Fate/Everlasting Shine 作:かってぃー
レイシフトが完了し、現実に浮上してきた遥の意識が最初に捉えたのは嗅いだ覚えのある匂いだった。風と共に漂ってくるごく薄い匂いは、恐らくは草木の匂いだろう。カルデアにしばらくいた所為か、その匂いですらも懐かしい。
マスターたる遥が特異点へと移動したことで、遥のサーヴァントたちもまた遥の傍らへとレイシフトをする。だが、そこに立香やマシュの姿は無い。どうやらロマニの予想通り、多少狙いの座標からズレてしまったらしい。
しかし、立香たちがいないのならそれを考慮して動くまでのことである。レイシフトによるまるで乗り物酔いとめまいをない交ぜにしたかのような感覚に遥が顔を顰めていると、傍らに立つタマモが口を開いた。
「マスター、あれを」
「ん? ……なんだ、あれ」
驚愕と警戒が籠ったタマモの声。その指し示す方向を見た遥は、その先に在ったものに目を見開いた。エミヤと沖田もまた、何が起きているのか分からずにそれを見上げている。
タマモが指し示すその先に在ったのは、光の輪だった。空に光の輪が浮いているというのも不思議な話だが、問題はそこではない。その円環は空を包み込むように広がっていた。衛星軌道上に展開された魔力の流れか、或いは魔術式か。分かっているのは、それが正規の歴史にはないことだけだ。
これだけ目立つ異様な現象が発生していたのなら、それが記録に残っていない筈はない。それは転じて、あの光の円環が人理焼却、ひいては人理焼却の犯人に関わるものであるということを示している。
改めて自分たちが相対している敵の強大さを認識すると共に、遥は意識を切り替えた。これはこれまで遥が経験してきた戦場のどれよりも過酷なものになることは間違いない。なら、それ相応の覚悟が必要だ。
周囲の様子を確認する。――転移してきたのはフランスの何処かにある道の途中。特にこれといった人影や敵影はなし。空に異様なモノがあることを除けば、至って普通の中世の田舎といった様子だ。
「なんだか拍子抜けだな。転移してすぐ戦闘でも、俺は構わなかったんだけど」
「いったいどんな修羅場を期待していたのかね、君は……」
遥が漏らした呟きに、エミヤが呆れた様子を見せる。だが遥は期待外れとでも言いたげな言葉を漏らしはしたが、その声音はどこか安心を伴ったものであった。
特異点とはすなわち歪んだ歴史である。人理焼却の犯人が聖杯を用いてどのようにしてフランスの歴史を歪ませようとしているのかはまだ全く不明の状態であるが、少なくともすぐに人理が崩壊するというところまでは至っていないらしい。
しかし、だからといって悠長にしていられるものでもない。こうしている間にも、人理の崩壊は刻一刻と迫っているのだ。それに、できるだけこの特異点を早急に排除できた方が後の特異点修正にかけられる時間も増える。
だが、現時点ではこの特異点の状況を何も分かっていない状態だ。ロマニも、立香の方を優先的にサポートするように言ってあるためまだ連絡を入れてこない。合流しようにもできないという現状であった。
「何もせず連絡を待ってるのも暇だ。情報収集でもするか。……近くに街でもないかな?」
「それなら、道なりに進みましょうか。ここが街道ならいずれ街に行きつくでしょうし」
沖田の提案に遥が頷きを返す。誰かアサシンでもいれば自分たちは一時的な拠点を定めつつ、アサシンに情報収集をさせることもできただろうがいない以上は考えても詮無いことだ。
街を目指して街道を歩きながら、遥はカルデアに来る前にフランスを訪れた時のことを思い出す。あまり語学に精通してない遥は非常にスマートフォンの翻訳機能に助けられた覚えがあった。滞在期間終盤は話せるようになっていたが。
魔術師的に言えばフランスは魔術協会の重要施設がある訳ではなく、アトラス院の根拠地がある地でもない至って普通の場所だ。その滞在は、放浪と言うよりも観光といった意味合いが強かった。特にこれといった思い出もない。
そんなことを考えていると、くぅ、と遥の腹の虫が啼いた。遥はそれに忠実に従い、ロングコート裏のポケットからハンバーガーを取り出して咀嚼する。その様子に、タマモが苦言を呈した。
「立ち食いは行儀が悪うございますよ、マスター? というか、なんでそんなもの持ってるんです?」
「いや、おやつにと。……というか、タマモってさ」
そこで言葉を一旦区切り、遥は一個だけカルデアから持ってきたハンバーガーを嚥下する。半ば物理法則を無視しているようにも見えるその超人的な食事速度に、エミヤが眉根を寄せた。
しかし遥はそんなエミヤの様子には気づかず、ここ数日になってようやく直視できるようになったタマモを上から下まで視線を滑らせる。その行為ひとつで、遥の内に奇妙な感覚が生まれた。
それは扇情的な恰好をしているタマモへの劣情などではなく、ましてや男女の情欲でもない。むしろそこから最も遠い箇所に位置する感情だった。タマモを召喚した時と同じ、何とも言いようのない畏怖や畏敬。それが遥の内に発生した感情であった。
理性ではない、もっと深いところから発生しているその感情。恐らくは夜桜に流れる人外の血によるものだろうが、その血のルーツとタマモの間に如何なる関係はない筈なのだ。その感情を飲み下し、遥は純粋に自身の内から生まれた疑問を口にした。
「タマモって『良妻』系『巫女』『狐』とは言うけど……この中じゃ『巫女』度が一番低いよな」
「みこーん!? 何をおっしゃいますか、マスター!? なんだかデジャヴな質問ですけれど……ホラ、私レベルになるとアピールしなくても巫女なワケですし……」
デジャヴということは、本来仕えるべき主――岸波白野という魔術師にも同じ質問されたのだろうか、と遥は考える。さもありなん。本来巫女とは神に仕える者であるが、タマモは神性を持っているためどちらかと言えば仕えられる側というイメージがあった。
タマモは料理が上手く、また気立ても良い。まさに今の日本では絶滅危惧種となっている類の良妻だろう。さらに、狐というのも頭に生えている狐耳と尻から生えている尻尾を見れば一目瞭然だ。
だが、遥はいまいち巫女というところがピンとこなかった。確かにタマモの攻撃方法は身体強化全開の肉弾戦と呪符と呪術による物理現象の誘発と無理を言えば巫女とも言えなくもない。
自分自身でもあまり巫女らしくないという自覚があるのか、タマモは何も言わない。しかし何か思いついたようで、笑顔で遥に言う。
「あ、カルデアに戻ったらおみくじ引きます? 一回300円で」
「祭日に動員されるバイトかっ! てか、地味に高いな……お。街、いや、村か。見えてきたな」
ただの魔術師である遥に見えているのだからサーヴァントたちには既に見えていたのだろうが、言わなかったのはさして気にすることでもないからか。沖田の言った通り、街道の途中にある村であった。
しかし、遥の予想が正しければ今は厳戒態勢が敷かれている筈だ。この特異点のフランスに何が起きているのかは未だ把握してないが、ひとつの時代を破壊するような事態が起きているというのに呑気に来るもの拒まずなど言っていられるとは思えない。
深呼吸をひとつ零し、
そうして村に踏み入ろうとした時、案の上村の入口に立っていた衛兵に阻まれた。
「待て。貴様ら、何者だ?」
そう遥たちに問う声には最大級の警戒と、僅かな恐怖が混じっていた。遥は衛兵のその様子に何か不穏なものを感じたが、その疑念を笑顔の仮面の下に隠した。
「俺たちは旅の者です。歩いている間に村を見付けたので立ち寄ったのですが……」
「旅の者? こんな辺境の村にか?」
遥の答えに違和感を覚えたようで、衛兵が首を傾げた。その様子に、やはり無理があったかと遥が内心歯噛みする。この時代、旅をするような酔狂はそうおるまい。いたとしても外国から来た商人だろうか。どちらにせよ、こんな辺境まで来るような人間は皆無に等しい。
不味い、と感じた遥はすぐに暗示の魔術を行使し、衛兵に暗示の魔術をかけた。いくら現代よりも神秘が濃いこの時代の人間といえど、魔術師や英雄ではない人間の対魔力などたかが知れている。衛兵は容易に暗示に掛かり、遥たちを彼の言葉通りの存在だと受け入れた。
何の罪も義務もない人間を利用するのは罪悪感があるが、この際なりふり構っていられない。弾避けにするよりはマシだと自分を納得させ、遥はこの衛兵から今のフランスについての情報を引き出すことにした。
「随分警戒してるようですけど、何があったんです?」
「なんだ、アンタら、知らないのか? オルレアンの乙女……ジャンヌ・ダルクが蘇ったんだよ。数多の竜を従える竜の魔女としてな」
忌々しい、とでも言いたげな衛兵の言葉。そこに、遥は聞き捨てならないものを感じ、一瞬だけ素の表情を見せた。
ジャンヌ・ダルクが蘇った――死者の完全な蘇生などは万能の杯を以てしても絶対に不可能な事項だが、復活だけを意味するなら可能な術を知っている。遥自身、それを従えているのだから。
成し遂げた功績と知名度、さらに時代を考えればジャンヌ・ダルクが『座』に登録されていることは疑いようもない。サーヴァントとして召喚するのは可能な筈だ。知名度によるステータス補正を得るというサーヴァントの特性上、間違いなく強力な英霊として顕現していることだろう。
だが、竜の魔女とは。英雄が英霊として座に登録されて生前のそれから変質する場合もない訳ではないが、それも人々が抱いているイメージや逸話を拡大解釈したものに留まる。ジャンヌ・ダルクと竜には何の関係もない故に、本来ならそんな特性は付加されない筈だ。
「幸い、この村はまだ襲撃を受けていないが……いつ襲われるかも分からない。これならまだイングランドの奴等の方がマシだってモンだ。まぁ、王が殺されては対応の仕様もないがな……」
「王……シャルル7世は死んだんですか?」
「そうだ。魔女の炎に焼かれて亡くなられた。王だけじゃない。司教までも魔女の手に掛かってしまった……」
司教、というとピエール・コーション司教だろうか。ブルゴーニュ派かつ親イングランド派の司教で、ジャンヌ・ダルクの異端審問では裁判長を務めた人物だ。成程火刑への復讐としては最優先の殺害対象であろう。
自分が忌々しいと思っていた相手をまんまと陥れたと思えば復活した当人に殺されるなど滑稽すぎて同情の念も湧かないが、遥はそれを全く表情には出さなかった。円滑な対人関係を築くには表情には出さない方が良いこともある。遥の本心としてはその理屈は嫌いで仕方ないが、貫かなければならない時もある。
自分を異端と断じた司教を殺害し、さらに王も殺してからフランス全土を蹂躙する。――まるで自らが行った救済を全て無に帰しているようだ、と遥は思った。だが、それも仕方あるまい。自らの行いが異端であるなら、その救済を受けた人々を殺してしまえと思うのはある種自然な思考だ。
だが、理解はできても納得はいかない。自分の復讐に全人類を巻き込むな、と激憤するが遥はそれを呑み込んで心の奥底に沈めた。
「旅をしているというならせいぜい気を付けることだな。襲われればただでは済まないぞ?」
「ハハハ。忠告感謝しますよ。では、俺たちはここで」
そう言って会釈をすると、遥はサーヴァントたちを連れて村へと入って行った。衛兵の注意が届かない辺りにまで来て、もう一度ため息を漏らして演じていた
人々が行き交う道の端で、円になるようにして向かい合う。ロングコートの男がひとり、和服の少女がふたり、何とも言いようのない赤い外套の男がひとりという集団はこの時代のフランスにあって相当に目立ったが、話しかけてくる者はいない。
周囲から若干の奇異の視線に晒される中、会話の口火を切ったのは沖田であった。
「……ハルさんの予想通り、敵の首魁はジャンヌ・ダルクのようですが、しかし……」
「何か妙なのも事実だな。ジャンヌが竜を従えてるなんて逸話、聞いたことないぞ」
あの衛兵に嘘を言っている様子はなかった。例え彼が生前のジャンヌ・ダルクを見たことはないのだとしても、あれだけの警戒態勢を敷いているのだから彼に伝わったその話そのものが嘘だということもあるまい。
しかし、それではサーヴァントの原則に合わない。サーヴァントはあくまでも英霊の再現であり、生前の事項や逸話から逸脱することはない。ある筈のない逸話を付加されたサーヴァントというのも何らかの方法を使えば可能なのかも知れないが、遥たちがその方法を知らない以上は考えても仕方のないことだ。
サーヴァントとして人理焼却を計画した者たちに召喚されたジャンヌ・ダルクが復讐のために与えられた聖杯で竜種を召喚している、というのもない話ではないのではないか、と遥が考えた時、それに先回りするようにしてタマモが首を傾げた。
「私、とある聖杯戦争でジャンヌさんを見かけたことがあるのですが……私には、とても復讐を望んでいるようには見えませんでしたけどねぇ」
「そうなのか? だとすると余計に分からないな……」
仮にジャンヌ・ダルクの
反転についてよく分かっている訳ではないが、アルトリア・オルタを見ている限り内包する別な側面の発露であると遥は考えている。本来のアルトリアがどのような性格であるかは全く知らないが、正反対の性格でも根っこの部分は変わっていないのだろう。
根っこから変わってしまうのなら、それは反転ではなく別人の創造だ。このフランスに現れたジャンヌを見ていないため何を考えても妄想に過ぎないが、何かおかしいことは明白であった。
ここに留まっていても仕方がない。早い所立香と合流しよう、と遥が言おうとした時、小さい電子音が遥たちの耳朶を打った。遥が装着している通信装置の着信音であった。
「なんだよ、ロマン。ようやく――」
『今すぐその村から離れるんだ、遥君ッ!!! サーヴァントの反応が数騎、そっちに向かっている!!!』
前口上すらもないほど焦った様子のロマニの警告に、一同が身をこわばらせた。噂をすればなんとやら、とはよく言ったものである。この状況で襲撃を仕掛けてくるサーヴァントなど、件の魔女以外には考えられない。
カルデアで観測するとほぼ同時に沖田たちもサーヴァントの存在を感知したようで、警戒心と闘争心を総身から迸らせる。だが、彼らにようやく感知できたというのに魔女はどうしてそれよりも離れた位置から察知できたのだろうか。
いや、或いは魔女が襲撃しようとした街に偶然遥たちが居合わせただけなのだろうか。どちらにせよ、敵が迫っていることは事実であった。
「そうか。まさかこれほど早くに出会えるとはな。乙女座の俺には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
『何を言ってるんだ、君は!! ああっ、無数の魔力反応がその村に入ってきた!!!』
「丁度いいだろ。どうせいつか戦うことになるんだ。……すまない、ちょっと付き合ってくれるか?」
そう言って遥は沖田たちに少々申し訳なさそうな表情を向けた。それを見て、サーヴァント3人が呆れたため息を漏らした。それは敵が迫っている状況で逃げようとしないマスターに呆れているのではない。こうなっては梃子でも動かない強情さに呆れているのだ。
魔女がこの村に近づいているということは、遥たちが逃げてしまえばこの村から魔女と戦えるだけの戦力が無くなってしまうということを意味する。そうなってしまえば、村人たちはひとり残らず蹂躙され、殺戮に遭ってしまうだろう。
そんな中、遥たちだけが村の人々を見捨てて逃げる訳にはいかない。ロマニたちは特異点で失われた命は特異点が消滅すれば戻ると言うが、
相手が戦士であれば遥も目の前で死んでいくことを許容しよう。敵対すれば殺すこともあるだろう。彼らは戦士であるが故に、死ぬ覚悟を決めているからだ。だが無辜の民は違う。この時代は
「仕方あるまい、他でもないマスターの頼みだ。……それに、虐殺を見過ごすほど落ちぶれてはいないつもりなのでね」
「私は別にアレですけど、マスターがそうおっしゃるのなら」
「ええ。ハルさんが斬れと言うなら、私はそれに従うだけです」
皆どこか消極的な言葉を口にしてはいるが、彼らが遥の言葉だから戦おうとしているのではないことは表情を見れば明らかであった。彼らは皆、自らの意思でこの村に訪れようとしている災厄と戦おうとしている。
ああもうっ、分かったよ! とロマニが諦めたように吐き捨てた。だがその声音は遥を見捨てたものではなく、どこか納得しているようでもあった。ロマニ自身、遥の性格からして素直に逃げないことは初めから分かっていたのだ。
遥が逃げないと言うのなら、ロマニはそれをサポートするだけである。ロマニは索敵に集中することにして、村のどちら側から魔力反応、つまりは竜種たちが入ってきている方角を伝える。それを聞いた遥たちは、ロマニの次の言葉を待つこともなくその方角へと飛び出していった。
限界まで身体に身体強化を掛け、さらに固有時制御によって体内時間を倍化させて走る。その途中、遥たちの視線の先で爆発が起こり黒煙が立ち昇った。次いで聞こえてきたのは、村人たちの悲鳴と小型の竜種――ワイバーンの咆哮。間もなくして、その姿までもはっきりと見えるようになった。
エミヤが黒弓を投影し、家屋の屋根に昇って狙撃を開始する。対して遥と沖田、タマモは逃げ惑う人々を飛び越えて空中に躍り出る。
人の海を越えて彼らの視界に入ったのは、何処かからか湧き出てくるワイバーンたちが村を蹂躙する光景。もっとも身近な形での死の具現であった。
「氷天よ、砕け!!」
呪相・氷天。逃げる人々を追うワイバーンの足元へと投げた呪符を起点に一瞬にして発生した氷塊が、数匹のワイバーンを一息に貫いた。氷の棘に貫かれた竜たちは死を認識する暇すらもなく、絶命せしめられる。
遥と沖田はワイバーンを貫いて地上に咲いた氷を足場に飛び上がり、氷の壁を越えてなおも人々を襲わんとしていたワイバーンへと踊りかかった。宝刀の切っ先はワイバーンの鱗の鎧を容易く貫き、眉間へと刃を突き立てられた竜が息絶える。
遥と沖田が付近で暴れるワイバーンを屠り、エミヤとタマモがふたりが殺し損ねた個体やふたりがいる方向ではない所から迫ってくるワイバーンを処理する。
竜種は幻想種としては頂点に位置する存在であるが、内包する神秘は神造兵器に敵うものではない。叢雲の刃に食らいつかれた竜たちは抵抗することすらも許されずにその命を霧散させていく。
しばらくしてようやくワイバーンたちは標的を村そのものから遥たちへと変える。数匹のワイバーンが遥を取り囲み、ほぼ同一のタイミングで真空波めいた風の刃を放った。しかし。
「遅い」
短くそう言い放ち、遥が左手を地面に突く。同時に全身に刻まれた魔術刻印に魔力を通し、そこに記録された魔術を起動させた。左手を基点にして封印の魔法陣が展開した。いかな幻想種の攻撃とはいえ、たかが空気の刃が神代の魔術を貫くはずもなく、刃は防壁に阻まれて霧散する。
次いで遥に肉薄し、その鋭い爪で引き裂かんとする竜たち。だが固有時制御で行動を加速している遥の動きはその竜たちの攻撃すらも見切り、迫ってきた爪を脚ごと切り裂く。鮮血が飛び散り、ワイバーンが怒りの咆哮をあげた。しかし、それもすぐに途絶える。
間髪入れずに叢雲の返す刃でワイバーンの首を根本から断ち切り、竜たちの首が宙を舞った。英霊でもない人間が幻想種を相手にして遅れを取るどころか手玉に取っている。まさに鬼神の如き活躍であった。
村に湧いたワイバーンたちを順調に駆逐していく遥たち。だが、遥たちがワイバーンを駆逐するよりも早く、その声は頭上から降ってきた。
「あら。随分と邪魔してくれたものね、忌々しい」
唐突に耳朶を打った耳慣れない声に、遥が天を仰いだ。その視線の先にいたのは数匹の黒いワイバーンと、その背に乗った法外な魔力を放射する超常の存在――サーヴァント。
およそ5騎ほどいるサーヴァントたちであるが、中でも遥の目を惹いたのは、最も大きい体躯を誇る個体に乗った少女であった。病的なまでに白い肌と、空恐ろしいまでの憎悪を孕んだ黄金の瞳。身に纏う漆黒の鎧はまるでその憎悪を編み上げたかのようでもあった。
初めて見る相手であった。だが――その場にいる誰もが、一目でたちどころにその
「ああ、ようやく出てきやがったか。なぁ? ――ジャンヌ・ダルク」
漆黒の視線と黄金の視線が、交錯した。
遥の誕生日は9月1日です。つまり乙女座。