Fate/Everlasting Shine 作:かってぃー
アサシンによって報告されたシャドウ・サーヴァントの発生。報告を受けた時こそそれに面食らった遥ではあったが、冷静さを取り戻すまでにそう時間は掛からなかった。予想外の事態には普通驚くものだが、驚いたところで何が解決する訳ではない。重要であるのは事態の分析と対応だ。
恐らくシャドウ・サーヴァントが発生し始めたのは大聖杯――というよりも『
だが
現在、聖杯戦争を最も有利に進めているのは遥たちアヴェンジャー陣営とアイリたちセイバー陣営の連合陣営であることは間違いない。脱落したサーヴァントは全て遥たちが打倒したサーヴァントたちだ。だが遥たちが勝ち抜くということはつまり大聖杯の完全破壊が現実のものになるということを意味する。この世に生まれ出でることが目的のこの世全ての悪にとって、それはこの上ない不都合であろう。
そこでこの世全ての悪は既に脱落し、アイリの内に貯蔵されたサーヴァントの魂を無数に劣化複製したうえでそれらに肉体を与えることで防衛のための戦力としたのだ。そして、仮に本当にこの原理でシャドウ・サーヴァントが現界しているのなら実質的な敵戦力は無限大ということになる。どれだけシャドウ・サーヴァントを斃そうともその魔力は大聖杯に回収され、新たなシャドウ・サーヴァントの原料となるだけである。
事態はそれだけでは片付けることはできない。現状シャドウ・サーヴァントとして現界できるサーヴァントは皆、
その点で考えれば敵のシャドウ・サーヴァントたちはかなりの脅威だ。魔力を断つ槍と不治の槍を持つランサー、個にして群、群であり個のアサシン、そして異世界より無数に海魔を招来するキャスター。どれも数が増えればそれだけ脅威となる類の英霊だ。無策で突っ込んでいったところで数の利を利用されて集団戦法で押し潰されるのは目に見えている。
遥が従えているサーヴァントたちは皆一騎当千を可能にするだけの力を持つ者たちだが、それでも無策は死を齎す。どうすべきか遥が考えていると、再び脳内でアサシンの声が響いた。
『指示を、マスター。まだ君の任務が失敗すると決まった訳じゃない。なら、まだ僕は君のサーヴァントだ』
『分かってるよ、アサシン。それは心配してねぇ。俺たちもすぐに行く。それまでは……できる限り数を減らしてくれ』
『了解』
それだけ言葉を返すと、アサシンは遥との念話を切った。それとほぼ同時にアサシンに向けて流れていく魔力が倍増する。恐らく宝具〝
体内を固有結界化することで時間を加速し、自らの行動を加速する固有時制御が宝具となったアサシンの宝具であるが、それを以てしても長時間の間シャドウ・サーヴァントの増殖を食い止めることは不可能だ。増殖の速度の問題ではなく1体のシャドウ・サーヴァントを斃すまでにかかる時間の問題である。
それでも遥が増殖するシャドウ・サーヴァントの掃討をアサシンに命じたのは、ひとえに市民にまで聖杯戦争の被害を及ぼさないようにするためである。シャドウ・サーヴァントが市街地に侵入して市民の眼に触れれば死人が出る可能性もある。神秘の露呈は二の次だ。
現在、遥がすべきことは王たちの問答に茶々を入れることではない。一刻も早く大聖杯、及びこの世全ての悪を破壊することだ。そう決定して踵を返した時、背後からアーチャーの声が飛ぶ。
「待て。我の前から去ることを誰が許可した、夜桜」
まるで遥を玩弄するかのような声音でそう言うアーチャー。その声音で遥は確信した。如何なる理由かは分からないが、アーチャーは今の状態に気付いていながら遥をこの場に留めようとしている。肩越しに遥がアーチャーを睨み付ける。
まず間違いなくアーチャーは遥を他の有象無象とは同列には見ていない。それは遥を『雑種』ではなく『夜桜』と呼んだことからも明らかだ。だがだからといって気に入られているのかと問われれば、それは否。決して否である。
むしろアーチャーは遥の正体と内心に気付いたからこそ遥を玩弄しようとしているのだろう。少なくとも不老不死を求める旅に出る以前、暴君であった時代のアーチャーはそういう存在なのだと既に遥は悟り、受容していた。
現状を認識していながら動こうとしないアーチャーに対し、遥が殺意さえ籠った視線を投げる。ただならぬその様子から何かを察したようで、セイバーが遥に問うた。
「何かあったのですか、ハルカ」
「シャドウ・サーヴァント……つっても分からないか。簡単に言えば脱落したサーヴァントたちの劣化コピーみてぇなヤツがわんさか湧いて出て来やがった。恐らく
「!? それは……」
遥の言葉を聞いたセイバーとアイリが顔を強張らせる。同盟相手ということで遥から大聖杯の異常について聞かされていたふたりはその現象が何を意味しているかを悟ったのだろう。
対してライダーとウェイバーは互いに顔を見合わせて首を傾げている。遥たちという情報源があるセイバー陣営や千里眼によって未来を見通すことができるアーチャーとは異なり、ライダー陣営だけは全く情報源となるものがないのだから当然だ。
半ばこの状況の中で置き去りにされていることが我慢ならなかったのか、杯に残った黄金の酒を一口で胃の中に流し込んでからライダーが遥に向けて問いを放つ。
「おう、貴様ら、余を差し置いて何を話しておる。何かただならぬ様子ではないか。申してみよ」
「……分かった。その前に断っておくと、これから話すことはすぐには信じられないと思う。与太話だとも思うだろう。だが俺は決して嘘を吐いていないとだけ言っておく」
遥の声音から彼が嘘を言おうとしているのではないと悟ったのか、いつになく真面目な面持ちでライダーが頷く。その後ろでは遥の纏う張り詰めた雰囲気に当てられたのか若干強張った表情をウェイバーが浮かべていた。そのふたりを前に遥はセイバーたちにも語ったことを語り始める。
この時点になって遥がライダーたちにも大聖杯の異常について伝えることにしたのは、それを避け得ない状況になったからでもあるが、何よりそうすることでライダーたちを味方にできるのではないかと思ったからだった。よしんば味方せずとも、ライダーとて世界が滅ぶような事態は避けたいだろう。
遥の話をライダーはそれまでの豪放さが鳴りを潜めた真面目な面持ちで、対照的にウェイバーは表情を頻繁に変えながら聞いている。それでも遥の言葉を一蹴しないのは、先の言葉もあるが遥の声音が嘘を吐いている者のそれではないことが分かったからだろう。
遥が最後まで話し終えると、ライダーは大きな溜息を吐いて頭を掻いた。その傍らでは少々動揺しつつも何事か考えている。
「つまり……貴様の話を信じるなら、聖杯を獲得したとしても余は受肉できんということか?」
「残念ながら。受肉したとしても、その頃には既にアンタの身体はアンタのモンじゃなくなってる」
遥の推測が正しければ、この世全ての悪に犯された聖杯を用いても受肉自体は可能だ。どれだけ汚染されていたとしても大聖杯が願望器であることに変わりはない。だがこの世に生まれ出たいという願いを持つこの世全ての悪に受肉を願うというのは自ら肉体を捧げているに等しい。
恐らく汚染された大聖杯を使って受肉した時点でその身体と魂はこの世全ての悪の影響を受けて決定的な変質を来たすだろう。よしんば自我を保つことができたとしても、少なからず影響は受ける筈だ。この世全ての悪とはそういう類の呪いである。
受肉だけではなくどんな願望でも人間を殺すという過程を経ることでしか叶えられない歪んだ願望器。それがこの聖杯戦争における大聖杯の正体だ。流石のライダーもそれには呆れかえったようで、明らかな落胆を滲ませた溜息を吐いた。しかし次にひとりで頷いた時にはその落胆は消え、代わりに王としての表情を覗かせた。そうして再び口を開く。
「最後に訊くが……そんな危なっかしいものを、貴様はどうするつもりだ?」
「言うまでもねぇ。斃すさ。斃して、大聖杯ごとぶっ壊す」
ライダーの問いに毅然とした態度で遥がそう言い放つ。一切の迷いがないその答えに感心したかのように、蓄えた顎鬚を撫で摩りながらライダーがほう、と言葉を漏らした。
この世全ての悪を打倒するという遥の答えは一見すると何でもないことのようにも思えるが、実際はそうではない。この世全ての悪とはすなわち名前の通りにこの世に存在する悪意の総体。それに打ち勝つということはこの世の悪意の総体を打倒するということに他ならない。
大元のこの世全ての悪を斃すだけならば簡単だ。この世全ての悪の正体は魔術の存在すら知らず、ただ人間の悪意を押し付けられる人身御供にされただけの青年なのだから。だが大聖杯に巣食い神霊規模にまで膨れ上がったそれを打ち破るのは生半可なことではない。
遥はそれら全てを弁えたうえでそう言っているのだ。大聖杯によって神霊と同等に膨れ上がった存在でも打倒してみせる、と。
遥がライダーを見上げ、頭上から落ちてくる視線を真っ向から見返す。しばらくの間無言でそうした後、ライダーが唸った。
「何だかんだと言うが、結局は貴様……余たちに協力しろ、と。そういうコトであろう? ――あいわかった。この征服王、しばらくは貴様の計略に乗ってやろうではないか。貴様もそれで良いな、坊主?」
「ボクは異論ない。でも、オマエは本当にいいのかよ。大聖杯を壊したら、受肉する手段もなくなるんだぞ? それどころか現界を維持するのだって……」
「無理であろうな。この剣士紛いの魔術師ならともかく、坊主の魔力では大聖杯なしで余を満足に現界させるのは難しい。
だがなぁ、余は征服王である故。征服する相手がいなくなっては困るのでな」
道理だ、と遥は納得した。征服とは自らが進出した土地を支配するだけではなく、その土地に住む人々を含めて全てを支配する行為だ。土地だけを支配するならそれは開拓と変わらない。
つまるところライダーが遥たちに協力するのはこの世界や人々を守るためではなく、自らが征服するものを守るためだ。それだけを聞くとまるでライダーが人でなしか何かのようだが、そうではない。言い方は違えど結局は人々を守ることに変わりはないのだから。
そういう点で言えば、真に人でなしであるのは遥だ。遥が人々を守ろうとするのはカルデアの任務ということもあるが、第一に来る理由が人々のためではなく自分のためのものだ。遥はただ自分のエゴのために人類を救おうとしている。
降って湧いたその思いを無理矢理意識の淵の押し遣る。それは今考えるべきことではない。遥が今考えるべきはこの事態に如何にして対処すべきかだ。遥がそうしていると、ライダーがアーチャーを見遣った。
「……で。貴様は協力せんのか、アーチャー」
「我に凡百の雑種共を救え、と? ハッ。笑わせるな、征服王。我の民なら救ってやるのも吝かではないが、そうでない者どもを我が救う理由などなかろう。それにだ。人間が自らの悪性に押し潰されて死滅するならば、それもまた道理よ。自業自得というヤツだ。
我が裁定する価値のない雑種に興味はない。興味があるとすれば、そうさな――」
不自然にアーチャーがそこで言葉を区切る。そうして流し目でその場にいる者たちを見回すと、その視線を遥に当てたところで一瞬だけその赤い双眸が陰惨に輝いた。不味い、と遥が気付いた時には時すでに遅し。一条の銀閃が虚空を薙ぐ。
アーチャーが宝物庫から放った宝具は遥に命中こそしなかったものの、頬を掠めて後方へと抜けていった。宝具によって穿たれた城の壁が轟音をあげて崩れ去り、切り裂かれた頬から血が滴る。混血である遥だからこそその程度で済んだが、尋常な人間が同じ立場であれば今頃は首から上が弾け飛んでいたであろう。
遥を見つめるアーチャーの眼。そこに含まれている感情は先程までと同じ興味だけではなかった。有り体に言えばそれは殺意だろうか。或いはそれすらもアーチャーにとっては興味と同義であるのかも知れないが、どちらにせよその一撃は遥にとっては宣戦布告にすら等しいものであった。
基本的に万人を自らよりも格下と見なすアーチャーが自ら宣戦布告をするなど、彼をよく知る者が知れば驚愕に値する出来事であろう。だがそれは遥のことを知らないからだ。遥にとってその宣戦布告は意外であるどころか、完全に予想の範疇であった。
アーチャーの一撃によって場の雰囲気が酒宴のそれから戦場に漂う緊張感のあるそれへと変化する。だがそれすらも何でもないことであるかのようにアーチャーの表情は変わらなかった。
「――
それだけ言うとアーチャーは黄金の酒が残る瓶を宝物庫に戻し、霊体化した。黄金に輝く魔力の残滓が虚空に溶け、しばらくしてからその場からアーチャーの気配が消える。そうして緊張が解け、遥が大きく溜息を吐いた。
今まで平静を保っていたように見えた遥であるが、しかし流石の遥とてアーチャーから向けられる殺意は耐え難いものがあった。上手く隠してはいるが、冷や汗も流れている。それだけアーチャーの殺意は強いものであったのだ。
思えば遥は憎悪や敵意から来る殺意には慣れているが、それらに由来しない殺意に晒されたことはなかった。そもそも遥を含めても殺意とは普通前者のような負の感情に由来して発生するものだ。有象無象よりは見所があるから自分が殺してやる、などと言い出すのはギルガメッシュくらいのものだろう。
何であれ、これでアーチャーとの戦闘は避け得ないものとなった。元より覚悟していたことではあったが、しかし実際にその現実を目の当たりにすると不安が拭いきれないのが本心だ。果たしてあれだけの力を持つ英霊に自分たちが束になったところで勝つことができるのか、という。
自分の力やサーヴァントたちを信頼していない訳ではない。だがその信頼を飛び越えてくるだけの威圧感とそれに見合うだけの能力を備えているのがギルガメッシュという英霊であった。回収されてしまったため分からないが、先程無造作に投擲された宝具も紛れもなく一級品であったのだろう。
場合によっては未だ遥が隠している秘策、いわば虎の子をいくつも解放しなくてはならなくなるかも知れない。遥が思案していると、ライダーに声を掛けられた。
「えらく目を付けられたモンだなぁ、オイ。何か彼奴の勘に障るようなコトでもしたか?」
「……したっていうか、俺の存在自体がアーチャーの地雷を踏んでるんだろうな……」
ひどく遠い目をしながら遥がそう呟く。遥は何も言わないが、明後日の方向を向いている遥の眼には確実に何かが映っているのだろう。だが遥のことをよく知らないライダーにはそれが分からず、首を捻るだけだ。
実際、ギルガメッシュの伝承を鑑みれば遥のような存在は彼にとって目障りな存在でしかない。或いは同質の存在としてある程度は友好的に接してくる可能性も無きにしも非ずであったが、どちらにしても殺意を向けられていたことは変わりないであろう。
ある種、エミヤが召喚に応じてくれていたことが最大の幸運であるようにも思う。仮にエミヤに代わりに何か強力な英霊がいたとしてもアーチャーの宝具の前では無力に等しい。あれだけの宝具掃射を真正面から掻い潜れる英霊自体がそもそも少ないうえ、よしんば可能であったとしても防ぐことができるのは当人に対してだけの攻撃であってその間に遥たちは蜂の巣だ。
遥が瞑目しながら脳内で戦闘シミュレーションをしていると、何やら慌ただしい足音が聞こえてきた。それらは瞬く間に遥に近づいてくると、その腕を掴んで慌てた様子で捲し立てる。
「遥さん!? 何やら物凄い音がしましたが、大丈夫ですか!? お怪我は!?」
「大丈夫だよ、慌てすぎだって。
ひどく狼狽した様子で遥の許へ駆け寄ってきたタマモの姿は先程までの一般人めいたそれではなく、大きく肩や胸辺りを露出した和装であった。呪術で隠していた耳と尻尾も隠すのを忘れている。一目でサーヴァントであると分かるその姿に、事情を知らないウェイバーとライダーが驚愕の表情を見せた。或いはそこには宝具によって付けられた遥の頬の傷が一瞬にして治癒したことに対するものも含まれているのかも知れない。
さもありなん。カルデア式の召喚システムで英霊を召喚・使役している遥は時折忘れそうになってしまうが、尋常な聖杯戦争においてマスターとサーヴァントは2人1組である。それが分かっているからこそ今まで協力者であるアイリとセイバー以外には遥が複数騎の英霊と契約していることを隠していたのだ。
だが、考えてみれば最早ライダー陣営もまた協力者であるのだから遥たちの秘密を伝えたところで何の不都合もないのである。半ば弁明めいた調子にはなってしまうが、協力者として最低限の義務は果たすべく隠していた事柄を語りだす遥。その横では遥から姉さんと呼ばれたことで歓喜の笑みを浮かべているタマモを後から続いてきた桜やエミヤら4人がそれぞれ違った感情の籠った眼で見ていた。
「うーん。やっぱりいいですねぇ、『姉さん』って響き。タマモ、今なら何でもできちゃいそうな気がします」
ひどく嬉しそうなタマモの様子を苦笑いして見ながらも、エミヤは頭の片端に引っかかった僅かな疑問について思考を巡らせていた。即ち、何故遥はタマモだけに『家族の情』めいたものを感じているのか、という。
以前、エミヤは遥から少しだけ彼の家族について聞いたことがあった。何が原因かまでは語ることはなかったが、遥の両親は遥が幼い頃に他界しているという。一般家庭ならその時点で祖父母や親戚の家に引き取られているのだろうが、遥の場合はそれが無かった。魔術師だからとかそういうことではなく、そもそも血縁がいないのだろう。
幼い頃に両親が他界しているというのはエミヤとも通じるところがあるが、問題はそこではない。エミヤにも姉と呼んでいる人はいたが、それはそれだけの時間を積み上げたからこその呼び方である。対して遥とタマモは出会ってから精々1週間ほどしか経っていないのだ。それなのに遥は何の過不足も疑問もなくタマモを姉として受け入れている。
エミヤも遥とタマモの間に何らかの関係性があることには気づいていたが、原因はそこにあるのではないか。だとすれば遥に混じる人外の血というのは――と半ば正解にエミヤが至りかけた瞬間、その場にいる全員の魔術回路を異様な魔力の昂りが叩いた。
魔力の波導の規模からして儀式級の術式が動いていると見ていいだろう。それもひとりで行うのではなく、本来ならば数十人規模で行うだけの魔力量である。それが唐突に現れるというのは明らかな異常事態であった。
「何だ、今の―――未遠川の方からか?」
そう言いながら、遥が冬木市の中心の方を見遣る。鬱蒼とした森に囲まれたアインツベルン城からは正確なところを見て取ることはできないが、しかし未遠川にて何かが起きているのは確かであった。
しくじった。固有時制御の宝具を行使しつつ敵を切り倒しながら内心でそう呟くアサシンの顔は、まるで最大級の苦虫を噛み潰したようであった。
シャドウ・サーヴァントが市街地に溢れるのは防いでくれ、という遥の指示通りにアサシンが動き始めてから既に数十分の時間が経過していた。その間休まずに宝具を使い続けていたアサシンであったが、未だ遥の魔力が尽きる気配はない。
宝具さえ使うことができるなら、シャドウ・サーヴァント程度に遅れを取るアサシンではない。元より彼の宝具は近接戦においては最強クラスの宝具である。加えて、サーヴァントの武装となったことで英霊相手にも通用するようになった銃器もある。それだけの条件が揃えばアサシンが負けることはまずない。
戦っているうちに分かったこともある。既に敗退したサーヴァントの霊基を複製し、大聖杯からの魔力供給で現界しているシャドウ・サーヴァントだが、その数には限界があるらしく一定数まで増殖するとそれ以上に増えないのだ。斃したところで一定時間が経つといつの間にか数が戻っていることに変わりはないのだが。
半ば機械的にシャドウ・サーヴァントを斃し続けていたアサシンであったが、そのうちにいつの間にかアサシンの猛攻から逃れたキャスターが1騎だけいたのだ。そのキャスターは未遠川まで辿り着き、宝具である魔導書に記録された異界からの召喚魔術を行使し始めた。
そうして現れたのはまさしく昭和の怪獣映画にでも登場するかのような巨大な異形。形は烏賊や蛸のそれと似ているが、如何せん大きさが違いすぎる。小さく見積もったところで30メートル以上あるだろう。下手をすると50メートルほどある可能性もある。全身に大小さまざまな眼が輝き、粘液の光沢に包まれたその姿は一般人なら見るだけでも発狂してしまいそうだ。
アサシンの見積もりではその超巨大海魔を屠るには全身を一刀の下に消し飛ばすしかないのだが、それには対軍宝具以上、すなわち対城宝具程度の火力が必要になる。或いは現界を維持する要であるシャドウ・キャスターを直接斃せば消滅せしめることも可能だろうが、それはアサシンには難しい。精々弓兵の射の一撃で撃ち抜くのが関の山だ。
続々と現れるシャドウ・サーヴァントを斃しつつも超巨大海魔をどうにか消滅させる方法を考えるアサシン。そうしていると、不意にシャドウ・サーヴァントの呻き声を塗り潰すかのように雷鳴が轟いた。
「あれは……ライダーの
微量ではあるが、アサシンの内に流れ込んでくる魔力が徐々に増えている。それが示すところをアサシンはすぐに理解した。マスターからサーヴァントへの魔力供給は距離が近いほどに効率を増す。つまり遥が近づいてきているのだ。
見れば、異常な速度で国道を動くライトがあった。恐らくは遥が駆るモンスターバイクのライトだろう。遥の仲間内において
アサシンと合流する手筈であったところを連絡もなしで方針を変えたのはひとえに〝アサシンならそうさせる〟という確信が遥の中にあったからで、そしてその確信は正しいものであった。仮に遥がアサシンに念話でも入れていれば海魔の方を叩けと一喝していただろう。
アサシンには海魔を屠ってのけるだけの力や宝具はない。だが遥が所持する神剣やセイバーが携える聖剣ならばそれが可能だ。完全に他人任せにする他ない状況。その中あって、アサシンはほとんど無意識のうちに言葉を吐き出した。
「そっちは任せたぞ、遥……」
次回、VS超巨大海魔。
ちょっとしたアンケートを活動報告に置いておきますので、気が向いたら答えていただけると。