真剣に執筆を初めての処女作となります。
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「よく来てくれましたね、ネロ」
ネロと呼ばれた少年は大きな部屋の最奥で優雅に座っている女性の目の前で跪いて、頭を垂れていた。
今少年の目の前にいるのは、このモナルキーア王国の最高権威。モナルカ・モナルキーア女王陛下だ。
「本日はどういったご用件でしょうか、陛下?」
少年は女王陛下の目を見て尋ねる。
「貴方にお願いしたいことがあるのです」
「お願い、ですか?」
「そうです。そして、これは貴方にしか頼むことができない」
「私だけ、ですか」
「はい。どうか、引き受けてはくれませんか?」
「私でお力になれるのでしたら、引き受けさせていただきます」
「貴方ならそう言ってくれると信じていました」
そう言って女王陛下は目の前の少年に笑顔を向ける。
「それで内容なのですが、貴方にはある人物の護衛を頼みたいのです」
「護衛、ですか……」
この時、初めて少年が表情を変えた。唇を強く噛み、その表情はまるで過去の過ちを悔やんでいるかのよう。
「貴方は、この王家に生まれた元王女を知っていますね?」
「はい。確か、フラン王女殿下」
「その通りです。あなたも知っていると思いますが、彼女は異能という忌まわしき力を持っていたため、王家を守るために死亡扱いとなっています。しかし、実際は生きているのです。今年、学園に入学したと報告が届いています」
「任務の内容は、私も学園に入学し王女殿下を護衛する、ということでしょうか?」
「はい、その通りです。お願いできますか?」
「我が命はこの王国のために捧げています。陛下の御心のままに」
少年は再び深く頭を垂れた。
「ありがとうございます。では、これを」
女王陛下は立ち上がりネロに綺麗な石を手渡す。
「これは?」
「餞別です。何か困ったことがあったら、使ってください」
「ありがとうございます。では、私はこれで失礼いたします」
少年は一礼すると踵を返し立ち去った。
「ネロ、あの子のことをお願いしますね。願わくは、二人の未来に希望があらんことを」
少年が立ち去った扉を見つめ、女王陛下は小さく呟くのだった。
日が傾き、オレンジ色に染まった空を、揺れる車窓から眺めながらネロは溜息をついた。
「はぁ、疲れた」
「あと少しで到着します。ほら、もう目の前に」
ネロは窓から前方を眺める。そこには王都の王城には劣るものの、立派な建物が建っていた。
「これが学園か」
「はい。今日からネロ様に通っていただく学園、王立士官学校。通称アカデミーでございます」
ネロの隣に座るメイドが丁寧に説明してくれる。
「荷物などの必要なものはすでに部屋に運び入れてあります」
そんな会話をしているとき、馬車は停車した。
「到着したようですね」
先に降りたネロに続いてメイドも降りてくる。
「やあ、ネロ。久しぶりだね」
「ご無沙汰しています、サークレイ」
「ここでは理事長と呼んでくれ。こっちはもう大丈夫だ。帰ってくれて構わないよ」
「畏まりました。ではネロ様、失礼いたします」
「うん、ありがとう」
メイドは一礼すると再び馬車に乗り込み、元来た道を戻っていった。
「さて、ここじゃなんだし理事長室へ来てくれ。そこで一人、人を待たせているんだ」
「分かりました」
ネロは先を歩く理事長の背中を追って学園へと足を踏み入れるのだった。
理事長室は学園の最上階、その最奥にあった。
「さて、到着だ。フラン、待たせて悪いな。客人を連れてきたぞ」
理事長室の中のソファーに座ってネロを待っていたのは、長い銀髪が特徴的なとてもきれいな少女だった。
その姿を見たネロは息をのんだ。あまりにも少女が綺麗だった、というのもあるが何よりネロの記憶の中の人物に似ていたのだ。
「それじゃ、お互いに自己紹介ぐらいするんだな」
「私はフラン・ペルドル。あなたの護衛対象よ」
少女は立ち上がりそれだけを口にした。
「私はネロ・ノワールです。今日より、護衛に付かせていただきます」
「硬いねー。クラスメイトなんだからもっとフレンドリーにしなくちゃ怪しいぞ?」
「でも……」
ネロが目線だけを少女に向ける。少女は視線に気づいたのか一つ溜息をつくとやれやれと首を振った。
「別に構わないわよ。護衛とはいえ理事長が言うようにクラスメイトだしね。これからよろしく」
「う、うん。よろしく」
少女、フランが差し出した手を握ると、理事長が嬉しそうに言った。
「いやー、これでフランも万年ボッチから脱却だな」
「な⁉ べ、別にボッチじゃないし! 私に見合うだけの連中がいなかっただけよ。べ、別にボッチじゃないもん」
そんな言い訳をするフランをネロはじーっと見つめる。
「ほ、本当よ! 本当だもん! 本当なんだから……」
フランは最後には涙目になって抗議していた。
「ははは。泣かれる前にフランをいじるのはやめておこう。それで、これからなんだが。ネロの部屋はフランの部屋の近くにしておいたぞ」
そう言うと理事長は、ほれとルームキーを投げ渡してきた。
「ネロの部屋はフランの部屋の隣室だ。といっても、間に談話室を挟んでいるがね。男女の寮内の行き来は基本禁止だが、ネロのことは寮母にも話してある。何か用があるなら行き来して構わん。ただし、問題だけは起こすなよ?」
「分かりました」
「よし、なら説明は以上だ。フラン、部屋に案内してやれ。せっかくだ、ネロも楽しい学園生活を送るんだな」
ネロとフランは一礼すると理事長室を後にした。
フランに寮まで案内してもらっている途中。ふと気になったことを聞いてみた。
「あのさ、なんでフランはボッチなの?」
「何よ、急に。ていうか、私はボッチじゃない⁉」
「ごめんごめん。いやさ、こんだけ可愛いなら人気がありそうだなって思って。何か理由があるの?」
ネロの視線から逃げるようにフランは顔をそらした。
「あんたには、関係ない」
その後はお互いに一言も発さずに寮に向かったのだった。
フランと別れて、ベッドの上でネロは考え事をしていた。
「あの態度、やっぱりまだ過去のことを……」
理由を聞かれたとき、フランはあからさまに顔をそらした。そして、クラスで孤立しているという。
「次こそは、もう失敗しない。そのために力を手に入れたんだ。見ていてくれ、ルーナ」
ネロは虚空に向かってそう小さく語りかけ、眠りについたのだった。
「ほれ、席に付け。今日は新入生がいるんだ。入れ」
担任の教師が廊下で待つネロのことを手招きして呼ぶ。ネロはそれに従い教室へと入った。
「初めまして。今日からこの学院で学ぶことになったネロ・ノワールです。よろしくお願いします」
「分からないことも多いだろう。お前ら、面倒見るようにな」
それだけ言うと教師は窓側の一番後ろの席を指さした。
「あそこがお前の席だ。目が悪いなどは聞いてないが、もし不便があるようなら言ってくれれば誰かと席を変えるが?」
「いえ、ここで大丈夫です」
ネロは指定された席に進む。その途中、前方の席に座るフランと目が合った。しかし、それも一瞬の事。すぐに目をそらされてしまった。
席に着いたネロは大きくため息をついた。
「なになに? 編入早々なんかあった?」
「え? いや、別に」
いきなり話しかけてきた隣の席の学生に首を振る。
「そかそか。あ、俺はルクト・ランパードだ。よろしくな」
「ああ、ネロだ。よろしく」
ルクトはスッと手を差し出してくる。ネロはそれに快く応じた。
「一限目の授業を始める。全員、席に付け」
教師の一言で今までうるさかった教室内が静かになった。
「では、今日はここまで」
六時限目の終了を告げるチャイムが鳴り、教師が教室を出ていく。ネロは荷物をまとめて自室に戻ろうとしたのだが、
「あ、編入生君、待って!」
こちらに駆け寄ってきた一人の少女に呼び止められた。
「ん? 何か用?」
「詳しいことは言えないんだけど、これから時間ある?」
「うん、今日は暇だけど」
「ならよかった。ランパード!」
教室から出ようとしていたルクトを少女が呼び止めた。
「なに?」
「編入生君の例の催しの案内、任せた!」
「は、俺が⁉」
「いいじゃん、お願い」
少女から上目遣いで頼まれたルクトは渋々といった様子で頷いた。
「分かったよ。じゃ、ネロ、付いてきて」
「ああ、わかった」
ネロはとりあえず、先を歩くルクトについていくのだった。
「よし、着いた」
「ここは?」
連れてこられたのは四方を壁で囲まれた円型のグラウンド。
「生徒が申請さえすれば自由に使える競技場だよ。ここでは魔法の使用も許可されてるんだ」
「こんなところで何するんだ?」
「まぁ、すぐにわかるさ」
そう言ってルクトは先ほど入ってきた入口に目をやる。
するとそこから、さっき話しかけてきた少女を筆頭に三人の少女が入場してきた。
「え、なに?」
「改めて、編入生君。我々は君を歓迎しよう!」
開口一番、何やら仰々しい挨拶をする先ほどの少女。
「だが、その前に一つ伝統の儀式を受けてもらおう」
「儀式?」
「そう、儀式だ。そしてその内容は、クラス最強のパーティである私たちと編入生君との決闘だ!」
その声に、いつの間にか観客席に集まっていたクラスメイト達の歓声が上がる。
パーティ、それは三人一組になって戦う戦闘スタイルだ。主に大型の魔獣討伐などで使われる戦術で間違っても人間一人相手に用いる陣形ではない。
「どうだ、受けるか? あ、何か事情があって戦えないとかなら先に言ってね? 人それぞれ事情はあるだろうし」
強引にここまでひぱってきた割には妙なところで気を遣うんだなと、ネロは内心苦笑する。
「いいよ、受けるよ。魔法の使用はあり?」
「もちろん! こちらは三人だ。ハンデとして魔法は使わない」
その言葉にネロは首を横に振った。
「別に、ハンデなんていらないよ。全力でかかってきてくれて構わない」
「な、舐められたものね。その言葉、後悔させてあげる! 行くよ、みんな!」
掛け声に再び歓声が上がった。
「それじゃあ、ルールの確認ね。試合形式はレギュレーション。どちらかが降参するか、戦闘続行不能になった時点で試合終了。それじゃ、準備はいい?」
「もちろん!」
「こっちもいいよ」
「では、レディー、ファイト!」
審判役を務めるクラスメイトの声に観客席から三度、歓声が上がる。
「じゃ、先手は貰うよ!」
ネロは開始の合図とともに一瞬で相手の懐に飛び込む。そして、抜刀。そして瞬時に刀を薙いだ。
「うわ、早っ! てか、何その武器⁉」
「知らない? 極東の島国に伝わる刀って武器だよ」
咄嗟に回避した少女。
ネロは説明しながら再び刀を水平に構え直す。
「二人とも、魔法準備! 同時に撃って吹き飛ばすよ!」
「うん!」
「了解」
チームメイトの二人は魔法が得意なのだろう。二人ともネロから離れて陣取っている。
「じゃ、俺もやろうかな」
ネロは右手を突き出すと詠唱を開始する。
「燃えよ、焼き尽くせ、我は殲滅を望む。すべてを蹂躙し、焦土と化せ! 穿て、マルナシス・エルビネッタ!」
詠唱を終えたネロの突き出した右手から敵三人を狙った三条の炎雷がそれぞれの方向に迸る!
「「「深淵より来たりし雷帝よ、敵を貫け!」」」
同時に相手も魔法を発動。しかし、
「え?」
「うそ!」
「そんな馬鹿な!」
三人がそんな感想を口にした直後。
ネロの放った魔法が三つの魔法を容易く打ち破り爆発した。
爆発の衝撃で起こった煙が晴れると、そこには魔法による衝撃で気を失った三人の少女が倒れていた。
「しょ、勝者、編入生のネロ・ノワール」
一瞬の出来事に静まり返る闘技場。しかし、理解が及ぶにつれ闘技場は再び熱を取り戻した。
「すげー! あの編入生、一人であの三人を倒しやがった!」
「あの編入生、やばいだろ! あんな魔法初めて見た!」
「私、惚れちゃったかも!」
「私も。めっちゃかっこよかった!」
と、口々に感想が飛び交っていた。
「やるね、ノワール君」
背後からの声に振り返ると、そこには魔法で気絶していた少女がたっていた。
「私はクラス委員長のカレン・シーベルト。改めて、よろしくね」
「こちらこそ。それと、俺のことはネロでいいよ」
「分かった、じゃあネロ君。ようこそ、王立士官学園へ。私たちクラスメイト一同、歓迎するよ」
そう言ってカレンは手を差し出してきた。ネロはその手をしっかりと握り返す。
「あ、ネロ君の手って、大きいんだね。なんか、男の子の手って感じがするよ」
「まぁ、男だしな」
「あー! カレンがネロ君の手を握りながら赤くなってる! 委員長だからってずるいよ!」
「へ⁉ ち、違うよ! そんなんじゃないから!」
と、クラスメイト達に詰め寄られるカレン。
「一応、私たちも挨拶くらいしておかないとね」
「うん。挨拶、大事」
と、続いて二人の少女がネロの前にやってきた。先ほどの決闘で遠距離から魔法を放った二人だ。
「私はルーチェ・ホーンウェル。よろしくね」
「リーリア・クルスト。存在感の薄い私たちですがどうぞよろしく」
リーリアの自虐を含んだ自己紹介に苦笑するネロ。
「俺はネロだ。よろしくな」
「うん、よろしく~」
「よろしく」
二人とも握手を交わしたネロ。
そして、あたりを見渡して疑問に思ったことを二人に尋ねてみる。
「あのさ、フランがいないみたいなんだけど、何か知ってる?」
すると二人は顔を合わせた後、首を振った。
「あの子、いっつも一人だからなー。あんまり私たちとかかわろうとしないし」
「うん。孤高の女神?」
とル―チェは首を振り、リーリアは首をかしげた。その直後、背後から現れた人物にいきなり肩を組まれる。
「ネロ! おまえ、強いのな! なあなあ、俺とパーティ組まない? 俺とお前が組めばてっぺん狙えるぜ?」
「いや、ランパードなんかと組んだらネロっちが可哀そうでしょ」
「ね、ネロっち?」
ネロの疑問にルーチェが頷く。
「みんなネロって呼んでるし。なら私はあだ名で呼ぼうかなーって。あと、ランパードと一緒ってなんかヤダ」
「なんでだよ⁉」
その一言にルクトが吼える。
「おまえ、もしかしてクラスではぶられてたり?」
「そ、そんなことないよ? たぶん、きっと……」
なんか最後の方は聞き取れなかったけど。まぁ、この話題には今後触れないでおこう。
「あ、そうだ。ネロ君!」
クラスメイトの追及を潜り抜けたカレンが再びネロのところにやってきた。
「夜、ネロ君の歓迎会やろうって話になったんだけど来てくれる?」
「歓迎会?」
「うん。みんなで料理作って、親交を深めようって!」
「分かった、せっかくだし行かせてもらうよ」
「うん。じゃあ、教室で待ってるね」
そう言うとカレンはルーチェとリーリアと共に去っていった。
「さて、俺も行こうかな」
ネロは興奮気味のクラスメイト達を横目に競技場を立ち去るのだった。
「フラン! ネロだけど、入れてくれないかな?」
ネロは競技場を後にした足でフランの部屋を訪れていた。
呼びかけてしばらく待つと中からカチャリと鍵が開いた。
「ネロ? どうかしたの?」
「ああ、ちょっと。入ってもいい?」
フランが扉を開けてくれたのでネロは入室した。
「お、お邪魔します」
「何緊張してるの? あ、もしかして女子の部屋に入るの初めてとか?」
「恥ずかしながら、その通りです」
ネロは顔を赤らめながら正直に白状した。
ネロはこれまで生きてきた中で女の子の部屋とはまるで無縁の生活を送っていたのだ。これはもう仕方がない。
「意外に可愛いところもあるのね。適当に座って。今お茶入れるから」
フランはキッチンでお湯を沸かし始めた。
ネロはその間ソワソワしながら部屋の中を見回す。
部屋の中はよく整理されていて、とても清潔感がある。
ベッドには女の子の好きそうなぬいぐるみがずらりと並べられていた。そして、何よりもこの部屋は女の子の匂いとでもいうのか、甘くていい匂いがするのだ。ネロは先ほどからこの匂いのおかげで落ち着かなかった。
「ぬ、ぬいぐるみ好きなんだな」
「なに、変?」
お盆にお茶を乗せたフランが顔を赤らめながら腰を下ろした。
「いや、変じゃないよ。ただなんか、女の子らしいところもあるんだなって」
その言葉にフランは耳の先まで真っ赤にした。まるで茹でダコみたいだ、とネロは思った。
「べ、別にいいじゃない。可愛いの、好きなんだもん」
フランは恥かしいのかふいっと顔をそむけた。
「で、何しに来たの? まさか、こんなこと話すために来たんじゃないでしょ?」
「うん。さっき、競技場で決闘してたんだけど、フランだけいなかったからさ。何かあったのかと思って」
「あー、そのことか」
フランは気まずそうに視線をさまよわせた。
「やっぱり、フランってボ」
「それは違う!」
ボッチと言いかけたネロの言葉をフランが遮った。
「じゃ、なんで来なかったの?」
「行く必要がなかったから」
「この後、俺の歓迎会やってくれるんだって。フランも来ない?」
「いやよ。行ってもつまらないし」
「俺が来てほしいんだけどなー」
「何を言っても私は行かないわよ」
かたくなに断るフラン。ネロは説得を諦め立ち上がった。
「そっか、いきなり押しかけてごめん。俺はもう行くよ」
ネロは扉を開けるとそのまま外へ出た。
扉が閉まってから、フランは溜息をついた。
「はぁ。私、なんで素直になれないかな」
ネロは多分、私が異能使いだってことを知ってるのだと思う。理事長から何か言われたわけではないけど、何となくそう感じた。
「あいつは、分かったうえで私と接してる。そんな人今までにいなかったから、どうすればいいのか分かんないよ」
今までは私が異能使いであることを知ったやつらは畏怖の目を向けるか、軽蔑の目を向けるかだった。そんなフランに任務が理由とは言え普通に接してくるネロの本心がわからない。
「でも、一つだけ確かなことがある」
それは、ネロは今までの奴らとは違うということ。これだけは確信をもって言い切ることができた。
「私、どうすればいいんだろう」
ネロの出ていった扉を見つめて再び溜息をつくのだった。
教室に着いたネロは扉を開ける。
「お、主役が到着したみたいだぜ!」
「うん、お待たせ」
ネロは手招きするルクトの元へ。
「あ、ネロ君来たね! じゃ、せーの!」
「「「編入、おめでとう!!!」」」
パンパンパン!
教室中に乾いた音が鳴り響く。
「みんな、ありがとう」
「ネロ君、これからよろしくね!」
「こちらこそ」
カレンに差し出された拳に拳をコツンと軽くぶつけ合う。
「さて、じゃあ、食うぞ!」
「「「おう!」」」
周りで騒ぎあうクラスメイトを見ながら、ネロは微笑むのだった。
「あー、もう食えない」
「俺も―」
みんな満足した様子で思い思いの時間を過ごしているとき、ネロの元にカレンがやってきた。
「どうだった? 楽しんでもらえた?」
「うん。ありがとね、俺のために」
「ううん。あ、そうだ。はい、これ」
カレンはポケットから取り出したものをネロに差し出した。
「これは?」
「それはこのクラスの一員である証。みんな持ってるんだよ」
と言ってカレンは胸元から輝くペンダントを見せてくれた。
「ネロ君の分も作ってきたから渡しておこうと思って」
「そっか、ありがとう。大切にするよ」
「う、うん」
「あー、ネロっちがカレンの事口説いてるー」
「「は?」」
声の方向に振り向くとルーチェがニヤニヤしながらこちらにやってきた。その隣にはリーリアの姿もある。
「カレン、顔赤い」
「へ⁉ そ、そんなことないよ?」
「ネロっち、まさかカレンに告ったとか?」
「い、いや。そんなことしてないよ」
ネロは手を振って否定する。
「えー、じゃあ何してたの?」
「これをもらったんだよ」
ネロはそう言って手渡されたばかりのペンダントを見せた。
「え、カレンが作ったの? あの不器用なカレンが? みんなの分は私とリーリアで作ったのに?」
「え、そうなの?」
「そうだよ。それにしてもいつの間に?」
「さ、さっき作ってきたの。不器用でも糸通して付けるくらいのことはできるし」
「嘘だー。カレンって針持っただけで怪我してたのに?」
「あー、もう! 二人ともあっち行ってて!」
そんな騒がしくも楽しい時間はあっという間に過ぎていくのだった。
「じゃ、私こっちだから。おやすみ、ネロ君」
「うん、また明日」
カレンと談話室で別れたネロは人がいなくなるのを待ってフランの部屋へと向かった。
「フラン、起きてる?」
「何よ、こんな遅くに」
ネロの声掛けに不機嫌な様子のフランが出迎えた。
「いや、ちょっと様子が気になってさ」
「様子? 私ならなんともないけど?」
ちょうどその時。グー、と。可愛らしいお腹の鳴る音が聞こえた。
フランは咄嗟にお腹を押さえる。その顔は耳まで真っ赤にしている。
「もしかして、ご飯まだ食べてないの?」
「ちょ、ちょうど食料をきらしてたのよ」
「食堂で食べるのはダメなの?」
「人が多くて食欲失せる」
その言葉にネロは苦笑する。
「分かった。じゃあ、俺の部屋から材料持ってくるからなんか作るよ。フラン、リクエストはある?」
「え? じゃ、じゃあオムライス」
「畏まりました腹ペコのお姫様。少々お待ちくださいませ」
ネロは慇懃無礼な態度で一礼すると自室へ食材を取りに戻るのだった。
「さて、できたよ」
ネロはできたてのオムライスをフランの前に置く。
「い、いただきます」
そう言ったフランは恐る恐るといった様子でオムライスを口に運ぶ。
「あ、おいしい」
「口にあったようでよかった」
フランはその後一言を発さずオムライスを完食した。
「はぁ、おいしかった。御馳走様」
「お粗末様でした」
ネロは空になった食器を流し場まで運ぶ。
「ねぇ、聞いてもいい?」
「なに?」
ネロが食器を洗い終わり、用意されたクッションに腰を下ろすと同時、今まで無言だったフランから声をかけられる。
「私さ、サークレイから護衛が付くってことは聞かされてたんだけど、依頼者のことを聞いてないの。率直に聞くけど、私の護衛を依頼したのは誰?」
フランは真剣なまなざしでネロの瞳を見据えてくる。
「そっか、まぁ、隠しておけと命じられてないしな」
ネロは少し迷った末に、フランへ答えを口にした。
「依頼主(クライアント)はモナルカ・モナルキーア。現モナルキーア王国女王陛下にしてフランの実のお母さんだよ」
その回答にフランが息を吞んだのがわかった。
「私を王家から追放しておいて、今更何のつもりなの?」
「さぁ、俺も詳細までは聞かされてない。けど、フランの過去なら少しは知ってるかな。それこそ、異能力の事とか」
異能力。その言葉を耳にしたフランが目を見開く。
「ネロ、貴方何者?」
フランは今までとは違う警戒心を含ませた声で尋ねる。
「王家にいたころ、耳にしたことはない? 王家直属の秘密部隊。存在しないはずの0番目の魔導士団の話を」
「第000魔導士団、だっけ? 噂程度になら聞いたことはあるけど……」
「うん、その魔導士団。そこでコードナンバー0を陛下から直々に与えられたものだよ」
コードナンバー0。それは最強の魔導士団とされる第000魔導士団の中でも最強と認められたものにのみ与えられる番号。
「じゃあ、ネロは秘密部隊の人間?」
今度は警戒心を隠そうともしない、ともすれば怯えたような声でネロに尋ねる。
ネロはそんなフランの問いに無言でうなずく。
「私をどうするつもり? 護衛は建前で、邪魔になったから消すとか? あそこの人たちはいつもそう。人の事なんて考えないで、自分たちの我が儘ばっかり。勝手に生んだくせに異能を持つ化け物だから、国に害を与えるからと小さかった私を追い出した! それで、今度は邪魔だから死ねと⁉ あんたたちは、あんたたちは!」
「フラン落ち着いてくれ。そんなことはしない」
「じゃあどうするつもりよ!」
フランは目じりに涙を浮かべながら激昂する。
「話すからいったん落ち着け。な?」
フランはネロになだめられること数分、ようやく落ち着きを取り戻した。
「取り乱して悪かったわ。それで?」
「ああ、俺が命じられたのは本当に護衛だけだ。それで、わざわざこのことを話したのにも理由がある」
ネロは真剣な眼差しでフランを見据えた。
「フランの異能のことが、外部に漏れた」
それを聞いたフランは、唖然としていた。
「俺はそのことを出立直前、仲間から聞いた。陛下からは何も言われてないけど、護衛の件はたぶんこれが関係してるんだと思う」
「じゃあ今、私は命を狙われてるってこと?」
「そうなる」
フランはネロが肯定したのをみて、絶句する。
「俺はフランを守るためにここに来た。だから、なにがあってもフランを守るよ」
「ご、ごめん。ちょっと理解が追い付かない」
「いや、こっちこそごめん。いきなりこんなこと言って。今日は部屋に戻るよ。お休み、フラン」
ネロは混乱するフランをよそに、静かに部屋を後にした。
「伝えたのか」
部屋を出て自室に戻ると、理事長が扉に背中を預けて立っていた。
「ええ。そろそろ奴らも動き出すでしょうしね」
「相変わらずいい勘を持ってるな。ほれ、お前の仲間からだ」
そう言った理事長は一通の手紙を差し出してきた。
「ありがとうございます」
「さっき届いたんだ。至急渡せとの指示書と共にな」
ネロは理事長の言葉に耳を傾けつつ手紙を開ける。するとそこには、
「やっぱり、俺の勘は当たってたか」
予想されていた中で最も最悪なシナリオが記されていた。
「どうするつもりだ?」
「今は少し様子を見てみようと思います」
「そうか。それがお前の判断なのなら私は何も言わんよ。何か必要なことがあれば言え。私とお前の仲だ。少しくらいなら手を貸してやる」
「それは心強いですね。その時はよろしくお願いします」
「じゃ、私は寝る。お前も今のうちに疲れを取っておくことだな。じゃないと、いざというときに体が動かんからな」
理事長は手を振りながらその場を後にした。
「私これからどうしたらいいのかな?」
フランはネロの出ていった室内で、一人呆然とそう漏らした。
ネロに言われた、フランを取り巻く現状。
王家がフランを死んだことにしてまで隠そうとした異能力に関することが、外部に漏れた。そして、それが理由で命を狙われているといわれたが、いまだに理解が追い付いていない。
「勝手すぎるんだよ、いつも」
フランは潤む目元を押さえる。
「そういえば……」
フランはふと顔を上げる。
「ネロ、私が異能力者だってことやっぱり知ってたんだな」
そのことに、フランは笑みを漏らす。
その後、いきなりのことで疲れたのか、歯も磨かずに眠りに落ちたのだった。
手紙が届いてから何事も起こることなく数日が過ぎた。
そして今、ネロは学園から歩いて10分ほどのストリート街に来ていた。
元々、城塞都市は防衛施設も兼ねている学園を中心に発展している。そのため学園の周囲には王都で人気のカフェや話題のアパレル店など、連日王都に負けず劣らずの賑わいを見せている。
「ネロ、これ持って」
「うん。てか、まだ買うのか?」
「たまにしか来ないからね。私はまとめて買うことが多いの」
「せっかくフランに誘われたから来てみれば、ただの荷物持ちとはな」
「何? 文句あるの?」
「ないよ、ない。どのみちフランが買い物に行くんならついていかないわけにはいかないんだし」
「そ。なら文句言ってないで次のお店に行くよ」
「はいはい、仰せのままに」
ネロは幾度目とも知れない溜息と共に返事をする。
そもそもネロがどうして荷物持ちなんてしているのか。それは数時間前にまでさかのぼる。
「ネロ、ネロっ!」
「んんぅ。フラン?」
窓からは朝日が差し込み部屋の中を照らしている。
そんな休日の朝。ネロは、フランが扉越しに自分を呼ぶ声が聞こえて目を覚ました。
「おはよう、フラン。こんな朝早くからどうした?」
欠伸を噛み殺しながら扉を開けてフランを中へ招き入れる。
「光栄に思いなさい。ネロに私の買い物についてくる権利を与えるわ」
「要は一緒に行ってくれる友達がいなくて、泣く泣く俺のところに来たって認識で間違いないか?」
「違う⁉ 私はボッチじゃないって何度も言ってるでしょ!」
と、顔を真っ赤にして怒るフラン。ネロはそれを見ながらもっといじりたい衝動に駆られるが何とか我慢して話題を戻す。
「話を戻すけど、どこにいくんだ?」
「話をそらしたのはネロだった気がするけど。まぁいいや。ストリートの方に買い物に行くの」
「あー、確かにあそこなら一緒に行かないとね。もうすぐ出る?」
「出れるなら出たいかな。向こうでおいしい朝食を食べられるお店があるって、こないだ話しているのを聞いたから」
「話す友達がいなくて盗み疑聞きか?」
「だから友達くらいいるってばっ⁉」
「わかったわかった。準備するから部屋で待ってて」
「いや、女子寮(こっち)には来ないほうがいいと思う。休日で生徒が外に出てるから、ネロが女子寮に来てたことが周りにばれる」
「じゃあどこ集合にする?」
「二人で買い物に行ったことがばれるのもあれだし、20分後に裏門に待ち合わせでどう? あそこなら普通学生は使わないから、ばれることはないと思う」
「フランがそれでいいならいいよ。じゃあ、あとで集合ね」
「うん、あとでね」
そう言ってどこか嬉しそうにフランは部屋を後にした。
「さてと、じゃあ準備しますかね」
そうひとり呟くと、ネロは壁に立てかけてあった自分の獲物(あいぼう)を手に取る。
「いつ何が起こるかわからないからな」
ネロは着替えた制服の上から極東に伝わる「刀」を腰に携えた。
学院生は皆、ごろから武器の所持が認められている。使用するには緊急時を除き申請が必要だが、基本どの生徒も武器を所持している。
「さて、裏門までの時間を考えるとそろそろ出ようかな」
時計を見ると、先ほどフランと別れてから15分が経とうとしていた。
ネロは部屋を出る前、机の上に置いてあったペンダントを首にかけた。
「じゃ、行くか」
ネロはもう一度部屋の中を確認して裏門へと急いだ。
ネロが待ち合わせ場所に着くと、既にフランが待っていた。
「ごめん、待たせた?」
「うん、待った。一緒に出掛ける時に女の子を待たせるなんて、男子失格だよ」
「ご、ごめん」
ご機嫌斜めのフランにネロが謝る。
「これじゃ私だけはしゃいでたみたいじゃん」
「え、なんか言った?」
「何でもない。行くよ」
そう言って一人先を歩くフランをネロは追いかけた。
「んーっ! このパンケーキおいしい!」
パンケーキを一口食べたフランの顔がパぁっと明るくなる。
「よかったね」
基本朝ご飯を食べないネロは、コーヒーを飲みながら嬉しそうにパンケーキを食べるフランの顔を眺めていた。
「一口あげようか?」
「じゃあ、一口」
ネロはフランが差し出してきたパンケーキを食べる。
「うん、おいしい」
「でしょ? うーん、幸せ」
そしてまた食べようとしたフランが口に入れる寸前で固まる。
「ん? どうかした?」
「いや、その。自分で言い出したことなんだけどこれ、間接キスだなーって」
「いやなら新しいフォーク貰う?」
「い、いやいいよ。別に嫌じゃないし」
そう言ったフランはそのままフォークを口に運んだ。
「さて、朝ごはんも食べたし、次はどこに行く?」
パンケーキのお店を後にした二人は、フランの希望で服を見て回ることになったのだが……。
「すいません、これください!」
「フラン、こんなに買うのか?」
「うん。可愛い服は全部買わないと気が済まないから」
「マジですか……」
そんな調子で何店舗か回り、今に至るといいうわけだ。
「ああ、疲れた」
遅めの昼食をとるためにベンチに座ったネロは荷物を置き一息つく。フランは目の前の屋台で二人分の昼食を購入している。
「はい、これ」
「ありがとう」
フランはネロの隣に腰を下ろすと勝ってきたサンドウィッチを食べ始める。
「この後、もう少し回りたいんだけどいい?」
「まだ買うの?」
「ううん。今度は少し見たい場所があるだけ。付き合ってくれる?」
「分かった。今日はとことん付き合うよ」
ネロは食べ終えると再び荷物を持った。
「ほら、行くなら早くしよう」
「うん」
フランは頷き、ネロと一緒に歩きだした。
「ここがフランの来たかった場所?」
「そう。静かでしょ?」
「だな。ここだけ周りから切り離されたみたい」
フランに案内されてやってきたのはメインストリートを外れて裏道を少し歩いたところにあった教会跡地だった。
「ここ、落ち込んだときとかに一人でくるんだ。そうすると落ち着ける」
「そっか」
しばらく無言のまま、二人は時間の流れに身を任せた。
「あ、あそこにアイス屋さんある。ネロも食べる?」
「せっかくだし食べようかな」
「分かった。待ってて、今買ってくるから」
そう言って、フランは屋台でアイスを買って戻ってきた。
「はい、ここのアイス美味しいんだよ?」
「そうなんだ? じゃあ、いただきます」
ぱくりと一口。するとほのかな甘みが口の中に広がる。
「あ、おいしい」
「でしょ? あのアイス屋さんは私のお気に入りなんだー」
隣では嬉しそうにニコニコとアイスを食べるフラン。こうしてみるとただの普通の女の子だ。
「ねぇ、ネロ」
「うん?」
「今日は、付き合ってくれてありがとね」
夕日のせいか、恥ずかしいからなのか。頬を薄っすらと赤く染め、はにかみながらそう口にしたフランは、とても綺麗だった。
「う、うん」
その顔に思わず見惚れてた自分に恥ずかしくなり、ネロは誤魔化すようにアイスを食べる。その後言葉を交わさなかったものの、なぜかその時間は心地よかったのだった。
「今日はありがと。また明日ね」
「うん、また明日」
ネロはフランの部屋まで荷物を運び自室へ戻ってきた。
「今日はデートか?」
「違いますよ。それで、何か用ですか?」
「いや、ただ少し話をしに来ただけだ」
「今日のことですか?」
「ああ。連中は動かなかったそうだな」
「そうみたいですね。視線らしきものは感じませんでしたし」
「ならいいが。あまり無茶はするなよ?」
「分かってますよ。目的を達成するまで、死ぬ気はありませんから」
「ならいいが。ま、今日はよく寝ることだな」
理事長はそれだけ言うと手を振りながら去っていった。
「何しに来たんだか、あの人は」
そう言ってドアノブを回したとき。パサリ、と。何かが床に落ちた音がした。
「これは?」
拾い上げてよく見てみると、それは……。
「まったく、あの人の世話焼きは相変わらずだな」
ネロはその理事長からの贈り物を見て苦笑するのだった。
ボフっ、と。お風呂から上がったフランはベッドに飛び込んだ。
「はぁ、今日は楽しかったな」
今日一日の出来事を思い返して思わず顔がにやける。
「けど、私は異能力者。普通の人とは絶対に分かり合えない」
フランは手を握るしめる。
このどうしようもない現実を前に。
「でも、もしかしたらネロなら……」
それ以上の言葉を口にするよりも早く、フランは睡魔に襲われ夢の中へと吸い込まれていった。
翌日。
「この時間は模擬戦闘を行う! 各自ペアを組め!」
昼食後。5限の授業。クラスの実力を測る、ということで急遽摸擬戦が行われることになった。
ネロはペアを組むため辺りを見回していると、
「ネロ、俺と組まないか?」
「ルクトか。悪いが俺は……」
そう断わろうと言いかけたところに、女子三人組がやってきた。
「ネロ君、私と組まない?」
「おい、カレン! ネロは俺が先に誘ったんだからあっち行けよ」
「別にいいでしょ? ネロ君、ランパードなんかより私と組まない?」
「ネロ、俺を見捨てないよな?」
「いや、だから待てって。俺もう組む奴いるからさ」
「え、誰と組むの?」
「フランだよ」
ネロはそう言って背後で一人でいるフランを指さす。
「ネロ君ってペルドルさんと仲いいの?」
「んー、まぁそこそこかな。ってことで、ごめんね」
ネロはカレンたちにそれだけ告げるとフランの元へ向かった。
「やっぱりボッチだね」
「私はボッチじゃない⁉」
「でもペアの相手、いないでしょ?」
「そ、それは……」
「俺と組んでよ」
「へ? さっき委員長たちに誘われてなかった?」
「うん、でも断った。フランと組みたかったから」
「そ、そう。そっか」
フランはそこか落ち着かないのか前髪を人差し指でくるくるといじっている。
「で、組んでくれる? フランが組んでくれないと俺がボッチになっちゃうんだけど」
「しょ、しょうがないなー。そこまで言うなら組んであげるよ。ほら、行くよ」
「ありがと、フラン」
どこか嬉しそうなフランと共に、ネロはペア決定の報告をしに先生の元へと向かった。
一方、ネロに振られた形となったカレンはというと……
「ネロ君と組んでかっこいいところを見せる予定が⁉」
「まぁまぁカレン、落ち着いて」
「そうそう、ネロッチとは今度組めばいいじゃん」
と、ルーチェとリーリアの二人からなだめられていた。
「そうだけどさー。こうなったら、ランパード!」
「え、俺?」
「そうよ。振られた者同士組まない? そして、ネロ君を倒す!」
「うーん、まぁ面白そうだしな。いいぜ、組もうぜ」
「カレン、嫉妬?」
「嫉妬ですなー」
「嫉妬じゃない⁉」
こうして、ここにネロ打倒ペアが生まれたのだった。
「では、試合開始!」
先生の合図と同時、ネロは敵の懐に急接近する。
「させるか!」
しかし、それを阻むように相手の一人が魔法を放った。
ネロの目の前で爆ぜる魔法。だが……
「ぬるいね」
ネロは眼前を刀で薙ぐと、そのままの勢いで振り下ろす。
その勢いで相手のペアは闘技場の壁に打ち付けられた。
「そこまで! 両者の戦闘不能を確認」
一人で相手のペアを屠ったネロはフランの元へ戻る。
「やっぱり、強いね」
「まぁ、これくらいはね」
と二人で話しているところにカレンにルーチェ、リーリア。それとルクトがやってくる。
「さすがネロ、相手にならないって感じだな」
「ネロ君は確かに強いけど、、次の相手は私たちだからね。そう簡単にはやられないからね」
「楽しみにしてるよ」
ネロがカレンにそう答えた横で。リーリアが小さく手招きをしているのが見えた。
「どうかした?」
「カレンが拗ねてました。後でかまってあげてください」
「かまう?」
「はい。今日の夜、カレンの部屋に夜這いするとか」
「しないよ⁉」
「そうですか」
なぜか残念そうなリーリア。
「二人ともなに話してるの?」
「な、何でもないよ⁉」
まさかリーリアに夜這いしろと言われたというわけにもいかず、ネロは両手を振って誤魔化した。
「次の両ペアは位置に着け!」
話しているうちに前の試合は終わっていたようでネロたちが呼ばれる。
「全力でかかってきてよね」
カレンの声にネロは頷くと一歩離れた位置にいたフランの手を握る。
「行こう」
「そうね。私を放置した恨みを晴らしてあげる」
「いや、フランが会話に入らなかっただけじゃ……」
「何か言った?」
顔は笑っているのに目は笑っていないという背筋の凍るような顔で微笑まれ、ネロは即座に首を振った。
「では、バトルスタート」
「先手は貰うぜ! 紅蓮よ、すべてを飲み込み、舞え!」
開始早々、ルクトが炎属性の魔法を放ってくる。
「障壁よ。数多の砲撃より我らを守りし強固なる壁よ。我らを守れ、ディフェンシブ・エルシオン!」
ネロが魔法を打ち落とそうと構える。が、隣から詠唱が聞こえ、それは二人を覆う障壁を形成した。
「フラン!」
「私だけ何もしないんじゃ、格好付かないしね」
「ありがとう! 次はこっちから行くぞ!」
ネロは刀を水平に構えそのまま突貫する。
「させない!」
と、まっすぐに突き進むネロの前に、戦闘用の軽装をまとったカレンが立ちふさがる。
カレンが持つのは刀身が刀よりも細くそして鋭い、所謂レイピアだった
「カレンはレイピア使いか」
「ええ。この剣でネロ君に勝つ!」
「フラン! ルクトの相手は任せた! 負けるなよ!」
「わかった! そっちこそ負けないでよね!」
と言葉を交わした刹那。眼前にレイピアが迫り、ネロは咄嗟に横に飛ぶことで回避する。
「私を無視、しないで!」
再び放たれる鋭い突き。
「もう見切った!」
ネロはカレンの全体重を乗せた一撃を刀で軌道をそらしながら後ろにいなす。
「嘘⁉」
「カレンじゃ俺には勝てないよ」
全体重を乗せた突きを交わされたカレンは無防備な背中をネロに晒してしまう。
「しまったっ⁉」
「終わり!」
ネロは左足を軸に足刀を繰り出す。
攻撃の勢いにネロの足刀の威力も加わり、カレンは吹き飛ばされ壁に激突することでようやく止まった。
「さて、フランは?」
ネロはカレンが戦闘不能になったのを見届けると、視線を周囲に動かしフランを探す。
「凍てつく氷河よ、穿て!」
ネロがフランの姿を見つけた時、既に詠唱を終えた魔法をルクトに放つところだった。ルクトはかろうじて魔力で障壁を張るもあっけなく破られ戦闘不能となった。
「お疲れ、フラン」
「そっちもね」
ネロたちはお互いに拳をコツンとぶつけ合い健闘をたたえた。
「相変わらずネロ君は強いね。それに、ペルドルさんも」
ネロが手加減して繰り出した足刀の衝撃から起き上がったカレンはこちらにふらふらとしながら歩いてきた。
「ネロ君、あれ手加減してたでしょ?」
「まぁ、少しね。でもカレンのレイピアの腕は素直にすごいと思ったよ」
そのネロの言葉にカレンは嬉しそうに顔をほころばせた。
「そういえばフラン、上級魔法使えたんだね?」
「あれだけだよ。防御魔法以外は使えない」
ネロはそう答えたフランの表情にどこか違和感を感じたが、先生が集合の号令をかけたため聞くことができなかった。
その日の夜。
今日の夕飯に何を作ろうか考えていると、ふいに扉が叩かれた。
「ネロ、いる?」
「フラン? いるよ、今開けるね」
ネロは扉を開けてフランを中に招く。
「こんな時間にどうかした? もしかしてまた食材切らしてるとか?」
「違うよ⁉ 今日はこれを持ってきたの」
そう言って差し出したのは両手の平ほどの包み。
「これ、もしかしてお弁当? なんでいきなり?」
「今日のお礼。ペア、組んでくれたでしょ?」
「そんなことで? 気にしなくていいのに」
「気にするよ。わざわざ誘い断ってまで組んでくれたんだし」
どこか申し訳なさそうなフラン。
「じゃ、私はこれで。急にごめんね」
「あ、待って!」
「何?」
「フランも御飯まだでしょ? なら俺がフランのご飯作るよ」
「え、いいの?」
「もちろん。このお礼、じゃないけどさ。どう?」
「じゃあ、せっかくだし食べる」
「少し待ってて。ささっと作るから」
ネロは受け取ったお弁当の包みをテーブルに置くと、キッチンでフランの分のご飯を作り始めた。そして数分後。
「よくこの短時間でこんだけ作れるね」
「暇なときにいろいろ作り置きしておくんだよ。そうすれば忙しいときでも面倒くさくないしね」
テーブルの上にはフランのために用意したパンとトマトのスープ。そして魚のホイル虫が並んでいる。
「じゃ、俺もあけようかな」
ネロは先ほどもらったフラン御手製のお弁当を開ける。
「おお、凄い!」
そこには卵焼きに角煮、野菜炒め。そして御飯が入っていて、ご飯は海苔で猫の顔が書かれていた。
「いただきます」
ネロは手を合わせると、まず卵焼きから口にする。
「ど、どう?」
不安そうにフランがネロの感想を待つ。
「うん、美味い!」
その言葉にフランはホッと胸を下ろす。
卵焼きはほのかな甘みにトロトロでとても美味しかった。
「フランって料理うまいんだね?」
「まぁ、自分の分作ってたらいつの間にかね。でも、ネロのこれには敵わないよ。誰かに教えてもらったの?」
「うん、魔導士団の中に料理が上手な奴がいてね。色々教えてもらった」
「そうなんだ。あ、このお魚美味しい」
フランが黙々と食べ続ける中、ネロはこの料理を教わった人物の顔を思い出していた。
(ルーナ、もしまた会えたなら……)
「ねろ、ネロ?」
「へ、なに?」
「どうかした? もしかして、私のご飯おいしくなかった?」
「違う違う。ちょっと昔のこと思い出してただけだよ」
だが、その後は微妙な空気になってしまい、結局食べ終わるまで二人とも話すことはなかった。
「じゃ、私は戻るね」
「うん、お休みフラン」
「お休み、ネロ」
そうしてフランと別れたネロは溜息を一つついた。
「まさか、ルーナのことを思い出すとはね」
昔、ずっと自分と一緒にいてくれた人物の顔を思い出し、ネロは溜息をついた。
「はぁ、今日は早く寝るか」
そうしてお風呂の準備を始めた時だった。
コツンコツン。と、窓ガラスを何かが叩くような音がしてカーテンを開いた。するとそこには、
「式神?」
鳥の形状をしてはいるが、明らかに本物の鳥とは違う見た目にネロは式神であると判断する。式神とは術者の意のままに操ることができるもので、猫や犬など、様々な形状がある。用途としては手紙を届けたり、遠くの相手と意思疎通を図ったりなどがある。
そして今回の場合は、
「手紙?」
式神がネロの差し出した手に乗るとひとりでに手紙の形へと変わった。
ネロは手紙を開けて中に目を通す。
「とうとう動いたか」
ネロは手紙を読み終えると壁に立てかけてあった刀を手に取り、一目散に部屋を飛び出していった。
「さっきのネロ、なんかおかしかったな」
料理を誰に教えてもらったのか聞いた時、ネロが悲しそうな表情をしたことをフランは見逃さなかった。
「ネロにも、誰にも話したくない過去があるのかな?」
と、思考をめぐらした時だった。
「ん、ネロ?」
たまたま窓の外に視線を向けると、ものすごい速さで学園を飛び出していくネロの姿があった。
「こんな時間に、しかも学園の外?」
何かがあった。フランはそう感じた。
「なんだろう。このままじゃダメな気がする」
このままネロを行かせてしまえばもう会えないような、そんな感じがしたのだ。
「ネロがいなくなるのは、なぜか分かんないけど、嫌だ」
そう思った時にはフランは動いていた。先ほど着替えたパジャマからすぐに制服に身を包む。そして次の瞬間には部屋を飛び出していた。
読んでいただきありがとうございます。
キャラが立っていなかったりとぐちゃぐちゃですね(笑)
この作品以外にもこれから挙げていく予定です。
Twitterもやっていますので、よろしければそちらのほうのチェックもお願いします。
では、また。失礼します!