「久しぶりですね、姉さん」
視線を下に向けつつも話しかける。
しかし、返事は無かった。
それもそうだ。この少女が今話しかけたのは、墓であるからだ。
「姉さんを精神的に追い詰めた、あの人の子を見つけましたよ」
顔を上げ、墓と見つめ合う。
墓に彫られた名はーー柳愛理<やなぎあいり>。
彫られた文字を手のひらで優しく触る。
「愛理姉さん、桐生零君を倒します。そして、あの人……元師様の驚いた顔を見て、姉さんの墓の前で土下座させますから」
そう言い、柳愛楽は墓に微笑んだ。
三年前、私の姉である柳愛理は、幽閉の籠と言う場所へ連れていかれた。
私の家に来た謎の老人と、ボディーガードらしき人によって。
親は黙って見ていることしかしなかった……いや、それしかできなかった。
「姉さん、どこへ行くのです?」
当時中学1年だった私は、姉のことが大好きで、常に一緒だった。
その時の私は、不安そうな顔をしていた。
「大丈夫よ愛楽。すぐ帰って来るから」
姉は、いつも通りの笑顔を私に向けた後、親にも笑顔で、行ってきますとだけ言って家から出ていった。
「父さん、姉さんはいつ戻ってくるのですか?」
「分からない……」
「……そう、ですか」
今は信じて待つのみ。
そう思っていた。
しかし
「愛楽、お姉ちゃんの所へ行くが一緒に来るか?」
「え? 愛理姉さんの所?」
姉が連れて行かれてから1ヵ月が経ち、父はそう言った。
「ああ。愛理のいる施設はな、家族が様子を見に行っていいらしい」
「行きます!」
私は即答した。
「ここが愛理のいる施設……」
「大きいわね」
親二人の会話を耳に入れつつ、私は周りをキョロキョロした。
大きな建物。名は、幽閉の籠と言う。
建物内には、沢山の部屋があった。
プールやグラウンドまであり、まるで学校を思い出させるかのようだ。
「あ!」
親に聞こえないような声で、ある光景を目にする。
それは、姉さんを連れていった老人が、男の子の頭を撫でている。
老人は嬉しそうな顔をしているが、男の子は無表情だ。
私は透明なガラスの窓付きのドアから、その部屋の中を見る。
「流石は私の孫だ」
「ありがとうございます」
そんな会話が聞こえた。
「愛楽、何をしている? 早く行くぞ」
「はい」
父が私を呼んだので、窓から目を逸らした。
しばらく歩いていると、姉の部屋を見つけた。ガラスの窓付きドアから覗いて探していたので、見つけるのに時間がかかった。
「姉さん……」
久しぶりに見た姉の姿。
男に勉強を教えられている。
「愛理……」
父が不意に呟いた。
その顔は険しく、同時に、怒りも募っている様だった。
「さて、帰るか」
姉の姿を見た父は、微笑んで私と母に言った。
「そうね」
母もまた、微笑み返した。
「柳愛理さんは、死亡しました」
「え……?」
姉が連れて行かれてから4ヵ月、私の家に来たスーツの男性が告げた。
「なんの冗談です?」
父は真剣な顔で言った。
「冗談ではございません。これを」
そう言い男は写真を見せる。
「そん……な……」
父の顔は、絶望した顔だった。
「私にも見せて」
母が写真を見て、父同様絶望する。
「見せてください」
「いいのか? どんな光景が待っていても」
父が言う。
しかし、答えはイエスのみだ。
私に恐る恐る写真を見せた。
「え……………」
その写真は、姉が
口から血を流し、倒れている姿が写っている。
「姉……さん……」
私は全身から力が抜け、その場にしゃがみこんだ。
「愛理は自殺か?」
父がスーツ男に聞く。
「はい」
とだけ答えた。
「原因は何だ?」
「恐らく、精神的に不安定だったと思われます。前々から状態が可笑しかったので。それで、舌を噛み切って死んだのかと……」
「……ふざけんなよ。ふざけんなぁ!」
父はスーツ男の顔を殴った。
「お前ら、愛理を精神的に痛めつけたのかぁ!? 死ね! お前らが死んで愛理に詫びろ!!」
激怒した父は、スーツ男の首を締めた。
「あなたやめて! そんなことしても、愛理は帰って来ないわ……」
父の暴走を止めたのは、母だった。
「う……ぐぅ……」
泣いてその場に崩れる父。
「今回の件は我々が悪いです。本当に申し訳ありませんでした」
スーツ男が頭を深々と下げて言った。
「こちらをお受け取りください」
そう言いケースを差し出した。
父はそれを開ける。
「な!?」
中身は、1万円札の束だった。
「1億です。それが我々の今できる償いです……」
「……もう帰れ」
父は怒りを込めて言った。
「失礼します……」
スーツ男は去って行った。
私は父以上に絶望した。
そして、大切な姉を失ったことが、私を変えた。
姉を連れて行かれた時に、老人が父に渡した資料を見て、籠のことを知った。私自身も籠に出向いて、姉のことを聞くのと同時に籠のことを教えてもらった。
まず、普通の人は籠のことを知らない。知っている者は、他の人に言ってはならないらしい。言えば家族をめちゃくちゃにされる。
そして、権力がある。世界でもトップクラスの金持ちの桐生グループが関連しているから。それは、総理大臣に近い程の権力だ。
そして、籠の管理人の名は、桐生元師。
そして、連れて行かれるのは、能力ある人間のみ。実際、姉は賢かった。
まあ頭の良し悪しだけではないだろうが。そして、最後に知ったのは
最高傑作であり、お気に入りの孫がいること。名は、零。
私はすぐに誰のことか分かった。
あの時頭を撫でられていた子だと。
「元師様、貴方の傑作を壊してあげます。それで、父さんと母さんの無念を晴らします」
父と母は、権力でねじ伏せられると分かっているので、姉さんが死んでも桐生元師に何も言えない。
私の家は結構裕福だ。その状態を壊したくはない。
私たちでは、桐生元師に権力で敵わない。なら、最も身近な人物を潰すしかない。
だが、桐生零をどう潰すか悩んでいた。
そんな時、私には運が味方してくれた。
私と桐生零を同じ学校にしてくれた。
何と言う幸運だ、そう思った。
「桐生零君、貴方に恨みはありませんが、私の……いや、私たち家族の為に、負けてもらいます」
そして私は猛勉強をし、運動能力も上げ、高校生になった時には天才と呼ばれる様になった。
語られし過去!
柳はどう零を倒すのでしょうかね。