Fate/Everlasting Shine 作:かってぃー
遥の命を刈り取らんと一対の凶刃が迫る。それらは見た目こそ至る所で刃毀れした粗悪な
遥はそれらの軌道を見切るとまず左側から迫る刃を手甲部の装甲で受け止め、間髪入れずに右手に握る叢雲で胴を薙ぎ払った。亡霊海賊の身体が真っ二つに割れ、抵抗すらできずに消滅する。続けて逆側から襲い掛かってきた亡霊を蹴撃で怯ませ、返す刃で首を刎ねて絶命させた。
そこへ放たれるピストルの一成掃射。遥を取り囲むように展開した亡霊海賊とエドワード本人による、遥への集中砲火だ。その数はおよそ30を下るまい。それだけの人数でありながら掛け声もなしに射撃のタイミングのズレを無にできるのは、全員がエドワードによって統率されているからだろう。
だが意図的に全く同一のタイミングで撃つことができるというのは、逆に言えばエドワードの意志如何で完璧にタイミングをずらすこともできるということだ。亡霊海賊らは自立して動くこともできるが、自我がないために基本的にエドワードからの指示に背くことはない。
遥に向けて放たれる弾丸は第二波、第三波と更に増えていく。仮に叢雲で第一波を叩き落としたとしても後の弾丸全てを叩き落とすことはできまい。一応は装甲がある箇所は無視できるが、覆われていない部分の被弾は避けられない。そう判断した遥は叢雲を構えるのではなく全身に魔力を巡らせた。
瞬間、吹き荒れた暴風が遥へと迫る弾丸の軌道悉くを捻じ曲げ、無理に運動エネルギーを奪われた弾丸が船上に散らばった。それは何も神風のように唐突に吹いたのではない。遥が自らの身体から魔力放出によって魔力を暴風の如き勢いで解き放ったのだ。
金属質な音を立てながら床に散らばり、しばらく転がった後に魔力の光となって消滅する弾丸。3桁に届こうかというそれらが1発も用を為さなかったその光景を前にして、しかしエドワードは未だ余裕の笑みを消していなかった。
エドワードは海賊というもののイメージの通りに欲求に忠実かつ豪放なようでいて、その本質は非常に慎重かつ冷静、更には頭の切れる男である。海賊らしくもない統制された戦法が遥に通用しないなどとうに推測できている。それでもあえてそうしたのは、
それを知ってか知らずか、遥は全ての弾丸が地に落ちたと解るや叢雲を両手で強く握り、魔力を注ぎ込んだ。担い手の意志に応え、叢雲は喰らった魔力を加速させて黄金の刃と化さしめる。それを遥は叢雲を虚空に振るうと同時に撃ち出した。
だがそれはエドワードに着弾することはなく、代わりに何人かの亡霊海賊が間に割って入ったことで途中で霧散してしまった。舌打ちを漏らす遥と、嗤うエドワード。エドワードに魔力が供給され、更には船の上にいる限りは彼の意志によって配下は無尽蔵に召喚できる。実際、今でもイリヤは少なからぬ亡霊を相手にしている。この特性がある限り、エドワードに遠距離攻撃を使ったとしても肉壁に阻まれてしまう。
ならば、どうするか。そう考えそうになって、だがすぐに遥はその思考を放棄した。ここは船上、つまりはエドワードが最も得意とするフィールドである。下手に考えたとして、場の活用という点で言えば遥はエドワードには勝てない。故に遥にとっての最善策は考えて行動するのではなく、直感に従うことである。
「我が躰は焔――
その詠唱によって遥の体内で煉獄の固有結界が起動し、励起したそれから漏れ出す焔が起動を感知して変形したオルテナウスの関節部から洩れ出す。結界によって外界から隔離された体内の時間流が数倍にまで加速した。
続けての踏み込みと同時に脚から魔力をジェットのように噴射し、背部と脚部のバーニアと最大出力で吹かす。仙術の領域に至った歩法である極地に魔力放出、固有時制御、そしてバーニアによる物理的加速の後押しを加えた超神速。生半な英霊では補足することさえできない、神秘と科学の融合たる騎士にのみ許された超常である。
その途中でも亡霊海賊は遥を阻まんとするが、その全てを遥は神速が齎すエネルギーと持ち前の剣腕を以て曲刀ごと斬り伏せていく。そうして駄目押しにもう一度踏み込み、エドワードに向けて叢雲を振り下ろした。
だがサーヴァントの武練は自我無き亡霊のそれとは訳が違う。曲刀で遥の斬撃を受け止めたその刹那にエドワードは遥のそれが受け切れるものではないと悟り、受け流す方向へ転換した。甲板へと流された斬撃。その切っ先が突き刺さる。
「――馬鹿が」
一言のみの罵声。遥の斬撃を受け流したエドワードはその動きに続けるようにして曲刀を袈裟懸けに振るう。だが遥は切っ先が甲板に埋まった状態でも力任せに刃を返し、木材を苦も無く切り裂いて叢雲を振り上げて曲刀を迎え撃った。神剣と曲刀の間で火花が散る。
連続で撃ち合わされる神剣と曲刀。その度に甲高い金属音が鳴り響き、漏れ出した魔力が嵐のように吹き荒れる。だが剣士同士ならともかく片方がならず者であるのだからそのまま律儀に剣戟を続けている筈もない。
遥の背筋を撫でる悪寒。今までの経験上それに逆らわない方が良いことを知っている遥は素直にそれに従って首を横に倒し、直後、その頬を弾丸が擦過した。皮膚が巻き込まれて剥がれ、真一文字に刻まれた傷から鮮血が滴る。
だが遥はその傷を意に介することさえなく左手に固有結界から漏れ出す焔を収束させると、仕返しとばかりにエドワードの目前で解き放った。爆音。閃光。その衝撃で船の一部が吹き飛び、遥とエドワードが階下の船室に落下する。爆発の焔は船を構成する木材に燃え移り火事を引き起こすが、遥はそれを激流の魔力放出が生み出す水を撒き散らすことで鎮火した。
身体に圧し掛かった木片と金属片を押し退け、立ち上がる遥。その周囲には爆発によるものであろう瓦礫が散乱している。その瓦礫の隙間から見えるのはエドワードの身体であろう。爆発の影響でその身体は大半が吹っ飛び、残っている箇所も酷い火傷を負っているように見える。
しかし、
「ク、ハハ……結構効いたぜ、今のは……」
「……そいつはどうも。だが、肉片ひとつ残さないつもりだったんだけどな……」
いくら遥の固有結界から生まれた焔は外部に出ても遥に殆ど影響を及ぼすことがないとはいえ、それは神秘による影響であって物理的影響はどうにもならない。故に遥に出せるのはあくまでも夜桜の封印魔術で防ぐことができる範囲でしかないが、それでもサーヴァント1騎を消し飛ばすには十分過ぎる威力である筈なのだ。
その筈がエドワードは消し飛ばされるどころか生き残り、あまつさえ再生しているではないか。身体の圧し掛かる瓦礫を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、エドワードが立つ。その身体には既に目立った傷はなく、殆ど元のままに再生していた。
これがファースト・レディによって召喚されたサーヴァントの力。魔法少女らの魂を収穫する魔女以外にもそういったサーヴァントを用意していたのは、恐らく遥のように宿業を貫通して魔女を斃すことができる者が現れた場合のためだろう。そのために、魔法紳士は魔女よりも強化されている。
銃声。何の前触れもなく超高速の
だが叢雲以外で斃すことができないと解っている以上、それは初めから牽制という役目しか持たない。床が抜けるのではないかという程の踏み込みと、そこから放たれる超神速の刺突。エドワードは咄嗟に回避行動を執るが躱しきることができず、肩口に刃が突き刺さった。勢いを殺しきれずエドワードは後退って、それでも意地のみで叢雲を握る遥の腕を掴み、力任せに爆発によって壁に空いた穴に向けて投げ飛ばした。
千切れ飛ぶエドワードの左腕。空中に投げ出される遥。だが遥はオルテナウスに搭載されたバーニアを動かして姿勢制御を行い、着地するように海面に着水。同時に海面を蹴って跳躍してエドワードに肉薄するや、その身体を切り裂かんと叢雲を振るった。
エドワードの左腕は未だ治り切っていないものの右手に握る曲刀のみでそれを迎え撃ち、叢雲との間で火花を散らす。しかし隻腕とはいえ競り勝つのは当然地に足を着けているエドワードの方である。それを遥が分かっていない筈もなく、故に遥の狙いは競り勝つことではない。脚部バーニアを最大出力で駆動させて叢雲と曲刀の接触点を基点として無理矢理身体勢を反転、その勢いのままエドワードを蹴りつけて壁に叩きつけた。
そこに振り下ろされる叢雲の刃。それをエドワードはようやく再生した左腕と共に両腕で握った曲刀で受けた。鍔迫り合い。至近距離で睨みあうふたりの顔を、火花が照らす。
「……答えろ、黒髭。おまえらは英霊だろうに、何故あの女に味方する!!」
「ハッ、ンなコト、テメェに教える義理はねぇなァ!」
「貴様ッ……!!」
遥は既にレディの目的についておおよその見当はついている。あくまでもレディの敵でしかない遥が気づいているのだから、彼女の直接の配下である魔法紳士たちが知らない筈があるまい。遥はそう考えていて、そしてエドワードの反応からしてそれは間違いではなかろう。
しかし英霊とは基本的に人理を守る存在である。人理の内において反英霊として扱われる者たちも悪によって人理の正義を証明した存在である以上、そのスタンスは変わらないと言って良いだろう。
だが、魔法紳士はその枠組みからも外れている。彼らはレディに味方すれば人理が壊れるということを知りながら彼女を打倒せず、それどころか彼女に仇なす者を襲い、計画の達成に必要なものを奪おうとしている。明らかに下手人を幇助する行為だ。
生前の恨みによって人理焼却を為さんとした第一特異点のジル・ド・レェとも、霊基そのものを乗っ取られた第二特異点のロムルスとも異なり、極めて個人的な欲求のための人理に牙を剥くという英霊の本分に背く行為を、魔法紳士らは自らの意志で行っている。その原因はとうに推測はできているけれど、遥は問わずにはいられなかった。尤も、それが無意味な行為だと分かっているが。
拮抗する鍔迫り合い。それを転換させるために遥は叢雲に魔力を込めると、彼の行動に気付いたエドワードが回避行動を取る前に零距離で魔力撃を放った。壁を破壊しながら吹っ飛ばされるエドワード。更に遥は滞空状態のエドワードに追いつくと、その顔面を掴んでその先の壁に叩きつけた。
エドワードの髭面を掴む手に伝わる、頭蓋骨の砕ける感触。そうして頽れたエドワードの胴体に、続けて膝蹴りを撃ち込んで打ち上げ、そこに肘鉄を喰らわせることで再び床面に叩きつける。その時点で意識を取り戻し起き上がろうとしたエドワードの背を踏みつけて抑えつけ、叢雲を逆手に持ち替えた。
直後、振り下ろされる叢雲の刃。その切っ先がエドワードの背中からその体内に潜り込み、正確に肋骨の間を抜けて心臓、ひいては霊基の彼方に隠された霊核までもを貫いた。同時に拘束を解こうと抵抗していたエドワードの身体から力が抜けて、その存在が霊子に還り始める。
「俺の、勝ちだ。黒髭……!」
「おぉう、拙者、負けてしまったでござる……しかしこれで駒をひとつ潰したと余裕ぶらないことでござるなぁ。なぜならぁ、あともうちょびっとで最高の魔法少女が錨を上げて出航するのだからっ!!」
先程までの調子とは打って変わっておどけたオタクのような口調でそう捨て台詞を吐き、エドワードの霊基が完全に消滅した。だがそうして発生したものは通常のサーヴァントが消滅して発生するそれと同一ではなく、まるで影のように黒い靄。それはしばらくその場で蟠った後に跡形もなく霧散してしまうが、遥にはどうにも言い表せない違和感があった。
だが取り敢えず戦闘は終わった。オルテナウスが待機状態に入って、遥が大きくため息を吐く。腰の格納スペースを確認してみると、メディアから回収した宝石は間違いなくそこにあった。
どの程度の魔力があればレディの目的が果たせるのかは遥には分からない。全ての宝石が揃わなければならないのかも知れないし、或いはひとつだけでも実は十分という可能性もある。それでも、遥がそれを持っている以上はレディの目的が完全に達成されることはないだろう。精々時間稼ぎが関の山ではあろうが。
だが時間稼ぎのも意味はある。タイムリミットが全く不明な以上、1分1秒、コンマ1秒でさえ貴重な時間だ。敵の規模が全く不明であるのだから、時間はあるだけあった方が良い。
戦闘の影響で荒れきった部屋の壁に背中を預け、遥がその場に座り込む。その直後、甲板にいたエドワードの配下が彼の消滅に伴っていなくなったことで自由になったイリヤが転身した姿でその部屋に入ってきた。そうして座り込んだ遥を見つけ、駆け寄ってくる。
「ハルカさん! 大丈夫なの!?」
「あぁ、なんとかな。だが……流石に疲れた。少し寝るから、岸に着いたら起こしてくれ」
それだけ言った直後には既に寝息を立てて、座ったままの状態で遥は眠ってしまった。その姿を前にして、イリヤが優しく微笑む。
「……お疲れ様、ハルカさん」
「……黒髭が負けたようね」
特異点と化している固有結界〝
さもありなん。魔法紳士はレディの配下、親衛隊のようなものではあるが、初めから滅びゆくことが決定された存在でもある。戦力が減ったことは残念ではあるけれど、結局は予定が前倒しになった程度のことでしかない。
遥たちの認識において、魔法紳士はレディが邪魔者を排除するために使う手駒である。それは決して間違いではないが、完全に正解という訳でもない。何であれ手駒であるという事実には何も違いはにのだが。
今のレディには肉体がない。それどころか霊体としても彼女の存在は不確かで、クロエの肉体を借りていなければ一応は彼女の固有結界であるこの世界の内においても存在を維持できるかも分からない状態だ。
故に、存在を確立するための楔が要る。魔法紳士らはそのための材料だ。〝理想の魔法少女〟を求める彼らの妄念によってレディは存在を確立し、彼女の目的を果たすためのもの――
中空に手を翳すレディ。するとそこに魔法陣が現れ、そこから這い出るかのようにして黒い靄が出現した。それはまさしく遥が打倒したエドワードの中から現れたモノ、エドワードが抱く妄念に他ならない。遥の前で霧散したかに思われたそれは、消えてはいなかったのだ。
「アナタの役目はまだ終わっていないわ。さぁ、
幼い面貌に似合わぬ淫靡な笑みを浮かべ、まるで目前の影を褥に誘うかのような仕草で呼びかけるレディ。すると影はそれに誘われるままレディの広げた腕に収まり、その身体に溶けるようにして吸い込まれていった。そうしてレディは恍惚の笑みを浮かべ、快楽に身体を震わせる。
身体に、否、魂そのものに満ちる強壮感。レディの思惑通り、エドワードの妄執はレディの存在をより確固たるものにするための糧として十全に作用しているようだった。
本当に無意味で無価値な
だが、レディに敵対するあの男――夜桜遥は何かが違う。魔法少女に掛ける願望が少しでもあればそれを抗いきれぬほどに増幅する筈のこの固有結界の中において、あの男は正気を保っている。それは転じて、遥の心の中には魔法少女に、願いを叶えてくれるとも分からない他者にでも掛ける願望が何ひとつとしていないということになる。この固有結界内部で魔法紳士化しない時点で、それは疑い様のない事実だ。
それがどうしようもなくレディの
故に、殺さなければならない。レディの目的を支える信念にはひとつの例外もあってはならないのだ。その例外と成り得る因子が目の前にあったままでは彼女の計画にどんな悪影響が出るか分からない。
レディが指を鳴らす。すると彼女が座す部屋の中に無数の魔法陣が現れ、そこから湧き出すようにして出現した黒い魔力の霧が集合、魔杖の形を取った。それもただの魔杖ではない。円を描くパーツの両サイドから生えたリボンのような装飾に、内部の六芒星。色がくまなく漆黒であることを除いて、それらはマジカルサファイアと全く同一の見た目をしていた。
それもその筈である。そのステッキはレディが捕らえた美遊の相棒であるサファイアを解析し、それを元にして量産した礼装なのだから。尤も、似ているのは見た目と機能だけで厄介な人工精霊など憑いてはいないが。
本来ならば第二魔法を利用して造られた宝石翁の礼装など解析しようにも解析できないものであろうが、レディは魔術師ではなく魔法少女、つまりは広義でも何でもなく魔法使いである。同次元にいる者が作ったものを解析、複製できない筈もない。
更に変化はそれだけでは終わらず、複製カレイドステッキらの一部は尚もその身体から黒い魔力を吹き出し続け、それが複製ステッキを核として収束して霊基を形成。それぞれ異なる女性サーヴァントへと姿を変えた。その中には沖田やアルテラの姿もある。その数は10騎を下るまい。
それら女性サーヴァントは通常のサーヴァントではなく、しかしシャドウ・サーヴァント程に脆弱でもない。カレイドステッキを介して『
レディがそんなものを作った目的はひとつ。彼女の目的を阻みうる唯一の外敵たる遥を殺すためだ。どれだけ強力な敵であろうとも、圧倒的な物量を以て圧し潰せば斃すこともできよう。戦いは数なのだ。
偽魔法少女だけではなく複製ステッキも戦力として計上するのならば、その一団の総数は少なくとも50以上にはなろう。ひとつひとつの秘める力を考えれば相当な規模だ。それらに、レディが指示を下す。
「行きなさい、
研ぎ澄まされた刃のような殺意が籠る命令。それを受けた偽魔法少女らは何も答えず、しかしレディの命令のままに彼女の計画遂行の障害となる遥を排除するべくステッキの機能のひとつである転移にてその場を去った。
それを見届けたレデイは腕を一振りして自身も転移魔術を行使。彼女の眼前に現れた魔法陣から1騎のサーヴァントが現れる。鍛え抜かれた肉体を誇示するかのように身体に密着した濃緑の戦装束に、赤と黄の宝槍。そのサーヴァントはディルムッドに他ならない。
遥に消し飛ばされた半身はエドワードと同じく既に完全に回復しており、全力で戦闘した所で何ら支障はない。それなのにその真顔は内心の口惜しさが隠しきれていなかった。それもその筈である。残った魔法紳士3人のうち、出撃していないのは彼だけなのだから。
「あの男から敗走したことがそんなに悔しいの、ディルムッド? でも仕方ないわよね。英霊の宝具だけを使える礼装があるなんて私も知らなかったし……何より、あの男はアナタの槍捌きを熟知していた。アナタはあの男の太刀筋を知らなかった。それだけで勝負なんて決まっているわ。
あぁ、勘違いしないで。別にアナタを責めているワケではないのよ? あの男がアナタを知っているなんて私も想定外だったもの」
「ッ……!!」
そのレディの言葉はまるで失敗した部下を労う上司のようであったが、その実ディルムッドを力不足と詰るものであった。確かに戦闘において未知と既知が発生させる差は大きい。しかし英霊でもない剣士を相手に、英霊であるディルムッドがそれを超えられなかった。それもふたりがかりで。その事実がディルムッドの誇りを傷つける。
サーヴァントというものは基本的に別機会で召喚された際の記憶を引き継がない。そのうえ英霊は既に死者、完結された存在であり〝成長〟という現象とは極めて縁遠い位置にいる。しかし遥は神霊を取り込みながらも生者であるからして、
であれば、何とするか。いくら精神を歪められているとはいえ、ディルムッドは騎士だ。自らの失態を挽回しようと思うのは当然である。そうして思考を巡らせ続けて、しかしその思考は途中で断ち切られてしまった。
跪いた姿勢のままにディルムッドを縛り付けているのは、美遊を拘束しているものと同一のレースリボン型礼装〝
「主!? いったい何を――」
「落ち着きなさい、ディルムッド。私がアナタを強くしてあげる。誰にも負けない力を与えてあげるわ。……まあ原理原則を無視して無理矢理に成立させた術式だから、死ぬ程辛いでしょうけど」
幼い
霊基が砕ける。意識が焼ける。自意識が連続して存在を維持しながら、霊基だけが全く別の状態に書き換えられていく。いや、それは正しい表現ではあるまい。彼はサーヴァント召喚の原則を無視して溶けあわされているのだ。似て非なる存在と。
肉体が変質する。いかにも最速のクラスたるランサーらしい細くしなやかな筋肉はより強靭かつ太く変わり、最低限の装備のみだった装束にはより防御力を高めるための軽装鎧が増設される。腰のベルトに取りつけられた鞘には
両手に握っているのは先と変わらず赤と黄の宝槍でありながら、腰には同色の宝剣を佩いている。肉体は速さと強靭さの両立、その最適解へと。青く染めあげられた軽装鎧が窓から差し込む光を受けて美しく輝き、白いマントがはためく。
嗚呼、強壮なるかな、その御姿。フィオナ騎士団最強の騎士は今、在りし日の姿を取り戻したのだ。在り得ざる『
「さぁ、まずは肩慣らしといきましょうか。久しぶりにその姿になったのだもの。慣熟訓練は必要でしょう? ……メイヴから宝石を回収してきなさい。あの子、面白く状況を引っ掻き回してくれそうだから放っておいたけど、流石にそんな悠長なコトはもう言っていられないもの。
あの子の傍らには光の御子の贋作もいるけれど……それを斃すくらい、今のアナタには簡単なコトでしょ?」
「勿論です、我が主よ。必ずやあの蒙昧めを仕留めて御覧に入れましょう」
主の命令に頷きを返すディルムッド。今ここに、この