Fate/Everlasting Shine 作:かってぃー
「んん……ああ、もう朝か」
人を強引に叩き起こすアラームの助けを借りることなく、遥が自然に目を覚ます。カルデアにきてからついて癖でほぼ無意識のうちに枕元にあるスイッチを押すと、天井の照明が起動した。
遥にあてがわれたカルデア職員居住区の一室。ひどく無機質な白い壁に覆われたその空間だが、遥はそこを思うままに模様替えしていた。他の部屋にはほとんど家具はないが、遥の部屋は亡きオルガマリーに注文を付けて小さな厨房と天井まで届く本棚を備えていた。
さらに本来は着替えや礼装を仕舞っておくべきクローゼットも無理を通して他の部屋よりも大きくしてもらい、遥はそこに銃器や弾薬の山を収納している。メインで持ち歩いているデザートイーグルやS&WM500以外にも、同じように対神秘・霊体加工を施された狙撃銃や対物ライフルが数挺仕舞ってあった。
時刻は午前5時。世界を回っているうち、遥は目覚ましなしでも決まってこの時間に起きるように身体が覚えてしまっていた。周囲の全てが特異点化せずとも太陽の光など差さないカルデアだが、遥の起床時間はそれに寄らない。体内時計は恐ろしいほど正確に動作していた。
昨日は遥たちが特異点Fから帰還し、所長代理となったロマニによる〝人理守護指定グランド・オーダー〟の発令の後はずっとマスターである立香と遥、さらにデミ・サーヴァント化したマシュのメディカルチェックを行っていた。その所為で睡眠時間が日付を跨ごうとしていたのだが、それ相応の成果はあった。
マシュの身体を通して立香と直接契約をした名も知らぬ英霊だが、どうやら彼が契約を交わしたのは立香だけではないらしかった。マスターとサーヴァントと言うにはあまりにも薄いものであるが、遥もまた霊的な因果線によりマシュと繋がっていた。いざとなれば契約を遥に切り替えることも可能だろう。遥自身がそれを呑めばだが。
「さて、今日の予定は何だっけ……」
ベッドから出て礼装を兼ねた私服へと着替えながら、昨日のうちに決めておいた予定を反芻する。次にレイシフトすべき特異点の座標はまだ特定中だがもうじき特定されるだろう。加えて遥はともかく立香の訓練の時間などもあって、あまり余裕はない。
立香が行うべきは魔術の訓練だけではない。特異点において戦闘に巻き込まれた場合、単身で戦うための戦闘訓練も必要だ。さらに魔術の知識も付ける必要がある。この状況で神秘の秘匿など、言っていられるものではない。必要ともなれば、遥は自らの伝家の秘術も立香に仕込む気でいた。
カルデアスタッフの何人かは本業を魔術師とする人もいるのだろうが、スタッフが20人にも満たないこの状況下で立香に教授するような余裕などあるまい。最近話題のブラック企業も真っ青な労働体制だ。適材適所などという言葉はカルデアの辞書には存在しない。
さらに、今日の昼前には新たなサーヴァントを召喚する予定でいた。冬木の特異点ではふたりのマスターがそれぞれ1騎ずつと現地のサーヴァント1騎の計3騎で攻略できたが、今後の特異点が同じように簡単にいくとは限らない。戦力の増強は最優先事項のひとつだ。
予定を反駁しつつ着替えを済ませる。そうして踵を返した時、遥は不意に眩暈を感じてよろめいた。
「――ッ」
一瞬だけ視界を奪ったのは、まさに灼熱地獄とでも言うべきものだった。大地は罅割れ、その罅からはマグマが漏れ出して無数の流れを造り出している。燃えるものもないのに至るところが燃え続ける様は、生命という概念そのものを拒絶しているようだった。
全ての生命を拒絶し、否定し、それら全てをこの世界の主である遥へと還元する。それが遥の固有結界が持つ特性であった。極めて醜悪な特性だが、遥はこの固有結界が嫌いではなかった。
脳裏に張り付く心象のビジョンを、頭を振って脳の端に追い遣る。今は自分の内側へと潜航する時間ではない。幸いにして、朝食の準備はある程度昨日のうちに済ませてあるため、それまでだけは多少の余裕があった。
レフが犯人だという爆破テロによって、カルデアの残存スタッフは20人を下回ってしまった。死亡したスタッフのうちには食堂管理者なども含まれており非常に不味い状態だったのだが、そこでしばらくのうちは遥が食堂を担当することを申し出たのである。
初めは負担を考慮してマスターである遥に任せることを渋っていたロマニたちだったが、遥にとって料理は楽しみにこそなるが苦痛にはならないと主張すると渋々承諾したのだ。事実遥の料理の腕はかなりのもので、旅の最中に会った世界的に高名なシェフから太鼓判を押されるほどであった。
この暇な時間を如何にして潰そうか、と考えて、遥はすぐに戦闘訓練をすることに決めた。銃器の整備でもいいが、それは十分過ぎるほど行っている。
叢雲を帯刀して自室を出て、足早に無機質な廊下を進む。その先にあるひとつの扉の前で、遥は足を止めた。カルデアが備える最大のシミュレーションルーム〝カルデア・ゲート〟。カルデアが蓄積したデータを元に高い再現度で仮想敵性体との戦闘訓練を行うことができるというものだ。
生憎、まだ特異点のデータは冬木のもののみであるため、現代に存在しない敵性体は骸骨兵やデーモン他数種しかないが、遥のデータなどから仮想悪魔や仮想死徒とも戦闘できるようになっていた。
だが、遥が足を止めたのはその技術力を思って感心したからではない。
「誰か、使ってる……? こんな時間に?」
カルデア・ゲートは戦闘用のシミュレーションルームである。誰かが使っているところに不用心に別な誰かが入ってしまわないよう、その入口近くには使用中は入室時に警戒を促す警告が表示されている。誤って攻撃してはまずいからだ。
しかし今使っている誰かが満足するまで待っている訳にもいかず、遥はカルデア・ゲートに足を踏み入れた。幾層かの分厚い隔壁を抜け、その先に再現されていたのは燃え盛る冬木の街であった。
その炎の海に濡れた仮想の街で無数の敵性体を相手取っているのは誰あろう、遥のサーヴァントである沖田総司であった。沖田の愛刀たる乞食清光の白刃が閃き、迫りくる骸骨兵や竜牙兵、デーモンを屠り続ける。
一体どの程度ここで戦っていたのか。病弱スキルが発動していないところを見ればそれほど長い時間でもないのだろうが、これほど速いペースで敵性体の発生速度を設定していてはもしもの時に対応できまい。
だが今になって介入する訳にもいかない。
沖田が戦っている以上は邪魔できないが、さりとて出ていく訳にもいかない。ひとりでは病弱が発動した時に対応する者がいなくなってしまう。そう遥が決めた時、不意に沖田が振るう刀の切っ先がぶれた。
「――こふっ」
「沖田!? チィッ、言わんこっちゃない!!」
沖田が吐血して崩れるのを見て取った遥は、反射的にホルスターからデザートイーグルを抜いて撃ち放った。ルーンが刻まれた銃弾は寸分違わずに沖田を狙っていた仮想敵性体の霊核へと潜り込み、そこで起動して霊核を焼き切る。
魔術によって反動を極限まで小さくした最強クラスの拳銃を片手で使いながら、空いた左手はまるで別な神経で動いているかのように滑らかに動いていた。コントロールパネルを呼び出し、強制終了を指示する。
終了を命じられたシステムが急停止し、炎の街は一瞬にして消え去って元のただ白いだけの無機質な部屋へと立ち戻った。そこに残されたのは遥と、血を吐いて蹲る沖田。
デザートイーグルに掛けた強化と反動軽減の魔術を解除してホルスターに戻し、遥が沖田に駆け寄った。
「ハルさん……? こんな時間に、どうして……?」
「そりゃこっちの台詞だ! 吐血するまで戦ってるとか、もっと身体のコトを考えろ莫迦!」
憤慨したように沖田に叱責を飛ばしつつ、遥は常備しているハンカチとティッシュで沖田が吐いた血を拭きとった。幸い、いくら群がられていたとはいえ雑魚に遅れを取ることはなかったらしく、沖田自身に傷はない。
聞けば、沖田がカルデア・ゲートで模擬戦を行っていたのは4時30分頃かららしい。現在時刻を考えれば、ざっと45分ほど休憩なしで戦闘を継続していた計算になる。なるほど病弱が発動する訳である。
現状のカルデアに召喚されたサーヴァントは非戦闘時は霊体化しているのではなく、空いた部屋を与えられて生きている人間とそう大差ない生活を送ることができる。特に沖田は活動時間が病弱スキル発動に関わってくるために睡眠の重要度は他の英霊の比ではない。
それは沖田とて自覚しているのだろう。だというのにどうして無理してまで戦闘を行うのか。遥が問うとまだスキルが発動しているのか肩で息をしながら答えた。
「だって……冬木では役に立てませんでしたから。せめて次ではもっと役に立たないと……」
「気にしすぎだ。沖田はお前自身が思ってるほど弱くねぇよ。役にも立ってる。てか、そんなことで俺が見捨てるとでも?」
不機嫌そうな顔で問う遥に沖田は苦笑すると、それは分かってますよ、と言う。
「だから、これは私の我儘です。サーヴァントになった後では成長なんてしないと分かってはいますが……それでも今のままでは嫌なんですよ」
独り言めいた沖田の言葉を聞きながら、遥は不意にこの少女は自分と似ていると思った。沖田に対してもっと自分のことを考えろと言った遥だが、その言葉を言う資格は自分にはないとも自覚していた。
なぜなら、遥もまた自分自身のことを顧みずに戦ってしまうからだ。それはあのバーサーカー戦が証明している。長時間の使用で自我を失ってしまう宝具を限界まで使い続け、反動が大きいからと出し渋っていた宝具もいざとなれば簡単に使ってしまう。
ある意味、遥が沖田を初めに召喚したのは必然と言っても良い。腰に帯びた宝具や遥の血は沖田よりも強力な英霊を呼び寄せる触媒と成り得るだろうが、それよりも先に精神性が似通った英霊が
他にも剣士だとか刀使いだとか、遥と沖田の共通点はあるが、最大のものはそれだ。心のどこかで不思議に思っていた沖田が呼び寄せられた理由がなんとなくだが分かった。
「まだ辛そうだが、自分の部屋まで歩けるか?」
「ええ。支えさえあれば、なんとか……ハルさん。肩、貸して下さいますか?」
「俺としては大丈夫だけど……腕届くか? 身長的に」
遥の身長が182㎝という日本人にしては珍しい身長であるのに対し、沖田の身長は158㎝だ。遥の心持としてはそろそろ慣れてきたため肩を貸すくらいは平気なのだが、物理的に困難だろう。かといって背負ったり横抱きにするのは、遥の精神衛生上よろしくない。
それもそうですね、と苦笑すると、沖田は鞘込めの刀を杖の代わりにして立ち上がった。戦国時代辺りの武士たちにとっては切っ先を地面に付けるなどあり得ないことなのだろうが、沖田にとっては己の剣に誇りはあってもそこまで気にするものでもないらしい。
最初は戦闘訓練をするためにこの部屋を訪れた遥であるが、それは可及的速やかに行うべきものでもない。沖田の部屋まで様子を見ることに決めて、遥は彼女と共にシミュレーションルームを出た。
他愛のない雑談をしながら沖田と歩く。そのうち、不意に沖田が神妙な面持ちになったかと思うとおずおずと遥に問うた。
「ハルさんは……ハルさんは、どうして正体も分からない、勝てるかどうかも分からない敵と戦おうと決めたのですか?」
それは遥を叱責しているのでも、沖田自身が人理焼却の首謀者に怯えているのでもない。不意に湧いて出てきた純粋な疑問であった。しかし何気ない問いであるからこそ、それは遥の動機の核心を問うものであった。
遥はひとつ苦笑を零すと、どこか懐古しているかのような表情を浮かべながらその問いに答える。
「単純だよ。気に入らないからだ」
「気に入らない?」
「これはあくまで俺の仮説でしかないんだが……この事件の首謀者は人類を憎んでない。憎んでいるなら人類史を焼却するなんて回りくどいことしないで聖杯に願えばいいんだ。現生人類全てを呪い殺せってな」
そう。人類を憎んでいるから人類史を否定するならば、現世に現れて皆殺しにしながら言えばいいのだ。『貴様等の歴史に意味などなかった。人類はただ無意味な繁栄を続けてきただけだったのだ』と。
だが、名も知れぬ人理焼却の首謀者はそれをしなかった。特異点を造り出すことができるほどの魔力を備えた聖杯を所有していながら、直接殺すことをせずに人類史を焼却するという回りくどいことこの上ない手段に出たのだ。
故に、遥はこの事件の犯人は人類を憎んでなどいないと判断した。だというのに、人類を歴史ごと抹殺しようとしているのは何故か。さすがにそこまでは想像もできないが、けれど遥は漠然とした仮説があった。
「犯人が何をしようとしてるかは知らねぇよ。けど、ソイツはきっとこう言ってるんだ、『お前たちの歴史には確かに意味があった。なぜならこの私に殺されるのだからな』ってさ。
そんなの許せるかよ。全人類の人生に勝手に意味付けしようなんざ、どんだけ傲慢なんだって話だ。だから殴ってやるのさ。どんだけ弱かろうと、意味がなかろうと、アンタに殺される筋合いなんてねぇって」
独白のような遥の言葉。それを零す遥の脳裏に映るのは、大空洞でレフが哄笑と共に吐き出した言葉だった。貴様等は自らの無意味さ、無能さ故に。我らの王の寵愛を失ったが故にゴミのように死ぬのだと。
その態度に、冗談じゃない、と遥は憤っている。だからこそ、この事件に限界まで抵抗して首謀者の前で言ってやるのだ。「お前の寵愛なんてなくとも人類は生きていける。少なくとも、自分はそうだ」と。
それ以前に、遥は人類史を否定するというやり方が気に入らなかった。人類の歴史とはすなわち、人類が積み上げてきた『死』の積み重ねだ。それを否定するということは、人の『死』を無意味と断じてしまうことに他ならない。
ならば、自分の目の前で死んでいった人たちの思いはどこへ向かえばいいというのか。末期の祈りは、絶望は、決して無駄なものではなかっただろうに。
「気に入らない、ですか……ふふっ、なんだかハルさんらしいです」
そう言って微笑んで、沖田は足を止める。気づけば、もう既にふたりは彼女の部屋の前まで来ていた。もうだいぶ楽になったのか支えなしでも普通に歩けるようになった沖田は、遥を確かな意思の籠った眼で見上げる。
「では、私はその思いが果たされるまで貴方と共に歩むと、改めて私は貴方の剣で居続けると誓いましょう」
「ああ。頼りにしてるよ、沖田」
朝食を済ませてから数時間後、カルデアに残った2人だけのマスターである立香と遥、そして所長代理たるロマニはカルデアのとある一室に集まっていた。その部屋は他の部屋のような白い壁に囲まれている部屋ではなく、電気回路のような文様があったりなど他の部屋と比べるとかなり異質な部屋であった。
中でも異彩を放っているのは、3人の前に設置された巨大な盾。本来はマシュの宝具として運用されるこの盾だが、カルデアの召喚システムはこの盾を基点にして構築されているらしい。特異点で遥は呼符だけを使って沖田を召喚したが、あれは例外的な召喚だった。
この英霊召喚用の部屋に彼らが集っているのは他でもない、新たな戦力となるサーヴァントを召喚するのだ。至って平静な遥とは対照的に、立香は緊張した面持ちだ。これから歴史に名高い英霊を召喚するとあっては、それも仕方あるまい。
そんな立香の肩を、遥はからかうような表情でつつく。
「緊張しすぎだ、立香。そんなんじゃ、召喚された側も遠慮しちまうぞ? もっと気楽にいこうぜ」
「あ、ああ。そうだね」
遥の態度はとてもこれから英霊を召喚するとは思えないほど気楽なものであったが、むしろこれくらいの方がいいのかも知れない、と立香は思った。緊張していたところで、召喚することには変わりはないのだから。
表情を緊張に凝り固まったものから多少柔和なものに変え、立香が盾の前へと歩み出る。カルデアの召喚システムは複数のマスターが利用する関係上、初めに召喚するマスターを決めてから召喚しなければならない。同時に複数人が召喚することはできないのだ。
これからふたりが召喚するサーヴァントはそれぞれ2人ずつ。まずは立香からの召喚だ。立香がロマニに合図を出し、合図を受けたロマニが召喚システムを起動させる。設定された起動式に従って詠唱もなしに魔力が奔り、盾が光を帯びる。
設置した6つの聖晶石が砕けて盾を中心として召喚陣が生まれ、それを覆うようにして3つの円環が発生する。直視できないほどの光が部屋を包み、励起させていない筈の魔術回路が外部の魔力の波動を受けて蠕動する。
そして一際強い光が召喚陣から迸り、それが消えた時、立香の眼前にはふたり分の人影があった。
ひとりは男性。屈強な長身を蒼い戦装束で包み、長い襟足を項の辺りでひとつ結びにしていた。その神性を帯びた紅玉の瞳は隠しきれない獰猛さを放射し、手には膨大な魔力を纏う朱槍を握っている。
もうひとりは女性。身長はほぼ沖田と同じくらいだろうか。全身を覆う漆黒の鎧には所々に血液のように赤黒い文様が奔り、纏う魔力は周囲にいる者全てに無意識のうちに畏怖を抱かせる。黒く堕ちた聖剣は立香にも分かるほどの凄まじい魔力を放射していた。
その
「よう、サーヴァント・ランサー。召喚に応じ参上した。ま、気楽にやろうや、坊主!」
「同じく召喚に応じて参上した。まさか貴様が私を
どちらも面識のある――片方はクラスが違うが――との対面に、立香が顔を綻ばせる。特異点においてアルトリア・オルタは敵として戦ったが、今回は味方として召喚された以上敵対することはあるまい。
マスターとしても、魔術師としても未だに未熟な立香であるが、反転した英霊とも臆することなく会話ができるというのは彼が有する高いマスターとしての才能を示していると言えるだろう。或いは、未熟であるが故に相手を区別することなく接することができるのかも知れない。
加えて、クー・フーリンとアーサー王ともなれば疑うまでもない大英雄だ。その戦闘能力の凄まじさは特異点において間近で体験した立香が最も良く分かっている。聖杯のバックアップを得ている時ほどではないにせよ、その能力は折り紙つきである。
遥が脳内で戦力分析をしていると、オルタの顔が遥の方を向いた。
「む。初めて見る顔だな。貴様、名は何という」
「ん。俺は夜桜遥。立香の……なんだろう。仲間なのは当然だし……」
「何って、友達だろ?」
屈託のない笑顔でそう言われ、遥は一瞬驚愕の表情を見せたがすぐに頬を赤くして顔を背けた。今まで面と向かって誰かから友達を言われたことがないため、なんとなく恥ずかしくなってしまったのである。
反転した英霊とも臆することなくコミュニケーションを取り、遥のような人付き合いが苦手な人間の懐にまで容易に入り込んでいながら、相手に不快感を抱かせない。なんという人たらしの才能であろうか。絶対に遥にはできない芸当であった。
恥ずかしさを隠すように何度か咳払いをして、今度は遥が盾の前に立った。所定の位置に6つの聖晶石を設置してから瞑目し、ため息を吐いて目を見開く。
「準備完了だ、ロマン」
「オーケー。じゃあ動かすよ」
遥の言葉を受けたロマニが召喚システムを再び動作させ、盾が光を放つ。召喚はカルデアのシステム側から魔力が供給されるために遥の魔力消費は皆無だが、それでも魔術回路が疼くのは止められない。
召喚陣から放出される魔力が魔術回路を震わせ、心臓が早鐘を打つ。それの原因は召喚によって放出されるエーテルにだけによるものではない。英霊を召喚するという行為は、魔術師にとってはどれだけ異端の者であろうと心躍るものだ。
或いは一般的な魔術師であればその理由は遥のそれとは違うのかも知れないが、少なくとも遥にとっては大規模な魔術行使によるものだけではない。立香に緊張するなと言っておいて、実のところ最も緊張しているのは遥であった。
召喚した英霊とどう接すればよいのか脳内で思考を巡らせている間にも召喚は進む。立香が召喚した時と同じようにエーテルによって構成された3本の光帯が回転し、それが弾けると同時に光が膨れ上がった。
それが収まった中にいたのは、ふたりのサーヴァント。片方は赤い外套を纏った長身の男。そしてもうひとりは、
先に赤い外套のサーヴァント――〝エミヤ〟が名乗りをあげた。
「サーヴァント・アーチャー。召喚に応え、参上した。……おっと。君かね、今回のマスターは。一度自分を殺した人間がマスターとはまた、奇妙な縁だな」
「よう。よろしく、アーチャー……いや、エミヤ。で、そっちは……」
まさか自らが屠った英霊を召喚するとは思わなかったが、ある意味では霊核を直接貫いたのだ。これ以上ないほど強い縁だろう。その点では同時に召喚されるのはあのバーサーカーなのだろうが、もうひとりはそうではなかった。
桃色の髪をツインテールに纏め、頭からはどういう訳か狐のような耳が生えていた。和服を着てはいるがそれは肩の辺りが大きく開け、それを認識した遥が眼を逸らす。しかし、召喚してすぐに眼を逸らすのも道理に合わないと我慢して真っ向からその英霊を見据えた。
いや、このサーヴァントは本当に〝英霊〟なのだろうか。そのサーヴァントは、邪悪さこそ感じないものの遥がこれまで戦ってきた化生などと似た雰囲気を纏っていた。だが遥が気にしているのはそれだけではない。
遥の血、正確に言えば遥の血に混じった人外の部分が騒いでいる。それは警戒と言うよりもむしろ、畏怖だとか崇拝だとか、そういった類のものだった。何とも言い知れぬ感覚に襲われる遥の前で、そのサーヴァントは明朗快活な声で名乗る。
「
カルデア料理番(初期メンバー)結成の瞬間だった。