Fate/Everlasting Shine   作:かってぃー

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第90話 汝、大海賊と手を取り合え。

 ワンサイドゲーム。マシュを筆頭とするβ班のサーヴァント達と海賊らの戦闘を形容するならば、その言葉が最も適切であろう。いや、それは最早戦闘と表現する事すらも不適ではないかとすら感じられる程に一方的であった。

 

 そもそもの戦闘能力の桁が違い過ぎる、というのもある。海賊らが弱い訳ではないが、相手は人理にその名を刻んだ英霊、それも大半が神秘に満ち溢れた神代の生まれだ。いくらサーヴァント化して身体能力が生前に比べ大幅に低下しているとはいえ近代の人間に劣る訳もなく、その点で見てもパワーバランスは明らかである。

 

 だがそれ以上に、その戦闘の趨勢を決定づけた要素として大きいのは人間とサーヴァントの間に横たわる相性差だ。サーヴァントはその存在そのものが神秘の塊とも言える霊体であるが故に、通常の物理攻撃は意味を為さない。海賊らの持つ通常兵装では、ダメージを与えられないのだ。一方的な戦闘になるのも致し方ない事であろう。

 

 とはいえ、だからこそ海賊らを無用に傷つけずに無力化できたというのも事実だ。或いはそれは一種の横暴、強者の傲慢であり自身はそれに便乗しているだけなのだろうかと立香は思うけれど、彼はマスターなのだ。彼がマスターとして命じ、サーヴァントが実行したのなら、何であれ彼には背負わねばならない責任が生じる。自分だけ無力だから関係ないなどと、そんな無責任は許されない。尤も、善性の極地である立香が責任を放棄するなど万にひとつも在り得ない事であるけれど。

 

 ともあれ海賊らを殆ど無傷で捕縛できた立香らβ班はその後の交渉の甲斐あって、少なくとも彼らの言う〝奴ら〟とやらの一味ではないと理解してもらう事に成功していた。その過程で興奮状態にあった彼らを鎮静化するためにクー・フーリンにルーンによる暗示を掛けさせたのは心苦しくはあるが、洗脳や思考誘導の類は行っていない。信用を得られたのは、ひとえに交渉を担当した立香の手腕であると言えよう。

 

 ──鬱蒼と茂る森の中、草木を掻き分けながら立香らが海賊らの後に続く。凡そ人獣が通った後にはそれらしい跡が残るものなのだろうが、ひどく青々としたこの森の内では僅かな残滓のみがあるばかりだ。到底人がいるようには思えないが、海賊一味らの中でも幹部格と思われる赤バンダナの船員──〝ボンベ〟によればこの先に彼らの仲間が身を隠しているらしい。

 

「いいか、オメェら。もう少しでオレらの隠れ家に到着するが、くれぐれも騒ぐんじゃねぇぞ。クソミソにやられた後で、どいつもこいつも気が立ってるからよ」

 

 真剣な表情でそう忠告するボンベに、立香が返したのは了解の意。ボンベらが襲ってきた際の口ぶりから立香は朧気に察してはいたが、どうやら彼らは何者か──恐らくはサーヴァントであろう──の襲撃を受け、あわや壊滅か、といった所まで追い詰められていたようである。立からの前に現れたのは、辛うじて重症を免れ治療の済んだメンバーであったらしい。

 

 彼らがただの海賊であれば、多少冷酷な思いではあるがそれも致し方なしと考える。むしろサーヴァント相手に負傷者を出しつつも生き延びられたというのが驚きだ。だが、ボンベらが言うには彼らの頭領はかの大海賊〝フランシス・ドレイク〟であるという。そうなってくると、話が別だ。

 

 フランシス・ドレイク。イギリスの艦隊を率いて当時は無敵と称されたスペイン艦隊を打倒しエル・ドラゴと呼ばれ恐れられた船乗りであり、それ以前には私掠船船長としてマゼランに続く2度目の、存命のままの人間としては世界初の世界一周を成し遂げた、魔術世界で言う所の〝星の開拓者〟である。〝不可能である筈の事象を不可能であるまま達成する〟というある種の矛盾を捻じ伏せる彼の者を追い詰めたというのだから、敵対するサーヴァントは生半な英霊ではないのだろう。

 

 歩きながら立香がそのような思考を巡らせていると、不意に振り返ったボンベと目が合う。どうやら彼らの隠れ家の前まで来たらしく、ここで待てとの事であった。その指示に従い立香らは足を止めて、ボンベらは来客の取次に戻っていく。

 

 そうして、一拍。礼装に記録された強化魔術を視覚に施して木々の間からその先の空間を覗く。そうして見えたのは、一種の野戦病院とでも言うべき光景であった。ある程度開けた空間の中、簡素な設備に怪我人が並んでいる。だがそれも数人の重傷者のみで、多くは獣のような眼光を覗かせつつも銘々に安静にしている。その光景は、おおよそ海賊というイメージからは想像できない程に大人しく見える。まるで、何者かにそう言い含められているかのようだ、と立香はもう。彼の観測を通じて同じものを見ていたのか、通信機からロマニの声がする。

 

『……妙だな。実際に見ている訳じゃないから断言はできないけど、随分としっかりと治療されているみたいだ。誰か腕の立つ医者がいるにしても、まだ大航海時代だぞ……?』

 

 医術の発展が一朝一夕のものではなく人理の歩みと共に進歩してきたとはいえ、現代になってから大きく飛躍を遂げたのは言うまでもない。海賊らが大航海時代の人間である事を考えると、彼らに施されている医療は時代にそぐわないものであるようにも見受けられた。

 

 だがそれに答えが示されるより早く、ボンベが立香らの許へと戻ってくる。

 

「来な。姐さんからお目通りの許可が出た」

 

 その言葉に立香は頷きを返し、ボンベの先導で海賊らの潜伏場所へと身を晒す。瞬間、彼が感じたのは全身を貫き穿つような凄烈な視線。或いはそれのみで人を射殺さんばかりのそれは、尋常な人間であれば凡そ知る事もなく死んでいく筈のものだ。

 

 それは何処かローマの戦争において連合ローマの兵士らから向けられたものと似ている。だが似てはいても、両者は根本から異なるものだ。連合ローマ兵らのそれが正義であるなら、こちらは猜疑。手負いの獣は平時よりも獰猛である、というようなものだ。

 

 慣れている、とは言えまい。今とて態度こそ毅然としているようだが、実際は堪えているだけなのだ。腹の底に力を込めて。海賊らの反応はあくまでも自然で、ある意味ではそれも人間の描く色彩のひとつである。

 

 超然としているのではない。ただそれも正当な反応だと受け容れているに過ぎない。反対に不自然な事と言うならば、それだけ好戦的な様子を見せていながら誰一人として仕掛けてこない事か。そんな思考を遮るように、声。

 

「ボンベ、ソイツらかい? アタシに会いたがってるって連中は」

「へぇ。そうっス」

 

 ──立香の視線の先、そこにいたのはひとりの女性であった。身の丈は特別大きいという訳ではないようだが身に纏う威圧感、或いは気配のせいかそれを感じさせない豪傑といった存在感を放っており、顔の右上から左下にかけて刻まれた傷が野生動物めいた美貌をより凄烈なものにしている。

 

 この女性が、かの大海賊フランシス・ドレイク。現代まで語り継がれる歴史と性別は異なるが、そんな事は最早どうでも良かった。男性だと伝えられていたが実は女性でしたなどと、立香はアルトリアらやネロなどで何度か経験しているし、何よりその場にいるだけで呑まれてしまいそうな存在感が間違いなくこの女性が英雄なのだと物語っている。──たとえ、その身体に明らかな負傷の跡があろうとも。

 

 恐らくは骨折、或いはそれに近しい傷を負っているのだろう。ドレイクの右腕、そして左脚にはギプスの固定と思われる包帯が巻かれており、左脇に松葉杖を挟んでいる。であれば、彼女の背後に建つありあわせの材料で造られたと思しき簡素なテントは仮設の診療施設なのだろう。あの中からサーヴァントの気配がします、とマシュの耳打ち。

 

「で、随分とキテレツな格好の連中だが……何者だい? アンタら」

 

 睨み付け、探るような視線。圧倒的なまでの存在の〝格〟とでも言うべき空気感に引きずり込まれそうになりつつも応え、立香が口を開く。

 

「オレは藤丸立香。こちらはマシュ・キリエライト。カルデアという組織に所属する者です」

「カルデアぁ? 星見屋が何の用だい。またぞろ、新しい星図でも売りつけにきたとか?」

 

 怪訝そうな、それでいて明確に冗談だと分かる声音であった。しかし、カルデア。その名前だけなら占星術などの天体観測技術に優れるカルデア人という民族も該当するが、時代が違い過ぎる。となると、ドレイクが言っているのはアニムスフィアに関係するカルデアなのだろうか。尤も、確かめる意味もないだろうけれど。

 

 だが少なくともドレイクが立香らに対して悪い印象を持ってはいないようで、立香は内心のみで安堵の吐息を洩らした。だが、本当に安心するにはまだ聊か早すぎる。すぐに再び気を引き締める。

 

 で、実際の所は何の用なんだい、とドレイク。それに応えて自身らがこの場を訪れた経緯を語る立香と相対する大海賊の表情はあくまでも真剣で、荒唐無稽とも取れる彼の話に疑いを持っていないようにも見えた。

 

「……ふぅん。海がおかしい、ね。そりゃ確かにアタシも感じちゃいたよ」

 

 神妙な面持ちでドレイクは言う。

 

「地理がおかしい。天気がおかしい。海流がおかしい。アンタらが何処まで知ってるか分からないけどね、この海域はまるでツギハギだよ」

「ツギハギ……」

 

 ドレイクの言葉に、立香の脳裏を過るのはレイシフト直後に目の前に現れた海の姿。彼は海洋の気象や様子について明るくはないが、それでも何かがおかしいというのは誰の目から見ても明白だ。であるのだから、海賊ならば猶更なのだろう。

 

 その異常が聖杯による直接的なものなのか、聖杯を用いた何らかの大規模な魔術によるものんあのか、はたまたこの特異点の発生地点そのものが通常の位相ではないのか──世界にテクスチャというものが存在するのは立香もマーリンや遥から聞いている──様々な可能性が考えられるが、今のところは断定できない。

 

 だが間違いないのは、この特異点に来たばかりの立香達よりもドレイク達海賊の方がこの異常を正しく認識しているという事だ。加えて彼女はこの時代における重要な人物であるのだから、放置という訳にもいくまい。そんな彼らの事情は、ドレイク達には関係のない事だろうけれど。

 

「……で、アンタらはその異常をどうにかするために探し物をせにゃならんが、足がない。おまけに海に不慣れときている。で、海賊だろうがアタシを頼る他ないと。そういうコトだろう?」

「海賊がどうとか、関係ないです。オレたちは、フランシス・ドレイク、貴女だから頼りたいと思った。必要だと考えた。それだけです」

「へぇ。なかなかの口説き文句だね、悪くない。

 ……だがね、アンタらと違ってアタシらは自由のためならどんな悪徳でも許容するんでね。異常! 不明! 大いに結構!! (ロマン)があるじゃないのさ!」

 

 話が通じていないのではない。ドレイクは自らが置かれた状況や立香らの立場、事情を理解していて、それでもなお現状を善しとしている。夢が浪漫があるというそれだけのちっぽけな、しかし人間が自己の行動を決定するには十分過ぎる理由だ。

 

 そんな事で、とは口が裂けても言えまい。立香とて、特異点を取り巻く人理焼却などの事情を知らないでこの中に放り出されれば恐怖に慄きつつも未知と冒険に心を躍らせていた事だろう。いや、今でも内心、まだ見ぬ場所への好奇心を覚えている自分を、彼は自覚している。

 

 ならばいっその事、自分達も冒険に連れていってほしいとでも言うべきなのだろうか。達成すべき目標からは遠のいてしまうかも知れないが、本心には違いない。そんな事を考えていた立香だが、その目前で不意にドレイクの表情が苦虫を噛み潰したかのようなそれに変わる。

 

「しかしだ。今、アタシらが自由を謳歌するにはひとつ問題があってね」

「問題?」

「あぁ。なんだったかねぇ、ヤツらの名前。ア、アル──」

「──英雄旅団(アルゴノーツ)だ」

 

 ドレイクの言葉をそう引き継いだのは、彼女の配下たる海賊らではない。ドレイクの背後、簡易テントから姿を現したのは、一言で言えば〝医者〟であった。黒い手術着とマスクを着用しているが今は手術中ではないためか長い白髪が露出している。手に持っている魔杖に巻き付いているのは蛇の使い魔だろうか。手術帽とマスクの間から覗く瞳は気だるげで、しかし同時に得体の知れない欲のような光が宿っている。

 

 この男性が、マシュが感知したサーヴァントに間違いあるまい。時間の概念がない『座』に本体が存在するサーヴァントであれば、この特異点の年代にそぐわない医術を施せることにも一定の説明が付く。それに魔術師としては未熟も甚だしくとも恐らくは人類史上最も多くのサーヴァントと出会った人間である立香は、その経験のせいか魔術的知覚に依らずとも感覚的にサーヴァントと人間の見分けを付ける術を見出しつつあった。或いはそれは、彼の持つ特殊な魔眼の効力でもあるのかも知れないけれど。

 

 唐突に会話に割り込んだ形になったからだろうか、その場にいた一同の視線が男性医師に集中する。ともすればひどく気まずく感じてしまいそうな状況であるが医師がそれを意に介した様子はなく、立香が問いかけた。

 

「貴方は……?」

「『魔術師(キャスター)』アスクレピオス。ただの医者だ」

 

 アスクレピオス。思いもよらぬビッグネームの登場に、立香とマシュが瞠目する。彼の医神の名といえば、たとえさして神話に詳しくない人間でも一度は耳にしたことがあるだろう。

 

 太陽神アポロンとラピテス族の王プレギュアスの子女たるコロニスの間に産まれた半神半人にして、半馬の教導者ケイローンに養育された弟子のひとり。また、先程彼自身が口に出したアルゴノーツのメンバーでもある、現代にまで語られる医学の祖である。

 

 しかしドレイク、更にはボンベの言う〝ヤツら〟の正体がアルゴノーツであるならば、何故彼がここにいて、ドレイクらの治療を行っているのか。疑問が表情に出ていたのか、アスクレピオスが答える。

 

「何を呆けた顔をしている。面白くもない症例ばかりだが、患者がいる以上、診ない医者がいるものか」

「面白くない症例で悪かったね」

 

 ぼやくように、皮肉るように呟くドレイク。しかし医師はつまらなそうに鼻を鳴らし、特に何を返すでもなくすぐに立香へと向き直った。

 

「それより。おまえ、魔術師だろう? なら僕と契約しろ。今すぐにだ」

「えっ!?」

「驚く事ではないだろう。僕はサーヴァントだ。どうやら特異点にいる限り現界する魔力には困らないようだが、魔力供給源は近くにいた方がいい。使える治療法が増える。

 聖杯ならこの女も持っているが、魔術師ではないからな」

「は……!?」

 

 ドレイクが、聖杯を持っている。何という事でもなさそうにアスクレピオスが口にした情報に、立香が本日何度目になるかも分からない素っ頓狂な声を漏らす。その様はともすれば間抜けの誹りを受けかねない程だが、情報の重要性を考えれば仕方のない反応だと言える。通信の向こうでロマニが全く同じ反応をしたのも当然と言えよう。

 

 その表情のままドレイクの方へと視線を遣る立香。するとドレイクはそれに込められた意図を察したのか、自身の鳩尾辺りに手を遣った。刹那、彼女の身体から溢れその手に収束する魔力の光。さして間を置かずそれは実体を成し、黄金の輝きを放つ杯と化した。

 

 間違いなく聖杯である。しかし人理焼却の原因として特異点に設置されている聖杯は黄金の杯の形をしたいかにもそれらしいものではなく、半透明の結晶体の姿をしているのが通例であった。そもそもとしてドレイクの持っている聖杯が特異点化の原因であるなら、サーヴァントであるアスクレピオスが見過ごしているのは不自然だ。そんな動揺が透けていたのか、ドレイクが自慢げに語る。

 

「あぁ、コレかい? この海に来た時に、ポセイドンを名乗る輩と出くわしてね。気に喰わないからブッ斃して、島ごと沈めてやったのさ。これはその時に手に入れたお宝のひとつさね」

「フン、ポセイドンめ、いい気味だな」

 

 ドレイク言葉に続き、嘲笑うかのようにアスクレピオスは言う。その様子からするに、たとえ直接的な関係はなくとも彼は自身を殺害する決定を下した、或いは自身を葬ることで死者蘇生の霊薬の製造法を永久に喪失させたギリシャ神を良く思っていないようである。

 

 だが、それは問題ではない。いかな医神とさえ称される程の人物であろうとも、人である以上他者への好悪があるのは当然の事だ。差し当たって事実確認をすべきであるのは、ドレイクの方だ。

 

 ポセイドンを殺害し、聖杯を含む宝物のいくつかを奪った。その文面だけならばいかにも海賊らしい行いだが、問題はポセイドンが紛れもない神霊であるという点だ。時代を考えれば零落し果てているどころか人理に溶けるか世界の裏側に落ちていないと不自然ではあるが、ここは特異点だ。神代に近しいマナが満ちているこの空間ならば、条件さえ整えば神霊も絶大な力を揮えるだろう。それを、斃した。俄には信じがたい話だが、戦利品がある以上は信じない訳にもいくまい。

 

 そして特異点化の原因ではないのだとしても聖杯であるなら、カルデアの回収目標のひとつである。しかし自らの力で奪い取ったものであるから、ドレイクは簡単には渡そうとするまい。あるとすれば、聖杯と同等の価値があるとドレイクが判じそうな物品、この時代であれば山盛りの香辛料を対価として提示して交渉する、などか。生憎と今は持ち合わせていないが、後で試してみる価値はあるだろう。

 

 兎に角、今は今すべき事をしなくてはなるまい。そうして立香がアスクレピオスと契約を結ぶや、医神は回診に行ってくると残してその場を去った。完治するまでは海賊行為は厳禁(ドクターストップ)だからな、とも。念押しめいたその一言に、ドレイクがため息を吐く。

 

「うるさいねぇ。分かってるよ、ンなコトは」

「あはは……それで、話を戻しますが、アルゴノーツが貴女達を襲った〝ヤツら〟の正体なんですか?」

「あぁ。医神(センセ)の話では、そうなんだとさ。連中、恐らくアタシの持ってる聖杯(コレ)が狙いなんだろうね。……アタシらともあろう海賊が、手も足も出なかった。屈辱だよ」

 

 手も足も出なかった。サーヴァントの特性を考えれば、それも当然だと言える。実体として肉の身体をもつ人間と異なり、サーヴァントはその本質を霊体とする存在だ。聖杯を持つドレイクはともかくとして、彼女の仲間の攻撃は一切通用しない。であるにも関わらずアルゴノーツ程のサーヴァントらから一度でも逃げ切る事ができた時点で軌跡と言えよう。或いはそれも、星の開拓者のなせる業なのだろうか。

 

 だがそんな第三者からの印象など、ドレイク達の知った所ではあるまい。彼女らにとって重要であるのは、一方的に襲撃され、半ば自由を奪われたという点。反撃に出ようにも、相手の人数にもよるにせよドレイクとアスクレピオスだけでは打倒は殆ど不可能と言って良い。それだけは、星の開拓者の力を以てしてもだ。

 

 しかしだ。そんな絶望的とすら言える状況にあって、ドレイクの瞳に諦念の色合いはなかった。むしろそこには肉食獣めいた爛々とした眼光が宿り、反抗の機会を虎視眈々と狙っているかのようですらある。或いはそれは、カルデアという一種の光明と出会った事でより強まったのだろうか。

 

「ドレイク船長。貴女の話を聞いて確信しました。……貴女と、オレ達。斃すべき相手は同じです」

「だろうね。見れば分かるよ、アンタら、あぁ、藤丸以外だが……連中やセンセと同じ類だってのは。

 だがね、本当にいいのかい? 藤丸、アンタはアタシらと同じ、ただの人間だ。命張ってもらう事になるよ」

「元より覚悟の上です」

 

 即答であった。しかし立香の答えにドレイクはすぐに答えを返さず、凄味とでも言うべき圧の籠った目で真っ向から彼を射抜いている。その様たるや、10cm近い身長の開きがあるにも関わらず圧倒的な高みから見下ろされているかのようだ。

 

 だがそんな威圧に晒されてもなお、立香はドレイクから目を逸らさない。それどころか正面から受け止め、押し返しているかのようですらある。無論、全くの平気というのではない。何しろ、相手はかのフランシス・ドレイクである。その殺気は尋常のそれではなく、気を抜けば膝が笑い出してしまいそうな程だ。

 

 何の関係のない他者がそれを知れば、情けないと嗤うだろうか。しかし立香は、その恐怖を恥だとは思わない。彼はただ、それを堪え、受け止め、呑み下す。それだけだ。それからどれだけ経ったか、不意にドレイクが破顔する。

 

「嘘は言ってないようだね。それに、アタシの殺気を受けてビビッてもブルッちまわないだけの度胸もある。

 ……なら良し! 取引成立だ!」

「……! じゃあ……!」

「あぁ。アンタらをアタシらの船……〝黄金の鹿号(ゴールデンハインド)〟に乗せてやるよ。まぁ、アタシらの怪我が治ってからだけどね!」

 

 おどけるようにそう言ってドレイクが左手を差し出し、立香がそれを握り返す。

 

 此処に海賊(ドレイク)星見屋(カルデア)、奇妙な組み合わせの同盟は成ったのである。

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