Fate/Everlasting Shine 作:かってぃー
連合ローマ軍が壊滅したタイミングでの勝利の女王軍による奇襲は、首都ローマ内部での兵士の召喚だけではなかった。その奇襲に使われているブーディカの宝具〝
ローマ・連合ローマ両軍が疲弊した隙を突いての奇襲。そのうえ進撃する手間を省き、現地に直接軍勢を召喚するとあっては、応戦する準備を整える暇すらもない。包囲された軍勢は一瞬にして恐慌状態に陥った。
そんな中、最も早くに対応してみせたのはマシュと並んで最も戦闘経験がない筈の立香だった。彼は自らに与えられた総督という立場を利用して一時的に周囲のローマ軍に指揮下に入るように告げると、クー・フーリンに宝具を解放させ首都ローマまでの蛮族を蹴散らし、こう言い放ったのだ。正統、連合関わらず死にたくないものはオレ達に続け、と。
それは半ば脅迫であった。しかし正しい判断でもある。いくら相手が理性のない蛮族と言えど、サーヴァントの宝具である以上只人がそう簡単に倒せるものではない。恐慌状態なら猶更だ。そこで立香はサーヴァントの力を借り、自分たちには敵に対処する力があるという所を見せつけることで兵士たちの安定と吸心を図ったのである。そして、それは見事に成功した。
立香自身よく考えた訳ではない。それは咄嗟の判断であった。故にそれは立香が持つ指揮官としての高い適性を示しているとも言えるだろう。或いは強い生存への執念か。どちらにせよ、それが立香が執ることができる最善策であった。
要は立香が執った策は籠城戦のようなものだ。今回の場合はその城に当たる場所にまで敵が侵入しているが、だからこそということもある。今のローマは国家としての機能を首都、ひいては王宮に集中させている。故に首都を堕とされてはまずいのだ。そのため防衛には可能な限り戦力を集めなければならなかった。
残った連合ローマの部隊も一時的に処遇を保留し、ネロの指揮で首都周辺に集中させている。その殿にいたのは遥たちだ。首都内では市民が家に籠り、兵士たちが何人かの束になって蛮族と戦っている。共通の敵を前にして、袂を分けた兵士たちが一丸となっているのは皮肉と言う外ないだろう。
だが、当然のことでもある。兵士とは王ではなく人民を守るもの。そして正統であれ連合であれ、それがローマであることに変わりはない。であれば、連合も人民を守るためならば戦っても不思議ではないのだ。
しかし相手は英霊、サーヴァントである。いくら兵士たちが団結したところで、たかがただの人間が敵う相手ではない。加えて兵士たちが戦っているのは厳密にはサーヴァントそのものではなくその宝具によって召喚された傀儡。元々人間よりも強力であるうえ、両手両足どちらかを失ってもある程度喰らいついてくるというのだから驚きである。
それだけではない。首都ローマやその周辺地域に召喚された蛮族たちは確実に倒されているものの、一向に数が減らないのである。召喚にはそれ相応の魔力が必要な筈だが、全く召喚速度が衰えない。つまり、どれだけ倒そうが敵の総数が変わらないのだ。
「どうする、マスター! このままではジリ貧だぞ!」
「解ってる! でも、召喚主のサーヴァントがいないんじゃどうにも……」
迫り来る蛮族数人に対して漆黒の魔力を纏うエクスカリバーを揮い、消滅させながら立香に声を飛ばすアルトリア。だが聖剣の極光によって空白と化した空間にはすぐに新たな蛮族が入り込み、再び攻撃を仕掛けてくる。
先程から立香は数人の将校から何度か報告を受けているが、未だに敵将たるブーディカやその仲間と目されるサーヴァントらしい姿を見たという報告はない。恐らく遠方からでも召喚が可能な宝具なのだろう。
完全な防衛戦。しかしそれは立香が無能だと言うのではない。むしろ彼は戦闘経験がないにも関わらず驚異的な速度と正確さで指示を出し、全軍の死傷者数を最小限に抑えている。基本的に凡人の域を出ず、元一般人らしい穏やかな少年が軍師としての才能の片鱗を見せ始めていることは皮肉としか言えないが、今の彼らにそんなことを気にしているような余裕はない。
(考えろ、考えろ! 何か、被害を最小に抑えられる策を……!)
アルトリアの
次の問題は立香の魔力量だ。変異特異点での反省からカルデアで生産される魔力の大部分を立香に回しているものの、彼個人で出力・貯蔵できる量には限度がある。カルデアから供給される魔力はあくまでも貯蔵量の回復を速めるもので、立香本人の問題は別なのだ。
だが幸いにして、立香の貯蔵魔力には幾分かの余裕がある。故に最大の問題は戦力不足だけに限定される。今首都ローマ内にいるのは立香のサーヴァントとローマ軍の他、既にこの特異点に召喚されていたサーヴァント――遥と契約した『
この状況を覆すには、何か強力な一手が必要だ。拠点防衛のための戦力として運用でき、かつ対人から対軍までの宝具を持つサーヴァントが。だが、果たしてそんな都合の良い英霊がいるものなのか。半ば袋小路に陥りかけた立香の思考に、突如として冷や水が浴びせられる。
「――ッ」
不意に彼の足元に転がってきたそれは、果たしてローマ兵の生首であった。相当追い詰められてから殺されたのかその顔は絶望した顔で停止しており、粗悪な戦斧で切断された断面からは骨と鮮血が覗いている。
想像を絶するグロテスクな光景に立香は思わず胃の中身を吐き戻しそうになるも、寸でのところでそれを堪えた。今はそんな暇などない。同胞の死は悲しもう。悼むこともしよう。だからこそ、今は止まれない。止まったが最後、次に死ぬのは自分自身だ。それを受け入れることこそ、死者への真の冒涜であろう。
突然生首を見てしまったことによるストレスや自責による自己嫌悪を一旦心の奥底に押し込め、立香は前を向く。後ろを向くのは後で良い。今はただ、生き残る。それだけに集中する。そうして顔を上げた時、傍らに戻ってきたマシュが口を開く。
「……
「あぁ。大丈夫。大丈夫さ」
自分自身に言い聞かせるようにそう言いながら、立香は大きく深呼吸をする。ファイブセブンに頼って心を凍らせるようなことはしない。ファイブセブンを使うのは、自らの意志で、心を動かしたままで。
藤丸立香は戦うものではない。だが、戦うことを拒む臆病者でもない。諦観と共に運命を受け入れたのではなく、自らの意志で生きるために戦う。立香はそれができる男だ。
思考を巡らせ、活路を見出し、自らの全てをそこに集中させる。自らの意志で〝魔眼殺し〟を外すと、僅かに頭痛がした。その眼は七色に輝いていて、彼の魔眼が動いていると一目で分かる。以前は自分の意志で使えなかったが、今は違う。その使い方は、
周囲の世界そのものから情報を引き出し、集積し、分析し、解析し、演算し、結果を出す。そうして立香の脳裏に投影されるのは、現状から予想される最も確率の高い未来。謂わば短期的な未来予測である。それがこの世界の立香が持つ『先視』の魔眼である。
短期的な未来予測というと非常に反則じみたもののようであるが、立香のそれには制限と重大な欠点がある。まず、より先の未来を予測するにはより多くの情報が必要なこと。これが制限である。そして欠点。こちらが重要だ。
世界から情報を引き出すのは魔眼の力だが、演算するのは立香の脳なのだ。そして、魔眼を起動している間彼の脳は魔眼の力で無理矢理限界を超えて駆動させられている。そのため長時間連続で使ったり多くの結果を見ようとすると、立香自身の脳が焼き切れてしまう。たとえ抑えたとしても脳を動かすためのエネルギーは確実に消費し、一度の戦闘でも最大で一度、それも10分程度しか使えない。
巨大なメリットの代わりに多大なるデメリットを負うそれを、立香は躊躇わずに行使し、更に的確な指示を出していく。サーヴァントや兵士は立香の指示が変わったことを感じ取ったのか、一瞬のみそちらを見遣るがすぐに戦闘に戻る。だがその直後、兵士から声があがる。
「藤丸総督、あれをッ!!」
「? ……なんだ、アレ? ミサイル? いや……槍!?」
果たして、兵士が指す先にあるものは空を飛ぶ1本の槍であった。それが放つ膨大な魔力は、明らかにそれが宝具であることを物語っている。敵のものか、味方のものか。立香の理性はそれが分からなかったが、直観的にそれが敵のものではないと悟る。
数秒もしないうちに槍は首都ローマ市街地中心部、立香たちの後方に突き刺さり、秘められた魔力を爆炎として周囲に吐き出した。爆炎は数人の兵士を巻き込みながら多くの蛮族を紙屑のように散らした。
続けて彼らの頭上を駆けたのは、ひとつの馬影。その形に立香が違和感を覚えたのも束の間、まるで暴風のような武威を以て彼らの頭上を駆けた闖入者が蛮族を蹴散らし、立香に接近してくる。
「貴方が、ここの指揮官ですかな? いやはや、戦場の匂いに誘われるまま来てみれば、多勢で無勢を嬲っているときたもの。それでもその中で勇猛に戦っている者たちがいるとなれば、私が助力する方は決まっていましょう。
……と、いう訳なので。この呂布奉先、貴方たちに協力致しましょう! ヨロシク!」
「りょ、呂布……?」
呂布奉先。そのあまりの武威から〝飛将〟とも呼称される、後漢の武将である。だが呂布に〝実は人の身体を持った馬だった〟などという逸話はない。それがこのようなケンタウロスじみた、と言うよりも馬型の怪人じみた姿で現界するということは、まず考えられない。
だが思い当たる真名がない訳でもない。呂布の愛馬であり、血のような赤い汗をかく汗血馬たる〝赤兎馬〟。馬が英霊となるなど奇妙な話だが、別に英霊は人間のみという制約はないのだから、無い話ではない。
立香は知らない。呂布奉先はライダークラスで召喚された場合は赤兎馬と融合し、その主導権は赤兎馬が握ってしまうことを。つまり立香の前に現れたサーヴァントは呂布奉先であると同時に赤兎馬でもあるのだ。
赤兎馬が差し出した手を立香が握り返すと、ふたりの間に仮契約が結ばれ
総身を魔力が流れる異物感と激痛に立香が顔を顰めるが、すぐに表情を戻した。その視線の先では新たに戦列に加わった赤兎馬が槍を揮っている。さらに視線を移せばアルトリアとアルが、クー・フーリンが、ジャンヌが、そしてマシュが戦っている。ならばそのマスターたる立香が倒れることができる筈がない。
魔眼の代償か眼は今にも弾け飛びそうで、脳は無理な演算と思考を同時に行っているせいか時間の経過と共に痛みを強めている。眼から蒐集される情報は立香に犠牲者の数を無慈悲に叩きつけ、視界の中では無残にも砕け散った死体がいくつも転がっていて気を抜けば無力感と罪悪感に圧し潰されてしまいそうだ。それでも、立香は耐える。後悔するのはまだ早い。
「まだ
首都ローマ内に突入した赤兎馬が立香と合流したのとほぼ同刻。首都ローマが位置する平原ではある種の地獄のような光景が繰り広げられていた。と言っても、それは大量虐殺のような残虐なものではない。いや、ある意味では残虐なのかも知れないが。
まるでその平原を我が物と主張するかのように聳えるそれは、巨大な城。否、城のようでありながら、それは城ではなく城の形をした異常に巨大なアンプであった。つまりはライブステージであるが、そこから放たれているのはポップでもロックでもなく、デスボイスですら正常に聞こえる程の破壊兵器であった。
幸いにもアンプが向いていないローマ軍側には人的被害は出ていないものの、アンプを向けられている蛮族たちの側では凄惨な光景が広がっている。彼らは倒されればすぐに消滅するが、その直前にまるで挽肉にでもされるかのようになってから消滅しているのである。
恐らくその宝具を行使しているサーヴァント――城型アンプの屋根で気持ちよさそうに歌っている、竜種の翼と尾をもつ少女はローマ軍の加勢に入ったつもりなのだろうが、耳を塞いでも全く減衰しない歌声のような咆哮は確実にローマ軍の体力を削りつつあった。
『なんですかコレ、ヒド過ぎます! コレが現代風の歌なんですか、ハルさん!?』
『そんなワケあるか!! 辛うじてアイドル系の歌に聞こえないこともねぇけど、流石にコレはねぇ!!』
『何でも良いから早いトコ止めさせなさいよ! 耳壊れる!!』
耳を塞ぎながら器用に念話で会話をする3人だが、彼らが何を言ったところで少女には届かない。敵も味方もまさしく阿鼻叫喚。だがその中にあって、何故かネロだけが幼い少女のように目を輝かせていた。
やがて怪音波の暴威が止んだ頃には視界に映る範囲から蛮族たちは殆ど一掃され、戦場は一時のみ荒れ果てた平原としての姿を取り戻した。尤も、敵が一掃された代わりに味方も大多数が機能を失っているが。
そんな惨状を一切意に介していないかのように少女は満足げな笑みを浮かべながら、ネロの方に歩いてくる。一応は味方だと分かるが隠しきれない残虐性が滲むその所業故に遥はネロを庇うように前に出て、不意にフラッシュバックした記憶に声を漏らした。
遥はこのサーヴァントを知っている。第一特異点においてカウンター・サーヴァントとして召喚されながらもジルの計略によって拿捕され、シャドウ・サーヴァントとなって彼らの前に立ちはだかったサーヴァントのうち1騎。それに気づいた途端に襲ってきた妙な気まずさに、思わず遥はネロの前から退いてしまった。
「あら、
それはそれとして。ようやく会えたわね、生ネロ! 私の永遠の
「生ネロ……?」
少女の妙な物言いに、遥が言葉を漏らす。彼としては少女が口にした〝子グマ〟なる呼称も気になっているのだが、あえて問い質すことでもない。遥とて、自らが秘める人外の
そんな下らないことを考えつつも、遥は何か語らい合う少女とネロに視線を遣る。
タマモ曰く、少女の真名は〝エリザベート・バートリー〟。血の伯爵夫人という異名を持つ、16世紀のハンガリーを生きた貴族であり吸血鬼伝説のモデルのひとつともなった連続殺人犯でもある。尤も、現界時の肉体年齢は残虐行為どころか結婚もしていない14歳時のもので、精神もそちらに固定されているが。
残虐行為に手を染めるようになった後の彼女の姿で現界した場合はカーミラ、つまりは第一特異点で遥たちが接敵した際の霊基となる。しかしエリザベートが自らの罪を自覚していないかと言えばそうではなく、むしろ罪悪感という意味ではカーミラよりもエリザベートの方が強いかも知れない。
何故か意気投合しているふたりを半ば呆れを込めて見ている遥。その脳裏に、まるで揶揄うかのようなエミヤの声が飛んでくる。
『マスター。和んでいるところ済まないが、報告だ』
『和んでねぇ。で、何だ』
『敵軍だ。サーヴァントもいる。……で、どうするね?
挑発するような声音であった。遥から顔は見えないが、恐らく今エミヤはニヒルでありながら遥を試すような表情をしていることだろう。遥と最も付き合いが長いのは沖田だが、遥の性格をよく把握しているのはエミヤだ。故にエミヤには、これから遥がどう動くのか解っている。
遥の魔術回路から大量の魔力が持っていかれると同時、それと同じだけの魔力が遥たちの後方、城塞で収束する。エミヤが彼の異能たる投影魔術で以て生み出したのは刀身が捻じれた異様な宝剣。ケルト神話はアルスター物語群の英雄フェルグスの愛剣を改造した〝
その爆炎の先に、遥は確かに見た。先程から平原に湧き出しているものと同じ蛮族を引き連れた敵将を。最も奥にいる、禍々しい
その姿を視認した途端、遥の中で血が励起する。最早封印などは意味を成さない。同化しながらも独立した存在であった筈の分霊は半ば以上が遥と融合し、境界を定める方が難しい。自分を強く意識していなければ励起する血に呑まれ、ただ戦うだけの存在となってしまいそうだ。所謂暴走状態に陥りかけている精神を、理性を以て抑えつける。そして、その抑えつけた情炎の熱を己が力に変える。
「……ハルカ?」
「ネロ。
そう言いながらネロに向き直った遥の目には有無を言わさせぬ強制力があった。そこにはおおよそ人間には御しきれないほどの情炎が宿り、満ち溢れる魔力が身体を赤熱させる。その姿は完全に人間のそれではなかった。
以前の遥であれば特に抵抗することもなくそれに呑まれていたことだろう。だが今、遥はそれに抗い、逆に捻じ伏せ自らの力にしようとしている。些細なことだが、遥は運命に抗いながらそれを乗りこなそうとしているのだ。
果たして遥にその変化を齎したものが何であるのか、そんなことはネロにとって関係ないものであった。だが、彼女の言葉がその一因にはあるのだろう。故にすぐに遥の意図を察し、口を開く。
「良かろう。其方は其方の思うままに。心に従え、剣士よ」
「――了解……!!」
その指示は放任か。否、それは信任であり、強制でもあった。この指示を以て遥は自らの意志に反して動くことができなくなった。たとえ、それが自分自身とも言えるものからの叫びであったのだとしても、である。
視線の先では巨漢のサーヴァントが吠えている。遥は知らないことだが、巨漢のサーヴァント――スパルタクスはネロやローマだけではなくその場で強烈な人外の気配を振り撒く遥にも反応していた。圧制への叛逆そのものである彼にとって、遥が放つ気配は圧制以外の何物でもない。
そして
「セファ……アルテラの相手は俺がする。姉さん、エリザベートと一緒にあの肉達磨の相手を頼めるか?」
「勿論です」
「ハァ? タマモに協力するのは良いけど、なんでいきなりアンタの指示なんかに――」
「頼む。俺の指示に従うのは不本意だろうが、戦ってくれ。ローマのために……!」
奇妙な拘束力を伴う言葉であった。だがエリザベートが無意識に息を呑んだのはそれが原因ではない。彼女の遥に対するイメージを塗り替えたのはその眼。激情に塗れた遥の紅い瞳は、その中に確かな意志の光を内包していた。
遥は
今の遥は人理のことなど頭になかった。忘れている訳ではない。ただ、今の遥はカルデアのマスターであると同時にローマ軍の傭兵隊長なのだ。であれば、ローマを守るのは当然のことだ。それが人理を守ることにも繋がるのだから。
流石に真正面から見つめられ続けているのは恥ずかしいのか、エリザベートが少し顔を赤くして目を逸らす。しかしすぐに気を取り直すと、まるでファンかマネージャーの言葉に辟易とするアイドルのような顔となった。
「しっ、仕方ないわね。本命のマネージャーは他にいるのだけど、少しの間アナタをマネージャーにしてあげる。感謝するのよ!」
「あぁ、それで良い。……マネージャーが何するのか、よく分かんないけど」
そう自嘲するように言うと遥とエリザベートは手を打ち合わせ、その瞬間に仮契約が結ばれた。恐ろしく速く結ばれた仮契約の術式が遥の魔術回路にエリザベートに繋がる
事ここに至り、遥はようやく己の変革がかなり進行していることを自覚した。明らかに魔力貯蔵量・出力量が共に上昇している。この分では回路そのものに変調を起こしているのかも知れない。着実に自分が得体の知れないものに変わっていく感覚は薄ら寒くはあるものの、遥は既にそれに抗いながら乗りこなす覚悟を決めている。
ふたりの間に契約が結ばれたのを見届けたネロは、その視線をローマ兵たちに移した。ネロに仕えるローマ軍だけではなく、先の戦線で残存した連合兵たちもいる混成軍。だがそれこそが真にローマ軍として十全な姿であった。それでもネロは感傷に浸ることもなく、檄を飛ばす。
「――聞け、兵士達よ!
我らがローマは今、未曽有の危機に晒されている。愚かにも智慧足りぬ蛮族共が国土を踏み荒らし、市井の臣を蹂躙せんとしているのだ。これは捨て置くべき所業か? 否!! 断じて否であるッ!! 奴らは出初めに首都を滅ぼし、然る後に遍くローマを灰塵と成さしめるであろう! これは我らだけではなく、連合、いや、ローマ全土の危機なのだ!!
余に従えとは言わぬ。この戦いの後、連合の者達は己が殉ずべき主のため、余の首を狙うのも良かろう。相手になる。だが、今だけは!! 今だけはローマを、そして市民を守るため、共に立てッ、ローマの益荒男達よッ!!!」
「――――雄オオォォォォッ!!!」
大地を割り、天にすら届かんばかりの鬨の声。正統、連合などという区別なく全ての兵士たちがネロの言葉に突き動かされ、戦う意志を固めているのだ。たった数秒のうちにネロは全ての兵士の心を掴んでみせた。
これが皇帝。これが
ローマを囲う平原、そして七つの丘のひとつたるモンティーノの丘。ここに、両軍は激突する。
この場を借りてオリジナル設定の説明をば。
『先視』の魔眼
以前から少しだけ出していた、この世界線の立香のみが持つ魔眼。世界そのものから情報を引っ張り出し、それを元に未来を演算し、導き出す力を持つ。しかし演算は魔眼ではなく脳を無理矢理限界以上に稼働させて行うため、連続使用には向かない。仮に限界を超えて使った場合、脳に重篤な後遺症が残る可能性がある。
未来視系統の魔眼としては『空の境界 未来福音』に登場する瀬尾静音と同じ予測能力に属する。