奉仕部で語彙大富豪   作:君下俊樹

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作者自身の語彙力、文章の展開力がないため登場人物のキャラクター性が著しく損なわれる恐れがあります。ご注意下さい。

ぼっちV.S.ぼっちのドリームマッチ
ファイッ!


1.俺たちは友達がいない

「ねぇ、比企谷君」

 

 不意に、本を読んでいたはずの雪ノ下から声を掛けられた。珍しいことだ。普段、こいつが本を読んでいる時に周りを顧みることはほとんどない。あったとして、時計をチラと見て時間になったら立ち上がる。それくらいだ。

 

「この、語彙大富豪……? と言うの? これは何なのかしら。いえ、ルールは簡単に書いてあるのだけれど要領を得なくて」

 

 これまた珍しく、雪ノ下が読んでいたのはこの間発表されたばかりの大衆文学。レーベルこそ純文学も取り扱う大手の物だが、古典文学からライトノベルに近い大衆文学までありとあらゆる文学作品を発表しているところで、雪ノ下の読んでいるこれも、どちらかと言えばライトノベルよりの、軽い小説だ。内容は…………たしか、デスゲーム系だったか。

 

「こういうのも、読むのな」

「…………別に良いでしょう。それより」

「ああ、わかったわかった。うーん、『語彙大富豪』なぁ……」

 

 1人でできないゲームなので俺はもちろんやったことはない。だが、ネットサーフィンの合間に見かけたことはある。

 あらかじめ紙に好きな単語を書いておき、それを順番に出していき、手札のなくなった奴の勝ち、そんな感じのゲームだ。

 無論、なんでも出せると言うわけでなく、前の人が出した単語より()()()()を出さなければいけない。《グー》に対しては《パー》、《火》に対しては《水》、こういった具合に。もちろん、各プレイヤーによって何が強いかは変わってくる。一言で《銃》と言ったって、ハンドガンやマシンガン、スナイパーライフルなど様々な受け取り方、実像があるためだ。

 そんな時には【ジャッジ】。その言葉をプレイした人物以外で判定を行う。要は申し立てだな。納得がいかない奴が【ジャッジ】して、過半数を越えればその言葉はプレイできず、手札に帰る。

 一般的に普通名詞の方が汎用性は高い。しかしあえて、固有名詞を使う事である一点に特化させて、相手に返させないと言う戦略も必要になって来る。語彙力と屁理屈、そして相手を丸め込む話術が必要になる訳だ。強い奴は性格が悪いか、頭が良いか。そういうゲームだ。

 

「────と、まぁこんなもんだ」

「最後の一言は絶対に要らなかったと思うけど…………なるほど、それなら貴方は得意そうね?」

「やる相手が居ないから、得意かどうかは分からんだろ」

 

 あら、と雪ノ下は不敵に微笑んだ。嫌な予感がする。むしろ、嫌な予感しかしない。どうにか話題を逸らせないものかと視線を巡らせてみても、俺の持ってるジャンプくらいしかないし、いきなり火ノ丸相撲面白いですよねとか言っても雪ノ下から返って来るのは冷たい視線だけなのは目に見えている。

 ふ、と小さく溜息をついた

 

「…………いいぜ、やってみようか」

「ふふふ、どうしようかしらね」

 

 そう言いながらも、文庫本を鞄にしまい、ルーズリーフを取り出した雪ノ下。それを近くの机に敷いて定規で几帳面に四角く切る。

 

「5枚くらいで良いかしら」

「あー、うん。良いんじゃね」

 

 少し、楽しそうだ。縦に半分に切り、それを五等分にする。そのうちの半分を俺に渡してきて、身を隠すように書き始めた。

 ふむ、じゃあ何を書こうか。とりあえず一枚は確定だが。

 

 

 

 

 

 

 

 パスはなし、【ジャッジ】の判断は相手を納得させること、などの簡易的なルールを制定していざゲームの開始だ。

 

「それじゃあ、私から始めさせてもらうわね」

 

 そう言って雪ノ下が机に置いたのは《吹雪》。まあ想定内と言うか、似合っていると言うか。それならば、俺はこれを出すべきだろう。

 

「む…………そうね。確かに、吹雪いていたとしても太陽が出ていれば周囲は見えるし、熱で雪も溶けていく」

 

 俺が出したのは《太陽》。とりあえず大きいし重いしで、星は強いだろうと思って一番始めに書いた。身近な強さがわかりやすい物にしておくのも、ポイントの一つだろう。

 

「通る、って事で良いのか?」

「ええ、構わないわ。次は私が《太陽》よりも強いものを出せば良いのね?」

 

 そういうと、雪ノ下は手札をジッと見つめて考え始めた。それも数秒のことで、決断は下ったのか手札の整理を始めた。

 

「では、《物理学》。太陽も現実に存在するものである限り、物理法則に縛られる……どうかしら?」

 

 ここは、通して良いだろう。太陽が物理法則に勝てると思っているわけでもない。手札の残りを見ても、通していい。そもそもが対雪ノ下を想定した手札になっているのだ。インフレに付き合うつもりはないし、真面目に超えられたなら不真面目に超えるしかないだろう。

 

「じゃあ、《ギャグ漫画》」

「…………どういうことかしら? 流石に漫画が《物理学》よりも強いと言われて納得はできないわよ」

 

 無論、ただ《漫画》と書いているだけならダメだろう。だが、ギャグだ。お約束が蔓延り、慣用表現が飛び交うギャグ漫画の中で物理法則など無意味。本来は《爆弾》とか、《雷》とかそういうのに対して「次のコマには治るから」とかそういう感じで出してやろうと考えていたが、丁度いい。

 

「こういう表現を見たことはないか? ぐるぐると手を振り回し、その軌道上に何本も手がある。とか、猛スピードで崖を飛び出して何秒間か止まってから落ちる、とか」

 

 明らかに死亡してしまうようなシーンでも次のコマで平然としていたり、それまで八頭身のイケメンだった奴が、ギャグパートになった瞬間二頭身になったり。他にも様々な表現があるだろう。

 

「これは古典的な表現だが、明らかに物理法則に反している。つまり、《ギャグ漫画》の中で《物理学》は無意味だ」

「…………ええ、確かに。認めましょう。漫画とか、そういうのには疎いのだけれど、その私でもそういう表現は見たことがあるわ」

 

 これで、俺の《ギャグ漫画》が通り、お互いに残り手札は3枚ずつ。後半戦に差し掛かろうかというところ。

 俺の残りの手札は相変わらずの雪ノ下メタが一枚。汎用性に長けたものが一枚。そして、()()()()()()()()()()()()()()ジョーカーが一枚。

 ジョーカーが出せれば確実に流れるだろう。それ故に実質二枚とまで言い切れる手札だ。

 

「これを使うことになるとは思わなかったけど……《神》よ」

「…………子供かよ」

「悪い?」

「いえ、別に?」

 

 ふむ、となると。このメタカードも少し微妙だな。どうにかして言いくるめてしまうか? だが、ここでジョーカーを切るのも中々リスキーだ。これをこういうのに対してただ出すだけというのは正直、弱い。ならばここは畳み掛けるべきか。

 

「《上司》」

「…………?」

「俺は《上司》を出す。その《神》のな」

「────ッ!?」

 

 そう、これが雪ノ下に対するメタ。たとえ神であったとしても平等ではなく、序列がある。そして上司がいる。得てして、部下は上司には逆らえないものだ。さらに、これは上司というだけでなんの上司とは明言していない。無機物や概念でさえなければ常にある上司部下という関係。常にその上を取れるまさに雪ノ下という強い存在に対するメタ。先輩という案もあったが、一色とか確実に俺を敬ってはいないのでそこを突かれると痛いから却下。

 だが、この《神》が唯一神や最高神ならばそれは通じないだろう。雪ノ下がそう主張してしまえば、覆すにはまた相当の論議が必要になる。舌戦になれば、俺に勝機はあまりない。それは分かっているからこその畳み掛け。

 

「たとえ神であっても、上司という存在はついて回る。父だってそうだろう。親子であっても職場にいる限りは上司と部下だ。それとも…………お前の言う神は()()()()()()()()()()()?」

 

 ニヤリと、僕はキメ顔でそう言った。

 

「……気持ち悪い」

 

【ジャッジ】。暴言吐かれました。

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、まあ、言いくるめられてあげるわ。確かに、八百万の神も縦社会のような描写は見られるわけだし、最高神とかそういう役職もあるのですから。そう書かなかった私の落ち度ね」

 

 少し、早口になった。人の口がよく回る時は後ろめたい時で、雪ノ下でさえもその御多分にもれない。俺に言い負かされた事に屈辱を覚えたのか、ポロリと漏れ出てしまった本音を恥じ入ったのか。もれなく俺にダメージしかないあたり、流石の雪ノ下クオリティである。

 こうしてお互い残り二枚。ここまで一つのジャッジもなく、順調に進んでいるが、雪ノ下は案外余裕そうだ。

 

「ねぇ、気づいているかしら?」

「ああ、そうだな。このままいけば────」

 

 ──確実に、俺は負けるだろう。

 

 そもそもがこのルール。先攻絶対有利だ。パスがなく、必ず何かしらの手を打たなければならない。そういうルールなので、確実にお互いの手札は、というより非公開情報は一枚ずつ減ってゆく。5-5、4-5、4-4…………まあ、この時点で分かると思うが、何処かで【ジャッジ】を挟まない限り後攻は必ず敗北する。そういうルールになっている。それゆえ、彼女は先攻を取った。卑怯ではない。公正な勝負にするため当然じゃんけんで先攻後攻は決めてある。じゃんけんで勝った彼女が先攻を選ぶのもまた、当然のことである。

 

「そう、ならそのまま貴方は敗北するでしょう」

 

 そうして置かれた札に書かれているのは《優勝者》。これもまた、何の優勝者でもない。おそらく《全ての優勝者》なのだろう。絶対に一位に輝く。そういう決まりだ、優勝者というものはそう出来ている。そう生まれたのだ。

 そして俺は確信する。彼女が勝負を決めに来たことを。

 これを返してしまえばもう彼女に打つ手がない事を。

 

 

 

「さあ、返してごらんなさい。頂点の、更に上があるなら、ね?」

 

 なるほど、上手い。頂点という言葉を使い、更に俺の選択肢を減らす腹積もりだろう。頂点とは先端。つまり、その先には何もない。その上にも何もない。だが────

 

 

 

 

「────無意味だ」

 

 

 

 《雪ノ下陽乃(ゆきのしたはるの)

 

 

 決して、この人には敵わない。

 

「────な」

 

 これはある種の呪縛。対雪ノ下雪乃において最強のカード。俺がジョーカーとして一番最初に考えた必殺の切り札。最後まで書くのは躊躇ったが、こうして形にした事でより一層の強さを感じた。

 雪ノ下雪乃という少女が、常に雪ノ下陽乃の次にいたからこそのこの札。これがもし、由比ヶ浜相手なら、雑にシンゴジラとかで返されるだろう。陽乃さんだって人間である。内閣総辞職ビームを喰らえば、流石に生きてはいられないだろう。

 …………生きてはいられないだろう。

 

 だが、相手が雪ノ下雪乃であれば話は別だ。こいつの根底には“雪ノ下陽乃には敵わない”という前提条件がこびりついてしまっている。無論、それは間違っているとは思わないし、当人の問題であるゆえに手出ししようとは思わない。ただ、利用させてもらうだけだ。

 

「……ジ、【ジャッジ】」

「フ、何を馬鹿な。陽乃さんだぞ?」

「…………っ」

 

 ほら、終わりだ。

 

「お前の手番だ、雪ノ下」

 

 そろり、そろりと弱々しく重ねられたのは《多勢》。いい言葉だ、多勢に無勢。身に染みるね。経験もあるし、俺にはよく効くだろう。だが────

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ──この人には無意味だ。

 

【ジャッジ】だ(通るわけがない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やっぱり、性格が悪いわ。あなた」

「そりゃ、どーも」

 

 陽乃さんの札が流れたことで、俺は残った手札である《比企谷小町》を場に出す。妹は最強。古事記にも源氏物語にもそう書いてある。多分小町なら超高校級のコミュニケーション能力によってシンゴジラくらい飼い慣らしてくれるだろう。

 

「……でも、まあそうね。有意義だったわ」

「熱でもあるのか?」

「失礼ね、私だって楽しいと思う自由くらいあるわ」

 

 そうでしょ? と微笑む雪ノ下。誰だこいつと言い切ってしまっても良かったが、それはなにか違う気がした。

 

 今回はこうして俺の勝ちだったが、それはこの勝負が一対一だったからだ。だから俺は徹底的に雪ノ下に対するメタを張ることが出来たし、彼女の弱点だけを付けた。だが、ここに由比ヶ浜が居れば俺は彼女にも気を遣わないといけないし、順番もまた重要になってくる。誰にでも効くメタなんてものがあればそれはただ汎用性が高いだけだ。攻略法なんて幾らでもある。上からパワーで押し潰すなり、下から搦め手で引っ掛けるなり、な。

 

「ふ、次があれば負けないわ」

「…………ああ、次があれば、な」

 

 時間も時間なので今日のところは帰ろう。窓を閉め、電気を消して教室を退去した。後ろの方から鍵を閉める音が聞こえる。西日が廊下を延々と照らしている。

 

「さようなら」

「おう」

 

 歩き出す方向は、真逆だ。




ゆきのんには陽乃さんでトドメを刺したかった(辞世の句)。

もう一話だけやりたい組み合わせがありますが、連載とするかは未定です。
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