ダンジョンに凄腕シェフがいるのは間違っているだろうか 作:無痛
アイズとの回想からミノタウロスとの戦闘後に戻り、紅はアイズに助けて貰ったあとある事を思い出した。
「あれ、そういえばさっきミノタウロスに追われてた白髪の少年は??」
「...あそこにうずくまってる子??」
アイズが指を指すその先には震えてうずくまる白髪の男の子がいたのだ。
アイズがその男の子の元に駆け寄り声を掛けると...
「ホ、ホワァァァァァァァァ!!!!」
白髪の男の子はアイズに声を掛けられると
沈黙の後、叫びながら逃げてしまった..
「...逃げ、ちゃった...」
「助けたのに逃げられるとは...
アイズ、どんまいだな...怖がられたか?」
「もう!からかわないでっ!」
二人でその場に立ち止まっていると、アイズが来た方向から一人の青年が向かって来た。
「おい、アイズ!ミノタウロスは見つかったか!?...ってなんでてめえみたいな雑魚とアイズが一緒にいるんだよ!」
「紅に酷いこと、言わないで...ベートさん」
「いいんだ、アイズ。俺はまだベートの言う通り雑魚なのに変わりはないから。」
「へっ、自分で自覚してんなら偉そうな顔してんじゃねぇぞ!お前なんてただホームで美味い飯作ってればいいんだ!」
「参ったな、ベートに料理を褒められるとは
なんて日だ。今日は、雪でも降るかな?」
「あぁ!?んだとっテメェ!?今ならまだ謝罪と豚骨醤油ラーメン作るだけで許してやるぞ!?」
「ハハッ すまんすまん。ホーム帰ったらすぐ作ってやるから許してくれ。」
「帰ったらすぐだからな!?麺は硬めでスープ濃いめで油多めだぞ!?忘れんなよ!」
「はいはい、覚えとくって!忘れないよ。」
「ちょっと待って!!紅!先に私に作ってね!ベートさんより先に私の方が早く頼んだのっ!」プクーッ
なぜ、ベートが紅にこんなにも親しく会話をしているのかというとそれは紅が入団した初日の日に時はさかのぼる...
その日、ベートはファミリアの誰よりも早く夕食を食べようと食堂に来ていた。
しかし、ベートはいつも作られている質素な食事ではなくコース料理というものにメニューが変わり怒りを抱いて、厨房に怒声を飛ばした...
「おいっ!誰だこんなもん作ってるやつ!
出てこい!」
すると、厨房から見た事のないやつが出て来たと思うと自分の思った事を言葉にしてぶつけた。
「冒険者目指してこのファミリアに入ったんだよなぁ?ならなんでこんな下らないもんに力入れてるんだよ!!そんなことしてるくらいなら少しでもダンジョンに潜りやがれ!」
「...下らないもの??お前料理をなんだと思ってる??」イラッ
「料理なんてただ食えるもん食うだけのそんなもんだろうがっっっ!?」
「はぁ〜、お前は料理の事をなんもわかっちゃいないな。。」
「はぁ?どういう事だよ...」
そして、ベートが紅の言った言葉の意味を聞こうとしたが...
「まぁいい。とりあえず、そこ座って大人しく待ってろ。分からせてやる」
「あぁ、いいぜ?ただし、下らな過ぎたらお前の事本気でボコしてやるから覚悟するこったな」
そして、ベートは紅に言われた通りに席で待っていると数十分して紅が厨房から大きな丼を持って来てベートの前に置いた。
ベートは丼の中を覗きこむとそこには、器の底が見えないほど濁ったスープとその上に大きな肉をスライスしたものとたくさんの茹でた野菜が乗っていたのだ。
「なんだこれ....」
「特製豚骨醤油ラーメンだ」
「これ食ってマズかったらタダじゃおかねぇからな....」
そして、ベートは紅が作ったラーメンを一口食べると...
(う、美味えぞこれ !!!!ズルズルズルッッ
食ったことねぇわ!!!!ズルズルズルッッ
食べ応えもあるし!!!何よりこのスープがやべぇ。鼻腔の奥にまで香りもガツンと来るし見た目は濁ってるだけのように見えるが、飲んだ瞬間に豚の旨味とその他に煮込んだ食材の甘味が滲みでてるのがハッキリ分かる!!)
「どうだ??その料理はお前みたいな強気のやつにはぴったりな筈だ。」
(こんな美味え飯は初めてだ....あと、この料理にはこいつの尋常じゃないほどの努力が注ぎ込まれてるのが伝わってくる...ん?あれ?そういや、これ食ってからさっきまで鍛錬してたのに身体の疲れが全くないぞ??)
「あと、身体の疲れが取れただろう??この料理を作る前にお前を見たらだいぶ疲れが溜まってるなと思って疲れを和らげたり飛ばしたりするような食材を入れてあるからな」
「チッ だったらなんだよ。こんなもん作ったくらいで調子にの 「お前今、自分に限界を感じてるだろ??」 だったらなんだってんだ!!お前みたいな雑魚に分かるわけねぇだろ!!」
「いや、分かるね。俺もお前と同じような事が何度もあったからな。その時、何が俺を救ってくれたか分かるか??」
「何だよ....」
「簡単さ、、、俺の料理を食べて喜んでくれる人達だよ。俺自身の為に料理なんて作っても意味がないんだ。だからまわりの人達の声をもっと聞いてみろ。そうすれば今、自分に足りないものが何なのか分かる筈だ。」
「足りないもの....」
「そうだ。例えばな、そのラーメンのスープを作るのにどれだけの月日が経ったと思う?」
「こんなスープなんて一か月くらい掛けりゃ出来るだろ」
「そのスープはな、5年かけて試行錯誤を繰り返してようやくできたもんだ。毎回毎回、最後には何か一つ足りない気がして色々な食材を試したんだ。
だけど、見つからなくて諦めかけたその時にな、たまたまその未完成のスープを飲んだ客がこう言ったんだ。
『もっと味に鋭さがあると面白い』って。
その言葉を聞いたおかげでそのスープが作れたんだよ」
「五年か....こんな一杯の為にそんなに時間をかける奴がいるんだな....」
「それはな?自分の為だけなんかじゃないから出来るんだよ。まわりの人達が喜んでくれるから出来るんだ。お前だってそうかもしれないぞ?たまには周りに優しく接してみろ。何か掴めるかもな」
「俺自身の為だけじゃない、たまには...か...よし、なんか分かった気がするわ。これまた食べるから作っといてくれ」
「いつでも言ってくれ。すぐ作ってやるよ」
そうしてベートは、食堂を後にして中庭に行くと団員の何人かが模擬戦をしている所に割り込むといきなりそこにいた団員一人一人に自分なりに考えてその人に合った動きを指導し始めた。
「そこは、こうやって攻めばいいんだ!!おい!!お前の耐久力なら受け止めてアタッカーに任せればいいんだよ!!お前!!目で追うだけじゃなくて身体も動かせ!!」
ベートさんが優しい...
今日なんか変だな....
ギャップがイイッッ!...
分かりやすいし動きやすくなったかも....
「お前ら!口じゃなくて身体を動かせ!!」
そして、
紅にヒントを貰ったベートは、自分が悩んでいたものが何なのか分かったのかその日以降の戦闘で前衛の味方の行動をもっと見るようになり連携の取れた前衛のアタッカーとしての能力が格段に上がり更なる階層進出を果たすきっかけにもなったのであった。