「うぁー……」
冬の到来に合わせてもこもこ度合いが増した自室に奇妙な鳴き声が響いた。
「あぁー……」
考えるまでもなくわたしの声だった。
あっちにごろりこっちにごろり、くるくるくるくるじたばたじたばた。最後にぽすりと突っ伏してもう一度。
「あぅー……」
どう控えめに見ても頭のおかしな女だ。自覚はありますとも、ええ。別に頭のおかしな女でいいですよーだ。そんなのこの悩みに比べればどれほどのものだろう。わたしには今、そんなことより重大で重要な超緊急案件があるのです。悩める女の行動はいつだって不可解であるものなのです。うんうん。じゃー仕方ないね。
「どうしよう……」
ぶんぶんと頭を振って逃げかけた思考を引き戻す。でも、考えても考えても妙案なんてこれっぽっちも浮かんでこなくて、妙案ってなんだっけ状態で、わたし一体どうなっちゃうのー!? って感じで。
夜はどんどん更けていって、次第に雀の鳴き声が聞こえてきたりして、そのうちカーテンの隙間から薄い光が差し込んできちゃって、窓を開けたら冷たい空気の中に太陽の光があったりしちゃって……ちょっと待て。太陽?
「まじか……」
朝じゃん。誰がどう見ても朝じゃん。すごい……朝までコースだったのか。今日は寝かせないぜ的なやつだったのか。そういうのはもうちょっと仲良くなってからにしてもらっていいですかごめんなさい。
すぅと息を吸い込むとひんやりとした空気が喉奥を冷やして、別に落ちてもいない意識を覚まさせる。ぼんやりとはしてたのかもしれない。なんだかすっきりした。
すっきりしたからってなんか案が浮かんでくるかといえば、そんなことは微塵もなくて。もうちょっとこの世界はわたしに優しくするべきだと思った。朝から世界の厳しさを体感してしまった。さすがわたし。
「……アホくさ」
とりあえず着替えなければ。完徹したって学校は容赦なくやって来る。窓なんて開けたせいで寒さが増した室内で、するりするすると制服に着替えていく。考えごとをしているとそんなに寒さは気にならなくて、顔を洗ったときに初めて冷たって叫んだ。それ寒いじゃなくて冷たいじゃないっすか、ウケる。いやウケねーから。
さてどうしようか。いつのまにか遠ざかっていたものを再び引き寄せたのは玄関を出たときだった。
改めていうまでもない寒さに、思わず顔が引きつってしまうけれど、頭はどうにも熱っぽい。実際、熱があるんだとも思う。昔は、そうやってバカみたいに悩んで浮かれて焦げるくらい熱い気持ちに振り回される日がわたしに来るなんて想像もできなかった。
それはきっと心のどこかでそういう人たちをバカにしていたというのもあるし、生まれてこれまでそんな想いを抱いたことがなかったというのもあって、あとなんか、自分はたぶん出来ないんだろうなみたいな変な悟りを開いていたっていうのもあるんだけど。
ううん、違くて。わたしが言いたいのも考えたいのもそんなことじゃなくて。寒いのも暑いのも、冷めてるのも熱っぽいのもどうでもよくて。もっと本題に目を向けなきゃいけないって本当はわかってるんだけど、ついつい思考があっちこっちに逸れてっちゃうくらいに恥ずかしくて照れ臭い気持ちが邪魔をしてくる。
ダメなんだ。もっとしっかり考えないと。このままじゃダメだって、そんなのずっと前からわかってたんだから、今やるべきこともはっきり理解してるんだから、ちゃんと……ちゃんと策を練らないと。
そういう意味で、外は自分の部屋より都合がいいかもしれない。なにせ、周囲を見回せば嫌でも目に写り込んでくる。赤と緑、特徴的なカラーを主にして、キラキラ輝く冬の一大イベントを宣伝する広告。
先輩と出会ってから一年と少し。気づけばあの人を目で追っている自分がいる。この想いは、もう無視できるほど小さくない。諦められるほど安っぽくもない。
でも、それでもなんとかして誘いたいというのがわたしの本音だ。やっぱり無理かもなぁなんて考えちゃうんだけど、それでも隣にいたいから。
どこからか定番の歌が耳に届いた。釣られて鼻唄を歌ってしまうくらい馴染みのある曲がわたしの背中を押してくれる。
「よし……」
そっと拳を作って、強く一歩を踏み出した。
クリスマスが今年もやってくる。