Fate/Everlasting Shine 作:かってぃー
「オオォォォォッ!!」
内部に取り込んだ生命悉くを燃やし尽くす究極の煉獄の地上を一条の流星が駆ける。それの正体はこの世界の主たる遥であり、金色に輝くのは彼の愛刀である天叢雲剣だ。第二の拘束までを解放された神刀の輝きはそれまでの比ではなく、まるで地上に存在する太陽のようですらある。
彼と相対するは聖杯と魔神の呪いによってその霊基を汚され、巨悪の意のままに動く人形と化した神祖ロムルス。最早存在そのものが悪性の塊となった彼はこの煉獄の中に在ってその強力極まるステータスを大幅に弱体化させられていた。
何故ならば遥の
ならば後に勝敗を決めるものは何か。それは技術であり、そしてただ只管に勝利を求める不屈の闘志だ。正義か悪かなどは関係ない。強く勝利を求める方が勝つ。殆ど対等な相手の闘争などそのような単純極まるものだ。
大地を蹴り、閃光の軌跡を描いて巨人に肉薄する遥。彼が纏うのは焔と激流の魔力放出。相反する筈のそれらを無理矢理に、意地と根性のみでひとつの肉体に同居させているのだ。
その音速すらも彼方に追い越した速度が生み出す運動エネルギーを乗せた一閃。巨人は半ば反射でそれを樹槍で受けるものの、衝撃を殺しきれずに半歩後退した。そこに遥は間髪入れずに蹴撃を喰らわせ、その身体を大きく吹き飛ばす。
続けて遥が空いている左手を虚空で振り下ろし、それに合わせて天蓋を覆う噴煙から巨人に向けて雷撃が降り注ぐ。それはただの雷ではなく遥の激情とスサノオの神核が持つ特性、さらに天叢雲剣の権能が混ざり合ったもの。故にそれは焔と同じく悪性の浄化作用を有する。それの直撃を受けた巨人は霊基そのものが燃え落ちるような苦痛に襲われて膝を突いた。
『このッ……このようなみすぼらしい心象でっ……』
「みすぼらしくて結構。これが俺だ!!」
ありとあらゆる悪を受け入れず、命さえも拒絶する煉獄の心象。それがみすぼらしいことなど、遥はとうに分かっている。何故ならありとあらゆる悪を浄化するなどと嘯きながら、それ自体が遥の悪性の象徴であるのだから。
だが遥はその心象を嫌ってはいなかった。諦念でも妥協でもなく、純粋にその心象を受け入れている。それが遥の心象であるのなら、それこそが遥が『夜桜遥』である証なのだから。そして今、それは新たなる力を得ても塗りつぶされることなく在る。それどころかその力を心象のひとつとして自在に扱うことさえできているのだ。それはつまり、遥が人ならざる力を完全にモノにしたということである。
巨人がその足元から遥に流し込んだものと同じ聖杯の泥が溢れる。恐らく固有結界に隔離した所で聖杯との繋がりは断ち切れないのだろう。巨人から溢れた泥は遥の煉獄に食らいつき、浸食せんとする。だが、無駄だ。それらは全て煉獄によって浄化され、無色の魔力となって遥に還元される。聖杯さえ歪める獣の呪いさえ浄化した焔が、ただ垂れ流されるばかりの呪いに犯される筈はない。
遥の意志に応え、浄化の焔と雷電を纏う叢雲の刃。遥が刃を虚空に振るうや、それは巨人を喰らうべく空間を裂くかのような勢いで奔る。おおよそ地上に存在するもので最強の浄化能力を持つそれを受ければいかな巨人とてひとたまりもない。故に巨人はそれを樹槍で打ち払い、その陰から現れた遥に対応できなかった。
先に放った2撃は本命ではなく、ただの布石。巨人が樹槍でそれを打ち払う一瞬の隙に、遥は縮地すらも超える究極の歩法である極地を以て巨人に接近したのである。まさに剣聖の領域に踏み入った絶技だ。
遥が振るった叢雲の刃はまるで吸い込まれるかのように巨人の左肩口からその身体に入り込み、右脇腹を切り裂いた。更に返す一刀で腹を一閃。だがその傷は一瞬泥を吹き出したのみで、瞬く間に塞がってしまった。
「ッ!?」
『再生能力を持つのが自分だけだとでも思っていたのかね?』
嘲るようなフラウロスの声。直後、遥の腹を狙った巨人の膝蹴りが飛び遥はそれを腕で受けた。続けて振り抜かれた拳の軌道を側面から叩いて逸らす。そこから始まるのは互いに得物を使う隙さえ与えない格闘戦だ。
だが互いに力量が等位であるのなら、それに決着が来ることはない。もう何度目になるかさえ分からない交錯の直後、遥は自分らの立つ足元で一切容赦することなく噴火を起こした。大地が割れ、そこからマグマが迸る。
それに対応できずに巨人は大きく吹き飛ばされ、地面を転がる。しかし巨人もさるもので、右手に握った樹槍を地面に突き立てて無理矢理に自分の身体をその場に固定した。そうして足元に広げた泥が浄化されるより早くに複製した樹槍を何本も未だに噴きあがるマグマに向けて撃ち出す。
一撃でも喰らえば致命となるその槍はしかし、その悉くを無傷のままマグマの中から現れた遥によって切り裂かれた。真っ二つになった泥の槍が焔に巻かれて消滅する。だが巨人の攻撃はそれでは終わらない。
樹槍を構え、巨人が大地から吹き出す焔に身体を焼かれるのも構わずに突進する。その全体重を乗せた一撃を遥は寸での所で回避し、だが巨人はその動きを読んでいたかのように槍の軌道を変えて遥に食らいついた。
互いの得物を力任せに押し合い、至近距離で睨みあう巨人と遥。現実であればその間にある圧倒的なステータスの差で押し切られていただろうが、この煉獄の中であれば両者は等位。更に世界そのものが遥に利する以上、少なくとも追い込まれることはない。そうして再び焔と電撃を喰らわせんとした時、巨人の無貌から声が響いた。
『……何故だ、夜桜遥。何故貴様らは戦う!? 既に終わりが見えているというのに、何故それを受け入れることができない!?』
「……ハ。ゴチャゴチャと、つまらねぇことを訊くな!」
怒号一喝。遥は自らの空いた左手に焔を生み出すとそれを以て巨人の腹の前で大爆発を起こして見せた。宝具に匹敵する神秘の圧力を受けて巨人が爆発範囲外へとおしだされ、同時に遥が足元で小規模な爆発を起こしながら地を蹴る。
爆発と残滓を突っ切って巨人に肉薄する遥。そうして遥が放ったのは斬撃ではなく、焔を纏った拳であった。軌道を見切ることさえ難しい神速で繰り出される拳撃。更に蹴撃と同時に足から発生させた焔で再び爆発を起こした。流石に同じ手で後退するような巨人ではないが、しかし遥の狙いはそれではない。
爆発の威力を利用して空中へと跳躍した遥に向けて放たれる樹槍の群れ。しかしそれらは遥が纏う焔によって掻き消され、遥に届くことはない。対して遥の手の中で輝きを増す叢雲。その限定解放による極光が巨人を襲った。フラウロスは巨人の霊基に限界まで魔力を回すことで失った部位を再生するが、遥がその隙を見逃す筈もなく落下の勢いを乗せた一閃で切り裂いた後に蹴り飛ばした。
「俺が戦う理由……そんなの決まってんだろうが! お前らが殴り殺したい程気に喰わない! 俺の前で起きた人の死を無意味にしたくない! 俺が愛した人々の生きる場所を守りたい! それだけだ!」
『貴様……そのような、下らん理由で……!!』
遥の言葉を受けて、フラウロスの声音に怒りが満ちる。その怒りの凄まじさたるや、只人であれば威圧を受けただけでショック死しかねない程である。だがその怒りを受けてもなお、遥は怯まない。遥の怒りもまた激烈なものであるから。
フラウロスには何故遥がここまでの復活を遂げたのはという理由までは分からないが、纏う強烈な神性の気配から遥が人間よりも高位の領域に至ったことは分かっている。そうであるならば得ている筈なのだ、
だが遥は人よりも高位の目を得ておきながらそれでもなお悲しみは無価値ではないと、死は無意味ではないと言う。人めいた欲望を捨てられず、人の目を捨てず、人の心を保ち続け、真理を悟れない。それなのに賢しらぶっている。
交錯する神刀と樹槍。その趨勢はどちらにも傾いていないようにも見えるが、そうではない。徐々に遥が押してきている。それはこの世界の作用によるものでもあるが、何より勝利への執念が遥の方が勝っているからであった。
その事実を前に、レフが歯噛みする。何故。理解ができない。いくら遥の
それが、覆せない。必勝を期した攻勢は全て遥に防がれ、時間の経過と共に巨人に巣食う泥は浄化されて魔力は遥に奪われる。耐え難い屈辱だった。それを吐き出すかのように、フラウロスが吠える。
『このッ……クズの分際で……!!』
「クズなどと、テメェが言えた口かッ!」
そう遥が咆哮するや否や、その怒りに応えるかのように叢雲の刃から噴火の如く焔が噴きあがった。その焔は一瞬のみ天蓋を覆う黒炎に届いたかと思えば、一息に叢雲の刃へと収束した。
煉獄の焔が煌々と輝く叢雲の刃はその不条理なまでの内圧で以て超常の熱量にまで達している。それは尋常な刀剣であればあまりの熱量でプラズマ化していただろうが、叢雲は星によって造られた兵器。尋常な物質の枠内にあるものではない。
本来は何かしらの指向性を持たせて放出、或いは無為に拡散することで影響を齎すものを別な力によって強引に刃に押し込めることで全く異なる機能を持たせる。それはかの湖の騎士が言う所の〝
それはその熱量と浄化作用を以て樹槍を切り裂き、続けてその断面で解放された焔が爆発と見紛うばかりの威力を伴って巨人の顔面を吹き飛ばした。だが既に通常のサーヴァントの領域から離れている巨人はその程度で死にはしない。それでも遥は狼狽えない。遥自身もまたそういう身体だからこそ、言える。――どれだけ再生しようと、死なない奴などいない、と。
『馬鹿な……私が押されているなどと!! 貴様のような人間にも神にも成り切れぬ半端者如きに!!』
「当然だろ……! 何もかもに諦めて、勝手に全てを終わらせようとしてるテメェなんぞとはなぁ……背負ってるモンが違ぇんだよ――――ッ!!」
フラウロスが背負うのはひとえに主命のみ。人類悉くを焼き尽くし、その意味を完全に無へと帰すことえ極点へと至らんとする、後に何も残らない破滅の意志。つまりは諦観より来たる憐憫。
対して遥が背負うのは己自身の願い、仲間の思い、先へと進もうとする妄執、数えきれない感情に混濁して一言では言い表せなくなった思い。理屈などそこにはなく、そんなものはかなぐり捨てた思いしかない。だが、それはきっと悪ではない。
遥ひとりでは人間として在れないのだとしても、それが少なくとも遥の魂を人間の容に留めてくれる。だからこそ遥は思うのだ、大切な人たちを守りたいと。その思いで駆動する身体に力が漲る。情熱に、魂が燃える。
巨人に拳撃を叩き込むと同時に爆発を起こし、その巨体を吹き飛ばす。遥の攻勢はそれでは終わらず、殴りつけたその流れで叢雲を納刀して地を蹴った。巨人の視界から消失する遥の姿。直後、ありえない速度で肉薄した遥の姿が巨人の眼前に現れた。遥が最も得意とする神速の抜刀術である。
聖杯の後押しによって大幅に強化されている巨人の動体視力でさえ見切ることのできない一閃。それが巨人の身体を右脇腹から左肩口にかけてを切り裂いた。その勢いを殺さず、その動きの延長として流れるような蹴撃。吹き飛んだ巨人に追い縋るように駆け出し、連続で拳を繰り出す。
「激情! 不屈! 闘志! 俺はお前らには負けてやらねぇ! 俺自身のために、アイツらのために、必ず斃す!!」
その言葉と同時に渾身の力を込めた拳で巨人を吹き飛ばすと、遥は天叢雲剣を腰から外した鞘に納刀した。同時に鞘が駆動を始め、金色の輝きを放ちながら遥の身体に現代には存在しない筈の魔力を供給する。
それは真エーテル。神代地球を持たしていた真なる魔力であり、その神秘の結晶であるヒヒイロカネはそれを産生する。そして神霊の力を取り込んだ今の遥にとって、それを扱うことは通常の魔力を扱うことと同次元である。
鞘から供給される真エーテルを己の身体を通して焔と共に天叢雲剣に叩き込み、鯉口と鍔の間から黄金の光が漏れる。納めきれない魔力は暴風となって煉獄を薙ぎ、その波濤から遥が何をしようとしているのか悟った巨人がさせじと駆ける。だが、遅い。その槍が届くより先に、遥が叢雲を抜刀する。
それは、遥自身の宝具。家に受け継がれてきた神刀を屈服させ、身に宿る神の力を支配し、己の異能を自覚することで剣技から宝具の領域にまで昇華されたもの。遥が至った、遥だけの究極。
「終わりだ、フラウロス!!
――穿て、〝
瞬間、煉獄を裂くように放出される一条の極光。それが何なのか本能で悟った巨人とフラウロスは全力で泥から複製樹槍を撃ち出して相殺せんとするが、聖杯の泥によって形作られたそれらが極光を阻むことはなく、巨人の身体が極光に呑まれる。
圧倒的な魔力の暴威によって崩れていく霊基と、これまでとは比べ物にならない浄化の力によって焼き祓われていく魔神と聖杯の呪い。フラウロスによって埋め込まれた彼の端末は早々に焼き祓われ、そうして最後の一瞬になってようやく巨人は神祖へと立ち戻った。
全身を浸食していた泥が消失し、露わになるのは軍神の子としての完成された肉体。それが極光の暴威に晒されて、消えていく。だがロムルスはそれに憤ることなく、それどころか口の端に笑みを見せ、誰にも聞こえない称賛を口にした。
「――
その言葉を遺して神祖は消滅し、同時に宝具解放の巨大な負担で維持しきれなくなった固有結界が消えていく。異界が現実に塗り替えられて術者の内に戻り、遥が脱力感に耐え切れずにその場に膝を突く。その姿はいつの間にか通常のロングコート姿に戻り、神性の紋様も消えていた。
無論見てくれが元に戻ったからと言って神の力が分離した訳ではないが、今戦おうとしても常のような力は出せまい。先程のそれは謂わばその後一定時間の能力低下を代償とする諸刃の剣。つまりトランザムみてぇなものだな、と一部の人間しか分からないことを呟いて遥が立ち上がり、時折ふらつきながら気絶するネロに歩み寄る。
そうしてその身体を魔術で解析し、負傷部位に治癒を施す。幸いにして脊髄のような複雑な部位など遥の治癒魔術の腕前では治せないような複雑かつ重度の傷はなく、出血を防いで呼びかけるのみでネロは意識を回復させた。
「よう。やっとお目覚めか、可愛い皇帝さん?」
「遥……? 敵は、どうした……?」
「斃したよ。一回死にかけちまったが、何とかな」
そう言いながら遥はネロに向けてサムズアップをしてみせる。いつかの日に見た架空の戦士のように、笑顔を見せて。遥にはその戦士のように人を殴る感触が嫌で嫌で仕方ないという人間らしい感情は持っていないが、不思議と自嘲的な思いはなかった。
遥は全ての人々の笑顔を守る戦士にはなれないしなる気もないが、少なくとも己の大切な人々の笑顔を守る戦士であろうとしている。それを知ってか知らずか、ネロもまたサムズアップで応じた。
それに無言で頷きを返し、遥は踵を返してその先の壁に向けて焔を放った。その威力で壊れた壁の先に見えるのは、ロムルスの消滅によって魔神大樹から魔神柱になろうとしている肉の柱。その壁の孔に向けて、遥が歩を進める。
「何をするつもりだ?」
「決まってるだろ? ……ちょっと、ローマを守りに行ってくる」
そう言って壁の孔から空中へと身を躍らせる遥。ネロはもうどんな言葉も遥には聞こえないと分かっていながら、しかし言葉を投げた。
「礼を言うぞ、剣士よ。其方もまた、
「オ、オオォォォォ……!? 馬鹿な!? 神祖が、ロムルスが斃されただと!? あのようなクズに!!」
時は少し遡り、遥は固有結界無いで巨人を打倒したのと同刻。遥にロムルスを斃されたことでフラウロスはこまでにない驚愕と焦りをその声音に滲ませていた。その身体からは秩序を失った霊基が魔力に還る金色の光が噴きあがっている。
更にそれが進行していくのに伴ってフラウロスの霊基規模が大幅に減衰していき、身体が巨大な樹木からただ醜悪なだけの肉の柱へと変わってきている。それでもサーヴァントよりも強大な存在であることに変わりはないが、重要なのはそこではない。
フラウロスが取り込んでいたロムルスの宝具が消滅したということはつまり、フラウロスを疑似的な不死存在たらしめていた要因が全て消えたということである。ようやくフラウロスは殺せば死ぬ領域にまで堕ちた。それを認めるや、立香がクー・フーリンと目を合わせた。
言葉もないままに互いに意志を交感し、頷き合うふたり。そうして立香は右手を掲げると、そこに刻まれた残り2角の令呪と己の魔術回路を接続した。未熟かつ少ない魔術回路が一角でさえサーヴァントを操るに足る膨大な魔力の塊である令呪2角分の魔力に晒されて不快な蠕動を繰り返し、御しきれない魔力が血管を弾けさせる。それでも立香は気力と意地のみでそれに耐えると、あらん限りの力で叫んだ。
「令呪を以て命ず! ランサー、全力で敵を斃せ!!」
「応!! 光の御子の真体、しかとその目に焼き付けなァ!!」
その咆哮と同時、槍兵が纏う魔力の総量が数倍にまで増加する。変化はそれだけに留まらず、肉が変形する異様な音を立てながら全身の筋肉が膨張。足の関節は裏返って逆関節となり、顔では額が割れて漏れた血が光の柱と化して屹立し、片眼が肉の下に減り込んでもう片方の目にいくつもの瞳が浮き上がる。
手に執る魔槍はより長大かつ攻撃的な形状に変わる。そうして全ての変化を終えた後に立っていたのはまさしく怪物と呼ぶべきもの。しかしその立ち姿は醜悪ではなく、それどころか雄々しさすらある。
〝
だが令呪の魔力とて有限である。怪物と化したクー・フーリンの秒間消費魔力ではそう長くは維持できまい。それが分かっているが故に、クー・フーリンは考えるより先に駆け出した。
一方で不死性を失ったフラウロスは事ここに至りようやく自らの不利を悟り、無造作に凝視の熱線を撃ち放つもそれは悉く立香に先読みされてフラウロスの思惑が為されることはない。
フラウロスの放つ致死の攻撃全てを掻い潜り、跳躍するクー・フーリン。その手に握る魔槍が脈動する。まるで今か今かとその権能に近しい強権が解放される時を待っているかのように。ならば喰らえとばかりに赤枝の騎士は得物に魔力を込め、そして、魔神に終焉を宣告する。
「今度こそその命、貰い受ける!! ブチ抜け、〝
「やっ――やめろぉぉぉぉぉォォォッ!?」
断末魔にも似たフラウロスの絶叫。だが解放された魔槍は容赦なくその肉を貫き、フラウロスの肉が半ばから折れた。まるで天を貫くかのように聳え立っていた柱が、無残にも落ちてくる。魔神の失墜を表すかのように。
止めの一撃を放ったクー・フーリンは魔力切れによって強制的に怪物化を解除され、着地と同時に手元に戻ってきた愛槍を掴む。確実に魔神の命脈を断ったという手応えはある。それでも彼は以前として油断のない視線を肉の柱に注いでいる。
その視線の先で見る間に腐食していく肉の柱。いくら未だ聖杯があろうとも、不死さえも殺す魔槍の呪いを受けたのだ。最早回復など望むべくもなく、やがてその全身がくまなく肉塊と化した頃にその根本からひとりの人影が吐き出された。レフ・ライノールである。
「何故だ……何故だ何故だ何故だ!? たかが英霊と人間如きに、我らが御柱が退けられるなどと!!」
己の敗北を認められず、しかしもう自分に戦うだけの力が残っていないという事実を前にして屈辱に血を吐くように叫ぶレフ。魔槍の呪いはフラウロスの核であったレフも例外なく犯し、その身体は少しずつ腐り始めていた。
何故だ、理解できない、何かの間違いだ。レフが狂乱する。この決戦においてレフは慢心しなかった。確実にカルデアを叩き潰すことができるだけの用意をして、それでも負けた。レフにはその理由が分からない。結局、根本に持っていた嘲りを捨てられないが故に。
腐り落ちていく身体に立つことさえできずに蹲るレフ。そんなレフに立香は何も言わずに近づいていく。マスター! とサーヴァントたちがそれを制止するが、立香はそれに笑みだけを返してレフの前に立った。そうして、ホルスターから引き抜いたファイブセブンをレフに突きつける。
「……これで終わりだ、レフ教授。オレたちの勝ちだよ」
「フン。そんな
「殺せるさ。ハッタリじゃないよ。本気だ。オレが引き金を引けば、アンタは死ぬ」
レフの額に押し付けられるファイブセブンの銃口。その無機質な冷ややかさが、レフにようやく現実を認識させる。立香の言葉は彼の言う通りハッタリなどではなく、事実だ。でなければこの少年がこれだけの覚悟が込められた言葉を放つ筈がない。
立香の握るファイブセブンに込められた魔弾の名は〝起源弾〟。その内部に込められているのは遥の骨を砕いた骨粉であり、立香が魔銃の引き金を引くことでその弾丸がレフの体内に潜り込み、体内で遥の起源を具現化させるのである。
『不朽』の起源が具現化するというのはその言葉だけを身えば不死と化すだけのようにも思えるが、実際はそうではない。その起源が具現化した対象に襲い来るのは〝不朽と言えるだけの永遠に近い時間の証明〟だ。そんなものに耐えきれるのは生まれながらにしてそう定義された遥か時間の概念がない『座』に本体があるサーヴァントくらいのものであろう。尋常な人間が喰らえば一瞬で老化し、衰弱して死に至る。
とある理由から普通ならレフにも効かないが、今の彼は魔槍の呪いを受けている。そんな状態で〝永遠の証明〟など行われてしまえば死は避けられない。只の人間に殺される。生殺与奪を握られている。その認めがたい現実を前にして、遂にレフに怒りが限界を超えた。
「この……ちょ――」
調子に乗るな、人間風情が!! そう続く筈だったレフの言葉はしかし、レフの口から放たれることはなかった。立香に撃たれたのではない。その前に乱入した何者かが、レフの身体を唐竹割りにしたのである。
果たしてその乱入者とは立香の相棒である夜桜遥であった。彼はネロを起こして城の壁を破壊した後、そのままその穴から身を躍らせてレフの身体を断ち切ったのだ。一瞬で絶命したレフの身体は完全に腐り果て、物言わぬ腐肉塊となる。
それを煉獄の焔で焼き、中から聖杯を取り出す遥。そうして遥は手にしたそれを放り投げてマシュに渡すと、立香の前で笑ってみせた。立香もまたそれに応えて笑みを見せる。
「信じてたよ、きっと勝つって」
「当たり前だろ? 相棒にあんなコト言わせて、勝手にくたばるヤツがいるか」
そう言い、サムズアップをするふたり。ここに、第二特異点の修復は終わりを告げた。
第二特異点〝虚栄絢爛皇帝アウグストゥス〟
笑顔でサムズアップ。古代ローマなので一度はやらせたかったネタです。次回から新章……の前に短編書きましょうかね。
ひとつ注釈を入れますが、本当に立香はハッタリかましてはいません。立香が引き金を引けばレフを殺せたのは本当ですが、その前に遥が来ることを確信していたので撃ちませんでした。
一応活動報告にも載せている遥の固有結界の設定をば。
概要
遥の固有結界。この世に存在するありとあらゆる悪の存在を許さず、取り込んだものが内包する悪を浄化する究極の煉獄。それだけではなく、内部にいるものから敵味方の区別なく魔力を吸い上げて遥へと還元する力があり、そのために味方サーヴァントなどを取り込むと消滅させてしまう可能性がある。そのため、固有結界使用時には遥はサーヴァントに頼らない単騎での戦闘を強いられる。また、遥の剣士としての能力を一時的に引き上げるという力がある。