奇跡の日に、あなたと。   作:夢兎*

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 こちら現地レポーターの一色いろはです。こんにちは。学校はただいまお昼休みに突入しました。お昼休みといえば? お昼休みといえば当然あの場所!

 

 というわけでやって参りました先輩のベストプレイス! うわ、さっむ! よくこんなところでごはん食べれるな……友達いないんですか? いませんでした。知ってた。

 

「なんでいんの……」

 

 そんなバカなことをしていたら、胡乱な男と視線がぶつかってしまった。なんだかドキドキしますね……病気でしょうか。やだなぁ、もうお家帰りたい。

 

「来ちゃいました、てへ」

 

 顔赤くなってないかなーとか不安になりながらなんとか言葉を返すと、胡散臭いものを見るような眼差しがわたしを射抜く。やつは大切なものを盗んでいきました、わたしの心です。

 

「あざとさが一周回ってあざとくない。出直してどうぞ」

「なんですかそれ、ふざけないでください」

「お前が言うのかよ……」

 

 なんだか呆れ気味な先輩。これはもう熟年夫婦的なノリなのではないでしょうか。やだ、夫婦だなんて……へへへ。ぐぅ、わたし気持ち悪い。

 

「まあまあ、まあまあまあ、まずはごはんを食べましょうよ。風に転がる枯葉を眺めながら食べるごはんというのもなかなか悪くないものです。及第点いかないくらいです」

「どこ目線からの言葉……しかも、いかないのかよ」

「先輩が一緒という点で、ボーナス付いてギリって感じですかね。ふふっ」

「……はいはい」

 

 ぐっ……今の結構恥ずかしかったのにぃっ! なんて塩対応。これは炎上も時間の問題ですよ。わたしはおこです。先輩はもっとわたしにデレデレして鼻の下を伸ばすべきです。……そうじゃないから好きになった、みたいなところがないとは言えないけど。

 

「ところで先輩」

 

 ごはんを食べ終わり、ぼんやりと空を見上げる冬の午後。んんっと何度か咳払いをして声の調子を確かめながら話を切り出した。

 

「なんだ」

 

 このなんでもなさが心地よくなったのはいつからだっただろうか。なんてノスタルジーだかセンチメンタリティーだかよくわからないことを頭に浮かべながら続けた言葉は、落ち着いた心とは一転してキョドッていた。

 

「ク、クリスマスは、その、なにか、ご予定とかあるのかなー、み、みたいな?」

 

 ダメじゃん! 予想以上にダメダメじゃん。切り出すところまではうまくいってたのに!

 

 自分を責め立てつつ、どっくんばっくん心臓を鳴らしながら返事を待っていると、先輩はそっと口を開く。

 

「あると思ってんのか」

 

 ほっと胸をなでおろしてしまっている自分に気づいて頬が熱くなる。もうどうだけ先輩のこと好きなのっ? はぁーやだやだ、ばっかじゃねーの、ばーかばーか! チョロイン! 恋愛脳! ファッションビッチ!

 

「だ、だってほら、昨年は奉仕部でクリパやったみたいですし? 今年もやるのかなーって思うじゃないですか!」

「なんでちょっとキレてんだよ……」

「キレてないですし! で、どうなんですか!」

「……いや、ないだろ。昨年のはクリスマスイベントの打ち上げだしな」

 

 ほう……ないのか。そうかそうか、へー、ないんだぁ。

 

「なににやけてんだよ、気色悪い……」

「ひっど……なんてこと言うんですか! かわいい後輩にかける言葉としては辛辣すぎます! やり直し!」

「気色悪い」

「なんでそっち残したんですか!?」

 

 いや、わかってるんですよ? わたしにだってちょっとやべぇなこいつって自覚はあります。ありまくりんぐです。や、戸部先輩はどうでもいいんですけど。

 

 だからっていくらなんでも酷すぎじゃないでしょうか! これは断固抗議すべきです! たとえ照れ隠しだったとしても許されざる言動です! 照れ……えへ、先輩がわたしに照れ隠しかぁ。えへへ。

 

「で、それがどうかしたのか。仕事なら手伝わんぞ」

「誰もそんなこと言ってないじゃないですかーっ!」

 

 まったく、わたしをなんだと思ってるんですかね。わたしだっていつもいつも厄介ごとを持ってくるばかりじゃないんですよ! たまには、そう、なんか、あれ……まあとにかくいろいろ先輩にとってもお得な情報をお届けしたりしないこともなくなくないはず! たぶん!

 

「だいたいわたし、もう生徒会じゃないですし!」

「ああ……そういやそうだったな」

 

 先月頭に行われた生徒会選挙ですでにわたしは時期生徒会長にバトンタッチしている。晴れて自由の身となったわけなのです! お仕事は社会人になるまでお預け! はい解散!

 

「でも、まだなんかやってるんだろ?」

「え? あ、まあ、はい。引き継ぎっていうか、サポートっていうか、そんな感じですけど……ちょっと顔出したりはしてないこともないですかね?」

 

 仕方ないことだろう。めぐり先輩が生徒会長を降りてから顔を出すことがなかったのは、わたしがあまり得意ではなかったというのが大きいし。それに、三年生があの時期に余計な負担を抱えるべきではない。

 

 その点わたしはまだ二年で暇だし、頼みごとをするのにも後ろめたさがない。ぶっちゃけると、都合のいい存在。わたしとしても、後輩を手伝ってあげるのはやぶさかではないし。

 

「……やっぱすげぇな、お前」

「へ?」

 

 優しげに息を吐いてつぶやかれた言葉に面食らってしまう。

 

「や、べ、別に、そんなことないと思いますけど? 前任が後任の手伝いをするのは、ふ、普通ですし? そんな、褒められることじゃないですよ! 全然……はい。まあ、もっと褒めてくれても構わないこともなくないですけどね?」

 

 いや、待って。本当に待って。そういうのやめて! なんでこの人は、こう、いつもいきなりそういうこと言うかなぁっ! 不意打ちはずるいです! ああ、もぅ……ほんっと、ずるい。

 

「て、ていうか、な、なんで先輩がそんなこと知ってるんですか!」

「小町から聞いたんだよ……」

 

 なんでそんな慌ててんの? とばかりに引き気味な返答にうぐっと声が詰まってしまう。な、なんでこんなに慌ててるんですかね……わたしだって普通にできるならしたいんですけど。

 

「悪いな。世話になってるみたいで」

「あー……いえ、こちらこそ小町ちゃんにはお世話になってるので」

 

 具体的には恋愛相談とかで。小町ちゃんだし余計なことは言ってないとは思うんだけど……小町ちゃんだからちょっと心配だったり。

 

「あいつ、なんか余計なこと言ってないよな」

 

 奇しくも同じことを考えていたらしい。相も変わらぬぶっきらぼうな調子で訊ねる先輩の顔にはどこか不安が宿っていて、ついにんまりと口もとを緩めてしまった。

 

「それはもしかしてわたしに聞かれて困るようなことを小町ちゃんに話している、ってことですかねー?」

「い、いや別にそういうわけじゃなくてだな」

「んー? 怪しいですね〜」

 

 ちらちらと横顔を盗み見ていると、先輩はおもむろに腰をあげる。

 

「よ、用がないなら、俺はそろそろ行くが」

「待っ、ちょっと待ってください!」

 

 用はある。今日一日ずっとそれだけ考えていたんだから、この機会を逃すわけにはいかない。いかないんだけど……結局どうやって誘おうかはまったく浮かんでこなくて、ぶっつけ本番になってるっていうのが今の状況なんだよなぁ。

 

 どうしよう……。

 

「一色?」

「あ、えっと、その、はや——」

 

 ——だめだ。それだけはだめだ。それじゃあなにも変わらない。変われない。このままずるずると変えられないままに別れを迎えるなんて、そんなのは嫌だから。

 

 でも、でもなにも、わたしの頭の中にはなにも浮かんできてはくれなくて。いや、そうじゃないんだ。浮かばせる必要なんてどこにもなくって、本当はただ純粋にわたしの気持ちを、わたしの願いを言葉にするだけで解決する問題で。

 

 それを理解していながら、まだ踏み出せない自分がいて。

 

 情けなくて悔しくて涙が出そうになるけれど。

 

 言葉は一向に出てきてくれなくて。

 

 勇気がなくて。

 

 だから、わたしは笑って。

 

「……いえ、やっぱりなんでもないです」

 

 なんて誤魔化しちゃって。

 

 それで去っていく先輩の背中を見つめて、からからと転がる枯葉の音にどうしようもない虚しさを感じながら。

 

 ——ああ、だめだなぁ。

 

 って、恋する乙女ぶった独白をこぼすことしかできない。

 

 

 ほっとしている自分が、これ以上ないくらいに気色悪かった。

 

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