Fate/Everlasting Shine 作:かってぃー
「やあぁぁぁぁっ!!」
カルデアにいくつか備えられた超高性能シミュレーションルームのうちひとつ。今は1世紀頃の古代ローマ様式建築によるものと思しき闘技場に設定されたその部屋に立香の裂帛の気合が轟く。相手への威嚇と言うよりは自らを奮い立たせるためのそれを真正面から受けるのは遥だ。
着用型の礼装であるカルデア戦闘服に記録された強化魔術を自らに付与して駆ける立香が振り上げるのは日本刀。触れれば敵の肉を断ち、死に至らしめる本物の刀である。対して立香と相対する遥は礼装こそいつもと同じだが、得物である叢雲を握っていない。遥の手にあるのは彼の改造によって魔銃と化したハンドガン1挺だけである。
両手で構えた長刀を遥に向けて縦横に振るう立香。その動きは遥のそれに比べれば不格好ではあるものの、素人のそれではない。定まった術理もなく本能のままに振るわれていながら決して惰弱に堕ちないその動きは、半ばスパルタじみた遥の特訓と立香の高い適応力の成果である。だが無論、その剣筋は熟練者のそれではない。剣道の有段者などにはすぐに見切られてしまうだろう。
故にその刃が遥に触れることはない。遥は立香の振るう刀の軌道を完璧に見切り、その全てを避けて見せている。それも強化魔術など全く行使せずに、である。礼装の出力を最大にした立香の超常の剣速を前に、遥は余裕を保ち続けていた。
立香の振るう刀は遥の肉を抉ることはなく、剣先は虚空を滑るばかりだ。元よりそういう確信があって真剣を使っているのだが、こうも回避されてしまえば白熱もする。強化を全開にして地を蹴り、刀を大上段に振り上げる。しかしその直後、立香の視界が反転した。
「えっ――?」
突如として回転する視界。立香がその原因が遥に左腕1本でいなされ、投げ飛ばされたことだと理解したのはその数瞬後のことである。だが背中に奔った痛みに呻く暇すらも立香には与えられず、ハンドガンの照星が立香を捉える。続けて遥は2度ほど発砲するが、しかし立香は視神経まで強化していたことでそれを見切った。
遥は剣士だ。我流ではあるが当然のように剣術を修めているし、剣術の基本は最早本能に等しいほどに身体に染み付いている。だが遥はそれだけではなく、剣を振るうために必要な体術も習得している。故に未だ稚拙の域を脱しない立香の動きを完璧に見切って投げ飛ばすなど、遥にとっては造作もないことである。
遥に背を見せないように後退りしながら立香が立ち上がる。遥にとってはそれも致命的な隙に見えるのだが、あえて攻撃することはしなかった。そもそもその気になれば立香の防御などいつでも崩して気絶させることができるのだが、これは立香の特訓である。遥はできるだけ受けに徹し、それでいながら立香の攻撃を全ていなすつもりでいた。
挑発するように遥は右手の人差し指を動かして立香に向ける。流石にそんな安い挑発に乗るような立香ではないが、だからといって攻め込まない判断は許されない。口の中に溜まった唾液を飲み下し、立香が地を蹴る。刀は左の腰だめに。その時点で立香が逆袈裟に斬りつけるつもりであると悟った遥は、それを魔銃で受け止めた。
この特訓の最大の目的は立香の戦闘能力向上ではなく、サーヴァントが戦闘時にどういった動きをしているのか掴むことにある。だがそれを掴もうにも基本を押さえていないことには叶わないため、遥は立香に基本だけは教えていた。故にここまで立香が見切られる最大の要因は基本を押さえていないことではなく、その剣速にある。いくら強化によって剣速を増そうと、達人を超えて英雄にすら近しい遥には通用しない。
立香が執る刀を涼しい顔で躱し、時に魔銃で受け止める遥。しかし遥は一瞬だけそのパターンを崩し、振り下ろされた立香の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。想定外の行動に立香は対応できず、遥の方に倒れこむ。そうして遥はすぐに身を屈め、立香の胴に
さらに遥は吹き飛ぶ立香の身体をもう一度掴み、背負い投げの容量で立香を地面に叩きつけた。吸い込もうとした空気が再び肺から押し出され、酸素不足に陥った脳が悲鳴をあげる。それでも立香はマウントを取られている状況を打破しようともがくが、遥の腕は全く動かない。当然だ。いくら立香が全力で強化を掛けようと、膂力は遥の方が上なのである。
その状況を覆すべく立香は数瞬のうちに思考を巡らせると、握った刀を逆手に持ち替えて遥の腕に向けて振るった。遥はその立香の行動をある程度予測していたのか、特に慌てることもせずに立香から距離を取った。その気になればただの刀など素手で受け止めることもできるが、それをしてしまえば立香の特訓の意味がなくなってしまう。
遥の拘束を解いた立香はすぐに立ち上がり、魔術回路に流れる魔力を身に纏うカルデア戦闘服へと流した。それによって起動したのは強化とは別に組み込まれた魔術。起動した術式が魔力を呪いに変え、弾丸の如き速度で打ち出された呪いが虚空を薙ぐ。
「これ、ホントにガンドかよ……」
ガンド。元は北欧に伝わる呪いの一種であり、指した対象に対して軽い呪いを掛ける程度の魔術である。本来ならばそれを弾丸のように物理的な干渉力を持つにまで高めることができるのは、一部の力ある魔術師のみなのだ。それをカルデア戦闘服は魔力を流すだけで行使できる。まさしく驚異的と言う外ない性能である。何せどれほどの素人であろうとガンドだけならば実力のある魔術師と同等に行使することができるのだから。
しかし、所詮は扱っているのは素人である。弾速や狙いは熟練者のそれと比べればまだ甘い。遥はハンドガンをホルスターに戻すと、拳に強化を施して煉獄の焔を宿らせて飛来するガンドに叩きつけた。呪いの塊であるガンドは煉獄の焔の前に消滅せしめられ、遥に着弾することはない。
続けて遥は煉獄の焔を掌で収束させ、あえて立香に直撃する軌道で火炎弾を打ち放った。立香はそれに対応するべく渾身の魔力を込めてガンドを打つ。だが煉獄の焔の塊である火炎弾はガンドに滅法強く、ガンドは無慈悲にも霧散してしまう。立香に着弾した火炎弾は内包する膨大な熱量を以てカルデア戦闘服の一部を焼き焦がしてしまう。
レイシフトという、魔術師をある種の極限状況に送り込む技術を持った組織が作った最先端の礼装であるだけあって、カルデア戦闘服の性能は非常に高い。記録された魔術の性能もさることながら、防護服としても機能するのだ。おおよそ人間の身体が耐えられない温度からでも人体を守るというのだから、まさしく現代科学の粋と言って差し支えないであろう。
それを遥の焔は容易く焼き焦がした。それは遥の焔が高温極まるということもあろうが、何よりそういう〝概念〟を持っているからだった。原典における煉獄としての性質も持ち合わせている遥の固有結界は人間の〝業〟を焼却する。故に遥は人が作り出したものに対して若干の特効性能を有するのである。
続けて放たれる遥の火炎弾。先のガンドが通じなかったのを認めた立香はすぐにガンドの術式を停めて代わりに強化を全身に付与し、火炎弾の射線から逃れるべく走り出した。遥は立香のその動きに対応して進路を塞ごうとするも、すぐに考えを改めて立香の背後、彼の後を追うようにして火炎弾を打ち放つ。
降り注ぐ焔の雨を強化された反射で掻い潜り、遥へと肉薄する立香。だが立香が遥を自らの間合いに捉えたことを認識した途端、立香の視界が再び反転した。接近してきた立香を遥が足払いと腕の動きだけでだけで転がしたのである。火炎弾の軌道を変えたのも、立香の動きを誘導するためだ。要は追い込み漁である。
地面に倒された立香はなおも立ち上がって戦おうとするも、遥はそれより早くに立香の喉元に魔銃を突き付けてその動きを封じた。さらに刀を握った右腕を尋常でない握力で締め上げる。遥が立香に勝利するにはそれだけで十分だった。立香がまるで降参でもするかのように刀を手放し、右腕に合わせて左腕を上げる。それに遥が笑みを漏らすと、拘束を解き魔銃を離して立香へ手を差し出した。その手を掴み、立香が立ち上がる。
「やっぱり強いな、遥は」
「そりゃ色んな奴と戦ってきたからな。ここ最近特訓を始めた奴に負ける訳はねぇさ」
一見すると立香を小馬鹿にしているような遥の言葉だが、実際はそうではない。そもそも遥は剣士であり、自分の腕にはそれ相応の自信がある。それなのに変に謙虚になってしまっては、それこそ立香を馬鹿にする言葉となろう。
遥と比べれば立香は弱い。仮に本気で立香が殺しにかかってくることがあろうとも遥は無傷で対応できるだろう。しかし、だからといって立香が弱者である訳ではない。立香の才覚は戦闘方面では凡庸であるものの、その真価は統率者としてのものだ。つまり立香は指揮官タイプの人間なのだが、本人が戦い方を知らないのに適切な指示が出せる筈もない。遥が立香の相手をしているのも、要はそういうことだ。
地面に落ちた刀を拾うや、遥はそれを無理矢理に折った。それだけでエミヤによる投影品である刀は存在を維持できずに魔力の光となって消滅した。
「それで、どうだ? カルデア戦闘服の使い心地は」
「動きやすさは問題ないよ。でもさ……レイシフト先で常にこれ着てる気にはならないよね、正直」
言いにくそうにそう言う立香の言葉に苦笑いをしながら遥が首肯する。ふたりの会話はカルデア戦闘服を開発したカルデアの研究者たちに対しては失礼千万であるが、しかし致し方ないことではあった。
カルデア戦闘服の見た目を一言で言うならば〝全身タイツ〟である。しかし同じような格好のクー・フーリンと比べると様々な機能を積んでいる弊害なのか、聊か野暮ったい印象を受ける。それ以前に市井に入り込むという点においてはカルデア戦闘服にはかなりの不安要素がある。
とはいえ、カルデア戦闘服の性能は折り紙付きだ。搭載されているガンドも対魔力のある相手には通用しないが、一般兵程度なら防具を貫いて絶命させるに余りある威力がある。戦闘力の低い立香にとって、その有用性は非常に高い。
そこまで考えて、遥は失念していた事項を思い出して魔銃を腰のホルスターから外して立香に差し出した。その行動の意図が掴めず、立香が首を傾げる。
「これは?」
「〝FN Five-seveN〟。俺が持ってる銃のひとつを
FN Five-seveNはベルギーにてP90用のサイドアームとして開発された自動拳銃である。使用弾薬は5.7×28mm弾であり、低反動ながら非常に貫通力が高い。日本においては某ライトノベルの主人公の装備であることが知られているくらいでトカレフなどと比べればさして有名でもないが、遥は低反動という点――そして宣伝文句の割に敵を殺しにくいという点でそれを立香の装備に選んだ。
しかし立香はそれをすぐに受け取ろうとはしない。それも当然のことである。元一般人である立香にとって拳銃とはある種〝殺人〟という言葉の具現であり、事実としてそれは間違っていない。拳銃に限らず兵器とはヒトが自分と同じ姿をした二足歩行の獣を殺すために生み出されたものだ。立香が忌避するのも当然のことである。
それを承知のうえで遥は立香にそれを差し出したのだ。立香の性格を把握し、彼の感性を理解し、その信念を知ったうえでも遥は立香にそれを渡すことを良しとした。
何も遥は立香に誰かを殺せと言っているのではない。身を守ってくれるサーヴァントを信用するなと言っているのでもない。要は覚悟の問題である。遥は立香に対し、サーヴァントのマスターとして
その言葉は立香の逃げ道を完全に防いでしまった。それを受け取らないということは即ち、敵を他者に殺めさせておいてその責任も果たさない卑怯者と己を定義することに等しい。半ば強引なやり口に呆れのため息を吐きつつ立香がそれを受け取った。遥の言葉通りにファイブセブンは立香用に調整されているらしく、グリップから伝わる冷感が嫌にはっきりとしている。
その感覚に立香が苦笑いを漏らす。それと同時、シミュレーションルームの扉が開いて外からひとりのサーヴァントが入ってきたレオナルドである。
「やぁ、ふたりとも。お取込み中のところ、失礼するよ」
「ダヴィンチちゃん? どうしたの?」
「ちょっと遥君に用があってね。これを見てもらえるかい、遥君?」
そう言ってレオナルドが差し出したのは何らかのデータが表示されたタブレット端末であった。遥がそれを受け取って立香と共に画面を見てみれば、そこに表示されていたのは遥の愛車である
簡単に言えば、それは装甲騎兵用の追加パーツ案であった。レオナルドによって改造されたバイクである装甲騎兵は多くの状況に対応するため、実際はレオナルドが好き勝手に弄り易くするために比較的容易にオプションパーツを脱着できるようになっている。
一見するとレオナルドが遥に見せたその強化案はただのサイドカーである。特徴的であるのはその大きさくらいのもので、一般的なそれよりも少し大きい。物資の運搬に使える他、エミヤを乗せれば移動砲台としても運用できるだろう。遥がそのデータを見ながらそう考えていると、レオナルドが誇らしげに言う。
「そいつはただのサイドカーじゃないぜ? なんと変形するんだ!」
「変形……?」
何か嫌な予感がして遥は追加パーツ案が表示されている画面を横にスライドした。すると表示が変わり、先程レオナルドが言った〝変形〟した後らしきものが現れた。その瞬間に感じた既視感に、遥が思わず吹き出す。
レオナルドによって〝バトルモード〟と銘打たれたそれは、謂わば装甲騎兵の戦闘形態である。サイドカーは中央辺りでふたつに割れて足になり、本体側に取り付けられたパーツが展開して魔術砲台になるらしい。更に馬力もサーヴァント並みにあるというのだから驚きである。
だが何より驚いたのはその形状であった。呆れて開いた口が塞がらないといった様子の遥であったが、すぐに復帰するとタブレット端末をレオナルドに返しながら苦笑を浮かべる。
「で、コレどうするんだ? 本当に造るのか?」
「え? もう造ったけど」
「まさかの事後承諾!?」
一体レオナルドがいつ造っていたのか訝しむ遥であったが、すぐにそれが自分たちが特異点修復に従事している間だと気づいた。元より装甲騎兵は半ばレオナルドの趣味で改造されたもの。例え現物がその場になかろうとも追加パーツを造ることくらいは造作もないのだろう。
加えて恐らく次の特異点では戦場の只中に飛び込むことになる。そういう点で言えば火力重視の装備は有用と言えるだろう。そもそも装甲騎兵は『
しかしそれ以前にまず次なる特異点で装甲騎兵を使う機会があるのかが問題である。特異点は修復さえすれば大半のことはなかったことになるため歴史への影響はないが、そもそも装甲騎兵は市街での使用を前提に造られたもの。長距離行軍もできなくもないが、大きな駆動音を立てる乗り物を使うのは自ら敵性サーヴァントに居場所を晒しているようなものである。
「とりあえず、装甲騎兵については保留で頼む。現地で必要になったら連絡するから、すぐに送れるようにはしておいてくれ。追加パーツについてはその時に」
「りょーかい」
「それじゃ、俺たちはこれで。レイシフトの時にまた会おう」
それだけ言うと、マスターふたりは元の状態に戻ったシミュレーションルームから出て行った。
遥と立香によるシミュレーションルームでの特訓からおよそ3時間後。カルデア最後のマスターたちとそのサーヴァントたちは生前とコフィンが並ぶ管制室へと集結していた。最近3人目のマスター兼2人目のデミ・サーヴァントとなったアイリはここにはおらず、必要になった時にレイシフトする手筈でいる。
全10騎のサーヴァントは皆それぞれ1回ずつ霊基再臨を済ませたことで霊基強度が上昇し、ステータスが向上している。加えてマスターたちもまたこれまでの特異点攻略で練度をあげている。コンディションは最良と言って良いだろう。
遥の装備もまた以前までのそれではなく、新たな防御術式を付与した愛用のロングコートの他、クローゼットの肥やしと化していた〝無銘正宗〟を叢雲と共に帯刀している。長刀2本での二刀流である。立香も腰のベルトに遥から渡されたファイブセブンを携えていた。
立香は戦士ではないが、銃器の扱いに関しては全く経験がない訳ではない。遥は立香に施していたのは魔術の授業や
あくまでも一般人的気質しか持ち合わせない立香に銃器を所持させることは遥としても心苦しくはある。しかしある意味では立香が護身用の装備を持つことは当然でもあるのだ。立香は元々マスターになる筈ではなかった一般採用枠の人間だが、その役目はれっきとした職員としての職務だ。決して弾除けや肉壁ではない。故に本来ならば身を守る術がなかったはずの立香には銃器が渡されていてもおかしくはないのである。
要は遅いか早いかの問題であって、立香がそれを持つことは規定事項のようなものなのだ。だからこそ、ロマニは気づいていながら何も言わないのである。ロマニは平時のゆるふわ医療部門長としての表情ではなく、所長代理としての真面目な顔で口を開く。
「……さて、これで全員集まったね。それじゃあ今回のミッションのおさらいをしようか」
ロマニがそう言った直後、彼の背後に半透明の地球儀が浮かび上がった。観測された特異点を表す黒点は相も変わらずイタリア半島にある。続けてロマニが告げた情報は前回のブリーフィングでのそれと目立った違いはなかったが、ひとつだけ付け加えられたものがあった。
前回のオルレアンにおける同時レイシフトの際はレイシフト実行時の座標のズレを修正できずに遥と立香は離れた位置に出てしまったが、今回はこれまでのレイシフトで収集されたデータを反映してレイシフト先の空間が余程乱れていない限りは座標が自動修正されるようになっているらしい。
レイシフト予定地は首都ローマ付近。レイシフト完了後は現地勢力に協力するか野良サーヴァントと合流するかのどちらかと目標に行動することになる。無論、遥達だけで解決できるのならそれに越したことはない。尤も、そんな可能性を真っ向から信じるような破滅的な楽天主義者などこの場にはいないのだが。
「事前情報はこんな感じだね。……もうレイシフトの準備はできてる。でもその前に、ボクからこれだけは言っておこう。……死ぬなよ」
「勿論」
「誰に向かって言ってんだよ。たとえ這いつくばってでも生きて帰るさ」
どこか悲壮な響きを伴ったロマニの言葉に立香と遥はそれぞれに言葉を返す。そうしてふたりは軽くロマニの肩を叩くと、慣れた動作でコフィンの中に入っていく。マスターの搭乗を感知したコフィンの扉が閉まり、駆動音が響く。それを外から見遣り、ロマニがため息を吐いた。それは何も疲れからくるものではない。ロマニの中に堆積しているのは彼らに何も報いてやることができない無力感であり――他でもない、遥への罪悪感と自己嫌悪だ。
遥がロマニを信任する言葉を吐く度にロマニの脳裏を過るのは10年前の記憶。ロマニが未だ『ロマニ・アーキマン』ではない何者かだった時の記憶だ。それは謂わばロマニの罪の証。彼が犯した罪を永久に残す罪過の在処。ロマニの首を繋いでいながら、錆びついてしまった断頭台である。
自嘲的な笑みを浮かべたままのロマニの足元でフォウが鳴く。だがフォウはロマニの思いに気づかない。当然のことだ。あくまでもフォウの糧となるのは──フォウとしても不本意なのだが──人間が人間に向ける汚い欲望や劣等感であって、
そんな中でもレイシフトの
――アンサモンプログラム、スタート。
霊子変換を開始します。
レイシフト開始まで、あと3、2、1……
全行程
グランドオーダー、実証を開始します。
コフィンの中にも届くそのアナウンスの直後、遥の身体を異様な浮遊感が襲った。まるで遥の苦手なジェットコースターを最悪な出来にしたかのような不快感である。だがそれも4回目ともなれば最早慣れたもので、酔いから醒めるや否や遥はすぐに周囲の状況の確認を始めた。
彼らが降り立ったのは先程の話の通り広い穹窿地帯の中にある平原であった。欠員はなし。沖田を初めとした遥のサーヴァントは勿論のこと、立香やマシュたちもその場にいる。更に上を見れば、オルレアンでも見えた巨大な光帯があった。立香もそれに気づいたらしく、光帯を見上げたまま呟く。
「またあるのか、アレ」
「実害がないなら放っておいても構わねぇだろ。……それより、気づいたか、立香?」
遥の言葉に立香は首を傾げる。しかしどうやら気づいていないのは立香だけであるらしく、サーヴァント達は皆彼方を見つめていた。アサシンは遥に指示されるまでもなく自らの役目を果たすべく先行していく。
ひとりだけ状況に置いていかれた形になった立香だが、すぐに礼装に記録された強化魔術を自身に付与することでひとりだけ劣る聴力を補った。そうして聞こえてきたのは多人数の雄たけびと金属同士がぶつかり合う音。半ば反射的に立香は走り出し、そうして平原の端、小高い丘になっている場所からその下を見て息を呑んだ。
そこで行われていたのは紛れもない戦争であった。簡素な鎧を纏い、剣や槍を携えた男たちが相手の名も知らぬままに殺しあっている。陣営は
『まさか……この時代に戦争だって!? この時代に目立った戦争なんて……』
「良いじゃねぇか。少なくとも今回の敵は〝一国相手に戦争を仕掛けられる程度〟の規模があるってコトなんだからよ。……で、問題はどれがネロ帝の陣営なのかってコトなんだが……」
「――アレですよ、遥さん」
そう言ってタマモが指した先にいたのは最も小さい陣営の最前線で戦う小柄な少女であった。顔立ちはアルトリアや沖田と似ているが、彼女らに比べると身長が小さい。しかし身長は小さいまでも胸囲だけは沖田と同程度にはあるようだった。身の丈を超えるほどの深紅の長剣を駆って戦場を駆けるその姿はまさしく一輪の薔薇という形容が相応しい。タマモが言うところはつまり、その少女こそが古代ローマ帝国第五代皇帝〝ネロ・クラウディウス〟であるということなのだろう。
現代伝わっている史実では男性とされている人物が実は女性だった。――歴史学者が聞けば目を回した後に発狂して狂い死にしているような事態だが、最早一行に驚愕など全くなかった。むしろ『またか』とでも言いたげな雰囲気である。アーサー王、沖田総司に続きネロ帝までもが女性。ここまで来ると誰が女性でも驚くまい。
どう見ても女性にしか見えない皇帝を男性として伝えた歴史家たちへの呆れを、遥は頭を掻いて払い落とした。代わりに意識を戦闘状態に移行させ、魔術回路が駆動を始めると同時に自己暗示が身体を剣士に最適なそれへと変質させる。
「立香。俺たちはあの蛮族プレイをしてる奴らを潰しに行く。反乱軍っぽい奴はお前に……立香?」
どこか思いつめたかのような表情の立香は虚空の一点を見つめたまま、遥に反応を返さない。だがそれも致し方ない事ではある。立香は今、初めて〝命の取捨選択〟をしなければならない立場に立たされているのだから。
人数だけで言えば明らかにカルデア側の戦力の方が少ない。しかしカルデア側の戦力はひとりひとりが一軍の全てを鏖殺して余りある存在である。〝殺せ〟と一言命じれば、彼らは容赦なく殺していくだろう。
それを考えた時、立香の脳裏を過るのは遥から与えられたファイブセブンだった。誰かを殺めさせることは、誰かを殺めることと同義である――それが理解できるからこそ、立香は指示が出せずにいる。それでもなお立香は指示を出そうとして、無意識にファイブセブンのグリップを握る。その冷たさを心に投影してしまおうか、と立香が弱さを覗かせた時、アルトリアの声が立香の耳朶を打った。
「リツカ。現実から目を逸らすな。心を止めるな。それは司令官が執る策としては下の下だぞ」
「――ッ」
アルトリアに心の内を見透かされ、立香は忘我から無理矢理に現実へと引き戻された。マシュとジャンヌはアルトリアに何かもの言いたげな視線を注いでいるが、しかしアルトリアの言葉がどうしようもなく正しいと理解できるが故に何も言わない。アルとクー・フーリンは既に戦場に意識を向けていて、言いたいことは読み取れない。
現実を直視したまま、感じる心を停めないまま、人が一方的に殺されていく光景を見ている。それは立香の倫理観に照らせば罪でしかない。しかし彼は同時に、それが必要なことであるのも理解している。立香がこれまで享受していた平和は、そういうものの上に成り立っていたのだから。
ファイブセブンのグリップから手を離し、何度も深呼吸をする。そして弱気の虫を一気に圧し潰して決意を固めた時、立香はひとつの真理を得た。即ち〝誰かを救うことは、誰かを救わないことに等しい〟という真理を。
「――解った。蛮族の方は任せたよ、遥」
遥が〝反乱軍〟と仮称したローマ兵の集団。彼らはその正式な名前を〝連合ローマ軍〟という。彼らは確かに遥が言う通りに現皇帝ネロ・クラウディウスの許を離反した不忠者にして逆賊であるが、その事実に反して彼らの意識にそんな事実への罪悪感など欠片もなかった。
何故なら、彼らもまたローマのために戦っているからである。彼らは現皇帝であるネロではなく、突如として出現した歴代ローマ皇帝、そして神祖にこそ大義ありと断じたに過ぎない。
敵味方という差異はあれど、彼らは皆ローマのために戦っている。故に連合ローマ軍の士気はローマ軍に勝るとも劣らない。現皇帝かつ万夫不当の剣士であるネロさえいなければ、ローマ軍など連合ローマにとっては物の数ではない。彼らはそう強く信じていた。――今、この瞬間までは。
「――〝
それはあまりに唐突な死刑宣告。ローマの為に戦っていると嘯きながら、その実人理に仇名す行いをした彼らへの断罪の雨であった。一切の仮借なく真名を解き放たれた魔槍は無数の鏃となって連合ローマ兵たちに降り注ぎ、その一部を絶命せしめた。
伝承に曰く、大英雄クー・フーリンの得物たる魔槍ゲイ・ボルクは投げれば30の鏃となって敵に降り注ぎ、突けば無数の棘なって相手を内側から刺し貫くという。〝蹴り穿つ死翔の槍〟はそのゲイ・ボルクの力を脚撃の加速と共に打ち出すという宝具であり、彼が最も得意とする使用法である。
役目を終えて担い手の手に戻る魔槍。それを手の中で弄び、石突が大地に突き刺さる。そうして神性を帯びた紅玉の瞳で睨まれた瞬間、連合ローマ兵たちは理解した。今、自分たちが見ている騎士こそ遠く海を隔てたアルスターよりこの地までその名声を轟かせた半神半人の大英雄クー・フーリンであると。
「あ? オイオイ、このくらいでビビッてやがんのか? 軟弱者め。……まぁいい。今はそっちの方が好都合なんでな」
半ば呆れの籠った声でそう言うや、クー・フーリンはおもむろに魔槍の穂先を連合ローマ兵に向けた。激烈な殺気に射抜かれた兵たちの中から悲鳴が漏れる。
「オレの主は無益な殺生が嫌いでな。戦意がないヤツはここを去れ。追い縋ってまで殺しはせん。だが己の主のために命を尽くす覚悟があるのなら、オレも最大限の礼を以て応じよう」
連合ローマ軍との交戦にあたり、立香は他のサーヴァントを出さずにクー・フーリンのみを出撃させた。犠牲を厭うたのではない。立香はこの戦闘において、彼と契約したサーヴァントのうちで彼が最も無駄な血を流させず、かつ効率的に事を進められると考えたのである。
立香の判断は正しい。クー・フーリンは対軍戦の
戦意を失った敵を逃がしながら、向かってくる敵だけを始末する。兵法としては下策だが、立香が出したその案に異を唱える者はいなかった。立香の人柄を知っているが故である。
クー・フーリンが放つ殺気を受け、幾人かの兵士が悲鳴をあげながら逃げ出していく。だがその場に残った兵士たちは自らが内に秘めるローマへの忠義で自身を奮い立たせ、大英雄へと武器を向けた。その兵士たちを前に、クー・フーリンが不敵に笑う。
「承知した。……クランの猛犬を相手取ったこと、後悔すんじゃねぇぞ?」
一方、三つ巴の戦闘に参加していた陣営のひとつである蛮族たちへと戦闘を仕掛けた遥たちは彼らに対して一方的な戦闘を展開していながら、しかし攻め切ることができずにいた。
蛮族たちは数こそ多いが、そのひとりひとりはさしたる脅威でもない。遠目から見た際に彼らが感じた通り、蛮族には理性がないのである。だが彼らが脅威であるのは個々の力ではなく、その物量にあるのだ。
遥たちに殺された蛮族は普通の人間のように亡骸となるのではなく、サーヴァントのように魔力の光と化して消滅し、更にその失った分を補充するようにしてどこからか新たな蛮族が湧いて出てくるのである。
とはいえ、遥は既に蛮族の正体に気づいている。つまり蛮族たちは何らかのサーヴァントの宝具なのだ。そのサーヴァントの魔力が続く限り、どれだけ倒そうがこの軍勢が減ることはない。だがそれはそのサーヴァントを撤退させるか倒せばこの軍勢を退けることができるということでもある。――無論、遠方からでも召喚できるのならその限りではないが。
本来は一刀のみを恃みとする剣士とは思えない程洗練された動きで二刀を振るい、遥は蛮族たちを絶命させていく。蛮族たちの武装は粗悪な剣や槍が殆どで、神刀である叢雲と妖刀の領域にある無銘正宗に敵うものではない。
大上段から振り下ろされた曲刀を無銘正宗で受け止め、右手に握った叢雲を蛮族の首に向けて振るう。理性なき蛮族はそれだけの単純な攻撃も受け止めることができずに首を刎ね飛ばされた。更に遥は二刀を自在に振るい、接近してきた全ての蛮族たちを切り殺す。吹き出す血潮は霧となって辺りに広がり、不快な匂いを撒き散らす。
そうして殺した数は100を超えた辺りから数えるのを止めている。恐らくは沖田たちも同じように屠っているのだろうが、蛮族たちはその特性故か一向に減る気配がない。半ば作業のように淡々と敵を斬り殺していくのはひどく虚しく、全く闘争心の刺激されない雑魚にはかける慈悲も見当たらない。そのうちに大きなため息をはいた時、遥は背後に仲間の気配を感じた。遥は一瞥もせずにそれがオルタのものと悟る。
「遥。どうすんのよ、コイツら。全然減らないんだけど?」
「そうだな。多分、指揮官か何かがいるんだろうが……」
そこまで言ってから遥は言葉を区切り、代わりに遠方から狙撃を続けているエミヤに念話を飛ばした。遥の動きから何となく行動を察していたのか、エミヤは念話を受けてすぐに感覚共有の
果たして、蛮族たちの奥に佇んでいたのはひとりの少女剣士であった。白い入れ墨のような文様が浮かぶ褐色の肌を大きく露出させている。服飾を纏っているのは胸周りと股関節辺りだけである。長く伸びた髪のように見えるものの正体は白いヴェールだ。手に執るのは刀身が鞭のようにしなる三原色の剣。
その少女を一目見た遥が感じたのは警戒心ではなく、強烈な既視感であった。
その言い知れぬ思いをパスを通して感じ取ったエミヤはそれを訝しく思いながらも、そのサーヴァントの脅威度を再設定した。理由は解らないが、遥はそのサーヴァントにひどく敵意を向けている。エミヤの眼から見てもそのサーヴァントは脅威であるが、遥のそれはエミヤのそれとは少し違うのだろう。なんにせよ、敵である以上は倒さなければならないのだが。
「
その呪言と同時に起動したのはエミヤが内に宿す剣の丘。守護者として様々な時代で戦ってきた彼が蓄積した無限の剣の中から彼は最強クラスの一振りを取り出し、己の体を通して現実に引き出した。
エミヤから迸る魔力が彼の手の内で像を結ぶ。そうして顕現したのは華美な装飾が施された長剣であった。いかにも儀礼用の剣でありながら、内包する魔力は聖剣にも比肩する。エミヤが記録している中でも最強に近いそれに、エミヤは自壊寸前の魔力を充填する。後でまず間違いなくアルトリアとアルに叱責を受けるだろうが、なりふり構ってはいられない。構うものか、と。
エミヤ愛用の黒弓に番えると同時に矢へと姿を変える選定の剣。どんな獲物であれ射抜く射手の鷹の眼が貫くのは白き少女剣士だ。
「
瞬間、世界が黄金に染め上げられた。真名を解き放たれた王剣は秘めたる神秘の全てを惜しげもなく晒し、一瞬で獲物たる少女剣士に肉薄する。
充填された膨大な魔力のために内側から崩壊しながら極光を放つ王剣。真正面から受ければトップサーヴァントであれ致命に至るその一撃を前に、しかし少女は狼狽しなかった。
超常の魔力を放ち、神の剣が旋転する。少女がそれを一閃するや、極光を纏う王剣が完全に崩壊した。内包された魔力が秩序を失って霧散し、極光は残滓となって消える。
「なっ――!?」
そのエミヤの驚愕は何によるものか。限りなく真に迫った王剣を破壊されたことか、或いは――少女の剣の構造が全く読めなかったことによるものか。恐らくはそのどちらでもあろう。
一度目で見た剣を記録する特性を有する固有結界を持つエミヤは、その副産物として物体の構造を読み取る異能を持つ。だが何事にも例外は存在するものであり、エミヤの場合は神造兵装がそれにあたる。特に乖離剣エアや天叢雲剣などは投影することもできない。少女の剣はそれだ。乖離剣エアや天叢雲剣と同じ高位の神造兵装、一部の例外を除いて神の因子がなければ扱えない剣である。
少女の真名を特定しようと思考を巡らせるエミヤ。だがそれが成るよりも早くに少女の紅く虚ろな瞳がエミヤへと向けられた。手に執る剣は逆手に持ち替えられ、空へと掲げられている。
「
愛剣たる軍神の剣の力を以てエミヤに報復の一撃を繰り出さんとした剣士であったが、唐突に口上に割り込んできた攻撃を察知して飛びのいた。直後に少女がいた場所を薙いだのは黄金の剣閃。遥の一撃である。
完全な不意打ちを回避された遥はしかし、回避されたことへの苛立ちなどは全く見せない表情で少女を睨みつける。だが構えを解いている訳ではなく、脱力しているように見えて隙がない。その眼は常の黒ではなく、少女と同じ紅玉に輝いていた。
知ってるぞ、お前。目の前にいる少女にすら聞こえないほどの声量で遥が呟く。その言葉通り、遥――と言うよりその裡に宿るものは少女の正体を織っていた。偽りの人類悪の時と同じだ。同化した分霊が遥の意図せぬうちに影響を与えている。
「――
「否。我が名はアルテラ。フンヌの裔たる軍神の戦士だ。セファールなどという者は知らん」
猛烈な敵意を内包する遥の言葉に否と返す少女――もといアルテラの声音に嘘の色合いはない。だがそれを前にしても遥の目から剣呑な光は消えない。敵と相対しているのだから当然のことなのかも知れないが、遥の気配にはそれだけでは説明のつかない何かがあった。
セファール。数分前までは名前すらも知らなかった筈のその存在を、今の遥はその姿までもを詳細に思い描くことができた。まるで遥自身が実際に体感したかのように錯覚するその気配と同じものを、アルテラは放っていた。
自分が知らないはずの知識が湧いて出てくることに対する抵抗はない。それは遥が造られた目的による副産物のようなものであり、言わば生来備わった機能だ。遥に同化した分霊は最早遥そのものも同然なのである。
両手に刀を握ったまま遥は大きくため息を吐き、昂る血を鎮める。下手をすれば自身に掛けた封印が解けてしまいそうな感覚の中、遥はアルテラを睨む。アルテラもまた三原色の剣を手に、遥の出方を伺っている。
「セファール……いや、
「違う。この軍勢は今生における我が盟友の宝具。私はその一部を借り受けているに過ぎん」
アルテラの返答を受け、遥がふむと唸る。或いは敵対する他のサーヴァントの真名の手がかりを得られるやも知れないと考えて放った問いだったが、そう簡単に情報を流す筈もなく、アルテラはそれだけしか答えを返さない。
統一性のない様々な部族を纏め上げてひとつの軍と成した英雄。言葉だけを見れば大層なことのようにも見えるが、人類史上においてはさして珍しい話でもない。例え異なる部族だとしても、共通の敵さえ現れれば人間は協力するものである。
だがそれがこの時代のローマに関連する者となれば話は別だ。紀元60年のローマで起きた出来事に先の条件を限定すれば自ずと対象となる人物は特定される。日本においてはマイナーな英雄だが、功績を考えれば『座』に刻まれていることに何の不思議もない。
深呼吸をひとつ零して分霊との同調を開始するための式句を唱える遥。それによって身体と血に施された封印の一部が解放され、遥の総身から人間の域を逸脱した量の魔力が噴き出す。紅く光る眼は活性化した血の影響を受け、黄金に近い赤燈へ。全身を巡る人ならざる魔力が筋肉を膨れ上がらせ、過剰な魔力を受けた身体が赤熱する。
半ば解けてしまった封印を遥は戻そうともしない。その身体から放出される気配に当てられた叢雲がその刀身を嚇と輝かせ、
遥と相対するアルテラは遥が尋常な相手ではないことを肌で感じ取ったらしく、執る軍神の剣を構え直した。その刀身はそれが表す三機能イデオロギーのうちマルスが司る戦闘を示す赤一色に染まる。戦闘王アルテラが戦闘状態に入った証である。
内側から湧き上がる戦闘欲求。赤熱し、魔力が充足する身体。それらに押されるようにして、遥が叫ぶ。
「オォォォォオオッ――――!!!」
偽英雄、咆哮。ここに、戦闘の幕は落ちた。
ハードモードセプテム……にできたらいいなぁ……。尚、第三特異点は難易度ルナティックの模様。