騎に対してそんな存在になれるのだろうか。
『CDCよりシステムへ。ファフナー発進を許可する』
「了解。第二、及び第十一ナイトヘーレ、開門!」
CDCから出撃許可が降りた。二機のファフナーが降下して射出態勢に移行する。
「ファフナー・マークツヴァイ、マークエルフ、発進!!」
これが最初の、始まりの合図だった。長い旅の始まり。平和を取り戻そうと歩み始めた、最初の一歩だった。もしも僕たちが生き延びることが出来たのなら、今日の事を忘れないでいよう。誰かから平和を譲って貰うのではなく、僕たちが誰かに平和を譲る側に立った、この日の事を。
to be continued…