Fate/Everlasting Shine 作:かってぃー
「……ちょっと待て。ロマン、聞き間違えちまったみたいだ。もう一度言ってもらえるか?」
ここはカルデアの管制室。生き残った全てのスタッフが集結し、今や人類史を守る最前線と言っても過言ではない場所。そこに『人類最後のマスターたち』である遥と立香はいた。マシュを初めとする彼らのサーヴァントも集結している。
余談だが。スタッフたちがふたりに付けた『人類最後のマスターたち』という称号は些か矛盾しているように思われるが、それは彼らが
そのマスターたちが管制室に呼ばれたのは他でもない。新たな特異点が発見されたからだ。だがロマニの口から聞かされた内容に遥は頭痛まで感じて頭を掻く。立香もそれには同意なのか、苦笑して遥の困惑に同調する。
だがロマニ自身、その観測結果は頭を悩ませるものであった。故に遥の困惑は手に取るように分かる。だがここでロマニまでその困惑に同調していたのでは話が進まない。ロマニは乾いた笑みを漏らし、話を続けた。
「だから、新しく特異点が発見されたんだよ、
「聞き間違えじゃなかった……世界の悪意が見えるようだぜ……」
そう言葉を漏らして遥は頭を抱える。些か過剰すぎる
それが意味するところはつまり、特異点は際限なく増え続ける可能性があるということだ。それが黒幕が用意したものであるかは不明だが、聖杯という存在が人類史に存在する限り特異点は発生する。
そもそも遥とて、人理修復に伴う微小特異点の発生を覚悟していなかった訳ではない。歪んだ歴史が元に戻るというのは言葉にすれば非常に簡単だが、実際起きているのは非常に大規模な事象の改変に等しい。何か齟齬が発生し、小さな特異点になるのはよく考えずとも分かる話だ。
だがサーヴァント全員まで呼びつけての報告ともなれば、微小特異点の修復要請ではないのは明らかだ。人類史の歪みの程は知らないが、少なくとも〝邪竜百年戦争オルレアン〟と名付けられた特異点に比する規模の特異点が発生しているということなのだろう。
折角第一特異点を修復したというのに立て続けに特異点が発見され、それも現時点では人理修復には関係がないという。だが特異点である以上、悪化すれば人理焼却に関係するものになるに違いない。なんて世知辛い世の中だ、と遥が嘆く。
頭を抱えたまま呻く遥を放っておいて、立香がロマニに問う。
「それで、ロマン? 発見された特異点の詳細は?」
「冷静だね、立香君……まあいいや。冷静なのは良いことだ、うん。
今回特定された特異点はさっきも言った通りふたつ。どちらも日本……それに、片方は場所だけなら冬木と同じ座標だ」
また冬木か、と復活した遥が呟く。冬木市出身の身としては、自分の生まれ故郷でこれだけ異変が起きるというのは複雑な気分であった。聖杯が存在するという特異点化の条件を冬木市は満たしてしまっているのだから余計始末が悪い。
だが完全に特異点Fの時と同じという訳ではなく、今回の座標はその10年前、すなわち1994年の冬木だ。つまり現在から22年前の冬木であり遥が生まれるよりも前だが、その時間軸で人類史に影響するような事件が起きたと聞いた覚えはない。――エミヤが眉根を曲げたことには誰も気づく者はいなかった。
そしてもう一方は冬木市にほど近い都市だ。無論、こちらも人類史に影響を及ぼすような事件は確認されていない。その時間軸、そしてその座標で起きたらしい事件はあるにはあるが、それも人理が崩壊するようなものではない。
年代と場所でおおよその概要が把握できたオルレアンとは異なり、場所と時間軸では全く概要が分からない。だが特異点であるなら、カルデアは修復しなければならない。
「ボクたちはこれらを〝変異特異点α〟、そして〝変異特異点β〟と呼称。君たちマスターの派遣を決定した。……こんなトコだね、今回の報告は」
「事前情報が少なすぎるな。フランスの時はすぐに百年戦争絡みだと分かったけど……」
悩ましげに立香が言う。同じことを考えていた遥は無言で頷き、立香の言葉に同意を示した。事前情報から脅威度を把握しておかなければ作戦の立案はおろか、警戒しておくべきかすらも分からない。
冬木なら特異点Fでのことがあるためある程度は何が起きても驚かないが、もう一方はそうではない。分かっている情報は場所と時間だけ。それでは何も分かっていないのと同じだ。
第一特異点以上に何もかもが不明な状況に、3人が頭を悩ませる。だがその時、不意に発言を求めて手を挙げた者がいた。エミヤだ。エミヤはロマニに発言を求められると、カルデアスを見つめたまま口を開く。
「全てとはいかないが……冬木の方であれば多少は情報提供できるかも知れない」
「本当かい!?」
「ああ、本当だとも。これはあくまで私見だが……この特異点は私が生きていた世界に近いことが起きているのかも知れない」
どういうことだ? と言う遥の問いに対し、エミヤはしばし黙考すると自分が覚えている限りのことを話し始めた。
エミヤとて、全てを覚えている訳ではない。万全に機能を果たす召喚システムでのであればエミヤは長い年月で摩耗し、過去のことをほぼ全て忘れた状況で召喚されていただろう。だがカルデアの召喚システムの不完全性故か或いはアラヤの策略か、ここでの召喚に限りエミヤは他何人かの『エミヤ』の記録を持った状態で召喚されていた。
そのため今のエミヤは自分が生きていた世界での第五次聖杯戦争のことは完全に記憶しているし、その後のことの若干ではあるが記憶していた。だがそんな状態でも、エミヤに分かることは限られていた。
こちらの世界では2004年に初めて行われた聖杯戦争が、彼の生きていた世界線では5回行われている。1994年の冬木市は丁度、その4回目が行われた年代と合致していた。とはいえエミヤに分かることなどその年代と、それに付随するごく僅かな情報だけだが。
しかし、こと今この状況においてはエミヤが持っている情報はこれ以上ないほどに有用な情報であった。なにせ彼がいなければ遥たちはその年代に別世界では聖杯戦争が起きていたことなど知り様もなかったのだから。
エミヤの話を立香と遥はかなり冷静に聞いていたが、それとは対照的にロマニは先程の遥のような過剰極まるリアクションをする。
「待ってくれ、あんな大規模な魔術儀式を5回も行ってたってのかい!? それも同じ場所で!?」
「魔術協会と聖堂教会が協力して隠蔽工作を行っていたからな。少なくとも私が参加した第五次聖杯戦争では一般市民が巻き込まれることはあっても、情報が漏れることはなかった」
「成程。参加者の言葉なら納得だ」
そもそも表面上は不干渉であっても水面下では常に殺し合いを続けているような二大組織が手を取りあって隠蔽をするということ自体が半ばあり得ないことではあるのだが、そんな衝撃は聖杯戦争という超弩級の衝撃の前では霞んでしまう。
だが、聖杯と銘打たれたものであるのに聖堂教会が表立って動かないのが遥にとっては違和感だった。遥は旅をしていた時に何度か聖堂教会と魔術協会の抗争を目撃したが、後者はともかく前者は神秘の回収のためには街ひとつ滅ぼしてでも回収しようとする連中である。
そんな彼らが動かないということは、その聖杯は『聖杯』と名付けられただけの願望器なのだろう。そもそも聖堂教会にとって真なる聖杯とはただひとつ。聖者の血を受けた杯だけである。これはそうではないということだ。
「じゃあその聖杯の回収がマスターの任務になる……ということかな?」
「いや、アレは回収できない。そもそも完成させることも御法度だ。何故ならアレは聖杯という名でありながら、その実態は大量殺戮装置……全人類を呪い殺す人類史上最悪の兵器なのだからな」
「――ッ!?」
神妙な面持ちのエミヤが放った一言。それによってロマニたちはこの特異点の脅威度合いを引き上げた。仮にこの時代が特異点として完成してしまえば、間違いなく全人類が滅ぶ。事の重大さで言えば第一特異点の比ではなかろう。
人類70億人の悉くを呪い殺すだけの呪詛の塊。遥たちはまだエミヤがその原因を伝えていないために原因を知り得ないが、結果は分かる。それが齎すものは間違いなく人類史の終焉。不用意に完成させ、這い出たものを止められなければカルデアが人類史を終わらせた大罪人になってしまう。
クー・フーリンも第五次聖杯戦争には参加していたが、彼はそもそも起動した聖杯を見たことが無いためにそのことを知り得なかったようで、苦虫を嚙み潰したような表情をして「言峰の野郎……」と呟いていた。それをちらりと一瞥し、エミヤは話を続ける。
完成すれば詰む。だがレイシフトしてすぐに吹き飛ばせば良いかというと、それは否だ。下手に吹き飛ばせば『中身』が溢れて全人類とはいかなくとも冬木くらいは滅びてもおかしくない。聖杯戦争直後ならともかく、聖杯戦争中はそれを維持していられるだけの魔力が満ちているのだから。
最も確実かつ迅速に終わらせる方法は大聖杯を解体するか、あえて起動させて
「どちらの方法を取るにせよ、聖杯戦争に参加する他ないってコトか、エミヤ?」
「その通りだ。正式な参加者としてか、協力者としてかは問わんがね。そして解決方法だが……危険ではあるが、私は後者をお勧めする。前者を執ろうとすると厄介な蟲が邪魔をしてくるだろうからな」
「蟲? なんじゃそりゃ」
そう遥が素っ頓狂な声で問いを投げるも、エミヤは言葉を濁し、それに答えることはしなかった。多くの世界での『エミヤ』の集合体である彼にとって、間桐の怪翁〝
しかし後者はあくまでどさくさに紛れて臓硯が関わってくるより早くに大聖杯を吹き飛ばせる確率が高いというだけであって、臓硯が絶対に介入してこないという訳ではない。あの魔術師は個人ではさしたる脅威でもないが、彼が執る手段は悪辣極まりない。遭遇は避けるのが賢明だ。
そこまで説明して、エミヤは話を終えた。この場で伝えるべきことは全て伝えた。彼は第四次聖杯戦争に参加している英霊を2騎ほど知っているが、特異点でも同じとは限らない。変に情報を吹き込んで戸惑わせるのは下策だった。
発言を終えたエミヤが一歩下がり、それをロマニが引き継いだ。
「さて、今回発見されたふたつの特異点だけど……ボクはこれらを同時に攻略したいと考えている。どちらかに集中させている間に片方が取り返しのつかないことになっていてはマズいからね」
「それには賛成だが、振り分けはどうするんだ?」
「うん。それについてだけど、冬木の方は土地勘のある遥君に任せたい。そうなると必然的に変異特異点βは立香君ということになる。レイシフト予定はメディカルチェックとか色々考慮して4日後。……受けてもらえるかい?」
ロマニの言葉にふたりのマスターは異論を差し挟むことなく、無言で頷きを返した。遥としては何も分かっていない変異特異点βに魔術師としては未熟な立香を送り込むのは気が進まなかったがサーヴァントを統べるマスターとしての力量は立香が上なのは明白。ならば安心だろう。
レイシフト先とその日取りが決まった。ならば後はそれまでにするべきことを済ませるだけである。やるべきこと、とは言ってもフランスにレイシフトする前にしていたこととそう変わりはない。
休息を取って身体と精神を休めるのは勿論のこと、新たなサーヴァントの召喚と立香の戦闘・魔術訓練。後は定例会議などか。ブリーフィングを終え、脳内で予定を反芻する。それに集中していたためか、遥は管制室の扉が開いたことに気付かなかった。
そこから入ってきた人物とぶつかりそうになり、危ういところで遥はその存在に気付いて足を止めた。
「レオナルド、どうしてここに?」
「む。なんだい、私が来ちゃいけないかな? 一応私、スタッフのひとりなんだけど。
……とまあ、それは置いておくとして。頼まれていたものが完成したから届けにきたのさ。ホラ、これ」
そう言ってレオナルドが遥に見せびらかすようにして掲げたのは横幅15㎝ほどの鼠色の細長いケースであった。それが何を意味するか気付いた遥は一言礼を言ってからそれを受け取り、そのまま立香に歩み寄る。
不思議そうな表情の立香の前で遥はケースを開いてそこに入っていたものを取り出し、立香の顔の方に持っていく。直後、立香の視界が僅かに変わり、同時に小さな重みを感じた。
無意識のうちにそれに手を遣り、立香はそれを確認する。眼の辺りに取り付けられたレンズと、金属のフレーム。間違いなく眼鏡だった。
「おお、結構似合ってんじゃねぇか。なぁ、マシュ?」
「はい。ハルさんの言う通りです。とってもお似合いですよ、先輩」
「あ、ありがとう。……でも、なんで眼鏡? オレ、眼はいい方なんだけど……」
立香の視力は両目共にA。それはカルデアで起こなわれたメディカルチェックの結果でも証明されている。ならば何故遥は自分用の眼鏡をダヴィンチに作らせたのか。そう問おうとした立香はしかし、いつもと何かが違うことに気付いて口を噤んだ。
すこし考えて、気付く。いつもより脳が認識する情報量が少ない。とはいえそれは何か感覚が欠損した訳ではなく、むしろ正常に戻ったといったところか。つまりは『魔眼』からの情報がなくなっているのだ。
立香の魔眼はかなり強力なもので、抑えていても多少は機能してしまうものであった。だがその機能が完璧に抑えられている。困惑する立香に、胸を張ってレオナルドが解説を始めた。
「それはこの私特製の〝魔眼殺し〟の眼鏡さ! 君が熟練した魔術師か、それをよく使ってれば完全に抑制することもできるんだろうけど、そうではないからね。でもそれがあれば安心だ。効果は保証するよ。なんたって、この万能の天才の作品だからね!」
正式な魔術師ではない立香にはそれがどの程度のことかは分からないが、しかし物心ついてからこれまで立香の悩みの種にもなっていたそれを抑制できるのは彼自身、嬉しいことであった。
一度魔眼殺しの眼鏡を外し、よく見分する。フレームの色は黒。デザインはマシュのものと似ているが、彼女のそれとは違いフレームはレンズの上側にしか付いていない。加えてできる限り軽く作られており、動きを阻害しないようになっていた。
不意に「マシュと同じかぁ」と内心で言葉を漏らし、気付いてから慌ててその思いを打ち消す。マシュと同じく眼鏡を掛けることになったからなんだというのか。そもそも用途が視力補正と魔眼抑制では大きく異なるし、デザインも違っている。同じと言うには遠い。
そうやって慌てた自分を落ち着けている立香を見て、遥が揶揄うような笑みを浮かべた。だが遥は何も言わず、一度遥の肩を叩いてから手を打ち合わせる。
「じゃあ一端ブリーフィングは終わり。解散しようか」
遥の言葉に異を唱える者はなく、今回のブリーフィングは終わった。
午前中に行われたブリーフィングから数時間。マスターたちはカルデアの中でも際立って特殊な部屋、カルデアの生命線と言っても過言ではない英霊召喚システムが備えられた部屋にいた。
彼らがその部屋にいるのは勿論、新しくサーヴァントを召喚するためである。既に部屋の中央にはマシュの盾が設置され、起動したシステムに応えて壁に奔った回路が光を放っていた。
今回の特異点攻略で回収できた聖晶石の数は6つ。立香たちが持っていたものも含めれば聖晶石は合計9つで、サーヴァントを3騎召喚するには十分な数が揃っていた。だが今回の召喚でそれらを使いきってしまうようなことはせず、彼らは1騎ずつ召喚するつもりでいた。
特異点のサーヴァントたちから稀に回収できるとはいえ、聖晶石は補給も容易でない貴重な物資だ。それにいくつかを残しておけば緊急時での対応策が増えるということもあって、遥たちは1騎分の聖晶石を残しておくことにしたのだ。
前回の英霊召喚では緊張していた立香も一度経験して慣れたのか、今回は平気そうにしている。それを安心した面持ちで見て、遥は口を開いた。
「どうする、立香? 先に召喚するか?」
「うん。じゃあ、そうしようかな。……ところでドクターは?」
「仕事から手が離せないんだとよ」
前回の召喚ではシステムを動かす役目を担っていたロマニだが、今回は特異点修復に伴う諸々の仕事から手が離せずにこの場には来ていなかった。とはいえ、ロマニがいなければシステムが動かない訳ではない。
深呼吸をして、マシュの盾の前に立つ。マスター敵性を持つ魔術師を認識したシステムが術式に魔力を通し、マシュの盾から魔法陣が浮かび上がった。消去の中に退去の陣を描き、その陣を4つ刻んで召喚の陣で囲む。英霊召喚のための魔法陣だ。
術式起動の式句は既に頭に叩き込んできた。一度感じて慣れたと思っていたが、やはり英霊を召喚するというのは気軽にできるものではない。なにせ歴史に名を刻んだ英雄を呼び出すのである。それを軽い気持ちで行えるとしたら、それは相当に色々と割り切った魔術師か少々感性のズレた人間であろう。
紅い色の文様、膨大な魔力の結晶体であり、マスターの証でもある令呪が浮かんだ右手を掲げる。数瞬の後、立香は詠唱を始めた。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。ただ満たされる時を破却する」
魔術師としては未熟もいい所の立香にはその詠唱が意味するところは分からない。恐らく真にこの詠唱の意味が分かるのは英霊召喚の術式を考案した者のみであろう。
だが、自分がこれから何度か繰り返して行うであろうこの儀式が魔術世界においても滅多に行われない大規模なものであることは感覚で理解できた。召喚システムと接続された立香の魔術回路は限界に近い速度で駆動し、全身を魔力が巡る異物感が立香を苛む。
立香は魔術師の家系の生まれではないどころか、つい数日前に魔術の存在を知った程度の素人だ。故に魔術刻印を持ち合わせず、魔術回路が限界を越えて動くこともない。だが、これまでの人生で味わったことのない類の痛みは耐え難く、立香が顔を顰めた。
彼のそんな様子を知ってか知らずか、英霊召喚術式は滞りなく進み、容赦なく立香から魔力を吸い上げる。知らず、詠唱に力が籠る。
「――告げる!
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者!
汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!!!」
詠唱が終わり、召喚陣から噴き出す魔力が一際強さを増した。溢れる魔力とエーテルの突風は部屋の中を蹂躙し、魔力が吸い上げられる感覚が途切れたことで立香がよろめく。しかし、膝は突かなかった。
この場は戦場ではないとはいえ、自分を呼び出した
詠唱終了と同時に膨れ上がった光が弱まり、ようやくその内側見えるようになった時、そこにいた人影を見た立香が息を呑んだ。そこにいたのは長い金髪を三つ編みにし、鎧を着込み、旗を携えた女性。穢れのないその蒼い瞳は慈愛と勇気を湛え、纏う雰囲気だけで周囲にいる者を奮い立たせる。
覚えのあるその姿に驚愕の表情を浮かべた立香であったが、すぐにその表情は複雑な感情が現れたものへと変わった。対するサーヴァントは様子を変えず、笑みを浮かべたままマスターたる立香を見つめていた。
「サーヴァント・ジャンヌ・ダルク。ルーラーの名に懸け、我が旗を貴方に預けましょう。
――――また会えましたね、立香、遥」
「ああ……そうだね、ジャンヌ」
立香の召喚に応え、限界したサーヴァント、ジャンヌ・ダルク。その姿を見咎めた瞬間、遥は口の端に笑みを覗かせた。
特異点で別れた際にジャンヌは「また会えます」と言ったが、まさかこれほど早くに再会できるとは思っていなかった。立香と関わり、縁を結んだサーヴァントはジャンヌだけではないのだから。
或いはそれは立香と共に戦いたいという思いが最も強かったからかも知れない。遥と行動している時以外でのジャンヌのことを遥は知らないが、遥がいない間にふたりは相当に強固な信頼を築いたようだった。
再会を喜ぶ立香とジャンヌを横目に、遥もまた召喚を開始するためにマシュの盾の目の前に立った。システムがクールタイムを終え、遥を認識したことで待機状態へと移行する。そして盾に聖晶石を置くと、遥もまた詠唱を始めた。
立香が唱えたものと同じ、英霊召喚の術式。しかし遥はその一節目に別な術式を差し込んだ。唱えたところで特に意味はないが、遥にとっては大きな意味を持つ詠唱だ。しかし召喚に伴う魔力の高まりで発生した音に邪魔され、立香は「祖には我が先祖――」以降を聞き取ることができなかった。
全身の魔術刻印が魔術回路を後押しし、遥をして御しきれない魔力が彼の身体から溢れる。盾の輪郭をなぞるように回転する光帯からは金色に輝く膨大なエーテルが漏れ出ていた。そして魔力が最大限に高まった瞬間に光帯が弾け、遥たちの視界を一瞬奪う。
そうして光が収まり、現れたサーヴァントの姿を認めた立香とジャンヌが共に驚愕に息を呑む。だが遥はそれとは対照的に可笑しさが抑えきれないといった様子で邪悪さすらも感じさせる笑声を漏らした。
その身体から放たれる魔力はジャンヌとは真逆。周囲にいる者たちへ暴力的なまでの威圧感を植え付けるに十分な密度の魔力であった。血の気が感じられない白磁のような肌に、漆黒の鎧が映える。手に執る旗は邪竜の紋章が描かれている。
そして、召喚されたサーヴァントは拳を遥へと付きつけた。――丁度、遥に貫かれたのと同じその場所を。
「サーヴァント・
――さぁ、我が同士よ。クソッタレな
今後この小説では特に断りのない限り、
アルトリア・オルタ→アルトリア
ジャンヌ・ダルク→ジャンヌ
ジャンヌ・オルタ→オルタ
と表記させていただきます。
遥の召喚に応じたのはオルタ。遥のサーヴァント金枠しかいないじゃんとかは言わないで。
因みに、他にはジークフリートやデオン、サンソン、アタランテ、清姫、ゲオル先生あたりが応じようとしたっぽい。オルタはそれを押しのけて出てきた。霊核を貫かれたからね、仕方ないね。
次章
遥側
変異特異点『第四次異聞録 冬木』改め
変異特異点α『聖杯夢想都市 冬木』
エルメロイⅡ世は勿論おらず、ほぼ事前情報なしの第四次聖杯戦争。
立香側
変異特異点『克螺旋境界式 オガワハイム』改め
変異特異点β『太極具現死界 ゲヘナ』
難易度的にはオルレアンとそう変わらず、しかし屋上階だけが異常難易度。原作とは状況が違うので結構な仕様変更。
同時進行なので立香側はあまり書かれませんが、半オリ鯖化したサーヴァントが登場予定。最終決戦はちゃんと書きます。